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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
ラリアント防衛戦

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0085話

 ラリアントに再びガリンダミア帝国からの使者がやって来たのは、十日ほどが経ってからのことだった。

 今度は一台の馬車ではなく、結構な数の馬車での来訪。

 普通ならそれだけの集団であればラリアント側でも警戒するのだが……馬車と護衛だけで、戦力がほとんどなかったおかげで、ラリアント側でも警戒することはなかった。

 やってきた馬車は箱馬車なので、もしかしたら箱馬車の中に兵士が隠れているかもしれないという声もあったが、それは以前スオールが来たときと同様、正門の側にゼオンを立たせるということで、解決した。

 もし箱馬車の中に兵士が隠れていても、ゼオンであればビームライフル……や、頭部バルカンであっさりと箱馬車を壊せると理解しているからだ。

 ラリアント軍の多くは、敵であれ味方であれ、ザラクニアとモリクの間で行われた戦いに参加しており、ゼオンがどれだけの実力を持っているのか、知っている。

 特に敵対した者たちにしてみれば、それこそ身を以てその実力を知っているのだ。

 そんな中で知らないのは、むしろ軍人以外……戦いに参加しておらず、今のラリアントでも相応の実力を持っている者たちだろう。

 大きな商会の会長だったり、貴族だったり、文官だったり。

 今の状況でもラリアントから逃げていないというだけで褒められてもいいのだが、それでもラリアントに残っているのは、地元を愛する心というだけではなく、そこには当然のように打算を抱いている者も多い。

 そのような者たちにしてみれば、ゼオンの能力を直接見た訳ではない以上、心の底から信頼するというのは難しい。

 それでも臨時にラリアントを任されているモリクの意向ということで強引に押し通したが、それがこの先に問題となる可能性は十分にあった。


「ようこそ」

「うむ」


 モリクの言葉にスオールはそう頷くが、その目には隠しきれない驚きの色があるのは事実だ。

 何故なら、十日前に比べて明らかにラリアントの防御力は上がっていたからだ。

 いや、元々ラリアントがガリンダミア帝国軍に対処するために防御を固めていたのは理解していた。

 だが、その防御を固めるスピードが、スオールの予想よりも明らかに早い。

 どのような手段によって、これだけ早く防備を固めることが出来たのかと言われれば、その理由は一つしかない。


(厄介な)


 以前と同じように正門のすぐ側に立っているゼオンを見て、スオールは表情には出さないままに内心で呟く。

 元々ゼオンによってザラクニアが負けたという情報は得ていた。

 しかし、今はそれだけではなくこのような建築工事の類にも使えるということが判明している。

 あるいは前回来たときに正門の側にいたのも、もしかしたら工事の途中だったのかもかもしれない。

 そう思えば、ますますゼオンの存在が……その心核使いに苛立ちを覚えるが、それを表情に出す訳にはいかない。

 今回やって来たのは、身代金――表向きの名目は違うが――を支払って兵士や心核使いを連れて帰るという目的の他に、視線の先に立つゼオン――スオールは名前を知らないが――の心核使いについての情報を可能な限り得て、そして出来れば引き抜いてこいという命令を受けているのだから。

 ガリンダミア帝国は高い情報収集能力を持っているが、それでもゼオンに乗っているアランについて得られた情報は少ない。

 元々ドットリオン王国はガリンダミア帝国と長年敵対してきた国だけに、情報を得るのは難しいのだ。

 それでも多少なりともアランの情報を入手出来ているのは、雲海と黄金の薔薇がスタンピードを解決したからというのもあるし、ザラクニアと連絡を取り合っている際に少なからず情報を得ることも出来たとうのが大きい。

 ……もっともザラクニアは、自分がゼオンを手に入れたがっていたので、それを使うアランの情報をガリンダミア帝国に流すことは少なかったが。

 ともあれ、そのような理由からスオールが知っているアランの情報は少ない。

 そんな中でアランをガリンダミア帝国に引き抜くというのは、非常に難易度が高いだろう。

 だからこそ上層部も、アランについての引き抜きは可能であればということであって、最優先としたのはアランがどのような性格をしているのかといったことの調査としている。


(ともあれ、今はそのアランという相手に会うのが最優先、か)


