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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0066話

 モリクが物資の類を用意した。

 そう言われたレオノーラは、今までのやり取りから若干の疑問を抱く。

 だが、物資の類があれば助かるのは間違いない以上、イルゼンを問い詰めるような真似はしない。


「なら、早速ラリアントを脱出しましょう。……それで、私たちはここを脱出したあとはどこに向かえばいいのかしら?」

「物資が用意してある場所はモリクさんから聞いているから、そこに向かえばいいと思うよ」

「……分かったわ。さて、それじゃあすぐにここを出て、ラリアントから脱出するわよ。皆、準備をして」


 レオノーラの言葉に、皆が従う。

 とはいえ、元々が宿にいた場所を警備兵たちに襲撃され、逃げ延びた結果が現在の状況だ。

 持ち出せた物は多くなかったし、何よりも馬や馬車の類も警備兵に没収されている以上、今からラリアントを脱出するにしても、持っていくような物はほとんどない。

 それこそ、武器の類くらいか。

 何らかの理由で偶然防具の類を身に着けていた者は、それらを持ち出すことも出来たが。

 この場にいた者の多くが準備を進めている中で、アランは両親の下に向かう。


「父さん、母さん。無事だった?」

「ええ。向こうもアランを手に入れようとはしても、怒らせようとは思っていなかったんでしょうね。扱いは悪くなかったわ」


 そう告げるリアの様子は、確かに憔悴しているようには見えない。

 もっとも、アランたちが盗賊の討伐に向かってからまだほとんど時間が経っていない以上、牢屋に捕らえられていても本当に短時間だけだったのだろうが。


「そうなんだ」


 アランはそれを聞き、強がりでも何でもないと悟って安堵する。

 リアは夫と子供……それも十代半ばをすぎた子供を持っているが、ハーフエルフということもあって、外見は非常に若く、美しい。

 それだけに、兵士の中に妙なことを考えるような者がいても、おかしくはないのだ。

 ……もっとも、リアはその外見とは裏腹に生粋の戦士でもある。

 下手に手を出してくるような相手がいれば、そのことを後悔するようなことになっても、おかしくはなかったが。


「出来れば、もう少し食事の質が上がっていればよかったんだけどね」


 ニコラスも笑みを浮かべてそう告げるのは、それだけ余裕があったからだろう。


「食事って……こっちはこっちで、色々と大変だったのに」


 実際、野営地で食べた食事に薬が盛られたアランは、レオノーラと共に洞窟に逃れ、そのあとでラリアントにやってきた。

 ラリアントにやってきてから移動中に少し屋台で買い食いくらいはしたが、その程度だ。

 今までは緊張で空腹にも気が付いていなかったが、そのことに気が付いた瞬間、アランは空腹を感じ……アランの腹から、何か食べ物をくれといったような、自己主張の音が響く。


「あー……うん。色々とあって、ほとんど何も食べてなかったから」

「そうね。出来ればこの宿を出る前に、何か食べ物を貰えると嬉しいんだけど」


 アランの腹の音を聞いたレオノーラが、そう呟く。

 アランが空腹だということは、そのアランと共に行動していたレオノーラも空腹なのは当然だった。

 それでも男と女というのが関係しているのか、それともそれ以外の何かが関係しているのか、レオノーラの腹はアランのように鳴ったりはしなかった。

 ……空腹なのは、間違いないが。


「この宿には食堂はないらしいけど、何らかの食料はあってもおかしくないだろうね」


 ニコラスのその言葉に、アランたちは店の者に頼んで簡単な……それこそ、従業員が自分たちで食べるように持ってきていたサンドイッチを購入する。

 金に余裕があったのは、アランとレオノーラがラリアントに戻ってきたときに絡んで来た相手がいたおかげだろう。

 あくまでも自分たちが食べるために用意したサンドイッチである以上、言ってみれば店で買うようなサンドイッチではなく、言ってみれば雑なサンドイッチといった表現が相応しい。

 それでも空腹は最高のスパイスとはよく言ったもので、少なくてもアランはそのサンドイッチを十分に美味いと感じながら食べた。

 レオノーラの方は、やはり育ちからかサンドイッチはいまいちの味ではあったが、それでもこれからのことを考えると無理をしてでも食べておいた方がいいと思って、腹の中に入れる。

 そうしてサンドイッチを食べ、水で薄めたワインを流し込むようにし、五分とかからずに食事を終えたアランとレオノーラは、他の面々と共に宿を出る。


「では、皆さん。モリクさんが動きやすくするように、ザラクニアの視線をこちらに集める必要がありますので、半ば強行突破になります。殺すな……とは言いません。自分たちの安全こそが第一です。何より、誰がザラクニアに協力しているのか、わかりませんしね」


 イルゼンのその言葉に、話を聞いていた全員が頷く。

 宿の前で話しているために、当然のようにその様子は目立つ。

 自分たちが派手に動き、ザラクニアの目を引き付けている間に、モリクに色々と動いて貰うためには、この行動は絶対に必要だった。

 だからこそ、こうしてイルゼンが話している光景は意図的に目立たせており……それに目を付けた警備兵がやってくるのも、また当然となる。


「お前たち、こんな夜に一体何を……貴様らっ!」


 その人混みを疑問に思ってやってきた警備兵は、その人混みの中心にいるのがイルゼンやレオノーラ、雲海や黄金の薔薇といった指名手配されている面々であるということに気が付く。

