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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
獣人を率いる者

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333/421

0333話

 夜……ギジュの屋敷では、臨時に雇われた兵士たちが見回りを行っていた。

 臨時ということで、雇われた兵士の中には傭兵もいれば、冒険者、探索者といった者たちが混在している。

 それどころか、中には単純に喧嘩自慢の者もいたりするのだが……それでもギジュが雇った人物たちということもあり、腕は相応の者が多い。

 ただし、腕を最優先にして集めた以上、当然だが人格的に問題のある者も多い。


「へへっ、この絵はいいな。売ったらしばらくは遊んで暮らせるだろ」


 そう言いながら、馬の獣人の男は部屋の中にあった絵……壁に飾られていた、草原に沈む夕陽を描いた絵を外し、全く躊躇することなく、袋の中に入れる。

 絵画というのは芸術作品であり、保存や運搬にも相応に気を遣う必要があるのだが……この馬の獣人は、そんなのは知らないと言いたげに、袋の中に入れた。

 そのような状況で運んだりした場合、間違いなく絵に傷が付いて価値が下がる。

 だが、盗もうとしている馬の獣人にしてみれば、取りあえず売れればそれでいいという考えなのだろう。

 他にも部屋の中から金になりそうな物を見つけては、袋の中に入れていき、そして部屋から出る。


「何をしている?」

「っ!?」


 不意に聞こえてきた言葉に、馬の獣人は思わずといった様子で動きを止める。


(誰だ!?)


 ギジュに雇われているだけあって、馬の獣人も気配を感じたりといったような真似は出来る。

 もちろん、全ての気配を完全に感じるといったような真似が出来る訳ではないが、それでも自分のいた部屋の外に誰かがいるかどうかというくらいの気配を察知するのは難しい話ではない。

 そして部屋の中で金目の物を物色していた以上、当然の話だが誰かが近くにいないかどうかということは、警戒していた。

 そして部屋の外には誰もいないと判断したからこそ、こうして素早く脱出したつもりだったのだが……それだけに、部屋の外に出た瞬間に声をかけられるとは、思ってもいなかったのだろう。

 その男が誰なのかは、馬の獣人も知っていた。

 現在この屋敷の客人となっている狐の獣人の少女を護衛している者の一人で、名前はジャスパー。


「い、いや。俺はちょっと気になるところがあって……」


 慌てて誤魔化すように言い繕おうとする馬の獣人だったが、部屋から出て来たその手に袋を……それも、明らかに何かが中に入っているだろう袋を持っているとなれば、それで誤魔化せるはずもない。

 そして事実、声をかけてきたジャスパーを誤魔化すといった真似も出来なかった。


「なら、その袋の中身を見せて貰おうか。ここ数日、屋敷の中でいくつかなくなっている物があると報告を受けていてな」

「そ、それがどうしたんだ? もしかして、俺が盗んだって言いたいのか!? 言っておくが、そんな風に疑って、もし違いましたなんてことになったら、お前の責任は重いぞ! 分かってるだろうな!」


 そう叫ぶ馬の獣人だったが、焦って叫ぶというのは、この場合は悪手でしかない。

 周囲に叫ぶ声が響き、屋敷の中を見回っていた兵士たちが集まってきたのだ。

 何か異常があった場合、対処する為にこうして雇われ、屋敷の中や外を見回っているのだから、馬の獣人が叫んだ声を聞けば何かあったと判断して集まってくるのは当然のことだろう。


