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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0070話

 モリク率いる軍勢が進み始めてからそれほど経たないうちに、ザラクニア率いるラリアントの軍勢が姿を現す。

 それを見たアランが驚いたのは、当然だろう。

 ラリアントの軍勢がいる。それはいいのだが、それ以外に見るからに盗賊と思われる者たちの姿もあったのだ。

 それが誰なのか、何なのか……ラリアントの事情を知っている者であれば、誰もが理解出来た。

 つまり、現在ラリアントを封鎖している盗賊たち……正確にはガリンダミア帝国の兵士たち。


「おいおい、よくもまぁ……あんな状況でザラクニアに従ってるな」


 そう呟いたのは、一体誰だったのか。

 だが、その言葉を聞いた者の大半は、その意見に同意しただろう。

 盗賊たちによってラリアントが封鎖されたことにより、現在ラリアントでは物資が不足気味だ。

 幸い……本当に幸いなことに、盗賊たちを出し抜いてラリアントまでやって来る者もいるので、絶望的なまでの物資の不足ということにはなっていない。

 だが、それでもラリアント全体で見れば食料品を含めて値上がりし始めているのは事実だった。

 その理由を作った盗賊たちが自分たちと一緒にいるというのは、ラリアント軍にしてみればとても許容出来ることではないだろう。

 少なくても、アランから見た限りでは盗賊たちが自分たちの味方をしていることにより、戸惑っている者が多いのは明らかだった。


(戦力を増やすために、ガリンダミア帝国の兵士や盗賊を連れて来たのか? いや、けどそうなると……本来のラリアント軍の中にも、動揺する奴はいると思うんだけど)


 本来なら、自分たちが戦うべき敵と共に戦場に立つというのは、騎士や兵士の士気を低下させるには十分な行為なのは間違いない。

 ザラクニアと共にガリンダミア帝国に寝返ると決めている者ならともかく、それを知らない者たちにしてみれば、それは絶対に受け入れられないことだろう。

 ……とはいえ、敵の士気が下がるというのは、アランにしてみれば願ったり叶ったりといったところだったが。

 ザラクニアの意図が理解出来ない状況ではあったが、そんな中でモリクが数人の共を連れて馬に乗って前に出る。

 戦いの前に、何かを言うつもりなのだろう。

 この世界の戦争においては、そう珍しい話ではない。

 それを受けるかどうかは、別の話だったが。


「あ」


 誰かが小さく呟く。

 その声にアランが戦場に視線を向けると、そこではモリクが長剣を振るって、放たれた矢を切り払っているところだった。

 護衛が動くよりも前に自分で矢を切り払うといった真似が出来たのは、それだけモリクの技量が高いことの証であり、小隊長という地位が伊達ではないことを示している。

 それでも矢を防げたからといって、何も思わないのかと言えばそれは違い……


「ザラクニア、貴様ぁっ!」


 草原に、モリクの怒声が響き渡った。

 モリクにしてみれば、ザラクニアが売国奴だというのは分かっていたが、それでも何か言い分があるのかもしれない、理由があるのかもしれないと思っての行動だったのだが、ザラクニアはそんなのは知ったことかと矢を射ってきたのだ。

 それは、モリクを激怒させるには十分な行動。

 とはいえ、モリクもこの状況で怒りに任せて敵に突っ込んでいっても多勢に無勢で殺されるだけだというのは理解している。

 結果として、護衛の者たちを率いて自分たちの軍勢の下に戻る。


(妙にチグハグだよな。俺に薬を盛って夜襲してきたのかと思えば、こっちが隊列を組むのを黙ってみていたり、かと思えば今のように弓で攻撃してきたり)


 アランには、ザラクニアが何を考えているのか分からなかった。

 もっとも、長年敵対していた国に寝返ろうとしているのだから、何らかの事情があるのだろうというのは、容易に予想出来たが。

 ともあれ、矢を射かけられた以上はモリクもこれ以上は舌戦の類をしようとは思わなかったのだろう。

 怒りを顔に出したまま、軍勢の方に戻ってくる。

 ……そうして下がっていったモリクを狙って矢が射られなかったのは、あっさり防がれるだろうと判断していたからか。

 それとも、他に何か理由があるのか。

 手を出さない理由はアランには分からなかったが、モリクが自陣へ無事に戻ってきたのは間違いないない事実だ。

 そうしてモリクが戻ってきたところで、進軍の命令が下される。


「進軍、開始せよ! 我らが母国を敵国に売り渡そうとしている売国奴を、決して許すな! この一戦が、ドットリオン王国の浮沈の鍵となるぞ!」

『おおおおおおおおおおおおお!』


 その声と共に、反乱軍は士気の高いままに進む。

 ラリアント軍も、モリクたちの行動に誘われるように進軍を開始したのだが、その歩みはとてもではないが士気が高いとは言えない。


(やっぱり、盗賊とかガリンダミア帝国の兵士を使ってるのが影響してるよな。……そんなことは俺でも分かるのに、何でだ? ザラクニアなら、そのくらいは当然理解してるだろうに)


