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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0075話

 泥のブレス。

 そう言われてアランが思いつくのは、それこそ泥水を掛けただけの代物だ。

 だが……土のゴーレムの放った泥のブレスは、とてもではないがそのような可愛らしいものではなかった。


「ばっ!」


 コックピットに表示されたアラームに、馬鹿なという言葉を吐き出しかけつつ、止める。

 アランの操るゼオンは、間違いなく泥のブレスを回避した筈だった。

 それも何とか回避した訳ではなく、それなりに余裕をもって。

 にもかかわらず、軽くではあっても装甲に被害を受けたというのは、とてもではないが信じられない。

 信じられないが……それでも、実際にゼオンの装甲に被害を受けたのは、間違いのない事実でもあった。


(何があった!?)


 そう思いつつ、このまま近づこうとしたゴーレムからウイングバインダーとスラスターを全開にしながら、上空へと……土のゴーレムが先程の泥のブレスを放っても楽に対処出来る距離まで上昇していく。

 そうしながらも、映像モニタで先程までゼオンの姿があった場所を表示すると……そこには何もなかった。

 そう、本来ならそこではラリアント軍の先陣……いや、使い捨てとして使われていた盗賊たちと、モリクの部下の一人が率いていた部隊があった筈だ。

 にもかかわらず、映像モニタには現在何も表示されてはいない。

 まるでつい先程までそこに人が多数いたのが夢だったのか、と思えるほどに。


(泥のブレスで、何でこんな結果になる?)


 これがゼオンのビームライフル、もしくはレオノーラが変身した黄金のドラゴンのレーザーブレスでを使われたのなら、消滅しても感情的にはともかく、理論的には納得出来る。

 だが、何故泥のブレスでそのようなことになるのか。

 泥のブレスによって流されたのか? とも思ったが、そんな様子はなく、消滅しているのだ。

 それこそ、骨も残らないくらいに。

 それでも消滅はしたものの、泥のブレスからある程度距離を取っていた者は、まだ死体が残っていたり、怪我を負ってはいるが生きている者もいる。

 ゼオンもそうだったが、明らかに泥のブレスの範囲外にいたというのに、そこは何故か……本当に何故か攻撃範囲内になっているのだ。

 まさに初見殺しと言ってもいいだろう。

 正直なところ、アランとしてはそんな厄介な攻撃方法を持っている相手と正面から戦うのは遠慮したいので……空高くでビームライフルを構える。

 ビームライフルの射程は、弓やバリスタ、投石機といったこの世界で使われている遠距離攻撃用の武器と比べると、圧倒的に上だ。

 あるいは、魔法の中にはビームライフルよりも射程距離の長い魔法があってもおかしくはないが。

 ともあれ、今の状況から考えると泥のブレスが届かない位置から攻撃するのが最善だと判断し……トリガーを引く。

 ほぼ真上から、一直線に地上に向かって放たれるビーム。

 撃ったと思った瞬間には標的に命中しているその速度の攻撃は、回避するのはほぼ不可能だ。

 それこそ、この世界の中でも達人と呼ばれるような者達であれば、可能かもしれないが。

 アランにとっては幸いなことに、土のゴーレムの心核使いは、とてもではないがそのような達人ではなかった。

 ……もし心核使いが達人であっても、その能力を土のゴーレムに反映させられるかと言えば、それは微妙なところだが。

 オーガや白猿、リビングメイルのように人型をしているのなら、心核を使う前に鍛えた身体能力や、その感覚を応用出来たかもしれない。

 だが、土のゴーレムは分類的には人型とはいえ、異様に手が長く、それに比例するように足が短い。

 そんな状況で心核を使う前のように動けるはずもなく……

 轟っ!

 そんな音と共に、土のゴーレムにビームライフルから放たれたビームが命中し……爆散する。


「よし」


 アランの口から、短く言葉が出る。

 今の攻撃は間違いなく命中し、実際にゴーレムも爆散している。

 なら、これで倒した。

 次はこのまま上空から拡散ビーム砲で敵の本陣を攻撃すれば。

 そう思ったアランだったが、ふと気が付くと映像モニタに妙な光景が映っていることに気が付く。

 爆散したはずの土のゴーレムの肉片――という表現は泥だから正しくない――がそれぞれで動いて一ヶ所に集まっているのだ。

 そして一ヶ所に集まると、集まった泥の塊がくっつき、より大きな泥となる。

 大きくなった泥は、また別の泥とくっつき、さらに大きくなる。

 そうして、次々に近くの泥と合体、融合、吸収といった感じでくっついていった泥は、最終的にその大きさはビームライフルで爆散する前と大差ないものとなる。


「嘘だろ。……いや、土のゴーレムだとすれば、ある意味で当然かもしれないけど」


 アランが呟く間にも、合体した土は先程と同じ姿になった。


「ちっ、ならもう一度! まさか、無限に再生する訳でもないだろ」


 ビームライフルの銃口を土のゴーレムに向け……そしてアランがトリガーを引く瞬間、土のゴーレムはそれを察したのか、上に向けて大きく口を開く。

 次の瞬間、ビームが放たれるのと同時に土のゴーレムからも泥のブレスが放たれる。

 空中でブレスとビームライフル。

 速度では間違いなくビームライフルの方が上で、実際にビームと泥のブレスがぶつかったのは、土のゴーレムからそう離れていない場所だった。

 だが……問題なのは、ビームライフルが泥のブレスを貫通出来なかったことだろう。

 何故泥のブレス程度がビームライフルを防げる? と、疑問を抱くアランだったが、今はとにかく土のゴーレムを倒すのが最優先だと判断して、腹部拡散ビーム砲を発射する。

 拡散している分だけ、一撃の威力は決して高くはない――あくまでもビームライフルと比べてだが――腹部拡散ビーム砲だが、それでも土のゴーレムの周囲にいる他の者達にとっては致命的な被害ではあった。

