0029話
ストックが思ったよりも出来たので、今の話が一段落するまで、毎日更新を続けます。
「ちょっ、おい! 一体何がどうなってやがる!」
ドーレストの城壁の上で必死になって弓を構えて矢を射っていた冒険者の一人が、目にした光景に思わずといった様子で叫ぶ。
だが、周囲にいる騎士や兵士、探索者、冒険者……それ以外にもドーレストの防衛に参加していた者たちは、誰もがそれに答える術を持たない。
何が起きたのかは、分かっている。
だが、どのようにしてそのような光景になったのかというのは、誰もが全く理解出来なかったのだ。
銃などという武器を見たことも聞いたこともないのだから、それも当然かもしれないが。
ともあれ、分かったのはドーレストを攻めているモンスターの大きな群れの後方で、突然爆発が起きたということだろう。
その正確な仕組みは分からなくても、突然姿を現した巨大なゴーレムと思しき存在と、ゴーレムの一撃のあとに次々とレーザーブレスをモンスターの群れに対して放っている黄金のドラゴンが味方だというのは、明らかだった。
……実際には攻撃を始める前にアランが自分たちは味方であるとゼオンの外部スピーカーで言っていたのだが、その直後に行われた攻撃により、完全にその言葉を忘れた形となってしまったのだろう。
だが、唖然としていたのは、ほんの数秒。
当然だろう。こうして城壁を守っている者たちが唖然としていても、スタンピードをしているモンスターたちは、その動きを止めるということはない。
唖然としていれば、その分だけモンスターの攻撃は激しくなっていくのだから。
すぐに反撃を開始する冒険者たちだが、その顔に浮かんでいるのは、戸惑い交じりであっても希望の色だ。
当然だろう。こうしている今も、空を飛ぶゼオンは次々とモンスターの群れの後方に対してビームライフルを放ち、黄金のドラゴンもレーザーブレスを放っているのだから。
レーザーブレスの方はそこまで威力が強くはないが、それでも連射されることにより、モンスターに大きな被害を与えている。
ゼオンにいたっては、ビームライフル以外にもその背後の空間に波紋とも呼ぶべきものが浮かび、三角錐のフェルスが三十基呼び出され、それがビームを放ちながら、あるいはビームの刃を纏いながらモンスターの群れに対する強烈な一撃を与え、楔と化す。
しかもそのフェルスは、一基だけではない。
三十ものフェルスが、それこそ先端からビームを放っては数匹のモンスターを貫き、もしくはフェルス全体を覆うようにして展開されているビームの刃にて当たるを幸いと斬り裂き、あるいはビームを発射する場所にビームソードを展開して何匹ものモンスターを貫く。
フェルスという死を導く者からは、どのようなモンスターであっても……それこそ、ゴブリンのような低ランクモンスターから、オーガのような高ランクモンスターであっても逃げることは出来ない。
いや、高ランクモンスターであれば、フェルスの攻撃を多少は耐えることが出来る。
だが、フェルスの攻撃は一度行われればそれで終わりという訳ではなく、一撃で倒せなかった場合は次々に連続した攻撃を放つのだ。
それこそ、多少タフなだけのモンスターでは、どうしようもない。
また、ゼオンはフェルスを操りながらも、ビームライフルやビームサーベル、頭部バルカンといった攻撃や、周囲に味方が誰もいないということで、腹部の拡散ビーム砲の使用も躊躇わない。
文字通りの意味で蹂躙と呼ぶに相応しい光景が、そこでは繰り広げられていた。
「なぁ、俺……もしかして、自分に都合のいい夢でも見てるんだと思うか?」
城壁の上から必死に矢を射っていた男が、呟く。
その男の隣で魔法を使って火の矢を何本も纏めて放っていた魔法使いの女は、次に狙うべき相手を探しながら口を開く。
「安心しなさい。これは夢でも妄想でもなく現実よ。……けど、一体どこのクランかしら。あんなとんでもない心核使いなら、噂くらいは聞いてもいいと思うんだけど」
「刃の頂は?」
それは、ドーレストを拠点に活動しているクランの中でも、少数精鋭として名高いクランだ。
少数にもかかわらず、何人か心核使いを有しているというのだから、もしかして……と、そう思ってもおかしくはない。
だが、魔法使いの女はその言葉に対して即座に首を横に振る。
「違うわ。あれだけとんでもない存在を使う心核使いがいるのなら、それこそ今頃はもっと有名になっていてもおかしくないわ」
「ちょうど最近新しく心核を入手したばかり……とか?」
「それならそれで、ドーレストの中からあのゴーレムとドラゴンは現れるでしょ。それよりほら、せっかく強力な援軍が来たんだから、今はとにかく敵の数を減らすわよ」
そう言い、新たな……そして明らかに規格外と呼ぶべき心核使いの方に注意を向けながらも、魔法使いの女はモンスターに次々と魔法を放つのだった。
「っと、これでモンスターの数も大分減ってきたな。これ以上はこの武器を使わない方がいいか」
腹部拡散ビーム砲によって、かなりの数のモンスターを纏めて消滅させたあと、アランはゼオンのコックピットの中で呟く。
