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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0074話

 盗賊の一部が逃げ出し始めると、当然のことながら戦場は混乱を始める。

 ゼオンのビームライフルの威力が、それだけ強力だったということだろう。

 ラリアント軍は当然のようにそんな盗賊たちに戻って戦えと命令し、場合によっては攻撃すらしている。

 だが、盗賊も生き延びるのに必死だ。

 それこそ、ゼオンや黄金のドラゴンという、相手にすれば死ぬ以外の選択肢が存在しないような相手と戦うのなら、まだ命令してくるラリアント軍と戦った方がいい。

 そうして何人かのラリアント軍の兵士が殺されると、当然ながら今度はラリアント軍の方でも盗賊たちに容赦しなくなる。

 元々、ラリアント軍の中には盗賊たちと同じ戦場になるのが我慢出来ない者がいた。

 ザラクニアと直属の部下たち……ガリンダミア帝国に寝返るということを知っていた者たちにしてみれば、盗賊というのは味方……とまではいかないが、それでも敵ではない。

 だが、ザラクニアがガリンダミア帝国に寝返るということを知らなかった者たちにしてみれば、盗賊というのは愛すべき故郷のラリアントを封鎖した相手でしかない。

 上からの命令によって渋々……本当に渋々と盗賊と一緒の戦場に立ってはいるが、その盗賊が戦場を放棄して逃げ出そうとし、ましてやそれを止めたラリアントの兵士に攻撃するような真似をしたのであれば、それはとてもではないが許せることではなかった。

 結果として、ラリアント軍は先陣がモリク率いる反乱軍と戦いながら、その内部では逃げようとする盗賊とラリアント軍が戦うといったことになってしまう。


「うわぁ」


 自分が撃ったビームライフル数発でここまでの効果が出るとは思っていなかったアランは、映像モニタに映し出されている光景を見て、そう呟く。

 普通なら敵陣の後方を確認するというのは難しい。

 それこそ、空を飛ぶモンスターに心核で変身するか、もしくはその手のモンスターをテイムするかといった方法がある。

 だが、アランの場合は全高十八メートルのゼオンに乗っていて、コックピットの映像モニタに表示されるのはゼオンの頭部カメラが捉えた映像だ。

 そのような高さから見るのだから、当然のように敵の配置の類もしっかりと理解出来た。


「さて、これからどうすれば……は?」


 これからどうすればいいのか。

 そう迷ったその瞬間、不意に敵陣の奥深くに巨大なモンスターが姿を現す。

 高さこそ、ゼオンより低いが、それでも十五メートルほどの高さを持つ。

 明らかに普通のモンスターではない。

 巨大なだけといえば、アランが先程戦った――蹂躙したという表現の方が正しいが――大蛇のモンスターも、巨大な存在だったのは間違いない。

 だが、それは巨大な人型の存在。

 巨人とう訳ではなく、大雑把な人型の形をしている相手だ。


「ゴーレム? ……なるほど、ゴーレムか」


 アランが乗っているゼオンも、この世界のことしか知らない者にしてみれば、ロボットではなくゴーレムと認識されることが多い。

 それでも普通の……この世界の人間が想像するゴーレムとゼオンでは、明らかに違う。

 この世界で想像されるゴーレムというのはコックピットの映像モニタに表示されている存在こそがそうだろう。

 とはいえ、ゴーレムと言ってもその種類は千差万別だ。

 木で出来たウッドゴーレムや、石で出来たストーンゴーレム。屍肉で出来たネクロゴーレムといったゴーレムもいるし、中には魔法金属や貴金属で出来たゴーレムもいる。

 そんな中で、現在アランの視線の先にいるゴーレムは、一般的な……本当にゴーレムと言われれば思いつきそうな、土で出来たゴーレムだ。

 ゴーレムの姿は大雑把には人型ではあるのだが、手が異様に長く、地面に掌が突くほど。

 そんな手の長さとは裏腹に、足は非常に短い。

 明らかに歩き回る姿としては相応しくはないのだが、それでもラリアント軍にとって不利な状況の中で出て来たとなれば、今回の戦いにおける切り札的な存在のは間違いない。


(まぁ、ザラクニアはゼオンを欲していたけど、ゼオンを持っている俺を倒すなり捕らえるなりする為には、当然のようにゼオンと戦う必要があるんだから、その対応策を用意してても当然だろうけど)


 ゴーレムを見ながら納得するアランだったが、ゼオンは心核としては極めて強力な代物だ。

 ゼオンに勝てる存在はどこにもいない! と、そう言い切るつもりはアランにもなかったが、それでも極めて強力な心核なのは間違いないのだ。

 であれば、それを今まで戦場に出て来たような心核使いで倒せるかと言われれば、当然のように答えは否であり……そういう意味では、土のゴーレムが出て来たのは納得出来るものだった。


「ラリアントの外で俺達を迎え撃ったのも、あの心核使いがいるからか」


 ゼオンやレオノーラの黄金のドラゴン、そしてあの巨大なゴーレムがラリアントの中で戦うようなことになれば、ラリアントに大きな……それこそ取り返しが付かないような被害が出るのは確実だ。

