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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
心核の入手

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0039話

 ゼオンに乗ってドーレストに向かっていたアランだったが、その道の半ばほどまで移動すると、体力や魔力、気力といったものが急速に減っていき、半ば倒れ込むように心核を解除して地面に倒れ込む。

 そんなアランの横では、レオノーラもまた地面に倒れ込むといったことはしなかったが、疲労困憊といった様子で激しく息を整えていた。

 本来なら、アランは激しく息をするレオノーラの揺れる胸に目を奪われてもおかしくはなかったのだが、急激に消耗した今の状況では、とてもではないがそんな真似は出来ず、地面に倒れた状態で激しく息を吸い、呼吸を整える方が先だった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……一体、何でこんな……今までは、もっと長時間ゼオンに乗ったことがあっても平気だったのに」

「はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ。……考えられる可能性としては、ゼオリューンになったからじゃない? あの合体……いえ、融合には、色々と無理があったんでしょうね」


 アランよりも鍛えているためか、レオノーラはアランよりも早く呼吸を整えることに成功する。


「ゼオリューンか。……ゼオンよりもかなり性能の高い機体だったのは間違いないけど、そう簡単になれる形態じゃないな」

「そうね。そもそも、また同じようにゼオリューンになろうとして、なれると思う? 私はちょっと、どうやればいいのか想像出来ないのだけど」


 レオノーラの声に、改めてアランもゼオリューンになったときの感覚を思い出そうとする。

 だが、レオノーラ同様に何故か出来る気がしなかった。

 それこそ、本来なら存在するスイッチがどこに存在するのかも分からない……といった具合に。

 スイッチがあるはずなのは分かっているのだが、具体的にどこにそのスイッチがあるのか分からないというのは、致命的だった。


「駄目だな」

「そう、アランでも駄目なの。てっきり、あの心核はアランに最適化されているような感じだったから、アラン側からならどうにか出来ると思ったんだけど」


 レオノーラの残念そうな声。

 実際、心核は明らかにアランを主、レオノーラを従といったように扱っていた。

 アランとしては助かったが、本来ならレオノーラの方が主になってもおかしくはなかったのだ。

 いや、双方の持つ能力を考えれば、その方が正しいというのは明らかだった。


「その件は今は考えなくてもいいだろ。……それより、今はどうやってドーレストに帰るのかが、問題だな」


 心核が使えるのであれば、アランもレオノーラも空を飛べるので、そう苦労することなくドーレストに帰ることが出来ただろう。

 だが、双方共に現在は消耗しきっており、とてもではないが心核を使えない。

 あるいは、スタンピードが起きていなければ、ドーレストまで戻る探索者の馬車に同乗させて貰う、といったことも出来ただろう。

 しかし、ここはグラルスト遺跡からドーレストに続く道だ。

 当然のように、スタンピードが起きたときにこの近辺にいた探索者たちは、逃げるか死ぬかの道を辿っただろう。

 もしかしたら近くの森や林といった場所に逃げ込んだ探索者もいるかもしれないが、そのような者たちも当然のように馬車を使っては逃げ切れないので、徒歩で移動する必要がある。


「うーん……そうなると……」


 どうする?

 改めてお互いに視線を見合わせていると、不意にアランの視界の端に動くものが見えた。

 一瞬敵か!? と思ったのだが、その動いた存在は見覚えのある四枚の翼を持つ巨大な鳥のモンスターであると知り、安堵の息を吐く。


「ちょっと待ってて。向こうに私たちがここにいると、そう教える必要があるわ」


 そう言い、レオノーラは魔法発動体の鞭を手に、短く呪文を唱える。

 次の瞬間、上空に向けて放たれる火球。

 その火球は決して攻撃をするためのものではなく、空中で軽く爆発するだけで消えていく。

 とはいえ、空を飛んでいる鳥のモンスター……正確には心核を使ってそれに変身している相手に気が付かせるには、それで十分だった。

 空を飛んでいた、アランとレオノーラの見覚えのある鳥は、地上にいる二人を見つけたのだろう。

 翼を羽ばたかせながら、そのまま降下してくる。

 四枚の翼を使っての降下だけに、周囲には強い風が吹き荒れるが、アランたちはその風を何とか耐え……そして、地上に着地した鳥に声をかける……よりも前に、向こうから声をかけてきた。


「よう、どうやら無事だったらしいな」


 相変わらず、鳥の状態でどうやって言葉を発しているのかは分からなかったが、不思議とそんな声を聞いたアランは安堵する。


「あー、うん。何とか無事にスタンピードの元凶は排除出来たんですけど……こうして迎えに来てくれたってことは、ドーレストの方も一段落したんですか?」


 この鳥のモンスターは、ドーレストで活動している、少数精鋭として有名な剣の頂というクランの心核使いだ。

 グラルスト遺跡に来るときにも運んで貰ったので、アランやレオノーラにとっても顔見知りの相手だった。


「そうだ。モンスター同士で殺し合いをしたり、それぞれが適当に散らばって逃げ出したり……まだ完全に安心は出来ないが、それでもスタンピードは終わったと判断出来たから、迎えに来たんだ」

