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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0061話

「ここよ」


 そうレオノーラが言ったのは、ラリアントの中でもスラム街に近い場所にある酒場。

 ラリアントのような都市でも……いや、都市だからと言うべきか、スラム街は存在している。

 ラリアントという都市でドロップアウトした者たちが最後に集まる場所であり、孤児のような者たちが集まる場所でもある。

 そのような場所である以上、当然のように治安は悪い。

 スラム街に入らなくても、その周辺であるこの辺りで何らかの事件――それこそ殺人でも――が起きても、警備兵の類がやって来ることは基本的にはない。

 たまに、本当にたまに、何らかの理由でやってくる警備兵もいるにはいるが、下手な正義感を発揮しても、ここでは意味がない。

 いや、それどころかこの周辺に住む者たちの獲物となってしまうだろう。

 そんな場所の近くにある酒場……ラリアントの裏、いわゆる犯罪組織が運営している酒場に、レオノーラとアランは入っていく。

 店の中は暗く明かりもそう多くはないのだが、客の数はそこそこ多い。

 ……もしアランが酒について詳しければ、客たちのテーブルにある酒の中には、非常に高額な……それこそ、普通に働いている者であれば、数年働かなければ購入出来ないような金額の酒があることに驚いただろう。

 レオノーラはそんな酒に気が付いたが、特に表情に出すような真似はしない。

 そして、酒場にいる多くの客たちは、レオノーラとアランを見て、その技量を察する。

 正確にはアランはそこまででもなく、あくまでもレオノーラだけなのだが。

 このような酒場に集まり、さらには普通では飲めないような酒を飲んでいる者たちだけに、全員が一角の人物ではあった。

 とはいえ、一角の人物だからといっても、悪人であるのは間違いない。


「よう、お嬢ちゃん。ちょっと俺に酌でもしてくれ。そうしたら、気持ちいいことをしてやるぜ?」


 顔は隠れていても、非常に自己主張の強いレオノーラの身体は、ローブの上からでも男好きのする身体をしているというのは分かる。

 だからこそ、アランとレオノーラの近くにいた男は、からかい混じりにそう声をかけたのだろう。

 だが、レオノーラはそんな男を冷たい視線で一瞥すると、興味もないと視線を逸らす。

 それこそ、その辺に転がっている石か何かを見るような、そんな視線。

 普段であれば、レオノーラもそのような真似はしないだろう。

 だが、今は仲間の安否が気がかりで、だからこそ今のような態度をとってしまったのだ。

 そして、裏社会に生きる者としては、侮られるような真似をされれば、それをそのままにしてはおけない。

 もしそのままにしておけば、周囲から自分は侮っても何もしない相手だと判断され、攻撃されることになりかねないのだから。


「おい、こら。こっちは親切で言ってるんだぞ。それなのに、その態度はなんだ?」

「悪いけど、貴方に用はないの。私が用があるのは、この店の店主よ」

「そっちに用がなくても、こっちにはあるんだよっ!」


 叫び、男はレオノーラに向かって殴りかかる。

 その動きは、その辺の……それこそ、レオノーラが着ているローブの元の持ち主とは違って、非常に滑らかな動きだった。

 何らかの格闘技をやっているのは、見ただけで明らかなほどに。

 とはいえ……たとえ格闘技をやっていても、レオノーラにしてみれば、だからどうしたといったものでしかない。

 ローブの下の鞭を取り出すでもなく、少し……ほんの少しだけ後ろに下がって男の攻撃を回避すると同時に、カウンターを放つ。

 それでも拳ではなく、掌での一撃だったのは、多少なりとも手加減をしていたのだろう。

 ……もっとも、掌での一撃はビンタといったものではなく、掌底という言葉が相応しい一撃だったが。

 それを顎の先端に食らった男は、脳を揺らされたことによって一瞬で意識を失って床に倒れ込む。

 ざわり、と。

 今の一連のやり取りを眺めていた者たちが、レオノーラの動きの無駄のなさにざわめく。

 ここにいる者の中には、それこそ腕自慢でのし上がってきた者も多いのだが、そのような者たちの目から見ても、今の動きは驚きに満ちたものだった。

 だが、周囲からそのような視線を向けられているレオノーラは、その視線を全く気にした様子もなく、カウンターに向かう。

 当然ながら、アランもレオノーラの後を追うのだが、周囲からはレオノーラの凄さに目がいっていたためか、アランのことは特に目に入っていない。

 見えている者でも、レオノーラの付き人か何かのように思っているだけだった。

 そのように見られているのは、本人も理解していたし、それを不満にも思っていたのだが、自分の地力がないからそのように見られているというのは理解していたので、何かを言うようなことはなかった