 今の時点で、警備兵を倒そうと思えばそう難しい話ではなかっただろう。

 だが、今の状況……警備兵の注意を自分たちに引き付けるという意味では、ここで警備兵を倒す必要はなかった。


「さぁ、皆さん。ラリアントを強行脱出します!」


 イルゼンの言葉が、周囲に響き渡る。

 それが合図となり、雲海と黄金の薔薇の者たちは一気に走り出す。

 警備兵はそんな相手を自分だけで止められないと判断し、懐から笛を取り出すと力一杯吹いた。

 ピーーーーーーーーッという音が周囲に響き渡る。

 警備兵の近くにいた者たちは、突然自分の間近で鳴らされた甲高い笛の音に耳を塞ぐが、警備兵はそれに気が付いた様子もなく走り去った雲海と黄金の薔薇を追う。


(よくやってくれましたね)


 街中を走りつつ、笛の音を耳にしたイルゼンは予想通りの展開に笑みを浮かべる。

 こうして目立つことが出来れば、モリクも動きやすくなり、最終的に自分たちにもその恩恵を享受することが出来るのだ。

 だからこそ、イルゼンはわざと目立つような真似をしながら、街中を駆け抜ける。


「待て、止まれ!」


 笛の音を聞いた中でも、偶然イルゼンたち進行方向にいた警備兵が立ち塞がる。

 だが、当然のことだがイルゼンたちの人数に比べて、前方に姿を現した警備兵の数は多くない。

 警備兵はラリアント全体を見て回らなければならない以上、当然の話だが少数……二人一組、場合によっては一人で移動していることが多数だ。

 そして、イルゼンたちの前に立ち塞がった警備兵の数も、一人でしかない。

 ……ただでさえ探索者というのは、普通の人間よりも強さという点では上だ。

 そんな探索者が、しかも集団となっている場所に一人で立ちはだかった警備兵の度胸が並外れていたのは間違いない。

 だが、質と数の双方で圧倒的に上を行かれている今の状況で、そのような真似をしても……


「私がいくわね」


 イルゼンの耳元でリアの声がしたかと思えば、次の瞬間には一気にリアは地面を蹴って警備兵との間合いを詰める。

 イルゼンを含めた他の面々も、別に手を抜いて走っている訳ではない。

 散り散りにならないように纏まって走っているが、その速度は決して遅いものではなかった。

 だというのに、リアはイルゼンたちよりも圧倒的な速さで警備兵に近づくと、長剣を一閃する。

 もっとも、その長剣は鞘に収まったままだったということもあって、警備兵の身体を斬り裂くといったことはなく、叩きのめすといった程度だったが。

 長剣の一撃で吹き飛ばされた警備兵は、近くにあった建物の壁にぶつかって動きを止め、そのまま地面に崩れ落ちる。


(うわぁ……まぁ、母さんが本気を出せば、それこそ壁を破壊して吹き飛ばされたんだろうし、それを考えれば手加減されているんだろうけど……悲惨な……)


 吹き飛んだ警備兵を横目に、アランはラリアントの街中を走る。

 もし先程の警備兵がザラクニアの部下であれば、リアも鞘ではなく、鞘から抜いた長剣で攻撃しただろう。

 だが、幸い……と言ってもいいのかどうかは微妙なところだが、あの警備兵がザラクニアの部下かどうかというのは分からなかった。

 いや、正確にはザラクニアの部下ではあるのだろうが、裏切りに与しているのかどうかが分からなかった、というのが正しい。

 だからこそ、殺すような真似はせずに気絶させるだけですませたのだ。

 ……吹き飛ばされて壁にぶつかった以上、怪我をしていてもおかしくはないが。

 ともあれ、今はこうして目の前にいる敵を排除したことにより、真っ直ぐにラリアントからの脱出を図ることが出来る。

 ゼオンの突入の件もあって、未だに街中の人の数は多いが、それでも雲海と黄金の薔薇の探索者たちが纏まって走っているのを見れば、どうしても人目を引く。

 そんな集団の前にいる者たちも、自分から道を空ける。

 人々の中には冒険者や探索者の姿もあったが、こんなところで騒ぎに巻き込まれるのはごめんだという思いからか、走っているアランたちを止めようとする者はいなかった。

 そのおかげで、アランたちは人目を引き付けながらも特に邪魔をされることがないまま、街中を走る続ける。

 そして、正門が見えてきたところで……


「止まれぇっ!」


 不意に響く大声。

 同時に、正門の前にいた人物の外見が変わっていく。

 数秒と経たずに巨大な牙を持つ猪のモンスターに姿を変えたその姿は、当然のように心核使いだった。

 それも、こうして露骨なまでにアランたちの邪魔をするということは、ザラクニアに協力する者である可能性が高い。


「アラン君、君の心核を。どうせなら、モリクさんたちの援護のために、思い切り目立ちましょう」

「え? ここ街中ですよ?」

「それは今更でしょう。もう、ラリアントに突入するときにゼオンを使ったんですから」


 そう言われれば、アランとしても断ることが出来ず……そっと心核を取り出す。


「カロ、頼む」

「ピ!」


 アランの言葉にカロが鳴き……そして、ゼオンが街中に姿を現すのだった。

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