0358話
ゼオンがウィングバインダーを使って一気にスプリガンとの間合いを詰める。
同時に、そんなゼオンの周囲にはフェルスが漂っており、何かあったら即座に反応出来るようになっていた。
高速で間合いを詰めたゼオンが、ビームサーベルを振るおうとし……不意にその動きを止める。
同時に、気が付けば再びゼオンの映像モニタに表示されている光景が先程までと違っており……
「フェルス!」
半ば反射的に叫ぶアランの言葉に対応し、フェルスはビーム砲を発射し、あるいは先端にビームサーベルを展開してスプリガンに向かう。
スプリガンは、そんなゼオンの行動……より正確にはフェルスの動きに対応しようとするものの、そのとき、すでにゼオンは体勢を整えてスプリガンに向けていつでも攻撃出来るように準備をしていた。
もしここでスプリガンが何か妙な動きをしたら、それこそすぐにでもアランもそんなスプリガンに向けて攻撃をするつもりで。
そんなゼオンの動きに、スプリガンが一瞬迷う。
あるいは、その気配に圧倒されたと言ってもいい。
ガリンダミア帝国において大きな影響力を持つビッシュ。
そのビッシュ直属の部下として、多くの修羅場を潜り抜けてきたという自負があり、同時にその実力も間違いなく一流と呼ぶに相応しい。
そんなスプリガンに変身した男だったが、それでもアランの操縦するゼオンを前にしたときに動けなくなり……結果として、その躊躇は命取りになる。
フェルスから放たれたビーム砲は、次々とスプリガンの身体を貫いていく。
また、フェルスに先端や側面に展開されたビームサーベルは、十メートル近い大きさを持つスプリガンの身体を斬り裂いていく。
その上で、スプリガンがフェルスの攻撃を受けたと判断したアランはゼオンを突っ込ませ……
「はぁっ!」
横薙ぎに振るわれたビームサーベルは、スプリガンの首をあっさりと切断した。
ビームサーベルでの一撃だっただけに、一切の抵抗もなくスプリガンの首は切断され、空中を飛ぶ。
「そっちも! フェルス!」
フェルスを使用した瞬間から、距離をとっていたトカゲ。
そちらに向けてフェルスで攻撃する。
ビーム砲からは、次々とビームが放たれ……そしてビームサーベルを展開したフェルスがトカゲに向かう。
最初こそ素早く不規則な動きでフェルスの攻撃を回避していたトカゲだったが、それも当然長く続く訳ではない。
そしてビームライフルほどではなくても、フェルスから放たれるビームの威力はトカゲに対して大きなダメージを与えるには十分な威力を持っていた。
そんな攻撃が一発当たってしまえば、次の二発目の攻撃を回避するといったような真似は出来ない。
そして二発目が当たれば、三発目、四発目といったように次々と攻撃が命中し、ビームサーベルがその身体を貫く。
傷みに悲鳴を上げるトカゲだったが、最終的にはそのままフェルスの連続攻撃を防ぐことも出来ず、その場に倒れる。
その姿を見ていたアランだったが、アラームが鳴ったことによりウィングバインダーのスラスターを全開にして、その場から跳び退く。
すると、次の瞬間には空から降ってきた風の刃がゼオンのいた場所を斬り裂く。
「当然、空を飛ぶ敵もいるよな!」
厄介なと思いつつも、アランは素早く頭部バルカンで狙いを定めるが……今までの戦いや、すでに持っていた情報からだろう。空を飛ぶ白い羽毛を持ち、頭部が二つある鷲は即座に射線軸上から移動する。
「フェルス!」
こういうときに便利なのが腹部拡散ビーム砲なのだが、その武器はゼオンの胴体に内蔵されている以上、射角をとるのが難しい。
もちろん、ゼオンが空を飛んだり跳躍したりすれば、腹部拡散ビーム砲の射角をとることも出来るのだが、双頭の鷲はかなり高い機動力を持つ。
双頭のどちらもから、ゼオンに向かって風の刃を放つ。
風のブレスではなく、風の刃を口から放つといった不思議な攻撃。
そんな攻撃をアランは回避しつつ、叫ぶ。
「フェルス!」
アランの意思を受け、フェルスは空中にいる鷲に向かって飛んでいく。
何発ものビーム砲を放つものの、鷲は素早く動きながら攻撃を回避する。
風の刃を放つものの、その刃はビームによってあっさりと消滅してしまう。
鷲も一度風の刃が消滅し、その上でビームの威力はほとんど衰えることもないまま自分に向かって来たのを見れば、フェルスのビーム砲であってもその威力は想像出来た。
放たれる攻撃を次々と回避しつつ、鷲はどうするべきか考え……やがて、このままではどうしようもないと判断したのか、地上に向かって急降下していく。
その狙いは、当然のようにゼオン。
急降下しつつ、足から生えている鉤爪は急激に変化していく。
より鋭く、より大きく……それこそ、触れただけで人の頭は容易に斬り裂けるような、そんな鋭さに。
当然のように、アランも映像モニタで自分に近付いて来る鷲の足の爪が変化していくのは見えていたが、そんな様子を見ても特に動揺することはない。
