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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
逃避行

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278/421

0278話

 一瞬、それを見ていた者たちは、何が起きたのか分からなかった。

 特に、死の瞳がどのような効果を持つマジックアイテムなのかを聞かされていた、ガリンダミア帝国軍の士官たちにその気持ちは強い。

 心核使いが心核を使えなくなる。

 それが、野営地を攻めるガリンダミア帝国軍の大前提だったのだ。

 しかし、今その大前提が完全に崩れてしまった。

 その証拠に、野営地の中には全高十八メートルほどの、人型機動兵器……ゼオンの姿があった。

 ただの兵士たちにしてみれば、まさに絶望の象徴だろう。

 ……そうして唖然としている間に、そんな相手のことなど全く気にした様子もなく、ただ命令されたことを行うだけの人形は兵士を攻撃していく。

 そんなやり取りが行われている中……アランは、その場で立ち上がる。

 つい先程まではほとんど身体を動かすことが出来なかったとは思えないほどに、あっさりと。


「これは……」


 立ち上がったアランも、つい先程までの自分の状況とは一変したことに疑問を覚えつつ……それでも、今は自分の状況を確認するよりも、やるべきことがあった。


「ゼオン」


 そう自分の心核たるゼオンに呼びかけ……そのまま機体に乗り込む。

 不思議なほどに、現在のアランは落ち着いた様子を見せる。

 コックピットに乗り込むと、そのまま野営地の周囲を確認する。


「さて……取りあえず、この状況をどうにかするか」


 呟き、アランはゼオンを操縦してビームライフルを構える。

 その銃口が向かう先は、ガリンダミア帝国軍の兵士たちが集まっている場所……本陣。

 ビームライフルの銃口に光が満ち……次の瞬間、そこから放たれたビームはガリンダミア帝国軍の本陣に命中し、爆発を起こす。


「全滅とはいかないか」


 映像モニタには、ビームライフルの攻撃から逃れた者たちが何人か表示されている。

 ゼオンの情報を持っているだけに、ビームライフルを向けられた瞬間に我に返り、素早くその場から退避したのだろう。

 そのような者が十人以上いた。


「こんなに生き残る辺り、精鋭揃いって証だろうな。……いや、そうなると精鋭の生き残りが十人程度ってのは寧ろラッキーなのか? なら、取りあえずこれでもっと人数が減ってくれると嬉しいんだけどな」


