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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
メルリアナへ

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284/421

0284話

「あれが国境か。……さすがに厳重だな」


 視線の先に存在する国境を見て、アランが呟く。

 そんなアランの言葉に、周囲にいた他の探索者たちも頷いた。


「俺たちがこの辺にいるってのは、この前の戦いで知られたしな。野営地での戦いと前回の戦いのことを考えれば、その先が俺たちの目指している場所だってのは容易に想像出来る」


 アランたちが現在向かっているのは、ガリンダミア帝国の隣国メルリアナ。

 当然このメルリアナもガリンダミア帝国の従属国といった扱いになっているのだが、それでもイルゼンにはそこに行くと言い切った。

 何故そのようなことをイルゼンが主張したのかは、アランにも分からない。

 しかし、現状では特に行くべき場所もない以上、イルゼンの言葉に反対する者は少なかった。

 そんな訳で、ようやく国境線まで来たのだが……文字通りの意味で最後の関門として存在しているのが、関所だった。

 いや、それは関所ではなく砦と表現してもいいだろう。

 従属国を相手に、何故そこまで警戒しているのかというのは、アランには理解出来ない。


「あの砦みたいな関所って、他の国に対してもあんな感じなんですか?」

「いや、俺が聞いた話だとここだけって話だ。……まぁ、メルリアナは戦わないで降伏した。つまり、戦力はほぼそのまま残ってるんだ。それを警戒しているのかもしれないな」


 その言葉に、アランは納得する。

 とはいえ、実際にはメルリアナは戦いもせずに降伏したということで、他の従属国からは侮られているのだが。

 それはアランたちにとっても問題ではない。

 問題なのは、やはり砦と呼ぶべき関所をどうやって突破するかということだろう。

 そんなアランの様子を見て、一緒に偵察に来ていた探索者の一人が落ち着かせるように口を開く。


「安心しろ。メルリアナに入るにはあそこを通る以外にも方法はある」

「でも、周辺は森ですよ? 罠とか仕掛けられてるんじゃ?」


 砦の周囲には森がある。

 当然だが、そこを抜ければ砦を通らずともメルリアナに入ることは出来るのだ。

 しかし、関所を兼ねている砦側でも当然それは知っている。

 そのような真似が出来ないように見回りをしているし、アランが言ってるように罠を仕掛けたりといったこともしているのは容易に想像出来た。


「だろうな。けど、別にどこまでも森が続いている訳じゃないだろ?」

「……ああ、なるほど」


 そこまで言われれば、アランにも何を言われているのかは理解出来た。

 国境ということになってはいるが、別にどこまでも国境を隔てるような壁がある訳ではないし、この森も広いのは間違いないが、永遠に続いている訳でもない。

 メルリアナは小国だが、それでも国だ。

 関所を無理に通る必要はないのだ。

 もちろん、通りやすい場所……具体的にはきちんと街道が繋がっているような場所であれば、ここと同じように関所が用意されているだろう。

 だが、街道がない、普通ならそう簡単に通ることが出来ない場所であれば、話は別だ。

 そのような場所は、当然のように盗賊がいたり、モンスターがいたり……場合によっては遺跡があったりもする。

 普通の旅人では、通ることも出来ないくらいに危険な場所だろう。

 しかし、アランたちは腕利きの探索者が揃ったクランだ。

 それも雲海と黄金の薔薇という二つのクランが共に行動している。

 一人で戦争を勝敗を左右する心核使いも複数おり、そのような相手に盗賊やモンスターが襲いかかったとしても、それは自殺行為以外のなにものでもない。

 つまり、アランたちであれば本来なら何らかの理由で正規の関所を通れないような者……具体的には密輸業者や犯罪者といった者たちが通る場所を移動しても、かなり安心して移動出来るのだ。


「どうやら分かったみたいだな。……まぁ、関所があんな感じじゃなくて、もっと簡易的な関所ならそっちを通ってもよかったんだが」


 裏道とでも呼ぶべき場所を通っても、アランたちなら大丈夫なのは間違いない。

 それでも面倒に巻き込まれる可能性が高い以上、通れるのなら普通の関所を通りたいと思うのは当然だった。

 だが、そんな願いは関所が砦となっているのを見れば明らかだろう。

 いや、無理をすればそんな場所であっても通り抜けることは出来るのかもしれないが、アランたちとしては自分たちが現在どこにいるのかをガリンダミア帝国軍に知らせない意味でも、あまり目立ちたくはなかった。

 アランたちがどこに向かっているのかは、ガリンダミア帝国軍も予想しているだろうが……それでも具体的にどこにいるのかというのを教える必要はないのだから。


「あんな関所って反則ですよね。……メルリアナは小国なのに、何であんなに警戒されてるんだと思います?」

「さて、何でだろうな。考えられるとすれば、戦わないで降伏したからというのがあるのかもしれないな。戦っていれば、ガリンダミア帝国軍の実力を見せつけることが出来て、それで反抗心をへし折るといったことが出来たんだろうが」

「戦わない以上、負けはしたけど反抗心は残ったままってことですか?」

「そんな感じだろうな。それでガリンダミア帝国側も警戒して、街道にはこういう砦を建設したのかもしれないな。……あくまでも俺の想像で、実際にはどうか分からんが」


 あくまでも自分の予想だと告げられ、アランも納得したように頷く。

 ガリンダミア帝国が今までやってきた行為を考えれば、このような大袈裟な真似をしてもおかしくはないと、そう理解したためだ。


(イルゼンさんがメルリアナに向かうのは、その辺も関係してるとか?)