 進軍していく雲海の面々を見ながら、アランも進み始める。

 とはいえ生身では雲海の中でも最弱に等しいアランなので、前線に出すことは出来ない。

 アランの出番は、向こうが心核使いを出してきてからの話だ。

 正直なところ、アランはゼオンで先制攻撃をした方がいいのでは? と思わないでもない。

 元々自分たちの方が数が少なく、その上で向こうは盗賊やガリンダミア帝国の兵士までをも動員しているのだから。

 だとすれば、ゼオンのビームライフルや腹部拡散ビーム砲を使えば、その数の差を縮めることが出来るのは間違いない。

 そう主張もしたのだが、モリクからの返答は否だった。

 騎士の誇りなのか、もしくはそれ以外に何か理由があるのか。それとも、向こうの心核使いを警戒しているのか。

 正確な理由は分からなかったが、それでもアランとしては納得するしかない。


(いっそ、向こうに心核使いが早く出て来てくれれば、こっちもカロでゼオンを呼ぶことが出来るのにな)


 戦場の中を進みつつ、アランはカロを撫でる。


「ぴ?」


 カロから聞こえてくる鳴き声に、アランは何でもないと否定して、カロを撫でていた手を止める。

 アランがそうして、とてもではないが戦場とは思えない和やかな時間をすごしている間に、当然ながら戦場は動いている。

 真っ先に敵に突っ込んでいったのは、中央のモリクが率いる本隊。

 最初に矢を射かけられたことによって怒っていたのか、モリクは部下を率いて真っ直ぐ敵に突っ込んでいく。

 軍を率いる人物が最前線に出るのはどうかと思わないでもないアランだったが、元々モリクは猛将タイプの男だ。

 部下を率いてこそ実力が発揮されるし、戦いながらも部下に指示を出すことは忘れていない。


(ゼオンを使う俺がいうのも何だけど、ファンタジーだよな)


 アランが日本で知ることが出来た戦争では、基本的に軍を率いる人物は奥でどっしりと構えて指揮に集中するというものだ。

 また、参謀といった者たちが助言をしたりして、それを使って通信機で指示を出す。

 だが、この世界ではモリクのように軍を率いる人物が最前線に出て戦うというのは、決して珍しい話ではない。

 質が量を凌駕するのも同様に、珍しくはない。

 そして実際、槍を振るうモリクは縦横無尽といった様子で敵を蹂躙している。

 馬に乗っているからだろう。矢を斬り払ったときの長剣ではなく槍を武器にしているのだが、その実力は騎士団の小隊長といった階級を誤解してしまうほどだ。


「知ってるか、アラン。モリクって本来なら次期騎士団長候補になったこともあったらしいぞ」


 アランの隣で待機をしていた雲海の探索者が、アランが何を見ているのかを知ってそう告げてくる。


「え? 騎士団長? いや、だって……今の騎士団長はルディでは?」


 盗賊の討伐――という名目の罠――にアランとレオノーラが参加するとき、ルディには会っている。

 そして何より、現在ルディは騎士団を従えて敵の後衛にいるのが、アランからでも見えていた。

 モリクの軍が隙を見せれば、たちまちその鋭い牙を突き立てんとするかのような、そんな雰囲気の集団が。


「モリクは堅物という……分かるだろ?」


 最後まで言われずとも、アランも何を言っているのかは理解出来る。

 ザラクニアにしてみれば、もしモリクを騎士団長にしてしまえば、ガリンダミア帝国に寝返るといった真似をした場合、間違いなく従わない。

 実際に現在こうして反乱軍としてラリアント軍と戦っているのだから、その考えは正しかった。

 だからこそ、現在はこうしてルディが騎士団長となっているのだろう。


「つまり、モリクにはそれだけの実力がありながら、その生真面目さで小隊長のままな訳だ」

「あの実力と強さを見れば、信じざるを得ないな。……あ」


 アランは仲間と話ながら視線を自分たちの前線に向けると、そこでは見て分かるほどに雲海の探索者たちが敵を圧倒していた。

 数としては雲海が圧倒的に少ないのは間違いのない事実だが、ここでもまた質が量を凌駕しているのだ。

 雲海の探索者と盗賊たちでは、圧倒的に雲海の実力が上だ。


(確実に捨て駒なんだろうけど、こっちに割り当てられたのが盗賊たちってのは運がよかったよな。ガリンダミア帝国の兵士も、こっちにはあまり数がいないようだし)


 ラリアント軍に所属する兵士のうちの何十人かは、雲海や黄金の薔薇が戦闘訓練を行った相手だ。

 アランもその戦闘訓練には混ざって――どちらかといえば、訓練をする方ではなくされる方だったが――おり、そういう意味でも友人と呼ぶべき相手はそれなりにいた。

 だからこそ、そのような友人たちと戦わなくてもいいことに、安堵したのだ。

 命懸けの戦いであれば、友人だろうと何だろうと、敵となった相手は殺す必要がある。

 そこで油断するようなことをすれば、その結果として自分が被害を受けることになりかねないのだから。……いや、それどころか仲間や家族がその被害に遭う可能性もある。

 だからこそ、戦いの中ではよほどの実力差がない限りは手加減するような真似は出来ない。


(あいつらも、生き残ればいいんだけどな。……こんな下らない戦いで死ぬのは、意味がないし)


 そうアランが思った、その瞬間。


「心核使いだ、敵の心核使いが出て来たぞ! こちらの心核使いも応戦しろ!」


 モリクの側近の叫ぶ声が、周囲に響き渡るのだった。

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