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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0073話

 着地した瞬間にゼオンは膝を曲げ、衝撃を殺す。

 それでいながら、持っていたビームサーベルは大蛇のモンスターの首を切断しており、その光景を見た周囲の者たち……特にモリクの部下たちの口から、数秒の沈黙のあとで歓声が上がる。

 いや、それは歓声よりも雄叫びと評する方が相応しいような声。

 当然だろう。大蛇のモンスターには、何人もの仲間が喰い殺されてたのだから。

 仲間の仇を討ってくれたゼオン……そしてゼオンを使っているアランは、そのような者たちにとっては半ば英雄と言ってもよかった。

 そんな歓声を受けたアランは、コックピットの中でどうすればいいのか迷う。

 この世界に転生してきてから、ここまで褒められたことはなかった。

 いや、スタンピードの一件では同じような扱いを受けたが、今回こうして間近で感じる歓喜の声は、大蛇のモンスターを倒した直後のものだからか、より強く……そして熱く感じられる。


「取りあえず厄介な心核使いは倒せたな」


 そう呟くアランは、フェルスを元の空間に戻してから、映像モニタに映し出されている大蛇のモンスターの死体に視線を向ける。

 頭部を切断されたその巨体は、心核使いが死んだからだろう。次第に小さくなっていき……頭部が切断された死体だけがその場に残っていた。

 その死体……正確にはその死体が持っている心核を回収したいアランだったが、ゼオンに乗っている今ではそのようなことは出来ない。

 これが、例えばオーガや白猿のようなモンスターであれば、心核を回収するのも難しくはなかったのだが、アランが乗っているのは全長十八メートルの人型機動兵器だ。

 当然のように手や指も相応に大きく、一定以上の大きさの物ならともかく、心核を掴むような真似は出来ない。

 かといって、コックピットから出て心核を探すといったことをしているような余裕もない以上、心核をこの場で手に入れるのは泣く泣く諦めるしかなかった。


「その大蛇のモンスターの心核は、雲海が所有権を主張します!」


 結局のところ、今のアランに出来るのはそう宣言するだけだった。

 とはいえ、この宣言には特に何かこれといった強制力がある訳ではない。

 あくまでもそう主張しているだけであり、実際にアランも心核を自分が手に入れるのは難しいだろうと予想していた。

 戦場のどさくさで心核を手に入れられるのなら、それこそ機会を逃す者はいないだろうと。

 だから、これはあくまでも取りあえずやっておいた方がいいことでしかない。


(ともあれ、無事に俺の手元に来ることを祈るとして……後は……)


 アランは心核についてはその場で忘れることにし、戦場に視線を向ける。

 全体的に見て、モリク率いる反乱軍の方が相手を押している。

 とはいえ、ラリアント軍の方も人数の多さもあってか、決して崩れている訳ではない。

 ラリアント軍の先陣は、その殆どが盗賊の類だ。

 数だけは多く、勢いに乗っているときは強いが、押されてくればあっという間に逃げ出す。

 今はまだ自分たちの人数が多いのでそこまでになってはいないが、この流れが続けばそう遠くないうちに前線が崩壊するのは確実だった。

 ラリアント軍を率いるザラクニアにしてみれば、盗賊はあくまでも捨て駒なので、前線が崩壊しようとしまいと問題はないのだが。


「レオノーラの方は……うん、あっちは心配する必要はないか」


 映像モニタに映し出されたのは、レーザーブレスを吐いて右翼の敵を……それこそ心核使いが変身したモンスター諸共に消滅させている黄金のドラゴンの姿だった。

 それこそ、アランが心配する必要はない。

 ハリネズミのモンスターはどうしたかと思えば、オーガによって身体の針を掴まれ、何度となく地面に叩きつけられている。

 白猿の身体には何ヶ所か血の跡があったが、それも致命傷のようには見えない。


(白い毛だから、余計に血が目立つんだよな)


 血の色で白い毛の何ヶ所かが赤く染まっているのを見ながら、それでも重傷ではないことに安堵する。

 そうして仲間たちを一瞥したあとで、アランは次にどこを攻撃すべきかを考える。

 敵が心核使いを出してきた以上、アランもまた攻撃に参加することに躊躇はない。

 実際にレオノーラの変身した黄金のドラゴンは、敵に向かってレーザーブレスを放っているのだから。

 それ以外にも黄金の薔薇に所属する心核使いたちも行動を開始しており、右翼の戦いはすでに勝負が決まったと言ってもよかった。

 ……そもそもの話、あそこまで巨大な黄金のドラゴンを相手に、心核使いでも何でもない普通の兵士や騎士、盗賊、傭兵、探索者といった者たちが、どうにか出来るはずもない。


(ザラクニアも、それは知ってたはずだけどな。こっちに俺やレオノーラがいるのを知っている上で、何で心核使いを出してきたんだ?)