 ゼオンの拡散ビーム砲やビームライフルは当然ながら、頭部バルカンから発射される弾丸ですら、かすっただけで人を殺すには十分な威力があるのだから。

 だが、そんなゼオンや黄金のドラゴンと戦えるだけの実力を持った心核使いがいたらどうなるか。

 それこそ、ラリアントの中でそのような存在が戦うといったことになれば、最悪ラリアントそのものが崩壊する可能性すらあった。

 ザラクニアはそれを避けるため、こうしてラリアントの外でモリク率いる反乱軍を……いや、その中にいるアランとレオノーラを待ち受けていたのだろう。


『アラン、聞こえている?』


 頭の中に、レオノーラの声が響く。

 黄金のドラゴンと化したレオノーラは、まだ心核を完璧に使いこなせていないのか、それともそれ以外の別の理由があるのかは分からなかったが、他の心核使いたちのように、変身した状態で声を発することは出来ない。

 ドラゴンらしい雄叫びを上げることは可能なのだが。

 声を発することは出来ないが、黄金のドラゴンに変身しても人の言葉が理解出来なくなる訳ではない。

 そんな状況のレオノーラだったが、どういう理由かアランの頭の中に声を響かせる……一種のテレパシーの類を使うことは可能だった。


「ああ、聞こえてる。あのゴーレムにかんしてだな? 今は、どういう訳かこっちに攻撃をしてくる様子はなく、待ち受けているみたいだけど」


 こうしてレオノーラと意思疎通をしている間も、土のゴーレムは全く動く様子を見せていない。

 ゼオンの様子を観察しているような感じすらしていた。


『それだけ自分の実力に自信があるということでしょうね』


 だろうな、と。アランはレオノーラの言葉に納得する。

 ゼオンに及ばなくても、あれだけの巨体だ。

 生き物というのは、大きければそれだけで戦闘では有利になることが多い。

 だからこそ、向こうも慎重にゼオンの出方を窺っているのだろう。


「レオノーラ、お前はあいつの情報を持ってるか? 俺が集めた中には、あんな心核使いがザラクニアの部下にいるって情報はなかったんだけど」


 ザラクニアの部下どころか、ラリアントにあれだけ強力な心核使いがいるという話もアランは知らなかった。

 だとすれば、あの心核使いは今回の一件のためにザラクニアが絶対に見つからないように確保していた人物か……


(ガリンダミア帝国から派遣されてきたか、か)


 ザラクニアがガリンダミア帝国に裏切れば、当然のことながらそれを許容出来ないという者もいる。

 実際、モリクがこうして軍を挙げているのだから。

 だが……場合によっては、モリク個人ではなく、ドットリオン王国そのものから軍が派遣される可能性もあった。

 そうなれば、当然のように強力な心核使いを含めた討伐軍が編成されることになり、それに対抗するにはザラクニアにも強力な心核使いが必要となる。

 ガリンダミア帝国も、苦労して裏切らせたザラクニアが、そして何よりラリアントいう都市を確保したい以上、討伐軍に対抗する為の戦力を用意するのは当然だろう。

 だからこその、野戦。


「レオノーラ、ここでこうしていても、意味はない。結局のところ、実際に動いてみる必要がある。俺があのゴーレムに攻撃をするから、何かあったら援護をしてくれ」

『アランが最初に出るの? 援護という点なら、私よりもアランの方が上じゃない?』


 レオノーラの言葉は、決して間違っている訳ではい。

 黄金のドラゴンと化したレオノーラにとって、攻撃の手段……それも援護攻撃に使える手段は、レーザーブレスしか存在しない。

 それに比べると、ゼオンにはビームライフル以外にも拡散ビーム砲や、何よりもフェルスという非常に便利で強力な武器がある。

 なら、武器が援護に向いているゼオンが援護に回った方がいいのでは? と、そうレオノーラが思うのも当然だった。


「いや、ザラクニアはゼオンに強い執着を抱いている。そうなると、あの巨大なゴーレムもゼオンの方に興味を持っていてもおかしくはない。だとすれば、やっぱり俺が直接攻撃した方がいいと思う」

『そう? アランがそう言うのならいいけど……気をつけてね』


 もしこれが、探索者として判断する必要があるのなら、レオノーラもこう簡単に納得するようなことはなかっただろう。

 だが、これは探索者ではなく心核使いとしての判断が必要だった。

 黄金の薔薇を率いているだけに、当然レオノーラもその辺りの判断は出来るのだが、アランの前世を知っている身として、何か自分の予想もつかない行動をとってくれるのではないか、と。そうレオノーラは思ったのだ。


「ああ。なら……行くぞ」


 そう言い、アランは地上ににたゼオンを浮かばせる。

 鳥のように羽ばたきの必要もなく、突然浮かび上がったゼオンに周囲の兵士たちは敵味方関係なく驚く。

 そんな驚きを気にした様子もなく、アランはゼオンにビームサーベルからビームライフルに持ち替え、映像モニタの先にいるゴーレムに向かって進み……不意に自分の方を見ているゴーレムの口が光ったように見えた瞬間、アランは半ば本能的にウイングバインダーとスラスターを全開にして、その場から退避する。

 そしてゼオンが退避した一瞬後……巨大な泥のブレスとでも呼ぶべきものが、ゴーレムの口から放たれるのだった。

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