「そこで私の合図を見つけたのね」

「ああ。取りあえず、色々と話は聞きたいが、今はまずドーレストに帰るか。お前たちも疲れてるんだろ?」


 剣の頂の一員だけあって、アランとレオノーラの様子から疲れているというのを見て取ったのだろう。

 そう告げられ、アランとレオノーラの二人はそれぞれ頷く。

 アランは特に何の躊躇もなく。

 そして、レオノーラは黄金の薔薇を率いる者として自分の疲れが見破られたことを少し悔しく思いながら。


「そうですね。敵が何というか、こう……もの凄かったですから。椀子モンスターって感じで」

「椀子?」


 次から次に出て来るモンスターを比喩していった言葉だったが、当然のように日本について知らなければ、その意味は分からない。

 ……とはいえ、アランの記憶を追体験したレオノーラは、その意味を理解して同意するように頷いていたが。


「とにかく、次から次に、延々とモンスターが出て来たんですよ。そのモンスターを召喚している奴をどうにか倒すことが出来て、ようやくスタンピードが解決したといった感じです」

「なるほど。まぁ、俺は詳しいことは分からないけど、ドーレストに戻ったらその辺を説明する必要も出て来るだろ。それより、そろそろ背中に乗れ。スタンピードが解決したとはいえ、モンスターがそのまま消えてしまった訳じゃないんだ」


 偶然この辺りにはモンスターがいなかったが、このままずっとここにいれば、そう遠くないうちにモンスターが戻ってくるという可能性は十分にあった。

 そうである以上、出来るだけ早くここから移動した方がいいのは確実だろう。

 アランとレオノーラの二人も、当然のようにそんな意見に異論などある訳がない。

 二人揃って四枚の翼を持つ鳥の背中に乗ると、そのままドーレストに向けて移動する。


「それにしても……今回は本当に大変だったわね」


 素早く移り変わる地上の景色を見ながら、レオノーラが小さく呟く。

 風の流れる音に紛れながらではあったが、その声はアランにも聞こえた。


「そうだな。正直なところゼオリューンにならないと駄目だったような気がする。……カロの件もあったけど」


 今回一番驚いたのは、アランとレオノーラが持つそれぞれの心核が合体してゼオリューンになったこともそうだったが、カロが実は自我を持っていた、というのも大きい。

 いや、自我を持っていたという意味では鳴き声を上げていたので、以前からそうだったと言えなくもないのだが。

 それでも、『ぴ』という、電子音に似た鳴き声しか出せないのと、きちんと知性があってアランたちに話の通じる話をするのとでは大きく違う。


「その辺は、ドーレストに戻ってから話しましょう」


 それ以上はここで言わないようにと、自分の足下……正確には乗っている鳥のモンスターの背中を見ながら、レオノーラが告げる。

 ここで話してる内容が聞こえているとは思えなかったが、モンスターというのは人間以上に鋭い五感を持っていることも多いので、取りあえずアランもその言葉に頷いておく。

 実際にゼオンのコックピットではセンサーの類が優秀なのか、かなり小さく話している声であっても、それを聞き取ることは可能だった。

 ……もっとも、ゼオンは色々な意味で規格外の存在なので、通常の心核のモンスターとは、とてもではないが比べることは出来なかったが。

 とはいえ、その一件を話さなくても、今は他に色々と話すべきことがある以上、アランもレオノーラとの話題に困ることはない。


(そう言えば、初めて会ったときはレオノーラとはかなり喧嘩越しに話したけど、いつの間にかそういうのがなくなっていたな)


 最初にレオノーラと会ったときは、それこそ絶対にこいつには負けたくないという思いがあった。

 とはいえ、負けたくないとは言ってもアランとレオノーラの間にある実力差は非常に大きく、現在もそれが縮まっている訳ではないのだが。


「どうしたの?」


 急に黙ったアランを疑問に思ったのか、レオノーラが太陽の光を反射して煌めく黄金の髪を押さえながら尋ねる。

 そんなレオノーラの姿に一瞬だけ目を奪われたアランは、何でもないと首を横に振り、視線を逸らす。

 

(黄金の薔薇とは、これからも多分一緒に行動することになるんだから、変な感情は持たない方がいいよな)


 もし雲海と黄金の薔薇が別々に行動するということになれば、ゼオリューンの一件もあってアランとしてはどうすればいいのか迷ってしまう。

 ゼオンですら完璧に使いこなしている訳ではない現状、ゼオリューンのことともなれば、色々と手が回らないのは間違いない。

 そう考えているアランの視線の先に、やがてドーレストの姿が見えてくる。

 スタンピードそのものは終わったが、それでモンスターが消えてしまう訳ではない以上、ドーレストの周囲では様々なモンスターがそれぞれまだ活動しており、中には気が早いことに冒険者や探索者といった面々がモンスターと戦っていたりもしたが……


(とにかく、何とか無事にスタンピードを終わらせることが出来た、か)


 地上の光景を見て、アランはしみじみとそう感じるのだった。

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