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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0049話

 盗賊の討伐にかんしては、やはりと言うべきかイルゼンが言っていたように、即座に二度目の討伐隊が送られた。

 その中には、イルゼンが言っていたように、アランにとっても顔馴染みの兵士たちも相当おり、アランにしてみれば憂鬱な気持ちにならざるをえない。

 一応兵士たちを送り出す景気づけにと酒場に行ったとき、盗賊には心核使いがいるから気をつけるようにとは言ったのだが、それでアランの気分が晴れる訳でもなかった。

 隣国のガリンダミア帝国が今回の件に関係しているかもしれないというのは、取りあえず話していない。

 話せば、それを隠すようなことが出来ない性格の持ち主ばかりだったし、何よりもイルゼンが未だに裏を取れていない情報だから、というのも大きい。

 アランにはイルゼンがどのような伝手を持ってるのかは分からなかったが、それでも今まではイルゼンが持ってきた情報は、多少の差異はあれども大きく間違っていたことはない。

 そんなイルゼンが、未だに情報の裏を取れないというのは、明らかに異常な出来事だ。

 アランもそれが分かっているからこそ、兵士たちにその辺の情報を教えなかった。


「ほら、しっかりしなさい! 友人が盗賊の討伐で出ているからといって、アランが訓練を休んでいい訳じゃないのよ!」


 リアが鋭い叫びと共に、長剣を振るう。

 その一撃を、アランは自分の長剣の刀身で何とか防ぐ。

 とはいえ、リアの一撃は決して全力ではない。

 アランであれば何とか防ぎ、回避出来るように手加減された一撃だった。

 だからこそ、アランも何とか今の一撃に対処出来たのだが。


「うわぁっ!」


 それでも本当に命中する寸前で何とか出来るといった一撃だったためか、アランの口からは悲鳴のような声が出る。

 そのような悲鳴を発しながら、それでも何とかリアとの距離を取ることが出来たのは、長年の訓練の賜だろう。

 とはいえ……


「ほら、そこで距離を取ってどうするの! こういうときは、相手に余裕を与えると自分の方が不利になるわよ!」


 距離を取ったことにより、リアの動きは自由度を増してより鋭く、素早い一撃を放ってくる。

 アランはその一撃を何とか防ぐも、リアはその一撃を起点として次々に連撃を放つ。

 最初の一撃を防ぐのも大変だったアランだけに、当然のように続けて放たれた攻撃は防ぐのが難しく、次の一撃を受けたときは体勢を崩しており、その次の一撃でさらに……そして次の一撃で、といった具合に次第に攻撃を捌ききれなくなっていき、最終的には……


「これで終わりね。……ちょっと気を抜きすぎじゃない? 今の連続攻撃は、ちょっと前のアランなら防げたはずよ? まぁ、アランの気持ちが分からないでもないけど……」


 アランが盗賊の討伐に行った兵士たちのことを心配しているというのは、リアも分かっている。

 クランに所属して探索者として活動している以上、どうしても一つの場所に長くいるということはない。

 いや、クランの性格によっては特定の街や都市を拠点として活動するということもあるのだが、雲海や黄金の薔薇はその手のクランではない。

 村から村へ、街から街へ、都市から都市へ。

 そのように、古代魔法文明の遺跡を攻略しながら移動しているクランだ。

 それだけにクランの仲間はともかく、それ以外の場所で友人を作るということはあまりない。

 だからこそ、アランは同じ釜の飯を食った仲の兵士たちを心配してもおかしくはなかった。……それで訓練に力を入れなくてもいいという訳ではないのだが。


「う、ごめん」

「……取りあえず、今日の訓練はこの辺にしておきましょうか。このまま訓練を続けても、とてもじゃないけど集中出来ないし、訓練で集中出来なければ怪我をすることになってもおかしくはないわ」


 リアの言葉に、アランも頷き……ちょうどそのタイミングで父親のニコラスがやって来たのが見えた。


「アラン、ちょっといいか?」


 いつもと同じような態度のニコラスだったが、どことなく纏っている雰囲気がいつもと違う。

 そのことに嫌な予感を抱きつつも、アランは頷く。


「どうしたのさ、父さん」

「盗賊の討伐隊が壊滅状態になったらしい」

「……は?」


 一瞬、アランはニコラスが何を言っているのか分からなかった。

 当然だろう。最初に盗賊の討伐に行ったときは、向こうに心核使いがいるという情報がなかったために、討伐隊も大きな被害を受けた。

 だが、だからこそ今度は相手に心核使いがいるというのを前提として、再度の討伐隊が組まれたのだ。

 その討伐隊には、心核使いには心核使いと、相手の心核使いに対応するために心核使いも含まれていると聞いている。

 つまり、相手の戦力を理解した上で、必勝の態勢で挑んだはずだった。

 だというのに、何故そのような状況で負ける……それも壊滅と呼ばれるほどの被害を受けるのか。

 明らかに何かがおかしい。

 それは分かっていたが、同時にアランにはもう一つ心配なことがあった。


「父さん、壊滅状態ってことは、兵士は……」

「詳細は分からないけど、多分被害は大きいだろうな」


 基本的に、軍隊というには特殊な例を除くと、兵士が一番多くなる。

 騎士のような存在は育てるのに時間がかかるし、乗っている馬も戦場で怯えないように訓練された馬となると、当然高額になる。

 魔法使いも、その才能を持っている者は非常に少なく、心核使いともなれば魔法使いよりもさらに少ない。

 であれば、軍隊の中で兵士が一番多くなるのは当然のことだった。

 つまり……アランが父親に聞いたのは、それを知った上で、それでも万が一にも自分の友人の兵士たちが生き残ったのではないかと、そんな微かな希望を抱いてのことだったのだが、それはあっさりと否定されてしまう。