 この状況でドットリオン王国に戻るのではなく、正反対にあるメルリアナに向かうのだ。

 それを考えれば、メルリアナに何かがあるのは確実だと思えた。


「ほら、アラン。いつまでもここで考えごとをしている訳にもいかない。そろそろ戻るぞ。関所を突破出来ない以上、別の場所から移動する必要があるんだからな」


 アランはその言葉で我に返り、小さく謝ってかイルゼンたちが待機している場所に戻るのだった。






「そうですか。そこまで大きな関所が」


 アランたちからの報告を聞き、イルゼンはそう呟く。

 言葉としては驚いているようなのだが、その表情はいつものように飄々としたもので、言葉ほどに驚いているようには見えない。


「で、どうするの? まさか、関所を無理矢理突破するなんてことは言わないでしょうね?」


 レオノーラが、一応念のためといった様子でイルゼンに尋ねる。

 普通に考えれば、現状でそのような真似をするとは思えない。

 だが、イルゼンの性格を考えると、何でもないかのように関所を破壊しましょうといったような、突拍子もないことを言いかねないのだ。

 しかし、幸いにして今回はイルゼンもそんな突拍子もないことは言わない。


「まさか、そんな真似をしようとは思っていませんよ。別の場所……後ろ暗いところのある人たちが使う道を通れば、それで十分じゃないですか」


 アランと一緒に偵察にいった探索者が言ったのと同じことを口にする。


「そうね。じゃあ、そうしましょう。すぐに出発ってことでいいわよね? この人数がここにいるのを見つけられたら、その関所……いえ、砦? から部隊が派遣してくるかもしれないし」


 雲海と黄金の薔薇目の面々が現在いるのは、街道から外れた場所だ。

 二つのクランが待機しているのだから、もしそれが街道沿いであれば当然のように情報が伝わるだろう。

 街道を通って関所に向かっている者も多いのだから。

 だからこそ、そのような者たちに見つからないように街道からある程度離れた場所にこうして待機していたのだが、それでも長時間こうしていれば、いずれは何らかの理由で見つかってしまいかねない。

 であれば、そうなる前にさっさと移動してしまった方がいいと主張するのは当然の話だった。


「では、出発しますか。……ちなみに、僕はこの辺りについて多少の知識はありますが、誰か他にこの辺りに詳しい人はいますか?」


 イルゼンが尋ねるが、それに答える者はいない。

 そもそも、雲海も黄金の薔薇もドットリオン王国やその周辺国で活動はしていたが、ガリンダミア帝国での活動はしていなかった。

 ガリンダミア帝国が周辺諸国に侵略戦争を行っているというのは、広く知られている。

 だからこそ、そのような場所で探索者として行動することを避けるというのは当然だった。


(そう言えば、だとすれば何でイルゼンさんはメルリアナについてそれなりに詳しいんだ? いやまぁ、イルゼンさんならその辺りの情報を集めていてもおかしくはないけど。……その割に、あの関所のことは知らなかったみたいだし)


 情報を集めたにしては、不自然なところがある。

 そうアランは思ったが、情報を集めるにしてもこの地に住む者にしてみれば、あの関所はあって当たり前といったことで、イルゼンの情報網に引っかからなかっただけという可能性もある。


(けど、それならメルリアナにいる知り合いってのは?)


 そんな疑問も浮かぶが、その考えを遮るようにイルゼンが口を開く。


「では、この辺について知っているのは僕だけのようなので、出発しましょう。ここから数時間ほど進めば森は途切れます。……ただし、盗賊が多いらしいですから気をつけて下さいね」


 後ろ暗いところがある者たちが通るということは、そのような者たちの場合は、もし襲われても警備兵や軍隊といった場所に届け出ることは出来ない。

 それだけに、盗賊たちにしてみれば非常に美味しい獲物なのだ。

 もちろん、それは旅をしている方にも言える。

 襲ってきた盗賊を撃退して、盗賊たちが持っているだろうお宝を奪っても、それに文句を言う者はいない。

 そういう意味では、盗賊が一方的に利益を得ている訳ではなく、あくまでも双方共に同じようなリスクを負っているのだ。


「盗賊か。出来れば武器を少し補給したいんだよな。襲ってきてくれれば、色々と助かるんだが」


 探索者の一人が呟いたように、実力のある者としては出来れば盗賊が襲ってきて欲しいと、そう思うのだったが。

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