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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0058話

 洞窟から出たアランとレオノーラの二人は、恐らく捕らえられていると思われる仲間たちを救うべくラリアントに向かって移動しようとしていた。

 具体的に自分たちが今どこにいるのかといのは、まだ分かっていない。

 野営地から逃げ出すのに精一杯で、レオノーラも自分が今いる正確な位置は把握出来なかったためだ。


「……だとすれば、どうするんだ? 俺のゼオンにしろ、レオノーラのドラゴンにしろ、どうしても目立つだろ」


 空を飛ぶことが可能で、高速で移動出来るゼオンと黄金のドラゴンだが、その双方共に弱点がある。

 それこそ、全高十八メートル近い大きさを持つという、弱点が。

 それだけの大きさを持つ存在が空を飛んでいれば、当然のように目立つ。

 もしゼオンや黄金のドラゴンがラリアントに向かうとなれば、どうしても途中で見つかってしまうだろう。

 そして見つかってしまえば、兵士なり騎士なりに報告され、それがさらに上司に報告を……と、そのようになってしまい、どうしてもアランとレオノーラが近づいてきたというのは知られてしまう。


「私はドラゴンだからそこまで高度はとれないけど、ゼオンなら上空……それこそ、大気圏を突破とまではいかないけど、地上から見たら簡単に判別出来ない高度までは上がれるんじゃない?」


 以前アランの記憶を追体験したおかげで、レオノーラは本来ならこの世界の人間なら全く知らないことを知っていた。

 もっとも、この地球とは違うこの異世界においても、その常識が当て嵌まるかどうかというのは、全く別の話だったが。


「可能かどうかで言えば……多分出来るとは思うけど、確信はない」


 アランも、ゼオンを使って空を飛んだことはあっても、宇宙まで行けるかどうかというのは試したことがない。

 普通に考えれば、ゼオンだけで宇宙に行くのはまず不可能ではあるのだが……ゼオンは普通の存在ではなく、心核という古代魔法文明の遺産によって生み出された存在だ。

 であれば、ゼオンだけで大気圏を突破出来ると言われても、ある意味で納得出来るものがあった。


「けど、それで見つからずにラリアントまで移動しても、そこからどうするんだ? 上空から降下してくれば、どうしても目立つぞ。夜でも、向こうは警戒しているだろうし」


 成層圏とまでは言わないが、地上からははっきりとゼオンだと認識出来ない高さで移動したとして、そこからラリアントに向かって降下してくれば、当然ながらその姿は見つけられてしまう。

 であれば、ゼオンでの移動はやはり厳しいのではないか。

 そう告げるアランに、レオノーラは頷く。


「そうでしょうね。けど、ここからラリアントまでどれくらいかかるか分からない以上、あまり時間をかけることが出来ないのも事実よ。ここで下手に時間をかけるような真似をすれば、間違いなく雲海や黄金の薔薇の探索者たちは私とアランを誘き寄せるための餌として使われる」

「それは……」


 レオノーラの言葉に、アランは反論出来ない。

 実際に、ザラクニアがゼオンを見たときの様子を思い出せば、それこそどのような手段を使ってでも、アランを捕らえようとするだろう。

 その手段に、アランの両親や仲間たちを人質にするという手段が入っているのは、当然のことだった

 ……もっとも、イルゼンが大人しく捕まったままでいるとは、到底思えなかったのも事実なのだが。

 元々、イルゼンは今回の依頼……盗賊が有する心核使いへの対策に、アランとレオノーラを雇うというのに、いくらかの疑問を抱いている様子だった。

 だとすれば、万が一にも何らかのアクシデントがあったときのために対策をしておくのは当然と言ってもいい。


「イルゼンさんなら、もしかしたら捕まらないで逃げてるかも」


 それは、仲間たちが人質になっているという大前提を覆す言葉。

 即座にアランの意見を否定しようとしたレオノーラだったが、言葉は出てこない。

 イルゼンという人物は、レオノーラの目から見てもかなり油断出来ない男という印象だったからだ。

 普段は飄々とした態度をとっており、昼行灯――これもアランの記憶で知った言葉だが――と呼ぶに相応しい様子を見せているのだが、実際にはかなり鋭く、慎重な性格をしている。

 そんな人物が、少しでも怪しんでいた状況でみすみす人質になるかと言われれば……答えは、否だ。


「そうなると、ゼオンに乗って堂々と姿を現すのは悪手になりかねないわね」

「俺もそう思う。むしろ、こっそりとラリアントに侵入して、イルゼンさんたちと繋ぎをとった方がいい」

「そうね。……いえ、駄目ね」


 そうだと言ったにもかかわらず、次の瞬間に否定の言葉を発するレオノーラ。

 そんな様子に疑問を抱きつつ、アランは口を開く。


「何でだ?」

「一緒に行動しているのが、雲海だけじゃなくて黄金の薔薇もいるからよ。私や、黄金の薔薇の中でも上の者なら、イルゼンがどういう人物か知っているから、咄嗟の指示に従ったりもすると思うわ。けど……」

