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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
獣人を率いる者

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336/421

0336話

「っ!?」


 部屋の外にいたジャスパーを見て、女は即座に行動に移る。

 その行動の素早さは、獣牙衆に所属する者として考えても瞬時にという表現が相応しい程だ。

 あるいは、その行動の素早さは黒豹の獣人であるというのも、関係しているのかもしれないが。

 一目見ただけで、ジャスパーが強者だと判断したのだろう。

 ここで戦うような真似をした場合、すぐには勝てそうにもない。

 そう判断し、女は即座にジャスパーに攻撃をしかける。

 考えていることと行動が矛盾しているように思えるが、女はこのまま逃げてもジャスパーを振り切って逃げることが出来ないと、そう判断したのだ。

 そうである以上、攻撃をして相手を負傷させ、その隙を突いてここから逃げよう。

 そう判断しての行動。

 鋭い爪の一撃は、首を切断とまではいかない。それでも首筋を斬り裂くことは容易に出来る。

 実際、この部屋の前にいた二人の女の護衛の一人を、その爪であっさりと殺すことに成功したのだ。

 そうである以上、ジャスパーの首筋を斬り裂くといったような真似をすれば、殺すことは出来る。

 勿論、そんな簡単にジャスパーを殺せるとは女にも思えない。

 攻撃をして、相手に多少なりとも傷を付けることが出来ればそれでいいと、そう思っての行動。


「ほう」


 自分の首筋に向かって伸びてきた鋭い爪を一瞥し、即座に後方に下がりながら感心したような呟きを漏らす。


「くっ!」


 ジャスパーの行動にとって、女の爪は空中を斬り裂くのみに終わる。

 女の鋭い爪は、威力という点では非常に大きい。

 だが、攻撃力はあっても、結局は爪である以上は間合いが短い。

 そうである以上、それこそ半歩……それよりも短い距離を下がっただけで、爪の一撃は意味をもたない。

 ジャスパーも一瞬でそれを見切ったので、このような行動が出来たのだろう。


「ちぃっ!」


 だが、女はそんなジャスパーの行動を見て、さらに一歩踏み込む。

 相手が半歩ほど後方に下がったのなら、こちらもまた一歩距離を詰めればいいだけだ。

 そう判断しての行動だったのだろう。

 女のその行動は、ジャスパーを驚かせるにも十分だったらしい。

 このままでは攻撃を受ける。

 そう判断したジャスパーは、長剣を振るって女の爪を迎撃する。

 普段は槍を使っているジャスパーだったが、ここは屋敷の中だ。

 槍のような長物は使いにくい以上、長剣を武器にするのは当然だった。

 ……普通であれば、長剣であっても使いにくいのだが、ジャスパーの技量があれば、その程度のことはどうとでもなるのだろう。

 そう判断しての、武器の選択だった。

 キィンッ、、という甲高い金属音が周囲に響く。

 普通に考えれば、長剣と爪がぶつかって周囲に響く音としては、とてもではないが考えられないような、そんな音だ。

 しかし、ジャスパーはそんな音を聞いても特に驚いた様子はない。

 それどころか、感心した様子すら一瞬見せ……だが、それで身体の動きが鈍るようなことはなく、鋭い長剣の一撃を相手に叩き込もうとする。

 相手が女……それも美女と呼ぶに相応しい女であっても、その命を奪うのに躊躇はしない。

 ジャスパーの振るった長剣の刃は、女の身体を斬り裂くには十分な威力をもっており……


「くっ!」


 だが、女は黒豹の俊敏性を活かし、その一撃をかろうじて回避し……


「なっ!?」


 次の瞬間、踏んだ感触が床ではなく柔らかな何かだったことに驚き、一瞬だけ集中を切らす。

 今の自分が踏んだのは、床に倒れていた護衛の女の死体であると、そう気が付いたときには遅い。

 相手がジャスパーではなく……それこそアランであれば、一瞬注意を逸らすくらいのことをしても問題はなかっただろう。

 だが、女の相手をしているのは、アランではなく生身での戦いでも一流と呼ぶに相応しい技術を持った、ジャスパーだ。

 そんなジャスパーから一瞬でも視線を逸らすというのは、女にとって致命的だった。

 当然ながら、ジャスパーもまたそんな女の様子を見逃すなどといったような真似はしない。

 バランスを崩し、一瞬注意を逸らした女に向かって振るわれる長剣。

 その一撃回避することは、女にとって不可能だった。


「っ!?」


 それでも痛みに声を発さない辺り、流石と言ってもいいのだろう。

 そんな一撃によって、大きな傷を負った女はそれでも獣人……いや、獣の生命力で生きることを諦めず、この場を何とか脱出する方法を考える。

 自分がこのような場所で死ぬとは、決して許容出来なかった。

 だからこそ、今は何としてでもこの場から逃げ出そうとするが……相手がジャスパーであるというのは、女にとって最悪の出来事だ。

 現在ギジュの屋敷にいる者の中で、三本の指に入るだけの実力を持っている者なのだから。


「貴方がどこの誰かは分かりません。ですが、このまま逃がすといったようなことは出来ません。……死んで貰います」


 そう言い、護衛対象のクラリスに対する刺客を斬り捨てようとした瞬間……


