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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0072話

 まるで重力を感じさせないような動きで空を飛んだゼオンは、そのまま任された大蛇のモンスターを倒すために移動を開始する。

 当然のように、大蛇のモンスターも自分に向かって飛んでくるゼオンの存在に気が付いてはいたが、地を這う蛇が空を飛べるはずもない。

 モリクの部下たちを呑み込みながらゼオンに向かっていた大蛇のモンスターは、標的が自分に向かってくることに喜びを覚えつつも、この状況でどうやったら攻撃を出来るのかといった疑問も感じてしまう。

 地上を移動してくるのであれば、攻撃手段はいくらでもある。

 あるいは、空を飛ぶのであってもそこまで高くない場所を飛ぶのなら、蛇もとぐろを巻いた状態から跳躍することも出来る。

 だが、ゼオンがやっているようにはかなり高い位置を飛ばれると、攻撃手段がない。

 大蛇のモンスターには毒液を口から飛ばすという攻撃手段もあるにはあったが、現在のゼオンのような高度にいられた場合はその毒液も届かない。

 どうしたものかと、そう考えていたのは数秒。

 だが、数秒もあれば大蛇の上に位置取ったゼオンが攻撃するのには十分な時間だった。


「味方も距離を取ったようだけど、あまり離れてないし……取りあえず、これだな」


 呟いたアランが選んだ攻撃手段は、頭部バルカン。

 本来ならビームライフルや腹部拡散ビーム砲を撃った方が確実だったのだろうが、モリクの部下たちは大蛇の周囲から離れてはいるが、そこまで離れている訳ではない。

 だからこそ、威力の高いビームライフルや、個々の威力はビームライフルほどではないが、拡散して攻撃範囲が広くなってしまう腹部拡散ビーム砲はこの場合使えなかった。

 フェルスという手段もあったのだが、まずは牽制という目的から、選ばれたのは頭部バルカン。

 トリガーを引いた瞬間、ゼオンの頭部から無数の弾丸が発射される。

 地面に次々に穴を穿っていく様子に、大蛇のモンスターも危険を覚えたのだろう。

 バルカンの弾丸から逃れるべく、その巨大な、そして長い身体をくねらせる。


「やるな」


 バルカンのトリガーを引いていたアランの口から、感嘆の声が出る。

 身をくねらせることによって、バルカンの弾丸のほぼ全てを回避することに成功し、たまに当たった攻撃があっても、その一撃は鱗こそ貫くが、そこで威力を失ってしまう。

 頭部バルカンは、ゼオンの持つ武器の中では最も弱い武器だ。

 だが、それでもその辺の金属の鎧程度であれば容易に貫くことが出来るだけの威力を持っている。……もちろん、その鎧がミスリルを始めとした魔法金属で出来ていたり、古代魔法文明の遺跡から発掘されたアーティファクトであれば、話は別だったが。

 そんなバルカンだけに、大蛇のモンスターを相手にしても、一発当たれば致命傷とまではいかなくても、大きなダメージを与えることが出来ると思っていたのだ。

 だというのに、大蛇のモンスターは痛みこそ感じているものの、結局のところはそれだけだ。

 ……そのように思っていたアランだったが、大蛇のモンスターに変身している心核使いにしてみれば、ゼオンのバルカンは洒落にならないダメージを叩き出している。

 本来なら、大蛇の鱗は大抵の物理攻撃を無効化することが出来るのだ。

 だというのに、ゼオンのバルカンが命中した場所はその鱗をあっさりと貫くのだ。

 もっとも、鱗を貫くのに威力の大半が使われる為に、鱗の下にある筋肉を貫くことは出来ない。

 だが、筋肉を貫くことは出来なくても、鱗を貫いた衝撃そのものは伝わるのだ。

 つまり、大蛇のモンスターは致命的な傷こそ負っていないが、その代償として無数の拳で殴られているかのようなものだった。

 モデルガンの弾丸で撃たれれている、というのがこの場合は分かりやすい例えか。

 それだけに、大蛇のモンスターは少しでもバルカンの弾丸から逃れようと、より激しく身をくねらせ……不意に、その降り注ぐバルカンの弾丸が止まる。

 ようやく終わったと安堵した大蛇のモンスターだったが、それは甘い……いや、甘すぎると言ってもよかった。

 大蛇のモンスターは全く気が付いていなかったが、空を飛ぶゼノンの後ろの空間にはいくつもの波紋が生まれ、ある意味ではゼオンの象徴ともいえるフェルスが姿を現していたのだから。

 ゼオンの片腕が動き、その指先が大蛇のモンスターに向けられる。

 瞬間、空間の波紋から出て来たフェルスは、三角錐の先端にビームソードを展開したまま、真っ直ぐに大蛇に向かって降り注ぐ。 その数、五つ。

 それを見た瞬間、大蛇のモンスターは半ば本能的に自分に危機が迫っていることを知った。

 そう、間違いなくこのままでは自分は死ぬ。

 その恐怖から逃げるように、大蛇のモンスターはその場から急いで離れようとする。

 周囲にはモリクの部下たちが囲んでおり、逃がさないようにしてはいるが、その巨体を持ってすれば突破するのは難しい話ではない。

 素早く突撃しようとし……


「ぎゃあああああああっ!」


 周囲に響く、大蛇のモンスターの悲鳴。

 今までは沈黙を保っていた口から出たとは思えないような、悲痛な声。

 突然何ヶ所からも感じた激痛に、大蛇のモンスターは視線を向ける。

 すると、そこには何かが鱗を貫通し……それだけではなく、ゼオンの頭部バルカンでも貫けなかった肉をも貫き、それどころか貫通した場所の反対側をも貫くといったような状況になっていた。

