0368話
頭部バルカンの攻撃を、翼を使って空を飛ぶケルベロスは口から放ったファイアブレスによって、迎撃した。
これは、アランにしてみれば驚くべきことだ。
今までにも何らかのブレスを使うといったモンスターと戦ったことはある。
だが、それでもブレスの威力そのものが、今まで戦ってきたモンスターとは違っていた。
「なるほど。ゼオンに向かってくるというのは、それなりに理由があってのことだった訳か。……まぁ、いい。なら、こっちもそれなりの戦い方をするだけだ。フェルス!」
ビームライフルでは、すぐに射線軸上から回避する。
頭部バルカンではファイアブレスで迎撃される。
ビームサーベルでは、間合いが遠い。
そうなると、残っているのは遠隔操作砲台のフェルスとそして……
「ついでだ、これも食らえ!」
ゼオンの背後の空間に波紋が浮かび、そこからフェルスが出て来て一斉にケルベロスに向かったのと同時に、アランは腹部拡散ビーム砲のトリガーを引く。
ビームの威力そのものは拡散している分、ビームライフルよりは弱い。
しかし、拡散されている分だけ攻撃範囲は広い。
ビームライフルの射線軸上からは回避出来ても、拡散ビーム砲を回避するのは難しいだろうという思いからの攻撃だった。
しかし、次の瞬間アランは驚きの表情を浮かべる。
ケルベロスはゼオンが腹部を向けて狙いを定めた瞬間に翼を畳み、そのまま地上に向かって降下していったのだ。
そして放たれた拡散ビームは、ケルベロスのいた空間だけを貫き、本体には命中するような事もない。
「けどな!」
予想外の回避方法に驚いたアランだったが、すぐにフェルスを操作して降下していくケルベロスに向かって攻撃を行う。
半数のフェルスがビーム砲を放ち、もう半数は先端からビームソードを展開しながらケルベロスに向かって突っ込んでいく。
『ガアアアアアアアアア!』
ビーム砲が身体に突き刺さり、貫き、それによってケルベロスの口から悲鳴が上がる。
だが、傷みに悲鳴を上げながらも、三つの首からそれぞれファイアブレスを放ってフェルスを撃墜しようとするが……フェルスは、アランによってコントロールされている以上、それを回避するといった真似は容易に出来た。
炎から外れるようにしながら距離を取り、ビーム砲が放たれ……その隙を突くように、先端にビームソードを展開したフェルスがケルベロスの身体に向かって突っ込む。
ケルベロスは三つの頭を持っているのが非常に目立っているが、その尻尾は蛇となっており、こちらもまた独自に行動することが可能だ。
その蛇の頭部が、ケルベロスの胴体に向かってビームソードを突き立てようとするフェルスに噛みついて止める……が、次の瞬間、別のフェルスの先端に展開されたビームソードが、蛇の胴体を切断する。
『ワオオオオオオン!』
尻尾の蛇を切断された傷みか、あるいは怒りか。
ケルベロスの三つの頭が同時に鳴き声を上げ、次の瞬間にはファイアブレスが今まで以上に激しく周囲に向かって放たれる。
「ちっ、厄介な真似を!」
四方八方に向かって放たれる攻撃を、アランはフェルスに被弾させないようにしながら……それでいて、ビーム砲やビームソードを使ってケルベロスを攻撃していく。
次々に放たれるその攻撃は、時間が経つに連れてケルベロスにダメージを積み重ねていく。
本来なら、フェルスのビーム砲は相応の攻撃力を持っている。
その攻撃を何発も受けているにもかかわらず、ケルベロスはまだ戦闘意欲が旺盛なままなのだ。
この辺り、アランを……いや、ゼオンと戦うためにこの場に派遣されてきた心核使いだけはあるのだろう。
(けど、今までに何人の心核使いを倒してきた? 一体、ガリンダミア帝国にはどれだけの心核使いがいるんだ?)