相手は心核使い……それもただの心核使いではなく、間違いなく腕利きの心核使いだ。
であれば、この程度のことは出来ても不思議ではない。
「けど……だからって、こっちに一直線に向かってくるのは、甘く見すぎただろ!」
鷲に向かって、頭部バルカンのトリガーを引く。
だが、放たれた頭部バルカンの結果は、アランにとっても驚くべきものだった。
本来なら命中するはずの弾丸が、鷲からそれてあらぬ方向に飛んでいくのだ。
「風の結界!?」
そうとしか思えない、そんな現象。
頭部バルカンを防ぐではなく、風の結界によって受け流す。
そんな行動をしているように思え……
「けどなぁっ!」
真っ直ぐ自分に向かって急降下してくるであれば、移動すればいい。
重力と自重、翼を羽ばたかせての移動となれば、地面に命中する前に止まることは出来ないと、そう思っての行動だったが、次の瞬間映像モニタに表示された光景にはアランも驚く。
本来なら、地面に向かって追突するとばかり思っていた鷲が、どういう手段を使ったのか地面にぶつからず……それどころか、速度すらも落とすようなことがないまま、ゼオンに向かって突っ込んでくるのだ。
完全に予想外。
だが、心核使いとの戦いにおいて、予想外というのは珍しいことではない。
そもそも、相手がどのようなモンスターに変身するのかも分からないし、あるいは知っているモンスターに変身しても能力が全く予想外といったことも珍しくはないのだから。
これまでの戦いの中で、アランはそのことを知っていた。知っていたので、鷲が真っ直ぐ自分に向かってきてるのを見て驚きつつも、その手はこの場合の最適解と呼ぶべき行動をしていた。
トリガーが引かれた瞬間、ゼオンの腹部から拡散ビーム砲が射出される。
拡散ビーム砲は、その名の通り集束しておらず拡散しているだけに、ビームの威力そのものはビームライフルに比べて弱いし、射程もビームライフルに劣る。
だが、拡散しているだけに攻撃範囲は広く……そして、ビームライフルより威力は劣るのは間違いないが、それでも頭部バルカンに比べると威力は桁違いに高い。
「グオオオアアアアアア!」
頭部バルカンと同じく、風の結界で拡散ビームを受け流そうした鷲だったが、ビームはその風の結界をあっさりと貫き、鷲の頭部を破壊し、胴体にも絶望的な被害を与える。
……あるいは、頭部が一ヶ所残っただけでも、鷲にとっては幸運だったのかもしれないが。
ともあれ、正面……それもゼオンとの距離が詰まっていたこともあり、半ばゼロ距離射撃と呼ぶべき攻撃を受けた鷲は、悲鳴を上げつつも速度を落とさずに地面に落下し、地面を……そして自分の身体をも削りながら、転がっていく。
「ふぅ。後は……終わりか」
映像モニタを見た感じでは、既に動いているモンスターの姿はない。
全部で十人くらい心核使いがいたはずだったが、アランが戦っている間にレオノーラが変身した黄金のドラゴンと、そしてジャスパーの変身したリビングメイルが倒したのだろう。
ジャスパーはクラリスたちを守るようにレオノーラに言われており、積極的に自分から戦いにいくといったようなことはないはずだったが、そんな中でもジャスパーに倒された者がいたということは、その心核使いはクラリスを人質にでも取ろうとしたのだろうと、アランは判断する。
「取りあえず、念のために……」
もしかしたら、実はまだ心核使いが生き残っており、どこかに隠れてこちらの隙を窺っている可能性もある。
それを確認するためにレーダーを使って周囲の状況を確認し……そしてアランは、ようやく安堵の息を吐く。
そこには現在この周辺で生き残っているのは、自分たちだけ。
途中で消えたゴールスはもちろん、ゴールスの部下として公開試合に出た者たちの姿もここからは消えている。
アランとしては、出来れば自分と公開試合で戦った心核使いも協力して欲しいという思いもあったのだが、身の危険を感じたのかすでにゴールスの部下の心核使いの姿はどこにもない。
ともあれ、周囲に敵がいないのを確認したアランはコックピットから下りる。
そしてゼオンを心核のカロに戻していると、黄金のドラゴンがレオノーラの姿に戻っていた。
「終わったようね」
多数の心核使いを倒したにもかかわらず、レオノーラには全く疲れた様子もない。
もっとも、それを言うのならアランもまた強力な心核使いと戦ったにも限らず、全く疲れていなかったが。
とはいえ、アランの場合はあくまでも自分で身体を動かすのではなく、あくまでもコックピットで操縦をするといった戦闘方法だ。
それに対し、レオノーラの場合は自分が黄金のドラゴンに変身して直接身体を動かすといった様子だったので、アランとは違う。
「ああ。今回の件はちょっと予想外だったけど……そう言えば、結局ゴールスはどこに行ったんだ?」
「さぁ? 私にそれを聞かれても困るわよ」
そう告げるレオノーラの言葉に、それもそうかと納得するのだった。




