表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/421

0079話

「……なるほど。彼の言うことはもっともですね」


 モリクから話を聞いたアランは、ラリアントの中に入ったあとで雲海を率いる自分たちのリーダーのイルゼンに話を持っていった。

 それを聞いたイルゼンの言葉に、アランはやっぱりかと頭を掻く。

 なお、ラリアントの中では思ったほどにの騒動になっていない。

 雲海や黄金の薔薇で外に脱出したときに合流出来なかった面々や、モリクの仲間が外の詳しい状況……それこそラリアント軍の中に盗賊やガリンダミア帝国の者もいるといった情報を流してザラクニアの信用を落としたというのが大きい。

 それ以外にも、ザラクニアが反乱軍と戦うために騎士や兵士といった面々や、それどころか治安維持の類を任せている警備兵までをも可能な限り引き連れていったというのも大きい。

 結果として、ラリアントに残った戦力では治安維持を何とか出来るかどうかといった程度で、イルゼンたちと合流出来なかった雲海や黄金の薔薇の面々、そしてモリクの手の者がラリアントの中で動くのを止めることは出来なかった。

 また、アランたちが頼った裏の勢力の者たちの協力があったというのも大きいだろう。

 この場合の協力とは、文字通りの意味での協力という訳ではなく、どさくさに紛れて裏の者が暗躍しないように目を光らせていた、という意味での協力だったが。

 ともあれ、ザラクニアが生け捕りにされたというのを知り、ラリアントに残っていた者の中には籠城をしようという意見もあったものの、結果としてそれは内部に残っていた戦力によってあっさりと潰された。

 ……これで、もしザラクニアが盗賊やガリンダミア帝国の者たちを使っていなければ、あるいは籠城も成功したのかもしれないが。

 だが、ザラクニアが盗賊やガリンダミア帝国の者を引き入れたことで、そのような真似も出来なくなってしまったのだ。


「それで、どうします? 俺としては……」

「ガリンダミア帝国との戦いに参加したい、ですか」

「はい。ここでガリンダミア帝国を徹底的に叩いておかないと、俺を延々と狙ってくるでしょうし」

「それは分かります。ですが、ここでアラン君がゼオンの実力を最大限に発揮したら、それはそれでガリンダミア帝国に狙われ続けることになるのでは?」


 イルゼンの言葉は紛れもない事実でもあったが、アランは首を横に振る。


「今回の戦いに参加した時点で、俺はガリンダミア帝国に目をつけられていますから」

「……あの土のゴーレムの件ですか」


 イルゼンから見ても、あの土のゴーレムの攻撃力は規格外と呼んでもいいものだった。

 それこそ、まともに当たればゼオンですら倒されてしまいかねないほどに。

 実際に泥のブレスが命中していないにもかかわらず、ゼオンは泥の粒子によって若干ながら装甲を損傷……削り取られたのだから。

 そのような強力な心核使いを倒したアランを、ガリンダミア帝国が見逃すとはイルゼンにも思えなかった。


「はい。だからこそ、今のうちにここで……ラリアントの戦力を使えるうちに、ガリンダミア帝国を叩いておきたいと思います。俺に手出しをすれば、利益よりも損害が大きくなるだけだと、そう示すためにも」