「いらっしゃい。随分と派手な登場だな。薔薇か何かのように」


 カウンターでレオノーラとアランを待ってい店主は、そう言って男臭い笑みを浮かべる。

 その言葉だけで、店主がレオノーラの正体を理解しているというのははっきりとした。

 ……レオノーラが、ローブを着てフードを被っているにも関わらず。

 薔薇と言われた本人も、そんな店主の言葉に少しだけ驚く。

 レオノーラとアランがラリアントに戻ってきてから、まだ一時間も経っていない。

 にもかかわらず、どうやって自分たちのことを知ったのか。

 そんな疑問を抱くが、ともあれ今はそのようなことを気にしている場合ではない。

 いや、むしろそれだけ凄腕の情報屋であるということを嬉しく思う。


「少し情報を買いたいのだけれど、構わない?」

「そうだな。……まぁ、あんたならいいだろう。そっちの部屋に行こうか。あまり人には聞かれたくないんだろう?」


 店主の言葉に、レオノーラは頷く。

 実際、先程の一件で酒場の客たちはレオノーラやアランに興味を持っているのは間違いないのだ。

 であれば、そのレオノーラが欲しがる情報は、出来れば知りたいと思う者が多いのは当然だろう。

 そうしてレオノーラとアラン、店主の三人は店の奥にある個室に向かう。

 酒場では他の店員達が注文された酒を他の客に出していたので、店としてはあまり困ることはないらしいとアラン判断する。

 店主に案内された個室は、本当に個室と呼ぶのが相応しいような部屋だった。

 アランの感覚でいえば、三畳ほどの狭い部屋だ。

 酒場にあるにもかかわらず、酒を飲むためではなく、密談をするための部屋。

 店主に腕利きの情報屋としての顔があるからこそ、このような部屋を用意してあるのだろう。

 それこそ、ここで話している内容を他人に聞かれないように。

 部屋の中にはテーブルと椅子があるだけで、窓の類も存在しない。

 本当に、このような密談に使うためだけの部屋に思える場所だ。

 アランとレオノーラの二人は、椅子に座って店主と向かい合う。

 最初に口を開いたのは、店主。


「お前たちが知りたいのは、雲海と黄金の薔薇が現在どうしているのかってことだろう?」


 単刀直入な問いかけだったが、レオノーラもここで迂遠な……オブラートに包んだようなやり取りをするよりは、このようなやり取りのほうがいい。

 何より、レオノーラには時間がないのだから。

 そんなレオノーラとは裏腹に、アランは驚く。

 雲海という名前を口にした店主は、間違いなくアランに視線を向けていたためだ。

 それはつまり、店主がアランの正体について正確に知っているということを意味している。

 酒場では多くの者がレオノーラのみに視線を向けていたにもかかわらず、だ。


「そうね。その情報を買いたいわ。代金はこれで足りる?」


 そう言いレオノーラは先程見せた宝石をテーブルの上に置く。

 だが、店主はその宝石を一瞥しただけで首を横に振り……それを見たレオノーラは、若干の険を込めた視線を店主に向けた。


「これでも足りないと?」

「いや、違う。報酬はいらないって言ったんだ。あー……いや、そうだな。ザラクニアの野望を止めてくれれば、それが報酬となる」

「……どういうこと?」


 店主の言っている意味が分からず、疑問を口にするレオノーラ。

 だが、店主はそんなレオノーラの視線は全く気にした様子がなく、部屋の壁を見る。

 レオノーラは、店主の視線が向いている方……そのずっと先に、ザラクニアの住む館があることに気が付く。


「簡単に言えば、ザラクニアはこの国……ドットリオン王国を裏切って、ガリンダミア帝国に所属することにしたらしい」

「ちょっと待ってちょうだい。ザラクニアは仮にも辺境伯という立場にあるのよ? それも、国境を任されているだけあって、信頼も厚いはずよ。それが、国を裏切るって……」

「事実だ。そもそも、少し前からこの辺を騒がせている盗賊たちにしてもそうだ。ただの盗賊が心核なんて代物を持っていると思うか? いやまぁ、その可能性が皆無とは言わないが、心核を複数持っていて、しかも心核使いとして腕が立つ者が数人揃っているのが、どれだけの低い可能性だと思う?」

「それは……」


 古代魔法文明の遺跡から心核を発掘するのは、探索者だ。

 そしてレオノーラは探索者で、遺跡から心核を発掘するのがどれだけ大変なのかというのは、身を以て知っている。

 だからこそ、店主の言葉を疑うことは出来なかった。


「それでも盗賊たちが心核を持ってるのは簡単だ。何しろ、盗賊というのは表向き……いや、あるいは大多数は本当に盗賊かもしれないが、心核使いや率いてる人物のような者たちは、ガリンダミア帝国の兵士や騎士といった者たちなんだからな」

「そう、やっぱり……」

「うん? 気が付いてたのか?」

「気が付いたのは今だから、褒められたことではないけど。でも、何故? ザラクニアは後ろ暗いところがない……とは言わないけど、それでも腐敗しているとまでは言わなかったはずよ。現に、今まで何度もガリンダミア帝国の侵攻を防いでいるもの」


 心核使いが複数いて、それが腕利きであるのも道理だった。

 その理由は分かったが、だが、何故そのようなことになったのかといったことになれば、レオノーラも納得は出来ない。

 だが、店主もその言葉には首を横に振る。


「俺も理由までは分からん。だが、現実は見ての通りだ」


 そう話している二人に、アランはそっと手を挙げ、口を開く。


「その、もしかして俺の心核のゼオンが原因ってことは……」


 パーティのときにゼオンを見たザラクニアの視線を思い出しながら、アランはそう告げるのだった。

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