「……そうか……」


 しみじみと呟くアラン。

 この世界で、人の命というのがかなり安いのは、今まで生きてきたことで十分に承知している。

 それこそ、アランも自分の手で盗賊を殺して人の命を奪ったことは一度や二度ではないのだから。

 だが、それでも……やはり、友人が死ぬということには慣れない。


「アラン、さっきも言ったけど、今日の訓練はもう終わりよ。あとは一人でゆっくりとしなさい」


 母親として、リアがアランに優しくそう告げる。

 アランは母親の言葉に頷き、その場を立ち去る。

 そんなアランの後ろ姿は肩を落としており、見るからに悲しそうな様子だった。


「あの子、大丈夫かしら」

「アランなら大丈夫だ。君の子なんだから」

「あら。それなら貴方の子でもあるじゃない。……でも、そうね。アランがこの先も探索者としてやっていくのであれば、自分の親しい相手の命が奪われるといったことは、いずれ経験することになるもの。そういう意味では、今回の一件は試金石といったところかしら」


 妻のその言葉に、ニコラスはアランのことを心配しながらも頷きを浮かべるのだった。






「疲れた。……いや、これは気疲れって奴なんだろうな」


 訓練が終わって宿に戻ってきたアランは、そのままベッドに倒れ込みながら呟く。

 天井をみながら何を考えるでもなく、時間をすごす。

 一体、どれくらいの時間がすぎたのか。

 それはアランにも分からなかったが、それで三十分くらいは経っているように思えた。

 そんな状況でふと喉が渇き、部屋にあった水差しからコップに水を汲み、喉を潤す。


「こういうとき、大人は酒を飲んで気分転換をするのか?」

「止めておきなさい」

「っ!?」


 いきなりかけられた声に、アランは反射的に声の聞こえてきた方に視線を向ける。

 するとそこにいたのは、黄金の薔薇を率いる人物にして、ある意味で自分の相棒とも呼べる存在……レオノーラ。

 黄金の髪をたなびかせながら、その整った顔でアランに視線をむけている。

 いつもであれば若干その顔に目を奪われたりもするのだが、生憎と今はそのような気分ではない。


「何だ、レオノーラか。どうしたんだ?」

「アランが落ち込んでいるかもしれないから、様子を見てきて欲しいと言われたのよ」


 誰に? と、そう尋ねるまでもない。

 恐らくは両親のどちらか……あるいは、イルゼンといったところか。


「別にそこまで落ち込んでいるって訳じゃないんだよ」


 レオノーラに対し、アランの口から自然とそんな声が出る。

 見栄を張っている訳ではなく、実際にアランの中には復讐を望むといった強烈な感情はない。

 ただ、何となくやる気が出ないというのが正確なところだ。

 もちろん、悲しみや怒りを抱いていないのかと言われれば、その答えは否だ。

 間違いなくアランは自分が抱いている気持ちがそのようなものだと知っている。


「そうね。私も以前はそういう気持ちを抱いたことがあったわ」


 アランの言葉に、レオノーラはそう告げる。

 腕利きを多く集めて結成した黄金の薔薇というクランでも、当然のように今まで活動してきた中で死んだ者はいた。

 クランを率いる者として、レオノーラは当然のようにそのことに責任を感じ、罪悪感に苛まれるということも多数経験している。

 それでも探索者として活動すると決めた以上は、そのような状況を何とか乗り越える必要があった。


「お前は強いな」

「強くなければならなかった、というのが正しいわね。……それにしても、今回の一件は少しおかしいと思わない?」


 アランとの会話に若干の照れを感じたのか、レオノーラは話題を変える。

 それはアランにも理解出来ていたが、今はレオノーラにこの件でこれ以上話をしてもどうかと思い、そちらの話題に乗る。


「おかしいって?」

「盗賊の中に心核使いがいるということで、討伐隊にも心核使いがいたんでしょ? なのに、何でここまで一方的にやられたのかしら」

「それは……」


 レオノーラの言葉に、アランは考える。

 簡単に考えられる可能性としては、盗賊の中にいた心核使いが単純に強かったという点だろう。

 討伐隊に心核使いが組み込まれていたとしても、その心核使いよりも盗賊の心核使いの方が強ければ……あるいは心核使いの数が多ければ、討伐隊も大きな被害を受けることになってもおかしくはない。

 もしくは、討伐隊の中に裏切り者がいた場合。

 いくら心核使いが強くても、寝ているところを殺されたり、毒を使われたりといった風に不意を突かれれば、心核を使うことも出来ずに死んでもおかしくはない。

 他にもいくつかの考えをアランは口にし、レオノーラと共に検討する。

 不思議と、レオノーラと話していたことにより、アランの中にあった虚しさといった感情は消えていくのだった。

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