0401話
ガリンダミア帝国軍とレジスタンス連合との最後の戦い。
その戦いの序盤は、ガリンダミア帝国軍にとっては予想外なことにレジスタンス連合有利な状況で進んだ。
その理由としては。やはり空を飛ぶゼオンの存在があるだろう。
制空権を確保しようとして、ガリンダミア帝国軍から空を飛ぶモンスターに変身した心核使いたちをビームライフルで倒し、更にはフェルスをガリンダミア帝国軍の前衛に突っ込ませて大暴れしたのだから。
まだガリンダミア帝国軍とレジスタンス連合が全面的にぶつかっていないので出来たことではあったのが、それによってガリンダミア帝国軍が受けた被害は大きい。
大きいのだが……
「ちっ、心核使いが出て来たか」
フェルスは長さ一メートルほどの小ささで、小回りが利くのは間違いないが、どうしてもその分、威力は劣ってしまう。
それでも大抵の相手には対処出来るし、事実今までにも心核使いが変身したモンスターを倒したりもしていたのだが……それが効かない、もしくは何らかの手段で防ぐ相手も出て来た。
普通の兵士の中でも特に腕利きであったり、あるいはマジックアイテムの類を持っている者であったり……中には仲間の死体を盾にしてフェルスの攻撃を防ぐといったような真似をしている者すらいた。
また、当然ながら心核使いの中にもフェルスの攻撃を回避したり、もしくは防いだりといったような者をするモンスターもいる。
これ以上はフェルスに被害が出ると判断したアランは、ガリンダミア帝国軍の陣営の中で暴れ回っていたフェルスを手元に戻す……のではなく、そのまま空中を飛んでいる敵に向けて放つ。
地上ではフェルスの奇襲によってガリンダミア帝国軍が大きく混乱していたものの、その混乱も急速に収まっていく。
この辺り、ガリンダミア帝国軍の指揮官には有能な人物が揃っているという証だろう。
「厄介な」
そうアランが呟く。
ガリンダミア帝国軍にしてみれば、ここで自分たちが負ければ致命的なことになるのだ。
そうである以上、当然ながら精鋭を用意するのは当然だった。
周辺諸国との戦いでも、今回の一件で戦線を維持するか、もしくは戦線を縮小している場所も多い。
そうした場所から引き抜いてきた精鋭で、こうして防衛戦を行っているのだ。
フェルスによって被害を受けたのは間違いのない事実だったが、その動揺から素早く立て直している辺り、本当に優秀な人物を選んできたのは間違いないだろう。
もう少しフェルスを暴れさせた方がよかったか?
一瞬そう思ったアランだったが、レジスタンス連合の前線がガリンダミア帝国軍との間合いを詰めている以上、フェルスを使い続けるのも難しい。
また、ガリンダミア帝国軍の中から突出してレジスタンス連合との距離を詰めている者もいる。
心核使いが多数だが、その中には騎士や兵士の一部も混ざっていた。
そんな訳でレジスタンス連合からも複数の心核使いや精鋭が軍列を突出して先行し、お互いの軍の中で戦っている。
その戦いを回避するようにそれぞれの軍勢が動き出し……そして、やがてぶつかる。
「とはいえ、そっちにばっかり見てもいられない、か」
ゼオンの映像モニタには、空を飛んで自分の方に近付いて来る敵の姿がしっかりと映っている。
ビームライフルを撃ちつつ、近付いてきた敵に目掛けて腹部拡散ビーム砲を放つ。
射角が広く、何条にもなって放たれるビーム。
そんなビームが、何匹かのモンスターを貫き、消滅させる。
しかし敵の数が多い以上、今の状況ではどうしようもないのも間違いなかった。
いくらアランがここで必死に攻撃しても、敵は心核使いを多数用意している。
「なんでこんなに心核使いがいるんだよ、おかしいだろっ!」
本来なら心核使いというのはかなり希少な存在だ。
それでも相手が国……それも侵略国家として周囲の国々を次々と侵略しているガリンダミア帝国だからこそ、今までは納得出来た。
だが、相手がガリンダミア帝国であると考えても、この心核使いの数は異常としか表現のしようがなかった。
何らかの手段で心核を大量に入手しているといった可能性はアランも考えたが、それでもこの数は多すぎる。
そもそもの話、心核というのはそう簡単に入手出来るものではない。
古代魔法文明の遺跡に、稀に……本当に極稀に存在する代物なのだ。
そうである以上、ここまで……それこそ空を飛ぶモンスターだけで百匹近いのではないかと思えるような数を用意するといったような真似は、まず不可能だ。
少なくても、アランの常識ではとてもではないがそのような真似が出来るとは思わなかった。
(だとすると、何でだ? 心核を使わないで心核使いとして活動出来る何かがあるのか? それとも……心核を独自に作り上げることが出来るようになったのか?)