「くっ!」


 集まってくる者たちを見て、馬の獣人も自分の失策に気が付いたのだろう。周囲を見回し、廊下を通って逃げるのは不可能だと判断すると、部屋の中に戻る。

 部屋には窓があり、そこを破って脱出すればこの場を切り抜けられるだろう。

 そう判断しての行動だったが……


「させると思うか?」

「うおっ!」


 馬の獣人が部屋の中に入ったと思った瞬間、最初に声をかけてきたジャスパーもまた部屋の中に入ってきたのだ。

 そして肩を掴まれたのかと思うと、その場から一歩も動けなくなる。

 馬の獣人だけあって、速度には自信があった。

 だというのに、肩を掴まれただけでその場から一歩も動くことが出来なくなってしまったのだ。


「は……離せ!」


 掴まれていない方の肩の手……袋を持っていない方の手で、裏拳気味の一撃を放つ馬の獣人。

 だが、その一撃を放った瞬間、何がどうやってそのようなことになったのかは分かたなかったが、馬の獣人は床に叩き付けられていた。

 それもご丁寧なことに、持っていた袋は奪われた上で。


「ぐ……がは……」


 背中を思い切り叩き付けたので、息が出来なくなる。

 そうしている間に、ジャスパーはどこから取り出したのか紐で馬の獣人の手足を縛り上げていく。

 人間以上の力を持つ獣人であっても、強引に紐を切れないように関節の部分を縛り上げていくその様子は、ジャスパーがこのような作業に慣れているということを示していた。

 そうして縛り上げられ、馬の獣人が身動き出来なくなったところで、ジャスパーは床に落ちた袋の中身を確認する。


「絵に……それ以外もいくつか。このような物を、一体何故お前が持っている?」

「し……知らねえ! その袋は、この部屋にあったのを拾っただけだ! だからそれを不思議に思って、報告しようとしたところで、お前が邪魔をしてきたんだろ!」


 そう叫ぶ馬の獣人は必死だった。

 当然だろう。この件が公になれば、絶対に不味いことになるのだから。

 ……それが分かっていて、何故このようなことをしたのかと、そうジャスパーは思うが。

 最初は魔が差して恐る恐るやっていたのだが、不幸なことにそれが成功してしまった。

 ギジュの屋敷は非常に立派で、当然ながらその屋敷にある物はどれも一流の品と呼ぶのが相応しい。

 それだけに高値で売れて、それに味を占めた男は同じことを繰り返していた訳だ。

 しかし、そのような真似をして当然屋敷の者に気が付かれないはずがない。

 それで相談された結果、ジャスパーが決定的な場面を掴んだ訳だ。


「すまないな、ジャスパーさん。手間をかけた」


 警備として雇われた者たちに犯人が連れていかれるのを見送ったジャスパーに、そう声がかけられる。

 声をかけてきたのは、臨時で雇われた兵士たちの纏め役的な立場の男だ。

 そんな相手に、ジャスパーは首を横に振る。


「構いませんよ。あのような者がいれば、最悪こちらの警備状況について情報を売るといったような真似をしかねませんし」


 簡単に金が手に入ると知れば、次からはそちらに容易く流れていってしまう。

 そして、ギジュの屋敷の情報を高値で欲しているのは、ゴールスも同じだ。

 獣人の全てとはいかないが、かなり大きな一族を率いていく立場というのは、相手を殺してでも奪い取るのに十分な代物なのだから。

 それを防ぐという意味では、今回の一件は決して無意味という訳ではない。


「そうか。そう言ってくれると、こっちも助かる。もうこういうことは二度と起きないようにしたいと、そう思いたいところだが……臨時で、それも腕を最優先して雇ったとなるとな」


 ギジュにしてみれば、クラリスと友好的な関係を築いてはいるが、それでもクラリスを完全に認めた訳ではない。

 それでもゴールスよりはクラリスの方が頼りになるとは思っているし、何より自分が客人として迎えているクラリスを屋敷の中で殺されてしまうといったようなことになれば、ギジュの面子はこれ以上ないほどに潰されてしまう。

 そういう意味では、ギジュが臨時に兵士を雇うのは当然のことだった。

 そのような理由で兵士を雇うのだから、その兵士は腕の立つ者でなければならず、素行の悪さの類は半ば無視して選ばれたのだが、そういう意味ではギジュにとっても多少の失敗ではあったのだろう。


(とはいえ……言ってはなんですが、腕が立つとはいえ、この程度では獣牙衆が来たときに対処出来るかどうかは、微妙でしょうね)


 腕が立つとはいえ、ジャスパーのように獣牙衆と渡り合えるほどの強さではない。

 そのような者たちである以上、獣牙衆が襲撃してきたときに正面から戦っても、ほとんど役に立たないのは間違いない。

 そういう意味では、本当に役立つかと言われれば……それこそ、獣牙衆と遭遇して騒動を起こし、それによって襲撃が行われたということを知らせるような役割しか期待出来ないというのが、正直なところだ。

 とはいえ、ジャスパーは探索者となる前は貴族だったのだ。

 本心を表に出さないといったことは、決して苦手ではない。

 そうして兵士たちと別れたジャスパーは、自分の部屋に向かう……途中で、レオノーラと遭遇する。

 いや、正確には自分の部屋の近くにレオノーラがいたのだ。

 一瞬自分を待っていたのか? と思わないでもなかったが、レオノーラの視線はジャスパーの部屋ではなく、隣の部屋の扉に向けられている。

 そこが誰の部屋なのかは、ジャスパーも当然のように知っていた。

 何故なら、そこは今回の一件ではジャスパーの相棒とも呼ぶべき人物……アランの部屋なのだから。


(なるほど)


 レオノーラが何をしているのかは、その様子を見ればすぐに理解出来た。

 アランの部屋に行きたいと思ってはいるのだが、夜に男の部屋に行くのは……といったようなことで迷っているのだろう。

 どうするべきか少し迷ったジャスパーだったが、そんなジャスパーが行動に出るよりも前に、レオノーラがジャスパーの存在に気が付いてしまう。


「あら、ジャスパー。どうしたの?」

「どうしたのと言われても、私の部屋はそこなので、部屋に戻ってきたところですが……レオノーラ様こそ、どうしたんですか? アランに用があるのなら、ノックをしてみては?」


 最初は惚けようかとも思ったのだが、レオノーラの様子を見る限り、自分が背を押してやらなければ、アランの部屋には行かないだろうと判断してそう告げる。


「え!?」


 レオノーラとしては、まさかジャスパーにそのようなことを言われるとは思っていなかったのか、驚きの視線を向ける。

 だが、ジャスパーはそんなレオノーラから視線を逸らさず……二人は見つめ合うことになり……やがて、そっと視線を逸らしたのはレオノーラだった。

 ここで誤魔化そうとしても、無理だ。

 そう判断したレオノーラは、大きく深呼吸をし……そして、アラン部屋の扉をノックするのだった。

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