 激痛を感じつつ、大蛇のモンスターは信じられないといった様子で自分の身体に視線を向ける。

 今まで、数え切れないほどの戦場をくぐり抜けてきた。

 大蛇のモンスターは、それこそ並大抵の相手ではどうすることも出来ないほどの能力を持っていたのだから、そんな戦場でも鱗の防御を突破するような攻撃はあっても、その下の強靱な筋肉が攻撃を防いでいたのだ。

 だというのに、今の激痛は心核を手に入れてから初めて感じるようなものだった。

 だが……それは、大蛇のモンスターにとって地獄の始まりでしかない。

 空中を飛びながら、フェルスはその先端から次々とビーム砲を撃つ。

 それらのビームは、鱗やその下にある筋肉など全く関係ないとでも言いたげに、次々とその巨体を貫いていく。


「がああああああああああああああっ!」


 大蛇のモンスターの口から、絶叫と呼ぶに相応しい悲鳴が上がる。

 身体中をビーム砲によって貫かれた痛みは、それこそ人間の状態では感じることが出来ないような痛みと言ってもいいだろう。

 その上、フェルスの攻撃はまだ終わらない。

 周囲を飛び回ってビーム砲を撃っていたフェルスだった、そのうちの半分ほどが不意にビーム砲を撃つのを止めたのだ。

 ……とはいえ、それは大蛇のモンスターにとって福音という訳ではない。

 ビーム砲を撃つのを止めたフェルスは、その先端にビームソードが展開されたのだ。

 フェルスは、ゼオンにとって奥の手とも呼ぶべき武器であり、同時にその武器にはいくつもの機能がある。

 ビーム砲もそうだし、ビームソードも同様だ。そして、ビームソードだけではなくフェルスの横にもビームの刃を作ることも可能となっていた。

 普段は異空間に収納されているということも、能力の一つと言えるだろう。


「来るな、来るな、来るなあああああぁあぁあぁっ!」


 ビームソードを展開しながら一直線に自分に向かってくるフェルスに気が付いたのだろう。

 大蛇のモンスターは、必死に叫び声を上げながらも何とかフェルスから逃げようとする。

 だが、地を這う大蛇と、空を飛ぶフェルス。

 そのどちらが速いのかは、考えるまでもなく明らかだった。

 逃げようとする大蛇のモンスターの鱗を貫き、肉を貫き……フェルスは、大蛇の体内に入り込んでいく。

 これは、大蛇のモンスターにとっては、最悪と言ってもいい結果だろう。

 体内を貫通するのなら、激痛はあっても怪我はフェルスが貫通した場所だけですむ。

 だが、体内に入ったフェルスはそのまま貫通せず……大蛇のモンスターを内部から斬り裂き、抉る。何ヶ所か鱗を貫通してビームが飛び出てきているのを見れば、体内に入ったフェルスが、ビームソードだけではなくビーム砲も使っていると気が付くことが出来るだろう。

 もっとも、この戦場でフェルスについて詳しく知っている者は、それこそ雲海と黄金の薔薇の者たちくらいだったが。


「がああああああああああああああ!」


 まさに七転八倒と呼ぶに相応しい様子で、大蛇のモンスターは地面を転げ回る。

 ゼオンのコックピットの中でそれを見ていたアランは、このままだと大蛇のモンスターを逃がさないようにと囲んでいる兵士たちにも被害が出ると判断し、外部スピーカーのスイッチを入れる。


「その大蛇のモンスターを倒すから、周囲にいる兵士たちは場所を空けてくれ!」


 ビームサーベルを引き抜きながら告げられたその声に、大蛇のモンスターの周囲にいた兵士たちは大人しく今まで以上に距離を取る。

 それを確認したアランは、ゼオンを地上に向けて降下させる。

 手にしたビームサーベルを逆手にし、その切っ先真下を向くような形で。

 ウィングバインダーやスラスターを特に使うことなく、自然落下していくゼオン。

 本来なら、大蛇のモンスターはそんなゼオンの姿に気が付いていてもおかしくはなかった。

 だが、体内に侵入した複数のフェルスが、その巨体のいたる場所でビームソードを使って肉を斬り裂き、ビーム砲を撃って内部から鱗を貫通して……といった真似をされてしまえば、大蛇のモンスターに周囲を確認するような余裕は存在しない。

 結果として、アランはゼオンの中でフェルスをコントロールしながら、その巨体が落ちていくのを待っているだけでよかった。


「がっ、があぁっ、があああぁぁああぁぁっ!」


 体内からの痛みにどうすることも出来ない大蛇のモンスターだったが、その痛みで地面を転げ回っているとき、不意に空を見上げることになった。

 偶然顔が上を向いただけではあるのだが、それが大蛇のモンスターにとっては運が良かったのか、悪かったのか。

 それを判断するまでもなく……大蛇のモンスターの首は、ゼオンが着地した勢いによって、あっさりと切断するのだった。

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