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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
辺境にて

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0048話

「……は? それって本当ですか? だって、ラリアントって結構な戦力を持ってるんですよね?」


 兵士たちの訓練が始まってから、十日ほど。

 その日も訓練を終えて、現在雲海と黄金の薔薇が借りている宿に戻ってきたアランは、イルゼンから聞いた話にそう返す。

 なお、本来なら雲海も黄金の薔薇も、領主の館で寝泊まりしてはどうかと領主であるザラクニアに勧められてはいた。

 だが、それでは外聞的に悪いだろとイルゼンが交渉し、現在はラリアントにある宿で寝泊まりをしている。

 もちろん、外聞的にというのはあくまでも表向きの理由でしかなく、その理由はアランがザラクニアを危険視しているというのが正確なのだが。

 ともあれ、そんな宿に帰ってきたアランが聞いたのが、ラリアントの騎士団と兵士たちが盗賊との討伐に向かい、敗退したという情報だった。


「はい。どうやらかなり大規模な盗賊団の仕業らしいですね。何しろ、心核使いもいたという話ですし」

「それは……また……」


 イルゼンの言葉に、アランだけではなく他に話を聞いていた者たちまでもが驚きの表情を浮かべる。

 当然だろう。心核というのは、そう簡単に入手出来るものではない。

 盗賊の類が容易に手に入れるなどということは、まず不可能に近いのだ。

 ……もっとも、それでいながら盗賊の中に心核使いがいるというのは、皆無という訳ではない。

 若干矛盾しているようだが、盗賊が心核を手に入れるのは難しくても、冒険者や探索者、騎士、兵士といった者達であれば、それを入手出来る可能性があり、そして入手してから所属している集団を脱走するなり何なりして盗賊になる、というのはそれなりにあることなのだから。


「それで、ラリアントではどうするつもりなんだ? まさか、このままってことはないんだろ?」


 ロッコーモのその言葉に、他の者たちもイルゼンにどうするのかと視線を向ける。

 そんな視線を受けたイルゼンは、当然と頷きを返す。


「もちろん、ラリアントとしてもその盗賊をそのままには出来ないでしょう。数日中にでも心核使いを含めた討伐隊を派遣するという話を聞いています」

「一体、どこから聞いてきたのやら。その辺りは、普通に考えれば軍事機密だろうに」


 黄金の薔薇の探索者が呆れたように呟く声が聞こえてくるが、正直なところアランもそれには同意だった。

 一体、どうやってそんな重要な情報を得ているのか、と。


「さて、何ででしょうかね。自然とそういうのは耳に入ってくるんですよ。……とにかく、もう少ししたらここも騒がしくなりそうです。当然私たちも注目の的ですので、くれぐれも下らない騒動は起こさないように」


 念を押すように、イルゼンがそう告げ、それに続くようにレオノーラも口を開く。


「もし馬鹿な真似をしたら……分かってるわね?」


 レオノーラの視線が向けられたのは、腰にある鞭。

 そんなレオノーラの態度を見れば、もしイルゼン曰く下らない騒動を起こした場合は、その鞭が振るわれることになるのは確実だった。


「そ、それで。盗賊の件は俺たちに何か関係あるんですか? もしかして、討伐の依頼をされたとか?」


 レオノーラの鞭からどうにか視線を逸らしたうちの一人が、何とかそう口に出す。


「いえ、今のところはまだ何も言われていません。ですが、心核使いを含めた討伐隊が負けるということになれば、もしかしたらこちらに話がくるかもしれませんね。……もっとも、ラリアントとしても面子がありますから、そこで私たちに話をもってくるかどうかは分かりませんが」


 イルゼンの言葉は、皆が納得出来るものであった。

 何しろ、今回の一件に関しては一度ラリアントの派遣した部隊が負けているのだ。

 そのような状況で、自分たちが擁する戦力ではなく、他の戦力を使うというのは面子として大きなマイナスとなるのは間違いない。

 どうしても自分たちで勝てない相手であればともかく、ラリアントにはまだ戦力が残っているのだから。


「ともあれ、そのような理由で明日以降の訓練は中止となります。全員が盗賊の討伐に行くとも思えませんが、それでも兵士である以上それなりの数は連れて行かれるでしょうし」

「じゃあ、明日からは休み?」

「向こうからはそのように言われていますね」


 リアの言葉に、イルゼンはそう答える。

 兵士の訓練という依頼を受けてラリアントに残ってはいるが、別にどうしても自分たちが訓練をしたいと、そう思っている訳ではない。

 むしろ、訓練をしなくてもいいのであれば、それなら楽でいいとすら思う。

 とはいえ、何だかんだと兵士たちに訓練をつけていた身としては、自分たちの知っている兵士たちには出来るだけ無事で帰ってきて欲しいという思いを抱くのも当然だった。

 そうである以上、今回の盗賊の討伐も若干不安を覚えるなという方が無理だ。

 特にアランの場合は、他の探索者たちと違って兵士たちと一緒に訓練を受けていたのだ。

 言ってみれば、同じ釜の飯を食った仲といったところか。


(大丈夫だろうな、あいつら。……葬式をやるのはごめんだぞ)