 ビームに触れた兵士や騎士は、その瞬間に手足が消滅する。

 もしくは、拡散されたビームが地面に着弾した瞬間に起きた爆発によって吹き飛ばされる。

 ……吹き飛ばされるというのは、本来ならそこまで兵士や騎士には大きな被害を受けたりはしない。

 しかし、兵士や騎士が金属鎧で身を守っていたり、武器の類を手にしているとなれば話は違ってくる。

 金属鎧に身を包んだ、鍛えられた騎士や兵士といった存在が吹き飛んでくるのだ。

 それに当たれば、即死ということは滅多にないにしろ、すぐに動けないようなダメージを受けるのは当然のことだった。


「……もう一発だ、食らえ」


 拡散ビーム砲で土のゴーレムの周囲にいるラリアント軍の兵士や騎士が纏めて吹き飛んだのを見ながら、アランは再びビームライフルのトリガーを引く。

 それに対抗するように、土のゴーレムも再び泥のブレスを放つが……一度その威力を見てしまえば、対処する方法はアランにも思いつく。


「一発で無理なら、二発。二発で無理なら三発」


 そう告げながら、連続してビームライフルのトリガーを引く。

 一発だけなら、泥のブレスで互角だった。

 だが、土のゴーレムの放つ泥のブレスは、放つのに相応の時間がかかるし、何より一度放ったらビームライフルのように、途中で追撃の攻撃を放つような真似は出来ない。

 であれば、アランの選択は力業でしかなかったが、それほど悪いものではなかった。

 一発のビームを何とか防いでいた泥のブレスは、そこに追撃として二発、三発とビームが着弾すると、その威力を急激に弱めていき……やがて泥のブレスを貫き、土のゴーレムの本体に着弾し、爆発を起こす。


「よし、あとはさらに追撃だな」


 ゴーレムの身体は、強い再生力を持つ。

 いや、アランが見たのが再生という言葉で表現してもいいのかどうかは、正直なところは分からない。

 何しろ一度破壊しても、土の破片がそれぞれ自分の意志を持っているかのように集まって融合し、土のゴーレムとして復活したのだから。

 土のゴーレムというモンスターなら、そのような真似が出来てもおかしくはない。

 だが、心核使いはあくまでも人だ。

 そうである以上、身体を粉々にされるといったことに慣れるとは、到底思えない。

 少なくてもアランはそんな真似をしたいとは思わなかった。

 ……アランの心核のゼオンは、そういう意味では色々と特別な存在なのだが。


「とにかく、くたばれ!」


 爆発で巻き起こった土煙が風で消えると、そこに残っているのはやはりアランが予想した通り土の塊が一ヶ所に集まろうとしている光景だった。


「結局はこれでもまだ駄目か。ただ……」


 どうやっても、今のところは土のゴーレムを消滅させることは出来ない。

 だが、こうしてそれぞれが集まっているときは、土のゴーレムは戦闘不能なのは事実なのだ。

 そして、アランが見たところでは、土の塊として移動しているときは攻撃手段のようなものはない。

 いや、もしかしたらあるのかもしれないが、本能に従って動いているかのような印象を受ける。

 映像モニタでは、土の塊の進行方向に石のように何らかの障害物があった場合、それを避けて移動するといった手段を選択出来ない。

 それこそ、何度となく石にぶつかった結果、偶然進行方向がずれることによって何とか前進するのを再開するといった感じだ。

 土の塊の状態で多少なりとも知能があるのなら、それこそ少し横に移動するだけで石にぶつかって前に進めないということにはならない。


「つまり、あの状況のときは人の知能がないのか。……だからかもしれないな」


 腹部拡散ビーム砲を撃ち、集まりつつあった土の塊を再び四散させる。

 すでに土のゴーレムの近くには騎士や兵士の姿はなく、土のゴーレムに被害を与えるのと同時にラリアント軍にも被害を与えるといった真似は出来なくなっていた。

 人としての意識があれば、身体中を千切られ、四散させられるような痛みに耐えられるはずがない……とは決めつけられないが、それでも辛いのは間違いない。

 その辺りを、自動的に土の塊が戻ってくるということにして、対処しているのだろうというのがアランの予想だった。


『アラン、土のゴーレムの様子はどう?』


 頭の中に聞こえてきたレオノーラの声に、アランは再び腹部拡散ビーム砲を発射して土の塊を四散させながら口を開く。


「取りあえず無力化することには成功したけど、ずっと攻撃し続ける必要がある」

『そう、……分かったわ。取りあえずこっちからの戦力がそっちに届くまでは、今のままで続けてくれる?』


 そう尋ねてくるレオノーラに、アランは了承の返事をするのだった。

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