心核使いというのは、本来なら非常に希少な存在だ。
だというのに、アランがガリンダミア帝国と戦うようになってから、倒した心核使いはかなりの数になる。
にもかかわらず、未だにこれだけの強さを持つ心核使いを有するガリンダミア帝国のことを思えば、実はガリンダミア帝国には無限に心核使いがいるのではないかとすら思ってしまう。
『グルルルルルゥ……』
とはいえ、空を飛ぶ巨大なケルベロスであっても、無敵ではない。
次から次に攻撃をされ続け……気が付けば、これ以上戦闘は無理なほどに大きなダメージを負っていた。
そして、戦いを終わらせるかのように放たれた一撃は、五つのフェルスが空高くから下に向かって降下していく。
数としては五つでしかないが、雨のごとく降り注いだ五つのフェルスは、ケルベロスの胴体に突き刺さり、翼を斬り裂き、三つある頭部のうち一つが砕かれる。
それは、圧倒的な耐久力を誇ったケルベロスにとっても致命的な攻撃だった。
翼を斬り裂かれたこともあり、ケルベロスは地上に向かって降下していく。
「終わりだ」
フェルスをケルベロスから離し、アランはゼオンのビームライフルで狙いを定める。
先程までは、アランがビームライフルで撃とうとするとケルベロスはすぐにそれを察して回避していた。
しかし、それはあくまでもケルベロスが万全の状態であればこそだ。
身体中を斬り裂かれ、貫かれ、撃ち抜かれ……更には空を飛ぶ上で重要な翼までをも斬り裂かれてしまった状態では、アランの攻撃を回避出来るはずもない。
それを理解しているからこそ、アランはここでビームライフルで狙っているのだ。
そして映像モニタと連動している照準がケルベロスを捉え……そして、トリガーが引かれる。
銃口が向けられた時点で、墜落中のケルベロスもまだ無事な頭を向けてアランの狙いを悟り、何とか射線軸上から回避しようとしたものの、フェルスによって身体中が傷ついており、ろくに動くといったような真似は出来ない以上、先程までのようにビームライフルの射線軸上から回避するといったような真似は出来ず……
「ガアアアアアアア!」
せめて、少しでもビームの威力を押さえようとファイアブレスを放つ。
しかし、頭部バルカンの弾丸は防ぐことが出来たものの、ビームライフルから放たれたビームに対しては特に何の意味もなく……ビームはあっさりとファイアブレスを貫き、ケルベロスに命中するのだった。
「ふぅ。こっちはこれでいいとして、向こうは……」
対ゼオン用の心核使いが変身したのだろうケルベロスを倒すと、アランはこの場で行われているもう一つの戦場……レジスタンスとガリンダミア帝国軍の方に視線を向ける。
しかし、そこではすでに戦いは終わっていた。
もちろん、それはレジスタンスの全滅……といった結末ではなく、レオノーラが変身した黄金のドラゴンによるレーザーブレスによってガリンダミア帝国軍が文字通りの意味で消滅するといった結果で。
本来なら、レオノーラも戦意を失って逃げた相手を攻撃するといった真似は好まない。
だが、それはあくまでも好まないというだけであって、必要があればやるのだ。
そして、今は少しでもガリンダミア帝国軍の数を減らす必要があり……そういう意味で、やらなければならないことだった。
ガリンダミア帝国軍を殲滅したレオノーラは、現在地上に降りて周囲の様子を見張っている。
もしかしたら、ケルベロス以外にもアランに対抗するために用意された戦力があるかもしれないと、そう思ってのことだろう。
アランとしては、余裕があるのならケルベロスとの戦いのときにレーザーブレスで援護をしてもよかったのでは? と思わないでもなかったが。
ただ、アランがケルベロスと戦っている間、かなりそちらに集中していた。
それを思えば、もし戦闘中にレーザーブレスを使われたりしようものなら、場合によってはゼオンにレーザーブレスが命中していた可能性が高い。
もしそれがなくても、フェルスがレーザーブレスに撃ち落とされた可能性は十分にあっただろう。
その辺の事情を思えば、やはりレオノーラが戦闘に介入しなかったのはアランのためを思ってのことだろう。
もちろん、アランがピンチでどうしようもなかった場合であれば、レオノーラもゼオンやフェルスに命中する危険を理解した上でレーザーブレスを放ったり、あるいは直接その身体……手足や尻尾、牙といった部位で攻撃をしたりといったようなことをしても、おかしくはなかった。
そういう意味では、ケルベロスとゼオンの戦いはある程度安心して見ていられたのだろう。
「ともあれ、この場所での戦いも一段落ついたか。……そろそろ休みたいな」
アランやレオノーラは、今日一日で結構な数の戦闘をこなしている。
その多くは苦戦するといったようなこともない戦いだったが、それでも戦闘回数を重ねれば疲れは溜まる。
特に、これは実戦……命の取り合いだ。
たとえそこまで苦戦するような相手ではなくても、戦えばそれだけ消耗していく。
体力的にも当然消耗するが、やはりそれ以上に多く消耗するのは精神的にだ。
敵は、それこそゼオンのビームライフルが命中すれば、それだけで倒せるような相手であるのは間違いない。
しかし、それでも命懸けで戦っているのは間違いのない事実なのだ。
今の状況を思えば、ここまで連続して戦いをするというのは、アランにとってはそれなりに厳しいものがある。
いくらアランが心核使いに特化した存在であっても、結局生身の人間であるのは間違いない。
そうである以上、どうしても戦いの限界というのはあるのだから。
「もう少しで夕方だし、そろそろ休んでもいいかもしれないな。……とはいえ、俺たちが休んでいる間に、レジスタンスが襲撃されるといったことになった場合、後味が悪いんだよな」
ここでレジスタンスを少しでも片付けたいと思っているのだろうガリンダミア帝国軍にしてみれば、夜襲というのは最適だろう。
夜襲を行うには、高い練度が必要となる。
レジスタンスの練度を思えば、夜襲をされた場合、それに対処出来るとは到底思えなかった。
……アランやレオノーラであれば、心核使いとしての能力で対処出来るのだが。
アランの場合はゼオンの識別システムで、そしてレオノーラの場合はドラゴンという種族的な特徴ゆえに。
そんな風に考えつつ、アランは地上に向かって降下していくのだった。