「なるほど。確かにアラン君の言う通りの展開になれば、いいだろうけど……ただ、この件については僕だけの一存では決められないね」


 申し訳ないけど、と。済まなさそうにな表情を浮かべるイルゼン。

 これがどこぞの盗賊団や、冒険者のパーティ、もしくはクランと戦うのであれば、イルゼンも自分の判断だけで即座に頷いただろう。

 しかし、今回戦うのは国家なのだ。

 それも征服欲旺盛な侵略国家。

 国と国の戦争に首を突っ込む以上、いくら雲海を率いてるイルゼンであっても、独断で決めることは出来ない。

 ……もっとも、次の瞬間には笑みを浮かべながら口を開いたのだが。


「アラン君がそう決めたのなら、多分反対する人はいないと思うけどね。ただ、それでも全員に聞いてみる必要はあるんだ」

「でしょうね」


 イルゼンの言葉に頷きがらも、アランの口元には笑みが浮かぶ。

 雲海はクランであると同時に、一つの家族であると言ってもいい。

 そんな雲海がクランの中では末っ子と言ってもいいアランがガリンダミア帝国に狙われるかもしれないのに、手を貸さないということはありえなかった。

 口では色々と言う者もいるかもしれないが、最終的には間違いなくアランの手助けをしてくれるのは確実だろう。


「ただ……」


 アランが安堵した瞬間をまるで狙い澄ましていたかのように、イルゼンは言葉を挟む。

 ただ? と、アランが疑問の視線を向けたところで、イルゼンは言葉を続ける。


「アラン君に手を貸すのは、雲海は確実だと思うよ。けど……黄金の薔薇の方がどうなるかは、僕も分からないよ」

「それは……」


 イルゼンの言葉は、アランにも理解は出来た。

 黄金の薔薇……正確にはそれを率いているレオノーラが、アランに強い興味を持っているのは間違いない。

 だが、その興味で自分以外の面々を危険に巻き込むのかと言われれば、黄金の薔薇を率いる立場の者として、それは決して許容出来ないだろう。

 心核で黄金のドラゴンに変身するレオノーラも、ガリンダミア帝国に危険視されるのは間違いない。

 心核でドラゴンの類になれる者というのは、非常に希少な存在なのだから。

 ……それでも、アランが召喚するゼオンと比べれば、ドラゴンはそこまで違和感はない。

 人型機動兵器のゼオンは、それだけこの世界では異質な存在なのだ。

 アランもそれが分かっているだけに、ガリンダミア帝国がゼオンと黄金のドラゴンのどちらを重視するのかと言われれば、前者だろうと断言出来る。

 これで、ゼオンはその外見が異質ではあっても、戦闘力がそこまで高くないのなら、もしかしたらガリンダミア帝国もゼオンではなく黄金のドラゴンの方に興味を持ったかもしれない。

 しかし、ビーム兵器やフェルスのような遠隔操作武器を使うゼオンは、戦闘力という点でも異質な存在だった。

 それはガリンダミア帝国の中でも間違いなく強力な心核使いだった土のゴーレムを相手に圧倒したという実績が示している。


「取りあえず、駄目元で話を持って行ってみます」

「そうした方がいいだろうね。もう少ししたら戦勝の宴をするらしいから、そこで聞いてみたらいいんじゃないかな? もっとも、彼女は忙しくなりそうだけど」

「あー……それはそうでしょうね」


 イルゼンが何を言いたいのかを理解し、アランは納得の表情を浮かべる。

 元々歴史上希に見る美女といった表現が相応しいレオノーラだ。

 そんなレオノーラが、パーティということで着飾るとなると、一体どれだけの人の視線を独占するのか、考えるまでもなく明らかだろう。

 その上で黄金の薔薇というクランを率いているのだから、レオノーラとお近づきになりたいと思う者が多くなるのは確実だった。

 特にラリアントはザラクニアによってガリンダミア帝国に売られようとしたことが明らかになっている以上、大きな戦力を持っているレオノーラという存在は、非常に魅力的なのは間違いない。

 ……大きな戦力という意味では、実はアランも貴族や商人にとって美味しい存在ではあるのだが。


「何をするにしても、まずは彼女の意見を聞いてみる必要があると思うよ。……パーティのときにでも聞いてみたらどうかな?」

「いや、パーティのときはレオノーラが人目を惹くのなら、それこそ今のうちに話を聞いた方がいいと思うんですけど」

「うーん、今はレオノーラ君も、ちょっと忙しくてアラン君と話をするような暇はないんじゃないかな? 黄金の薔薇で合流した人たちと色々話をしているし、ザラクニアに奪われていた各種荷物や馬車の類も問題はないかといった報告を受ける必要があるだろうし」

「……黄金の薔薇を率いているレオノーラはそんなに忙しくしてるのに、雲海を率いているイルゼンさんは、ここで俺と話していてもいいんですか?」


 うげっ、と。

 口にする言葉の選択を間違えたといった様子を見せるイルゼンに、アランは小さく笑みを浮かべる。

 イルゼンらしいと言えばらしいその様子は、アランから見てもいつも通りだ。

 それこそ、近いうちにガリンダミア帝国と戦うということを理解しているとは思えないほどに。

 ……だが、これがあくまでもポーズの一種であることは、アランにも理解出来る。

 いや、ポーズとしては真に迫っているので、半ば本気ではあるのかもしれないが。

 

「その、だね。やはりこういうのは得意な人に任せるのが一番いいと思うんだ。アラン君も、そうは思わないかい? もしそういうのが得意ではない僕が迂闊に口を出すような真似をすれば、それは結果として仕事が終わるのが遅くなることを意味してるしね」

「それは……否定出来ませんが」


 イルゼンが仕事を出来ないというのを、素直に認めてもいいのかどうかは、正直なところアランにも分からない。

 だが、今の状況を考えれば、やはりそれを認めざるを得ないというのが、間違いのない事実でもあった。


「あははは。出来れば、そこは否定して欲しかったけどね」


 苦笑いではなく、自分でも面白いと思っているのだろう笑みを浮かべるイルゼンに、アランは何と言えばいいのか迷う。

 とはいえ、そのようなイルゼンであっても、雲海を率いる人物という意味では決して間違ってはいない。

 いつもどこからともなくアランたちが……いや、雲海が必要としている情報を持ってきて、事態を雲海にとって有利な方に持っていく。

 それは、普通の者に出来ることではない。

 逆に言えば、その能力があるからこそイルゼンは雲海を率いることが出来る立場にいるのだ。

 実際に今回のラリアントの一件も、もしイルゼンがいなければどうなっていたのか、アランは分からない。

 偶然上手く立ち回れたかもしれないが、それでイルゼンがいるときよりも上手く出来たのかと言われれば、首を傾げざるを得ないのも事実なのだ。

 そんな風に思いつつ、アランはイルゼンと共に部屋を出る。


(さて、俺もそろそろパーティの準備をしないとな。……正直、そういうのはあまり好みじゃないんだけど。ドーレストの一件で、その辺は理解しているし)


 そう思いながら、アランはまずは服を着替えるべく、自分の部屋に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