そんなことは有り得ないと思う。思うのだが、現在の状況を思えば、その有り得ないことが起きていると思ってしまう。
とはいえ、今の状況でそのようなことを考えても意味はない。
今はとにかく、空を飛ぶ敵を倒す必要があった。
この状況で制空権を敵に回せば、それこそレジスタンス連合は何をすることも出来ず、一方的にやられかねない。
今こうしている間も、アランは必死になって空を飛ぶ敵を攻撃しているものの、距離を詰めてきた空を飛ぶ敵の中には地上にいるレジスタンス連合に対して火球や風の刃といったような攻撃を行っている者も出て来ていた。
「させるかっ!」
地上にいるレジスタンス連合に向かって攻撃をするモンスターを優先して、ビームライフルや腹部拡散ビーム砲で倒していく。
そんな中、最初に空を飛んでいたモンスターの第二陣が空に上がり始めた。
そんな中でもアランが特に厄介……見ただけでも危険と判断したのは、空を飛ぶ蛇だった。
ゼオンほどではないにしろ、十メートルほどもある全長の蛇の身体にはいくつかの翼が生えている。
外見としてはかなりシンプルな敵ではあるものの、そのようなシンプルな外見とは裏腹に圧倒的な力を周囲に見せつけていた。
(まずは、あれだな。とにかく何とか倒す必要があるな。ああいう奴は実力を発揮させるよりも前に、遠距離から倒してしまった方がいい)
そう判断し、ビームライフルの銃口を空飛ぶ蛇に向け、トリガーを引く。
銃口から放たれたビームは、真っ直ぐ飛び……
「な……」
空飛ぶ蛇は、空中で身をくねらせてビームを回避する。
命中はせずとも、近くを通っただけでビームの威力は相手に被害を与えるような威力を持つ。
そんなビームが身体のすぐ側を通っているのに、その蛇身は一切傷を負っている様子はない。
それはつまり、蛇身の身体はビームが近くを通った程度では特にダメージらしいダメージを負うようなことがない、強力な防御力を持っているということを示していた。
「厄介な奴が出て来た。……うおっ!」
翼持つ蛇を相手に、どう攻撃を命中させるべきか。
そう思っていたアランだったが、翼持つ蛇が大きく口を開けたのを見た瞬間、アランは半ば反射的にゼオンを動かしていた、
それは、レオノーラが変身する黄金のドラゴンと行動を共にすることが多いアランだったからこその判断だろう。
ちょうど黄金のドラゴンがレーザーブレスを放つときのような、そんな印象を受けたからこその行動。
そしてアランのその行動が間違っていなかったことは、翼持つ蛇の口から水のブレスが放たれたことが証明する。
当然、水のブレスとはいえ、ただ水を放った訳ではない。
体内で高度に圧縮し、同時に魔力を纏わせたその水のブレスは、水ではあっても触れた素材全てをあっさりと斬り裂くだけあの、圧倒的なまでの威力を持つ。
アランはそんな敵の攻撃を予想出来た訳ではなかったが、それでも半ば勘に従って水のブレスの回避に成功した。
「本当に……厄介な!」
水のブレスの攻撃を回避しつつ、アランはビームライフルを連射する。
翼持つ蛇を相手に集中して行われる攻撃。
当然ながら、そのような真似をすれば他の敵に対する攻撃の密度は薄くなる。
そうして攻撃の密度が薄くなった場所から、空を飛ぶモンスターはレジスタンス連合に向かって襲いかかる。
地上にいるレジスタンス連合の兵士にしてみれば、空からいきなり攻撃をしてくるのだ。
対空手段としては、それこそ弓……もしくは投石といったような手段が大半の状況では、空から襲ってくる心核使いに対処する方法は多くない。
「うっ、うわぁああああっ!」
「畜生、こっちに来るな、来るな、来るなぁっ!」
「アランとかいう奴は、一体何をやってるんだよ! こっちを何とかしろよ!」
心核使いによって被害を受ける現状において、今は少しでも出来る奴が何とかしてくれと、そのように思いながら叫ぶ。
地上が大変な現状ではあっても、アランはアランで強力なモンスターの翼持つ蛇との戦いを繰り広げている。
それを見た人物……雲海の探索者の一人は、空を飛びながら地上に向けて放たれる火球を長剣の一閃で切断しながら、叫ぶ。
「アランにばっかり頼ってるんじゃねえ! 見ろ! アランは俺たちが戦っているよより、もっと強い敵と戦っているんだよ!」
その言葉を聞いたレジスタンスの一人は、探索者の男が示した方を見る。
かなり上空での戦いである以上、かなり小さく見えるが……それでも、そこではゼオンと翼持つ蛇が戦っているのが見えた。
そして翼持つ蛇を見れば、その相手がただものではないというのは、レジスタンスにも理解出来てしまう。
それだけゼオンと戦っている翼持つ蛇の姿は、圧倒的な迫力があったのだ。
「ぐ……くそっ、分かったよ!」
空を飛ぶ翼持つ蛇を見れば、レジスタンスもこれ以上はアランに対して不満を言えなくなる。
ここでそのような真似をしても、それは自分の価値を下げるだけだと、そう理解したためだ。
その辺りについて思い至る辺り、この男はそれなりに見所があるのだろう。
雲海の探索者は、そんなレジスタンスの様子に笑みを浮かべつつ……手にした短剣を、空中から降下してくるフクロウのようなモンスターに投擲するのだった。