 訓練の間に一緒に酒を飲みに行ったり、買い物に行ったりといったことをした兵士たち。

 出来れば、アランとしてはそのような友人……と言ってもいいような者たちには、死んで欲しくはなかった。


(心核使いたちと訓練したのが、まさかこんなに早く役立つとは思わなかったけど)


 心核使いと遭遇したときの訓練はしたが、正直なところアランとしてはそこまで有効な訓練ではないという思いの方が強かった。

 基本的に、心核使いの相手は心核使いがやるというのは不文律なのだから。

 もっとも、やらないよりはやった方がいいのも事実であり、それが今回こうして役に立っているのは、少し皮肉な思いすら感じてしまう。


「とにかく、今回の盗賊の討伐が終わるまではしばらく休みとなります。とはいえ、羽目を外しすぎないように」


 イルゼンのその言葉でその場は解散となり、アランも部屋を出ていこうとするが……


「アラン君、ちょっといいですか?」

「え?」


 イルゼンに呼び止められ、他の面々が部屋を出ていくのに、アランだけがその場に残る。

 部屋に残ったのは、イルゼンとアラン、そしてレオノーラの三人だけ。

 この面子で部屋に残るというのは、アランにとっては正直あまりいい予想が出来ないのだが……それでも、イルゼンに言われた以上、部屋に残らないという選択肢は存在しない。

 そうして部屋の中に誰もいなくなったあとで、アランは口を開く。


「それで、俺とレオノーラだけを残してどうかしたんですか?」

「うん。実は今回の盗賊の一件、まだ裏付けが取れてないから皆には言わなかったけど、隣国が関係している可能性がある」

「それって……」


 アランたちがいるこの国……レオノーラたちと初めて会ったカリナンや、スタンピードが起きたドーレスト、そして国境沿いにあるこのラリアントという街や都市は、ドットリオン王国という国の領土だ。

 そして、国境沿いにあるラリアントが隣接している国……イルゼンが口にした隣国というのは、ガリンダミア帝国。

 そのガリンダミア帝国が、今回の一件の後ろにいる……可能性があると、そうイルゼンは言っていた。


「盗賊だって話だったんじゃないんですか?」

「そうですね。表向きは少なくてもそのようなことになっています。ですが、それはあくまでも表向きですよ」

「……それは本当なの?」


 レオノーラも、イルゼンの口から出た情報は初めて聞いたのか、確認をとるように告げる。

 このようなときにイルゼンが嘘を言うとは思わないが、それでも今回の一件を考えれば、そこまですぐにその情報を信じるといったことは出来ない。

 隣国のガリンダミア帝国が暗躍している可能性があるということは、そういうことなのだ。

 特にレオノーラは、クラッシェンド王国の姫である以上、今回の一件にはより強く思う所があるのだろう。

 だが、イルゼンはそんな厳しい視線を向けてくるレオノーラに対し、特に緊張した様子もなく頷きを返す。


「あくまでもそのような情報があるというだけで、まだ完全な裏付けは取れていません。ですが、ガリンダミア帝国が動いているとしても、不思議はないと思いませんか?」

「それは……」


 イルゼンの口から出た言葉を、レオノーラは否定出来ない。

 しかし、そんな中でアランが口を開く。


「ガリンダミア帝国は近隣諸国にちょっかいをかけてるのは知ってますけど、それでも小国に対してくらいだった筈です。この国をどうにか出来るだけの戦力はなかったと思うんですけど」


 アランもこの世界で暮らしており、特に現在はドットリオン王国で暮らしている以上、当然ながらその辺の事情は知っている。

 ガリンダミア帝国そのものは、覇権主義とでも呼ぶべき国策をとっている国だ。

 だが、生憎と国の実力そのものはそこまで高くなく……あるいは、だからこそ覇権主義を持つにいたったのかもしれないが、ともかくドットリオン王国よりも国力そのものは低い。

 ましてや、周辺に位置する小国に対してもちょっかいをかけており、そこでも戦闘は行われている。

 もちろん相手が小国である以上、戦況は圧倒的にガリンダミア帝国が有利だが、塵も積もれば山となると言わんばかりに多数の問題を抱えているというのは、ドットリオン王国でも容易に手に入る情報だ。

 そうである以上、自分たちよりも国力が上の国にちょっかいをかけるような真似をするのかと言われれば、皆が素直に頷くようなことは出来ない。

 そう告げるアランだったが、イルゼンはその言葉に納得した様子を見せながらも、首を横に振る。


「残念だけど、そのような情報があるのは間違いない。それこそ、さっきも言ったけど、まだ裏付けそのものはとれていないが、恐らく本当だろうと僕は思っている」


 イルゼンがそこまで言い切るとなると、アランとしてもその言葉に納得せざるをえない。

 それだけ、イルゼンの持ってくる情報は正確なのだ。


「そうなると、どうなります?」


 一緒に訓練をした兵士たちのことを心配しながら尋ねたアランだったが……


「良い未来というのは、ちょっと見えないね。……覚悟はしておいた方がいい」


 いつもは飄々とした態度をしていたイルゼンが、珍しく真面目にそう告げるのだった。

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