「っ!?」


 不意に殺気を感じ、ジャスパーはその場から離れる。

 次の瞬間、ジャスパーの立っていた床が滑らかに斬り裂かれた。


「これは!?」


 何らかの斬り傷……と傷跡を見て思うものの、長剣のような武器を使っての一撃でないことは、一目見れば明らかだった。

 何しろ、この場にはジャスパーと黒豹の獣人の女、それと死体となった護衛の二人の姿しかないのだから。

 そして今までジャスパーと戦っていた獣人の女は、半ば戦闘不能に近い状態になっていた。

 そのような状況である以上、このような攻撃を出来る訳がない。

 そもそも、武器すら生み出さずにこれだけの切断力のある攻撃を放つことができるのなら、ここまでピンチになるよりも前に、その攻撃を放てばいい。

 だとすれば……


「誰かいるな?」


 鋭く周囲の見回して呟くジャスパーだったが、そんなジャスパーの言葉に応じるような者はいない。

 気配を探ってみても、当然のように周囲に他の者の気配はなかった。

 もちろん、ジャスパーも偵察の類を本職にしている者ほどに、気配の察知が得意な訳ではない。

 しかし、それはあくまでも本職の者と比べての話であって、その辺の者達を相手にして気配を感じられないということはないはずだった。

 それはつまり、この近くにはいない場所から今のような攻撃をされた……ということを意味している。

 普通に考えれば有り得ないことではあるのだが、この世界には魔法がある。

 また、それ以外にも魔法には分類出来ないようなスキルの類もあるし、マジックアイテムもあり……さらには、心核がある。

 特に心核は、その者の根源とも呼ぶべき存在を身に纏うという能力を持つ。

 その者の根源によっては、それこそ離れた場所に斬撃を放つといったような真似が出来ても、おかしくはない。


(心核か)


 ジャスパーは周囲の状況を確認しつつ、自分の心核を手に取る。

 心核ということであれば、ジャスパーもまた心核使いだ。

 それもただ心核が使えるというだけではなく、一流の使い手と呼ぶに相応しい実力を持つ心核使い。

 アランのように全高十八メートルといったような馬鹿げた人型機動兵器を召喚するといったような真似は出来ないが、技量という点では非常に高い。

 そうである以上、ここで心核を使えば対処出来る……というのは予想出来ていたものの、それを今使うべきかどうかは迷う。

 先程の攻撃が続けて行われれば、ジャスパーも迷わず心核を使ったのは間違いない。

 だが、先程の一撃を放たれたあと、続けて攻撃が行われるといったことはなかった。


(何故だ?)


 斬撃を飛ばす……それも、廊下や窓、天井といった場所を破壊せず、正確にジャスパーのいる場所に向かって斬撃を飛ばすのだ。

 その一撃は、斬撃を飛ばすのではなく、残敵を転移させているといった表現でも決して間違ってはいないだろう。

 そのような攻撃方法がある以上、連続して放てばジャスパーであっても対処するのは難しいはずだった。

 だというのに、先程の一撃を放っただけで全く追撃を放ってくる様子はない。

 そうして考えていると、やがて多数足音が聞こえてくる。

 足音を聞き、ジャスパーの眉が微かに顰められる。

 この戦いの騒動を聞いて、ギジュに雇われている者たちがやって来るのは、分からないではない。

 分からないではないが、今この状況でやって来る味方というのは、決して好ましいものではなかった。

 こうして足音が周囲に響くだけで、ジャスパーの集中力は削がれていく。

 敵の場所を見つけようにも、この足音や気配が邪魔をするのだから当然だろう。

 そして……やがてジャスパーは、廊下を走っている者たちの姿を確認し、渋々といった様子で構えを解く。

 今のままでは、敵を見つけることは出来ない。

 そう判断してのことだった。

 やって来た者たちは、周囲に漂う鉄錆臭で何が起きたのか理解していたのだろう。

 鋭く周囲を見回し……立っているジャスパーを見て、一瞬視線を鋭くする。

 しかし、その人物がジャスパーであると理解すると、安堵した様子を見せ……そして、床に倒れている二人の女の死体と、怪我で身動きが出来なくなっている黒豹の獣人の女を発見した。

 この状況を見れば、一体何がどうなってこのようなことになったのかは、考えるまでもなく明らかだ。

 だからこそ、やって来た者たちはそれを起こした相手を殺そうと武器を構える。

 本来の実力であれば、やって来た者たちに勝ち目はない。

 だが、女は怪我をしており、ろくに身動きが出来る様子ではない。

 であれば、この状況でこの女を殺せば自分の手柄になる。

 そう考えた者がいるのは、当然の話だった。


「止めなさい」


 武器を構え、動けない女との距離を詰めようとした男は、その一言で動きを止める。

 決して大きな声ではない。

 だが、それでもその言葉に従わなければならないと、そう判断してしまったのだ。

 それは、自分よりも圧倒的に上の実力を持つ人物と、その一言だけで理解した……いや、理解させられてしまったがゆえの行動。

 動きを止めた男を一瞥し、ジャスパーは改めて口を開く。


「では、この者は捕らえて情報を引き出すように」


 その言葉に、やって来た者たちは素直に頷くのだった。

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