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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
獣人を率いる者

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353/421

0353話

 足に履いてる防具の隙間を縫うように放たれた、ジャスパーの槍の一撃。

 穂先ではなく石突きの部分を使って一撃ではあったが、シャニットはそんな一撃を受けても獰猛な気配を漂わせたまま、前に出た。

 だが……一連の動きは、ジャスパーにとって規定通りの流れでしかなく……次の瞬間、シャニットの足を強かに叩きつけた石突きの勢いを利用し、槍の穂先……正確には穂先よりも少し手前の柄の部分がシャニットの頭部を殴りつける。


「ぐっ!」


 足の一撃だけなら、シャニットも耐えることが出来ただろう。

 だが、そこに続けて頭部を殴られるといったようなことになってしまえば、それに対処は出来ない。

 あるいは、槍を持っているのがジャスパーではなく、もっと別の相手であれば、耐えることが出来たかもしれない。

 しかし、ジャスパーは腕利きの探索者が揃っている黄金の薔薇の一員だ。

 とてもではないが、普通の相手とは言えない。

 そうして振るわれた一撃によって頭部を激しく揺さぶられたシャニットは、その場で意識を失い、地面に崩れ落ちる。

 もしジャスパーの放った一撃が、頭部に直接衝撃を与えるようなものではなく、身体にダメージを与えるようなものであれば。シャニットも耐えることが出来ただろう。

 だが、頭部に直接打撃を叩き込まれて脳を揺らされるような一撃を受けてしまえば、意識が強制的に遮断されてしまう。

 こればかりは、いくら身体を鍛えようとも防ぐことは出来なかった。

 ……あるいは、そのような一撃が来ると知っていれば、対処出来た可能性もだったが。


『ダウン! ダウンだぁっ! 獣牙衆の中でも強者として名高いシャニットが、ダウン!』


 審判の声が会場に響き渡る。

 それを見ていた観客たちは、最初何が起きたのかが理解出来なかった。

 一回戦のこともあり、二回戦でも同じようにゴールス側が勝つと思っていた者が多かったのだろう。

 だが、実際に戦ってみれば勝利したのはジャスパー。

 それも見るからに戦力を出した訳ではなく、まだかなりの余力が残っている状態での勝利だ。

 これは、もしかして……と、そんな風に思う者が出て来てもおかしおくはなかった。

 兵士たちが部隊の上に上がり、気絶したシャニットを運んでいく。

 その巨体だけに、兵士たち数人がかりでもかなり大変そうではあったが、それでも何とか運び終わる。

 ジャスパーは特に疲れた様子もなく、普通に舞台から下りてきていた。


「さて、次は私の番ね」

「レオノーラ様、お気を付け下さい。向こうも相当の腕利きを揃えてきている模様です」


 レオノーラに対し、ジャスパーはそんな風に声をかける。

 心配しているのは事実だが、それと同時にレオノーラなら何があっても大丈夫だという信頼もその中にはあった。

 実際、レオノーラは黄金の薔薇の中で最強の人物だ。

 姫という身分だけで、他の者たちを率いている訳ではない。

 だからこそ、ジャスパーはそんなレオノーラを心配しつつも、強い信頼を抱いていた。


「任せておきなさい。……大丈夫、心配しなくても私が勝つわよ」


 最初の言葉はジャスパーに、そして後半の言葉はクラリスに向けてのものだ。

 まさか、ここで自分に声をかけられるとは思っていなかったのか、クラリスは驚きつつも、口を開く。


「ええ、もちろん。ここで負けたら、あとで笑ってあげます」


 それは、半ば挑発染みた言葉。

 しかし同時に、レオノーラであれば間違いなく勝利出来ると、そう信じているからこそ、出た言葉でもあった。

 レオノーラはそんなクラリスの気持ちを理解し、笑みを浮かべてから舞台に向かう。


「頑張れよ」

「任せなさい」


 その途中でアランと短く言葉を交わして。

 ……そんな二人の様子を、クラリスは面白くなさそうな様子で見る。

 クラリスにしてみれば、アランは自分が兄のように慕う相手だ。

 そんなアランとレオノーラの関係は、何となく面白くないものだった。

 そんなクラリスの視線に気が付きながらも、レオノーラは舞台に上がる。

 瞬間、観客席がざわめく。

 当然だろう。舞台に上がったのは、とてもではないが戦いに似合わないほどの美貌を持ったレオノーラなのだから。

 絶世のという言葉が相応しいその美貌の持ち主は、周囲からそのような視線を向けられるのは慣れているのだろう。

 特に気にした様子もなく、舞台の上でゴールス陣営の選手が上がってくるのを待つ。

 そんな中、ゴールスの陣営からも着ていたローブを脱いで、一人の男がその姿を露わにした。


「え?」


 露わになったその姿に、驚きの声を上げたのはクラリス。

 しかし、それは他の者たちも同様だ。

 今までの流れから考えて、姿を現すのはてっきり獣人だとばかり思っていたのだが、フードを脱いで露わになったのは、人間だったのだから。


『これは……クラリス陣営の選手にも驚いたが、ゴールス陣営の選手にも驚きだぁっ!』