 アランが戦った大蛇のモンスターを当てにしていたのかとも考えたが、すぐにそれを否定する。

 実際、大蛇のモンスターはかなりの強さを持っていた。

 ゼオンに乗っているアランだからこそ、あそこまで簡単に勝てたが、もし他――レオノーラ以外――の心核使いが戦っていれば、確実に苦戦しただろう。

 だが、アランとレオノーラという強力な心核使いが二人こちら側にいることは、ザラクニアも理解しているはずだった。

 にもかかわらず、籠城の類もせずラリアントから出て堂々と迎え撃つというのは、明らかに違和感がある。

 ……もっとも、ゼオンも黄金のドラゴンも普通に空を飛ぶことが出来るのに、ラリアントには侵入してきた相手を察知する結界しか存在しない。

 もし籠城しようものなら、それこそ上空から好き放題に侵入され、それこそ空を飛んだままで上空からビームライフルやレーザーブレスの類を放たれれば、籠城の意味は存在しないだろう。

 それどころか、ラリアントという場所にいることで、逃げられる場所も少なくなる。

 だとすれば、このような広い場所の方が逃げやすいと判断しても、おかしなことは何もなかった。


『アラン、聞こえているか、アラン!』


 物思いにふけっていたアランは、聞こえてきたそんな声で我に返る。

 映像モニタに視線を向けると、そこには見覚えのある人物がアランに声をかけていた。

 モリクの部下の一人で、一部隊を任されている人物。

 ここにいるということは、大蛇のモンスターと戦っていた部隊を任されていた人物なのだろう。


「どうしました? 何か問題でもありましたか?」


 アランの言葉が聞こえた男は、少し安堵しながら口を開く。


『モリク様が率いている本隊が戦っている部隊の奥の方に、攻撃出来ないか? そうすれば、向こうの先陣も一気に崩れると思う。敵の奥には騎士とか鍛えられた兵士だとかがいるから、なるべく早くそいつらを引き出したいんだ!』


 その説明に、アランは納得の表情を浮かべる。

 敵の前衛が捨て駒である以上、その捨て駒相手に消耗するのは出来るだけ避けたいと、そう思うのは当然だろう。

 であれば、それを一撃でどうにか出来る手段のあるアランに頼むのは当然だった。

 ……とはいえ、モリクも当然のようにそのことは知っていたはずで、だというのに心核使いは敵が心核使いを出してくるまで出陣するのを許可しなかった。

 色々と事情があるのは間違いないだろうが、その辺はアランには関係ない。

 たとえどのような事情があろうと、結局のところはこの戦いに勝たなければ何の意味もないのだから。

 であれば、現在使える戦力を使わないという選択は、アランにはない。 


「分かった」


 男の言葉に短く答え、アランはゼオンにビームライフルを持たせ、その銃口を敵の……ラリアント軍中央の先陣に向ける。

 とはいえ、その先陣はモリク率いる部隊と激しく争っている以上、前方に攻撃するような真似をすれば、味方にも被害が及ぶ。

 味方の攻撃するのは明らかに不味いので、狙うのは当然のように先陣部隊の中でも後方だ。

 そのような位置を攻撃すれば、与えるダメージとしてはそこまで大きくはないのだが、心理的なショックという意味では非常に大きい。

 映像モニタで照準を合わせ……トリガーを引く。

 ビームライフルから放たれたその一撃は、次の瞬間には狙い通り敵中央の先陣の後方という位置に命中し、激しく爆発を生み出す。

 ラリアント軍にしてみれば、いきなり自分達の軍の中で爆発が起きたのだから、当然のように混乱する。

 ……実際には、レオノーラの変身した黄金のドラゴンが放つレーザーブレスでも同じような爆発は起きていたのだが、目の前の敵に集中しており、自分たち以外の場所でどのような戦いになっているのかというのは、全く気にしていなかったのだろう。

 視野が狭い、と言ってもいい。

 とはいえ、中央の先陣はあくまでも盗賊のような存在の寄せ集めでしかないのだから、そのようになっても当然ではあったのだが。

 もちろん盗賊の全てが愚かという訳ではない。

 盗賊の中にも目敏い者はおり、そのような者たちはそもそも中央の先陣という捨て駒にならないように立ち回っていた。


「うわぁ……何だよ、あの化け物。同じような桁外れが二匹って……」


 そんな目敏い盗賊の一人が、黄金のドラゴンとゼオンを見て心の底から嫌そうに言う。

 大蛇のモンスターを倒したのだけでも驚きだというのに、最後の一撃以外は遠距離からの攻撃で戦ったことで、無傷で倒してしまった。

 それだけではなく、今のビームライフルでの一撃を見れば分かる通り、圧倒的なまでの攻撃手段までをも持っているのを確認出来てしまった。

 そうである以上、このままここにいれば自分は……そして部下も死ぬ。

 そもそも、本来なら自分はこのような場所での戦いに来るつもりはなかったのだ。

 盗賊の仲間に誘われてやって来はしたが、実際に来てみればガリンダミア帝国の兵士が我が物顔で命じたり、その上でこのような状況だ。

 色々と理由を付けて当初の予定よりも配置を変えたおかげで、今の攻撃に巻き込まれるようなことはなかった。

 だが、今のような攻撃が何度も続くのであれば、結果は見えている。


(だとすれば、ここはもう用済みだな)


 素早くそう判断すると、男は近くで唖然としている監視のガリンダミア帝国の兵士に長剣を振るって首を切断し、仲間たちに告げる。


「さっさとずらかるぞ。ここで戦っても死ぬだけだ。俺たちにはガリンダミア帝国に付き合って死ぬ義理はねえ」


 その言葉に部下たちは頷き……同じようなことが、ラリアント軍の中で他に何ヶ所も起こるのだった。

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