0367話
『アラン、向こうの方でレジスタンスとガリンダミア帝国軍が戦っているわ』
「またか!?」
驚きながらも、アランはレーダーを確認する。
さすがドラゴンと言うべきか、レオノーラが変身した黄金のドラゴンは、時々ゼオンのレーダーよりも素早く、そして正確に敵の存在を感知することが出来ていた。
とはいえ、それでレーダーは全方向を確認出来るという意味で、黄金のドラゴンの察知能力とはまた別の意味で便利なのだが。
そうしてレーダーを確認すると、レノオーラが言ってきたように、レジスタンスとガリンダミア帝国軍が戦っているらしき反応を察知する。
少し前に、周辺のレジスタンスが終結していた場所が襲われていたので、それを助けたばかりにもかかわらず、またすぐにこうしてガリンダミア帝国軍に襲われているレジスタンスを見つけることが出来たのは……それだけガリンダミア帝国軍が活発に動いているということなのだろう。
(ここでレジスタンスを助けないと、最終的にこっちの戦力が減るしな。そうならないようにする為には、やっぱりここでもう一踏ん張りするしかないか)
ここで次々と被害を受けているレジスタンスをそのままにしておけば、それこそ各個撃破されてしまうのは間違いない。
そうなれば、当然だがガリンダミア帝国軍との決戦を行うときに、レジスタンス側の数がそこまで揃わないだろう。
ただでさえ、レジスタンスは周辺諸国の連合軍と比べても人数が少なく、練度でも劣っている。
そういう意味では、レジスタンスの数が少なくても、最終的にこの戦いで勝利することは可能かもしれない。
だが、もしそのようになった場合、勝利するのはいいが、そのあとでどうなるか。
それこそ、ガリンダミア帝国軍に勝利した連合軍を構成している国々が、自分たちの功績が大きいということを理由にし、その国々と隣接している場所を自国の領土としようとしてもおかしくはない。
連合軍を構成している国々にしてみれば、ガリンダミア帝国の所有する財産や技術の類は当然自分たちが所有権を主張するだろうが、領土となると話が別だ。
当然の話だが、自国の領土とするのなら飛び地にあるような場所ではなく、自国と隣接している場所の方が都合がいいだろう。
そして都合がよく、連合軍が大きな手柄を挙げ、レジスタンスは特に手柄らしい手柄を挙げていない場合、国によっては隣接するレジスタンスたちの国を自分たちの領土にしようと考えてもおかしくはない。
連合軍として共に戦った者たちであれば、それなりに友好関係にあってもおかしくはない。
しかし、連合軍とレジスタンスは完全に別の指揮系統だ。
……それでいて、国家に真の友人はいないといったような話はこの世界でも常識に近い。
だからこそ、レジスタンスもしっかりと手柄を立てて連合軍に妙な口出しをされないようにする必要がある。
アランもそれを理解していたからこそ、ここでレジスタンスの戦力を減らす訳にはいかなかった。
「取りあえず、助けに行くぞ。……けど、いつまでこんな行動をしてればいいんだろうな」
『私たちは囮でもあるんだから、目立つのは全く問題ないでしょ。こうして私たちが行動している間にも、ガリンダミア帝国軍は右往左往してるんでしょうし』
「だと、いいんだけどな」
こうしてアランとレオノーラが心核の使用を一切隠さずに行動しているのは、レオノーラが言うようにガリンダミア帝国軍に対する陽動という意味もある。
ガリンダミア帝国にしてみれば、アランは最優先で捕らえるべき相手だ。
こうしてゼオンで飛び回っていれば、それこそガリンダミア帝国軍としては放っておけない。
イルゼンたちが率いるレジスタンスの本隊ともいうべき者たちに対する目も、間違いなく向けられる頻度は少なくなる。
『……あら、アランの予想が当たったかしら? こういうのはビンゴっていうんだったかしら? それともフラグが立った?』
アランの前世の記憶を追体験しただけあって、レオノーラはこの世界で通用しない言い回しをすることがある。
とはいえ、それはアランがいるときだけなのだが。
ともあれ、レオノーラが何を言ってるのかは、アランにも理解出来た。
何故なら、レジスタンスを襲っているガリンダミア帝国軍……はともかく、その上空にはケルベロスの姿があったため。
(って、ケルベロス? 何でケルベロスに翼があるんだ?)