 モリクも、次に起こる戦いにおいて正真正銘自分たちの切り札とも呼べる存在のアランを、そう簡単にスオールに会わせるといった真似はしないだろう。

 そうなれば、問題なのはまずはどうやってアランとの面識を作るか……そう考えながらも、スオールはモリクとのやり取りを続けていた。


「では、今回はラリアントの中に入って貰おう。まさか、ガリンダミア帝国の兵士や心核使いをここまで連れてくる訳にもいかないからな」


 表向きはガリンダミア帝国の兵士や心核使いではないということになっているのだが、それはあくまでも表向きのことであって、真実は違う。

 だからこそ、モリクはここで堂々とガリンダミア帝国の名前を出したのだろう。

 そんなモリクに、スオールの護衛としてやってきた騎士たちの顔が屈辱に歪む。

 前回来たときは雇った冒険者を護衛にしてきたのだが、ゼオンの存在に怯えてしまっていた。

 そのような光景を見せるのは、交渉をする上で不利になる。

 だからこそ、今回は騎士を連れて来たのだが……モリクの挑発で、それが完全に裏目に出てしまっていた。


「貴公、それは少し失礼では……」

「黙れ」


 騎士の一人がモリクに不満を口にしようとしたのを、スオールが止める。

 何故止めると、騎士がスオールを見るが、そんな騎士に返ってきたのはスオールの厳しい視線だ。

 それこそ、まるで敵を見るかのような厳しい視線。

 ガリンダミア帝国の騎士として、多くの戦場を経験してきた騎士であっても思わず怯むだけの鋭さを持った視線だ。


「モリク殿、失礼した」

「いや、気にする必要はない。ガリンダミア帝国の騎士として誇りを持っていることの証であろうし」


 モリクの言葉に、スオールに睨み付けられた騎士はその通りだと胸を張って頷く。

 ……そんな騎士に、スオールは再度鋭い視線を向けた。

 当然だろう。今のモリクの言葉は、半ば当て擦りに近いのだから。

 誇りのあるガリンダミア帝国軍が、盗賊と一緒になって行動し、盗賊の真似をして恥ずかしくないのかと。

 モリクの言葉の裏にはそのような内容があるのだから。


「では、ラリアントの中へ案内しよう。若干驚くだろうが、あまり気にしないで貰えると助かる」


 そう告げ、モリクはスオールたちを引き連れてラリアントの中に入っていく。

 モリクに続くスオールたちだが、ラリアントの中に入ると、住民たちから鋭い視線を向けられる。

 当然だろう。ラリアントの住人にしてみれば、ガリンダミア帝国というのは侵略者でしかない。

 それどころか、盗賊たちと行動を共にしてラリアントを封鎖するような真似をした者たちなのだから、そんな相手に好意的になれという方が無理だった。


(そして、私たちに勝てないと思っている者たちは既にラリアントを出ていると聞いている。そうなると、ここに残っているのはガリンダミア帝国と戦う決意を持っている者たちだけ。……視線が厳しくなるのも当然か)


 スオールはそう判断したが、騎士たちにしてみれば民からこのようなあからさまに敵意の視線を向けられるとは思わなかったのか、戸惑った様子を見せる。

 裏の事情を知っていれば、これは当然の結果だったのだが。

 それを知らないのか、騎士たちは何故自分たちがそのような視線を向けられるかが分からず、そして騎士という身分にある自分たちに向けてこのような視線を向けてくる住人たちに苛立ちを覚える。

 それでもここで住民たちに向けて怒鳴ったりしないのは、ここでそのような真似をすれば、スオールに再び軽蔑の視線を向けられると知っているからだろう。

 であれば、今は取りあえず我慢しておくとして、黙ってラリアントの中を進む。

 そうして住人の全員から敵意の視線を向けられ、それでいて実際に何らかの行動に移すような真似をしない者たちの中を進みやがてラリアントの中にある城に到着する。

 ほっと、そう騎士たちが安堵したのは、当然のことだろう。

 訓練をしている訳でもない住人たちに負けるとは思わなかったが、それでも悪意の視線を向けられ続けるというのは、精神的に消耗してしまう。

 そのような視線がなくなっただけで、十分嬉しいことだったのは間違いない。

 案内されたのは、領主の館の客室。

 スオールがモリクと交渉をして話を纏める間、その護衛として付き従うことが出来るのは一人だけだ。

 それ以外の騎士は、ここで休んでいるようにと命令されての行動。

 現在のラリアントの状況で護衛を少なくしてもいいのか? と騎士たちも思わないではなかったが、ここで迂闊に護衛を増やすような真似をすれば、それこそ相手を信頼していない……そして怯えていると判断して。


「それにしても、このラリアントって都市……かなり厄介そうだな」


 この部屋に案内したメイドも出て行き、自分たちだけが部屋の中に残ったところで騎士の一人がそう告げる。

 他の騎士たちも、その言葉には同意せざるをえない。

 ラリアントに入ってからここまで移動する間に受けた視線は、かなりの敵意があった。

 今までにも敵対すべき国、侵略すべき国には多く攻め込んできたが、ここまで全員が一体となって自分たちに敵意を向けてくるような場所というのは、ほとんど経験がない。

 そして少ない経験上、そのような場所は占領するのに酷く苦労したという思いが強く残っていた。


「そうだな。とはいえ、このラリアントは今まで俺たちの行動を長く防ぎ続けていたんだろう? 領主をどうにか出来ても、住人の敵意を消すのは難しいだろうな」

「……それよりもだ。あのゴーレムはどうにか出来るのか? 聞いた話だとグランジェスまでやられたんだろ?」


 その言葉に、皆が正門前に存在していたゴーレム……ゼオンを思い出す。

 取りあえず、ラリアントの征服は非常に難しいだろうと、そう騎士の面々はしみじみと思い……無事に捕虜の取り扱いが終了すると、安堵して故国へ戻るのだった。

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