これ以上腹部拡散ビーム砲を使わない方がいいと判断したのは、この武器で倒されたモンスターは文字通りの意味で消滅してしまうからだ。
モンスターというのは非常に厄介な存在であると同時に、魔石や素材、食料としての一面もある。
だが、ゼオンの腹部から放たれるビーム砲は、その威力が強すぎて多くのモンスターを文字通りの意味で消滅させてしまうのだ。
一定以上の強さがあるモンスターなら、多少は肉片が残ることもあるがそれはあくまでも多少でしかない。
それこそ、資源としては使えず……何とか食料として使えるかどうか、といった感じになってしまう。
もちろん、ドーレストが滅亡するかどうかといったときであれば、そのようなことは気にしている暇はないのだろう。
だが、生憎と今の状況を考えるとその辺の問題はゼオンと黄金のドラゴンで全くなくなってしまっていた。
……もっとも、そうなると腹部拡散ビーム砲やビームライフル、ビームサーベルといった武器を使うことは出来なくなり、一撃の威力はビームライフルより弱いフェルスと、頭部バルカンくらいだけだろう。
「レオノーラの方は……向こうも一段落したか」
ゼオンと離れた場所で戦っていた黄金のドラゴンも、先程までのようにレーザーブレスを空中から地上に撃ち込むといったような真似はすでにしておらず、地上に降り立って長く太い尻尾を振るったりといった様子で敵を倒していた。
アランとレオノーラが二手に分かれて戦っていたのは、単純にそちらの方が効率が良かったためだ。
ゼオンと黄金のドラゴンは、双方ともが一騎当千、万夫不当と呼ぶに相応しい実力を保っている。
そんな二匹のモンスターが――アランは出来ればゼオンを匹ではなく機と数えたいのだが――いるのだから、一ヶ所に固まって攻撃するのではなく、別々の場所で攻撃した方が有効な戦力の使い方なのは明らかだろう。
レオノーラからそう言われ、アランもそのくらいのことは分かっていたので、素直にその指示に従っての攻撃……否、蹂躙となった。
そうしてゼオンと黄金のドラゴンが攻撃の手を緩めるも……それでいてさえ、スタンピードでドーレストの周辺に集まっているモンスターにとっては、致命的な攻撃だった。
頭部バルカンの弾丸一発が命中しただけで、ゴブリンはまるで水風船が破裂したかのように木っ端微塵になってしまうのだ。
その威力の攻撃を休むことなく延々と行っているのだから、モンスターの群れにとっては絶望的な光景でしかないだろう。
頭部バルカン、つまり実弾兵器であるにもかかわらず、何故弾切れが起こらない? と疑問に思ったアランではあったが、心核の能力なのだろうと、取りあえずはそう納得しておく。
また、レオノーラが変身した黄金のドラゴンも、尻尾を振るう一撃はその辺のモンスターにとっては致命的な一撃以外のなにものでもない。
そうして、本人たちにはあまりその気はなかったが……結果として、ドーレストの周辺にいるスタンピードしたモンスターは、その多くがゼオンと黄金のドラゴンに蹂躙されるのだった。
「さて、問題なのはこれからどうするかだな」
地上に広がるモンスターの死体、死体、死体。
それらを映像モニタで眺めつつ、アランは呟く。
探索者として、そして何よりこの世界で生まれ育った者として、死体を……特にモンスターの死体を見るのは、そう珍しいことではない。
それどころか、今では盗賊の類を殺しても、嫌な気持ちにはなるが吐くといった真似はしない程度には、慣れていた。
それでも、これだけ大量のモンスターの死体があるのを見ると、若干思うところはあった
……フェルスを使えるようになった戦いでは、これよりも多くのモンスターを殺しはしたのだが、それは全てが魔法で動く人形だった。
殺してもその人形の部品が散らばるだけで、血や肉片、内臓といった部位は周囲に散らばったりはしなかった。
本来なら、それらの悪臭に不愉快な思いをしたのかもしれないが、幸いなことに現在アランがいるのはゼオンのコックピットで、外の悪臭が中に入ってくるようなことはない。
(そういう意味では、レオノーラはどうなんだろうな)
ドラゴンの五感は、当然のように人間とは比べものにならないほどに鋭い。
それでいながら、レオノーラはコックピットにいるのではなく、普通に顔を何でも覆っていない。
そうである以上、当然の話だが悪臭を遮るといったことが出来るはずもなかった。
『アラン、そろそろドーレストの周辺も片付いたみたいだし、向こうに行くわよ』
「っ!? あ、ああ。分かった」
レオノーラのことを考えているところで、突然聞こえてきたレオノーラの声。
その声に驚きつつも、アランはレオノーラの変身した黄金のドラゴンと共にドーレストに向かうため、ゼオンを浮かび上がらせ……そのままドーレストに近づいていく。
当然ながら、見ず知らずの心核使いが近づいてくるということで、ドーレスト側も警戒していたが、レオノーラは特に気にした様子もなく、黄金のドラゴンのままで正門前に降りていくのだった。