アランが知っているケルベロスというのは、頭部が三つある犬のモンスターだ。
それは現在ゼオンの映像モニタに表示されている姿ではあるが、そのケルベロスの両肩から翼が生えているというのは、アランにとって完全に予想外だった。
翼の生えたケルベロスなど、アランは全く知らない。
一体何がどうなってこうなったのか、疑問を抱くが……すぐに頭を横に振る。
心核使いは、使用者の本質を露わにするが、未知のモンスターが姿を現すということもある。
そもそも、アランの乗っているゼオンもまた、普通のゴーレムとは全く違う存在なのだから。
……ゼオンの場合はアランの前世が関係しているとはいえ、それでも通常のモンスターと違うのは間違いない。
「来るぞ!」
ケルベロスはゼオンと黄金のドラゴンの姿を見つけると、一気に突っ込んでくる。
ゼオンだけ、あるいは黄金のドラゴンだけならともかく、ゼオンと黄金のドラゴンが揃っているところで自分たちに向かって突っ込んでくるというのは予想外だった。
それこそ余程の馬鹿か、あるいは自分の実力に絶対的な自信があるかだろう。
(まぁ、こうして俺たちを待ち受けていて、その上で襲いかかってくるんだ。自分の実力に自信があるのは間違いないだろうな)
そんな風に思いつつ、アランはビームライフルの銃口をケルベロスに向け……すると、それを見た瞬間、ケルベロスは急に移動し、ビームライフルの射線軸上から回避する。
偶然か? と思って再び回避したケルベルに向けてビームライフルの銃口を向けるアランだったが、再びケルベロスは翼を羽ばたかせて射線軸上から回避した。
「これは、明らかにビームライフルの存在を理解しているな」
この世界には、銃という武器は存在しない。
あるいは、古代魔法文明の遺産としてならある可能性も否定出来なかったが、今まで色々な遺跡に潜ってきたアランも、銃と思しき存在は見たことがなかった。
とはいえ、今までガリンダミア帝国軍に対して何度も使っているのだから、その情報を共有されてもおかしくはない。
あるいは、クロスボウの類は存在するので、それとの共通点を見出して射線軸上から回避しているのかもしれないが。
ともあれ、これだけ遠く離れている状況で銃口の先をしっかりと把握し、それを回避するというのは、並大抵の者に出来ることではない。
それだけを見ても、ケルベロスが腕利きの心核使いであるというのは明らかだった。
『アラン、どうする? 私が相手をしようか? 地上の方も放っておく訳にはいかないだろうし』
頭の中に響くレオノーラの声に、アランは首を横に振る。
「いや、地上はレオノーラに任せる。こっちは俺が相手をしておくから、安心してくれ」
地上で戦っている……いや、ガリンダミア帝国軍を何とか防いでいるといったようなレジスタンスと、空を飛ぶケルベロス。
どちらを優先し、どちらを攻撃すればいいのかと考えたアランは即座に判断を下す。
そもそもアランの乗っているゼオンは、この世界の人間にしてみれば人型機動兵器ではなくゴーレムといった認識だ。
そんなゴーレムと黄金のドラゴン……近付いてきた時にどちらがショックを受けるかと言われれば、やはり黄金のドラゴンだろう。
ゴーレムが空を飛んでいるというのも衝撃的ではあるが、それでもモンスターの頂点に立つドラゴンには及ばない。
ましてや……
(あのケルベロス、明らかにゼオンを狙ってるしな)
こうしてレオノーラと話している今も、翼を羽ばたかせながらゼオンに向かって真っ直ぐ突っ込んでくるケルベロス。
ビームライフルの銃口を向けると即座に射線軸上から出るので、それによって多少は時間が稼げているものの、それでもレオノーラが変身した黄金のドラゴンには構わず、ゼオンに向かって進んでくる。
もしこの状況でアランがゼオンで地上に向かうといったような真似をした場合、間違いなくケルベロスもそちらにやってくるだろう。
それでもゼオンだけを狙うのなら、まだ何とかなるが……何らかの理由で地上のレジスタンスに攻撃をするといったようなことになった場合、レジスタンスに大きな被害が出るのは確実だった。
それなら、最初からアランがケルベロスを相手にし、レオノーラには地上のガリンダミア帝国軍を相手にして貰った方がいい。
最後まで説明はせず、端的に自分がケルベロスの相手をするとだけ告げたアランだったが、レオノーラにはそれで十分だった。
『じゃあ、そのケルベロスは任せるわ。地上の方は私が向かうから』
そう言い、地上に向かって降下していく黄金のドラゴン。
それを見送ったアランは、そんな黄金のドラゴンの行動を見ても一切動揺する様子もなくゼオンに向かってくるケルベロスに向けて、頭部バルカンを放つ。
ビームライフルの一撃は、銃口の向けられている射線軸上にいなければ、その攻撃を回避することは出来る。
しかし、頭部バルカンはゼオンの頭部が向いている方に向けて即座に弾丸を発射するといった武器だ。
ゼオンの持つ武器の中では一番攻撃力の低い武器ではあるが、それでもそれはあくまでもビーム系の兵器に比べればの話であって、客観的に見た場合は強力な攻撃力を持つ。
少なくてもケルベロスのような生身に命中すれば、それは致命傷になってもおかしくはない。
やった。
そう思ったアランだったが、ケルベロスは三つの口を開け……次の瞬間、その口からファイアブレスを放つ。
そのファイアブレスは、ゼオンの放った頭部バルカンの弾丸を消滅させるだけの威力を持ち……結果として、無傷で頭部バルカンの攻撃を防いだのだった。




