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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
メルリアナへ

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0303話

「へぇ。ロッコーモとある程度互角に戦えた訳ね。私が予想していたよりも、獣牙衆は強いのかしら」


 ロッコーモが熊の獣人の男に勝ったという報告を聞き、レオノーラがそう呟く。

 レオノーラにしてみれば、獣牙衆という部隊がどのくらい強いのかは具体的に分からなかった。

 だからこそ、ロッコーモに負けたとはいえ、ある程度互角に戦うことが出来たというのは、驚きだったのだろう。


「どうだろな。互角に戦えたとはいえ、戦いのそのものは圧倒的にロッコーモさんが有利だったんだろ?」


 報告によると、倒された獣人の男はロッコーモの攻撃をかなり受けたが、ロッコーモが受けた攻撃は数発といったところ。

 無傷という訳ではないが、重傷といった訳でもない。

 その辺りを客観的に見れば、やはりロッコーモが圧倒的に勝ったと、そのような感想を抱くのは当然だろう。


「そうかもしれないわね。それでも私が予想していたより獣牙衆が強かったというのは、はっきりしたわ。それに、ロッコーモが戦っている間に他の獣牙衆が襲ってくるのかと思ってたけど、そういうこともなかったみたいだしね」

「そうなんだよな。これは完全に予想外だった。いい意味でか、悪い意味でかは微妙なところだが」


 あそこまで堂々と自分の姿を見せて、自分が勝ったらクラリスを奪っていこうとした相手だ。

 普通に考えれば、それは囮だと判断してもおかしくはないだろう。

 実際、アランもまたそのように思っていたのだから。

 自分に注意を惹き、その隙を突いてクラリスを殺すなり奪うなりするといったような。


「もしかして、こうやって守りを固めたから、獣牙衆が攻撃出来なかったとか?」

「そうなると、ロッコーモと戦った獣人は完全に捨て駒にされた形ね」

「かもな。けど、報告を聞く限りだと、自分から進んで捨て駒になったって感じじゃないか? 戦いを楽しむために」


 アランの言葉に、レオノーラもそうかもしれないわねと頷く。


「何にせよ、今回の件で獣牙衆が本当に動いていることは明確になったわ。そうなると、これからの対処も色々と変わってくるわね」


 捕虜となった相手――連れ歩くのは大変なので、捕らえた場所にそのまま残してきたが――から、獣牙衆が動いているというのは聞いていた。

 クラリスの言霊を使っての情報収集だっただけに、その情報が嘘だとはレオノーラも思っていない。

 しかし、それでもその獣人が知っている情報しか話せない以上、何らかの間違った情報を理解している……といった可能性も否定は出来なかった。

 そういう意味では、しっかりと獣牙衆が敵に回ったということを確認出来たのは大きい。


「それで、あの熊の獣人はどうするんだ? 以前の夜襲のときの獣人たちのように、その辺に置いていくなんて真似は出来ないぞ」


 あのときの獣人は、強さそのものは大したことはなかった。

 それこそ、見張りをしていた探索者たちが、重傷を負うようなことはなく全員倒せる程度のものだったのだから。

 そのような獣人たちに比べると、熊の獣人は曲がりなりにもロッコーモとある程度戦うことが出来るだけの実力を持っていた。

 そんな相手を、夜襲をしてきた獣人たちと一緒にするといった真似はアランには出来ない。


「捕虜にするか、それとも……」


 その言葉の先は、アランが何を言わなくても理解出来た。

 つまり、殺した方がいいと。

 実際、雲海や黄金の薔薇の中でも純粋な戦闘力という点では上位に位置するロッコーモとそれなりに戦えたというのは、無視出来ない。

 このまま見すごした結果、あとで重要な戦いのときにあの熊の獣人が出て来て、それによってアランたちに大きな被害を与えるといったことになれば、目も当てられない。

 であれば、捕虜にするか殺した方がいいのは間違いない。

 とはいえ、アランとしては出来れば殺すのではなく捕虜にしたかった。

 捕虜にした場合、それこそあれだけの巨体であることを考えると、食料の消費は間違いなく激しいし、それ以外にも相応に腕の立つ者を見張りとする必要もある。

 それでも効率だけを考えて相手を殺すといった真似は、アランはしたくない。

 だからこそ、レオノーラが少し考えてから、捕虜にするといったときは安堵する。

 表情に出さないようにはしているが、何だかんだかとアランと付き合いの深い――長いではない――レオノーラは、アランがどんなことを考えているのかを理解していた。


「捕虜にした方が、色々と情報を貰えるでしょう? ……もっとも、あの性格だと重要な情報を持ってるかどうかは分からないけど」


 熊の獣人の性格から、レオノーラはそう簡単に情報を渡したりはしないと、そう判断したのだろう。

 アランにしてみれば、負けたのだから積極的に情報を話すのではないかと思ったのだが、レオノーラはそんなアランの考えとは違ったらしい。


「もし情報を話さないようなら、クラリスに頼むしかないわね。……アランが頼めば、意外とあっさりと引き受けてくれるかもしれないけど」

「どうだろうな。俺が頼んだからって、そう簡単に引き受けたりはしないと思うけど。……それでも、必要なら頼んでみるよ」


 そんなアランの言葉に、レオノーラは頷く。


(レオノーラとクラリスは相性が悪いしな。ときどき親しそうに話しているのを見たこともあるから、本格的に嫌いあっているって訳でもないんだろうけど)