 審判は当然のように試合前にどのような選手が出るのかを知っていたはずなのが、こうして驚いている姿はとてもではないが演技には見えない。

 そのような人物だからこそ、この大舞台の審判に選ばれたのかもしれないが。


「驚いたわね。ゴールスの部下は全員獣人かと思ってたのに」

「ふんっ、正直なところ俺もこんな戦いには出たくなかったよ。だが、上からの命令だからな。しょうがねえ」

「上からの命令?」


 最初はゴールスからの命令だと言ってるのかと思ったレオノーラだったが、今の話の様子から考えると、ゴールス以外の誰か別の相手から命令されたように思える。

 とはいえ、それを聞いたところで素直に答えてくれるとは思えない。


「ちっ!」


 男はレオノーラの一言で余計なことを言ったと判断したのだろう。

 舌打ちをすると、長剣を構える。

 これ以上は情報を引き出せないと判断したレオノーラもまた、話はせずに鞭を構える。

 鞭という特殊な武器を前に、男は再び不機嫌そうな表情を浮かべた。

 男にしてみれば、鞭というのは相手を痛めつけるという意味では大きな効果を発揮するものの、実戦となると、決して使い勝手のよくない武器なのだ。

 それを知っているからこそ、不満そうな様子を見せ……だが、口を開けば、また何らかの情報を漏らしてしまうかと考え、何も言わない。

 そうして武器を構えた二人を見て、ここでようやく審判が口を開く。

 レオノーラの美貌に目を奪われていたのか、それともこれから戦う二人の邪魔をしたくなかったのかは分からないが。


『ゴールス陣営から姿を現したのは、獣人ではなく人間! だが、ただの人間がゴールス陣営の選手としてこのような場所に出て来る訳がない! つまり、この男……ゴルナーゴはそれだけの実力を持っているということだ! その長剣は鋭く、獲物を逃がさない! そんなゴルナーゴに対するのは……』


 そこまで言った審判は、数秒の溜を作る。

 そうして自分の声を聞いている観客たちに向け、レオノーラを指さす。


『クラリス陣営のレオノーラ! その美貌は男どころか女の目をも奪う! だが……だが、だが、だが! レオノーラはその美貌だけが取り柄ではない! 先程の試合でその強さを見せつけたジャスパーが所属するクラン、黄金の薔薇。それを率いている人物だ!』


 おおおおおおお、と。審判の説明を聞いていた者達が驚きの声を上げる。

 こうして見ても、舞台の上に立つレオノーラの美貌は明らかだ。

 審判が言ったように、男女関係なく多くの者がその美貌に目を奪われる程に。

 しかし、そんな感嘆の視線を向けられてもレオノーラは特に気にした様子はない。

 嬉しそうに笑みを浮かべるでもなこう、煩わしいと不満に思うようなことも……そんなことはないまま、ゴルナーゴに視線を向けたままだ。

 もしゴルナーゴが試合開始前に攻撃してきても、即座に対処出来るように。


『現在のお互いの勝ち星は、一対一。つまり、この戦いの勝者が所属している陣営が、勝利に一歩進めるのは間違いのない事実だ! では……試合開始!』


 審判のその言葉と共に、ゴルナーゴは一気に前に出る。

 ジャスパーの使っている槍もそうだったが、射程の長い武器というのは間合いの内側に入られると対処が難しい。

 ジャスパーの槍はその石突きを使って相手に打撃を与えることが出来たが、鞭ではそのような真似は出来ない。

 そう判断しての行動であり、ゴルナーゴの踏み込む速度は体力的に優れている獣人と比べても、明らかに上だった。しかし……


「ぐおっ!」


 結果として、傷みに悲鳴を上げて舞台に転がったのはゴルナーゴ。

 長剣の一撃はあっさりと回避され、それどころかカウンターの一撃を食らったのだ。

 幸いにして、その一撃はそこまで強烈なものではなかったために、ゴルナーゴはすぐに起き上がることが出来た。

 しかし、起き上がったゴルナーゴは一体何が起きたのか、理解出来ない。

 こうしてゴールス陣営の代表として出場している以上、当然だがその強さには自信がある。

 だというのに、そんな自分がまかさこうもあっさりと一撃を食らうというのは、完全に予想外だったのだろう。


「鞭を使うからといって、体術が出来ない訳じゃないのよ?」


 そう言い、レオノーラは鞭を持っていない左手……ゴルナーゴを殴り飛ばしたその左手を下ろす。

 そんなレオノーラの言い分に、ゴルナーゴは歯噛みしながら起き上がり、長剣を構える。

 だが、長剣を構えつつも一気に攻めるといった真似はしない。

 レオノーラの強さは、たった今、その身に染みたのだ。

 不用意に近付いても、敵がどう行動するのかが分からない以上、慎重に行動する必要がある。

 すでにゴルナーゴの目には、侮りの色はない。

 自分が倒れるほどに強力な一撃をくらい、それによって目の前にいる人物が紛れもない強者であると、そう認識したのだろう。

 しかし、レオノーラはそんなゴルナーゴの気持ちなど関係ないと、手首の動きだけで鞭を振るう。

 鞭の先端が舞台に叩き付けられ、舞台が抉れる。

 普通の鞭では、とてもではないが出来ないだろう威力。

 だが、レオノーラはあっさりとそんな真似をし……挑発的な視線をゴルナーゴに向けるのだった。

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