「あー、うん。納得した」


 レオノーラが何かを言うよりもまえに、アランは納得する。

 黄金の薔薇の中には、プライドの高い者もいる。

 もちろん、レオノーラが黄金の薔薇を結成するときには、そのような無意味なプライドを持っている者は除外したのだが、それでも貴族としてのプライドを完全に捨て去ることなど出来ないし、何らかの理由であとから黄金の薔薇に所属するようになった者の中にはそのような者もいる。

 外見や普段の態度が飄々としているイルゼンの指示、もしくは命令に、そのような者が従うかと言われれば……アランは素直に頷くことは出来ない。


(イルゼンさんの指示に従って上手く逃げ出した奴がいれば、絶対に指示に従いたくなくて捕まっている奴もいるだろうな。場合によっては……いや、そこまで最悪の事態は考えなくてもいいのか?)


 ザラクニアが望んでいることは、アランを……正確にはゼオンを自分の支配下に置くということだ。

 であれば、その取引材料となる雲海や黄金の薔薇の探索者たちを迂闊に殺すようなことはしないだろう。

 そのような真似をすれば、無意味にアランやレオノーラの敵意を煽るだけになると理解はしているのだろうから。

 ……もっとも、殺しはしないだろうが、痛めつけたりといったことはしてもおかしくないのだが。

 特にそういうときは、男よりも女の方が色々な意味で危険だ。

 何しろ、アランの母親のリアは二十代にしか見えない美人だし、黄金の薔薇に所属している女探索者たちも、貴族出身の者だけに顔立ちが整っている者が多い。

 欲望に忠実で、後先考えることが出来ない兵士の類がいれば、女としての危機に見舞われる可能性は十分にあった。


「で、それじゃあ結局どうするんだ? ゼオンで真っ直ぐにラリアントに向かうのか、それとも馬車か何かで向かうのか」


 焦りを殺して尋ねてくるアランの言葉に、レオノーラは少し考えてから口を開く。


「やっぱりゼオンで行きましょう。馬車で移動するとなると、どうしても時間がかかってしまうし、何よりも私たちが指名手配されている可能性が高い以上、余計な戦闘が起こる可能性があるもの」

「分かった」


 レオノーラの言葉に、あっさりと頷くアラン。

 アランにしてみれば、少しでも早く家族や仲間を助けたいという思いがあったので、早くラリアントに到着するのであれば、それに越したことはない。

 なら、今すぐにでも……と心核のカロに手を伸ばそうとしたアランだったが、レオノーラがそれを止める。


「待ちなさい。行くにしても、夜になってからよ。夜になれば、ゼオンで移動してもそこまで目立たないだろうし……何より、アランの体調を少しでも完璧にしないと」


 昨夜盛られた薬の効果は、消えたように思える。

 だが、本当に全て薬の効果が消えたのかどうかは、分からない。

 であれば、念のためにもう少し様子を見た方がいいのは確実だった。


「平気だって。見ろよ」


 そう言って軽く身体を動かすアランだったが、レオノーラはそっと首を横に振る。


「もしゼオンに乗ってラリアントまで移動したとき、いきなり身体の調子が悪くなったらどうするの? 今回の件で失敗は許されないのよ」

「それは……」


 アランは、レオノーラの言葉に反論出来ない。

 実際にゼオンがラリアントに姿を見せれば、雲海や黄金の薔薇の面々が今どのような状況にあるのかは分からないが、事態が一気に動くのは確実だ。

 そうなると、レオノーラが言うように、少しでも体調を万全にしておくというのには納得出来るものがあった。


「分かった」


 不承不承ではあるが、アランはレオノーラの言葉に納得する。

 そんなアランの様子を見ながら、レオノーラはこれからどうするべきかを考える。

 まずやるのは、やはり水を探すことだろう。

 それと、可能であれば食料も入手したい。

 ただ、現在は追われている身の上であると考えると、迂闊に焚き火をする訳にもいかず、動物の類を獲っても調理は出来ない。

 昨夜の野営地からはかなり離れた場所なので、恐らく火を使っても見つからないだろうと予想はしていたが、だからといって楽観的に判断して結果的に後悔するというのはごめんだった。


「取りあえず、水は必要よね。飲み水以外にも」

「うん? まぁ、そうだな。今夜には移動するとなると、食料の類もしっかりと用意しておく必要はあるか。……こうなると、野営地から色々と荷物を持ち出せなかったのが痛いな」

「荷物って言っても、結局それは向こうで用意した物でしょ? そうなると、薬の件もあるし、奪ってきたとしても完全に信用するようなことは出来ないわよ」

「そうか? でも、聞いた話だと兵士同士でも争ってたんだろ? なら、もしかしたら無事な物資の類もあったかもしれないだろうに」

「もしそういうのがあるとしても、それが本当に使い物になるかどうか分からないでしょ? 調べてるような暇はなかったんだし。……ともあれ、木の実か果実の類を探すわよ」


 そう言い、洞窟から出ていくレオノーラ。

 アランもまた、空腹を自己主張する自分の腹を見て、レオノーラのあとを追うのだった。

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