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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0069話

 イルゼンたちがモリクたちと合流して二日後の朝。

 モリク率いる騎士や兵士、冒険者や探索者といった者や、中には元兵士で現在は一般人といった者たちの手段があり、その隣にはイルゼン率いる雲海やレオノーラ率いる黄金の薔薇の姿があった。

 総勢して百人すこしという、軍としてはかなり少ない人数ではあるが、それでも今回のザラクニアの企み……ガリンダミア帝国に寝返るというのを阻止したいという愛国心だけは、非常に高い者たちだ。

 もちろん、モリクたちの狙いとイルゼンやレオノーラの狙いは違う。

 自分たちが侮られたことに対する意趣返しであるし、また同様にモリクから正式に依頼された仕事でもある。

 ……どちらかといえば意趣返しの方が本命である以上、モリクから貰う報酬は決して高くはないのだが。

 ともあれ、百人ほどの集団はラリアントに向けて出発する。


「俺達がラリアントから脱出してから、結局追っ手は来なかったな。普通なら、逃がしたらすぐにでも捕らえようとしてもおかしくはないのに」


 ラリアントに向かう馬車の中で、アランは呟く。

 戦闘準備を整え、進軍という形を取っている一行だったが、今はまだ森から出撃したばかりで、ラリアントまではそれなりに距離がある。

 そのため、これから戦いだということで若干の緊張を抱いてはいても、今はまだ特にやるべきことはない。


「そうね。追撃……とまでは言わないけど、偵察くらいは来てもおかしくないと思うんだけど」


 レオノーラも、ザラクニアの行動に疑問を抱いているのか、そう返事をする。


「普通に考えれば、ただ追撃を出しても負けて戦力が減るだけだということなんだろうけど。アランとレオノーラさんの心核を考えるとね」


 リアの言葉に、それ以外の面々も頷く。

 全長十八メートルの人型機動兵器と、高さはともかく質量という点ではそれよりも上の黄金のドラゴン。

 そんな相手と戦っても、普通なら即座に負ける。

 ……他の心核使いを集めて、集団で攻撃するといったことにでもなれば、話は別だったが。


「まぁ、そのおかげでこっちも素早く進軍の準備を整えることが出来たんだから、それでいいんじゃない?」


 リアの言葉に、なるほどと頷いたアランだったが……不意に懐のカロが鳴き声を上げる。


「ピ! ピピ!」

「どうしたんだ、いきなり?」


 そんな疑問を抱くアランだったが、その答えはすぐに判明する。

 不意に馬車の扉がノックされたのだ。

 当然現在馬車は停まっている訳ではなく、普通に進んでいる。

 そんな状況でノックをしてきたということは、間違いなく何かあったということなのだろう。

 一緒の馬車に乗っていた黄金の薔薇の探索者が、扉を開ける。


「どうした?」

「偵察が戻った。ザラクニアの野郎、この先で軍隊を展開して待ち伏せしているらしい。舐めやがって、売国奴の裏切り者が」


 モリクの部下が、憤然といった様子で告げる。

 ここまで怒っているのは、ザラクニアがラリアントの外に出ているからだろう。

 ラリアントは、ガリンダミア帝国の侵攻を防ぐために、厚い城壁を持ち、籠城に適した都市だ。

 つまり、ザラクニアはラリアントという都市を有効に活用すれば、モリク率いるこの軍勢との戦いでかなり有利に戦うことが出来る。

 だというのに、わざわざ地の利を捨てて野戦で勝負を挑んできたのだから、自分たちを侮っていると思われても仕方がない。

 もっとも、レオノーラやリアはそんなザラクニアの判断に感心していたのだが。

 ゼオンと黄金のドラゴンがいる以上、ラリアントが城塞都市であっても、攻撃するのに対した妨害にはならない。

 であれば、無駄に籠城してラリアントに被害を与えるよりは、外にでて迎え撃った方が被害は小さいと判断したのだろう。

 ガリンダミア帝国にしても、ラリアントは自分たちの国に引き入れて旨みがあるからこそ、ザラクニアを裏切らせたのだ。

 だというのに、そのような旨みのある都市を破壊……とまではいかなくても、大きな被害を与えるようなことになれば、最悪の場合はガリンダミア帝国にとっても必要ないと判断されるかもしれない。


「なるほど。でも、ただでさえ人数の少ないこっちにとっては、敵が籠城するよりも、正面から野戦で戦ってくれる方が勝ち目はあるでしょ?」

「それは……そうだが」


 馬車に報告を持ってきた男は、リアの言葉にそう返す。

 リアにしてみれば、相手がこっちにとって有利な行動をとってくれているのだから、それに不満があるはずもない。

 この辺りは、騎士と探索者の考え方の違いだろう。

 もしくは、ラリアントという都市やザラクニアという人物についても知っているかどうかといったところか。


「なら、リアの言う通りに素直に向こうの油断に付け込んだ方がいいでしょうね。それに……私もアランも、広い場所でなら十分に心核を使えるもの」


 レオノーラにしてみれば、黄金のドラゴンに変身すれば、ザラクニアがラリアントに籠城していても対処するのは難しい話ではない。

 だが、同時にラリアントに被害を出してしまうのも、事実なのだ。

 ザラクニアに協力している者ならまだしも、ラリアントにいる住人の大半はザラクニアがガリンダミア帝国に寝返ろうとしている……いや、すでに寝返っているなどと、考えもしないだろう。