 アランにとって、レオノーラとクラリスの関係は不思議なものだ。

 そんな風に思っていると、やがてロッコーモが獣人の男を引き連れてレオノーラの前までやってくる。


(もう目を覚ましたのか。……この辺も獣人らしいタフさってところなんだろうな。まぁ、クラリスが近くにいても、ロッコーモさんとレオノーラがいる状況で無茶は出来ないと思うけど)


 アランは熊の獣人の男を、改めて見る。

 厳つい顔の熊の耳が生えている姿は、いっそユーモラスと言ってもいい。

 だが、実際にはある程度はロッコーモと互角に戦えるだけの実力を持っているのだ。

 それを思えば、外見で油断するというのは馬鹿のすることだ。

 何しろ相手は獣牙衆。

 獣人の中でも少数精鋭の部隊の者なのだから。


(特殊部隊ってイメージとは全然違ったけどな)


 アランの中にあった特殊部隊のイメージは、少なくても正々堂々と正面から戦いを挑むといったようなものではない。

 それこそ野営をしているときに音もなく侵入し、誰にも気づかれることなくクラリスを奪っていくといったような真似をする者たちだ。


「おう、邪魔するぜ。……へぇ、ロッコーモ以外にもこんな強そうな奴がいるのか」


 獣人の男は、レオノーラを見て感心したように呟く。

 正々堂々と戦いを挑んで来たのを見れば分かるように、獣人の男にとっては強者との出会いは嬉しいのだろう。


「そっちは……何でこんな場所にいるんだ?」


 そのような性格だからこそ、生身での戦闘では明らかに弱いと分かるアランに対しては、不思議そうに尋ねる。

 強者が揃っているこの中で、アランの生身での強さは下から数えた方が早い。

 心核を使えば話は別なのだが、獣人の男にそこまで考えろという方が無理だろう。


「何でって言われてもな。俺も雲海の一員だからだけど?」


 普段は目上の者に対しては丁寧な言葉遣いをするアランだったが、目の前にいるのは敵……それもアランにとっては妹のような存在のクラリスに危害を加えようとした相手だ。

 それだけに、アランにしてみれば丁寧な言葉遣いをする必要もない相手だという認識だった。

 獣人の男も元々礼儀や言葉遣いといったものに対して、特に興味がなかったのだろう。

 アランの言葉遣いを前にしても、特に気にした様子もなく会話を続ける。


「お前が? いやまぁ、別に全員が強いって訳じゃないんだろうから、おかしな話じゃないんだろうが……」


 そう言いつつも、あまり納得していない様子を見せる。

 獣人の男にしてみれば、ロッコーモのように自分に勝った相手がいる集団なのだから、それこそ強い相手ばかりだと、そう認識していたのだ。


「アランと話す前に、こちらから色々と聞きたいのだけど、いいかしら?」

「おう、いいぜ。あんたはかなりの強さを持ってるからな」


 その言葉に、アランは自分が質問をしなくてよかったと、しみじみ思う。

 今の話から考えると、恐らくこの獣人の男はアランが何かを聞いても、それに対して素直に答えるといったような真似はしなかったと、そう理解出来たからだ。

 この獣人の男の判断基準は、やはり強さなのだろう。


(そう考えると、もしかしたらゼオンを見せたら態度が変わるのか?)


 そう思わないでもなかったが、何となくこの獣人の男はアランがゼオンを召喚してそれを見せても、それはあくまでも心核の力で、アラン本人の力ではないと、そう言いそうに思えた。

 心核は当然アランの力なのだが、獣人だけに……あるいはこの獣人の男の個人的な嗜好からか、そのように判断するのだろう。


「まず最初に聞きたいのは、クラリスを狙って動いている獣牙衆は何人?」

「さぁ? 俺はあくまでも命令されたように動いただけだし。他にも命令されてる奴がいるかもしれないが、俺は知らない」


 レオノーラの言葉に、あっさりとそのような言葉が返される。


「なるほど。知らない情報は相手に教えようがないものね。……そういう風に命令を受けているのは、貴方だけ? それとも他の獣牙衆も同じ感じ?」

「大体同じ感じだな。ただ、たまに何人か集団で動くようなこともある。俺たちの強さを思えば、そういうことは滅多にないけどな」


 それは、また……

 アランは声に出さなかったが、しみじみとそんな風に思う。

 今の説明を聞く限りでは、獣牙衆という名前こそあれど、基本的には個々で動く者たちなのだと、そう理解したためだ。


(獣人でも、その特性とか能力の違いとかあるだろうし、性格も色々と違う。そう思えば、ある意味で個人で動くというのは正しいのかもしれないな)


 また、個人で動くとなると、獣牙衆を一人や二人倒したところで、他の獣牙衆には意味がない。

 本当に面倒なことになったと、しみじみと思うのだった。

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