 であれば、そのような者たちに被害を出すことは、アランとしても出来れば避けたかった。


「モリク様もそう考えているんだろうな。あの方は、何だかんだと民には優しいから」


 モリクの名前を出したことで、ザラクニアに対する怒りも多少は収まったのか、報告を持ってきた男は改めて口を開く。


「ともあれ、もう少しで戦場だ。向こうはこっちが戦闘準備するのを待つような真似はしないだろうから、いつ戦闘になっても対処出来るようにしておいてくれ」


 その言葉に、馬車に中にいた者は、アランも含めて全員が頷き、それを見て報告を持ってきた者は去っていく。

 とはいえ、現状で多くの者はすでに戦闘準備を整えている。

 少人数でザラクニア率いるラリアントの軍と戦いになるのはわかっていたのだから、何があってもすぐ対応出来るようしておくのは当然だった。

 もっとも、ザラクニアの手の者から逃げるときに装備品を持ち出せなかった者も多く、そのような者たちは本来の自分の武器や防具ではなく、モリクが用意した物資の中から、自分に合った武器や防具を使っていたが。

 それでも本人たちの実力もあって、ある程度の実力を発揮出来るのは間違いない。

 しかし、やはり腕利きの探索者が自分用に改良された武器や防具と既製品では、性能に差が出るのは当然のことだった。

 そのような装備品であっても、その辺の兵士よりはよほど強いのが雲海や黄金の薔薇の探索者たちなのだが。

 戦闘準備そのものはあっさりと終わり、あとは戦場となっている場所に到着するのを待つだけとなり……やがて馬車が停まり、そのときがやってきた。


『全員、馬車を降りろ! ここから少し行った場所で、ザラクニアたちが待ち受けているぞ!』


 聞こえてくる声。

 どうせなら待ち受けているといった真似をせずとも、一気に奇襲をしかけてくればいいのに、とそう思うアランだったが、それを口にするようなことはしない。

 こうして見て分かるほどに堂々と待ち受けており、自分たちに攻撃をしてくる様子がないのは、そこに何らかの意味があるのだと、そう理解しているからだ。


(もしかして、ゼオンを手に入れるために力を見せる……とか、そんな理由じゃないよな? というか、それなら野営のときに薬を盛ったり、寝ているところを襲撃したりして、とてもじゃないけど正々堂々とは言えないし。……敵を倒すという意味だと、正しいんだろうけど)


 そんな風に思いながら、アランは馬車から降りて戦闘準備を整える。

 ただ、この反乱軍の主力は、あくまでもモリクとその仲間たちだ。

 雲海と黄金の薔薇の探索者たちは、正面戦力ではなく遊撃といった扱いとなっていた。

 この辺は、集団での戦闘訓練を積んできた兵士たちと、個人、もしくは少人数での戦い得意としている探索者としての違いだろう。

 また、雲海と黄金の薔薇でも、クランという意味では同じ集団だが、その戦闘方法の類は違うところも多い。

 そういう意味でも、遊撃隊という形でそれぞれが得意な戦い方をさせるというのは正しかった。

 戦いが始まるまでもっと時間があるのなら、しっかりと訓練してモリクたち、雲海、黄金の薔薇という三つの勢力の特徴を組み合わせて、もっと有効な戦力となることも出来たのだろうが、今回は戦闘の準備に使える時間が二日しかなかった。

 その程度の時間しかないのであれば、下手に足並みを合わせたり協力したりするよりも、それぞれが得意とする動きで戦った方が有効なのは確実だった。

 やがて馬車に乗っていた者たちは全員が下りると、モリクやその部下たちは隊列を組む。

 前衛に近接攻撃を得意とする者たちが集まり、後衛には魔法使いや弓のような遠距離攻撃を可能とする武器を持つ者たち。

 数少ない心核使いは、後衛のさらに後方にていつでも出撃出来るように準備を整えていた。

 モリクたちを中心にして、雲海は左翼に、黄金の薔薇は右翼に。

 百人ほどの人数なので、隊列を整えるのはそう時間がかからない。

 これで、もし人数が千人、二千人、三千人といった数ならば、隊列を整えるのにも一苦労だっただろうが。


「ちっ、向こうは随分と自信があるらしいな」


 同じ心核使いということで、オーガの心核使いのロッコーモが、アランの側までやってきて忌々しげに呟く。


「ロッコーモさん、どうしたんです?」

「あれだ、あれ」


 吐き捨てるように言うロッコーモの視線を追ったアランが見たのは、丁度馬首を返して去っていこうとしている騎兵の姿。

 こちらに向かって来るのではなく、こちらから離れるようにして去っていくその姿を見れば、その騎兵がアランたちの味方ではなく、ザラクニアの手の者であるのは確実だった。

 つまり、偵察としてやってきた者に見つかったということなのだろう。

 ……それでも、騎兵が全速力でないのは、自分たちの方が有利である以上、ここで攻撃をしてくるとは思っていないからか。

 ロッコーモはそれが自分たちを侮っているように見えたのだろう。


「行くぞ! 出撃する!」


 そんな中、モリクの声が周囲に響き……一行は、歩み始めるのだった。

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