 呟き、腹部拡散ビーム砲を発射する。

 拡散という名前に相応しく、ゼオンから放たれたビームは広範囲に発射された。

 腹部拡散ビーム砲の効果範囲は扇状になっているだけに非常に広い。

 そして、威力もビームライフルよりは低いが、それでも拡散したビームに触れれば人を消滅させるくらいは容易に出来る。

 魔法を使えば防げるかもしれないが、魔法を使うにはどうしても詠唱が必要となる。

 拡散ビーム砲が発射されてから命中するまでは、それこそ一瞬で詠唱をしている余裕はない。

 結果として、ビームライフルの攻撃では十人以上生き残っていたのに、腹部拡散ビーム砲が発射されたあとで生き残っているのは四人だけとなる。


「取りあえず本陣の方はもういいか。そうなると、残るのは……野営地の周囲にいる連中だな」


 残り四人となってしまえば、本陣はもう何の役にも立たないだろうとアランは判断する。

 生き残りの四人も、全員が無傷という訳ではない。

 ビームによって腕や足が消滅し、重傷を負っている者も多い。

 そうのような状況である以上、今のアランとしては野営地の周囲にいる兵士たちをどうにかする方が先立った。


「フェルス!」


 アランの言葉に従うように、ゼオンの背後の空間に波紋が浮かび、その中から長さ一メートルほどの三角錐の物体が現れる。

 その数、三十。

 三十基のフェルスは、空中を浮かびつつ……やがて、アランの意思に従うように、そして獲物を見つけた猟犬のように動き出す。

 狙うのは、当然のようにガリンダミア帝国軍の兵士たち。

 先端にビームソードを展開し、両端からは三角錐の形に沿うようにビームソードが展開されて敵に触れた途端に身体を貫かれ、または斬り裂かれる。

 先端から発射されたビーム砲は、ガリンダミア帝国軍の兵士数人を纏めて貫く。

 ガリンダミア帝国軍の兵士の数と比べると、フェルスの数は三十基なので兵士の方は圧倒的に数が多い。

 だが……金属の鎧を身につけていても、フェルスから放たれるビームを防ぐことは出来ない。

 鎧はあっさりと貫かれ……それどころか、一人だけではなく、背後にいる兵士たちも合わせて何人もが纏めて貫かれる。

 そんな攻撃をされた兵士たちは、一体何があったのかが理解出来ないまま、死んでしまう。

 また、ビームソードによって鎧を貫かれ、斬り裂かれて死んでいく者が続出する。


「うおっ! これは……」


 雲海の冒険者が、戦っていた兵士が横から突っ込んできたフェルスによって貫かれ、吹き飛ばされたのを見て驚きの声を上げる。

 とはいえ、雲海の探索者だけあってフェルスについてはそれなりに見慣れている。

 驚きの声を上げたあと、すぐに次の敵を探す。

 黄金の薔薇の探索者たちも、フェルスについてはそれなりに見慣れている。

 だが……そんな探索者たちとは裏腹に、兵士たちにしてみればフェルスというのは初めて見る存在だった。

 ある程度の地位にいる者でであれば、ゼオンについての情報も得たいただろう。

 しかしそのような者たちは本陣に集まっており、ゼオンのビームライフルと腹部拡散ビーム砲によって数人の生き残りがいるだけの壊滅状態になってしまっていた。

 だからこそ、兵士たちにしてみればフェルスというのがどのような存在なのかは理解出来ないのだろう。

 いきなり現れたモンスター……といったように認識してもおかしくはない。

 もっとも、そのモンスターは兵士たちだけに攻撃をするといった真似をしており、明らかに探索者たちの味方だったのだが。

 ……なお、怪我をしてアランを殺そうと近付いてきた兵士も、ビームソードを展開したフェルスによって頭部を貫かれて死んでいる。


「取りあえず、次は……あそこか」


 野営地の側には、兵士たちが固まっているのがゼオンの映像モニタに表示される。

 集団で突撃して、一気に野営地に突入するつもりなのか、それともゼオンの存在を間近で見て、本陣が消滅したために纏まって逃げ出そうとしているのか。


「可能性としては後者だろうが、ガリンダミア帝国軍の精鋭ということを考えれば前者でもおかしくはないし。問題なのは、ビームライフルだと威力が強すぎることか」


 野営地の側である以上、もしそんな場所にビームライフルの攻撃が命中した場合、味方に被害が出る可能性も高い。

 そう判断したアランは、頭部をそちらに向け……トリガーを引く。

 ギュイイイイン、という音と共に頭部に内蔵されているバルカンが発射され、そこから弾丸が連続して発射される。

 ゼオンの持つ武器の中では最弱の頭部バルカンだったが、それはあくまでもビームライフルのような武器と比べての話だ。

 レザーアーマーの類は当然だが、金属鎧を着ている者であっても生き残ることは出来ない。

 それこそ、腹部を貫かれるといったようなものではなく命中した場合は上半身が爆散して周辺に肉と血のを撒き散らかすといったような、そんな凶悪な威力を持っている。

 いくらゼオンの中で最弱の攻撃力であるとはいえ、兵士たちに命中すれば確実に死ぬといったような一撃であるのは間違いない。

 そのような凶悪な攻撃力を持つ一撃を連続して放たれたのだ。

 一塊になっていた兵士たちは、それこそ攻めるにせよ逃げるにせよ、結果としては一方的に蹂躙されるといったようなことになってしまう。

 ガリンダミア帝国軍の中でも精鋭と呼ばれるべき兵士たちではあったが、そんな練度など何の役にも立たないと、一方的に殺される光景。

 それを見た他の兵士たちは、当然だが恐慌状態になる。

 戦いの中でそのような恐慌状態になれば、どうなるか。

 それは考えるまでもなく、明らかだった

 その場から逃走しようとして戦場に背を向けた者は、人形や探索者によって即座に攻撃されて倒れる。

 仲間が背中から攻撃されるのを見ていた兵士は、半ば破れかぶれになって探索者や人形に攻撃するも、先程までのように冷静に攻撃をしていたのならともかく、そのような破れかぶれの状態では通用するはずがない。

 そうして、アランがゼオンを召喚するまでは、多少なりとも互角だった戦況は瞬く間に探索者側に傾く。

 当然だろう。たとえ二千人規模の兵士であっても……いや、その程度の数で心核使いに勝てるはずがない。

 二千人規模でどうにか出来ると判断したのは、あくまでも死の瞳によって雲海や黄金の薔薇の心核使いが心核を封じるから、というのが大前提にあったのだ。

 それが覆された以上、今の状況でガリンダミア帝国軍に勝ち目があるはずがない。


「……ふぅ」


 そんな光景をゼオンの映像モニタで見たアランは、安堵の息を吐く。

 取りあえず、この状況で負けという選択肢はなくなったと。

 今回の一件は色々と……本当に色々と危険なところがあったのだが、人形とゼオンのおかげでどうにかなった形だ。


「結局のところ、イルゼンさんは何でここまで的確に人形を動かすことが……ん?」


 イルゼンの行動に疑問を持ったアランだったが、不意に映像モニタにゼオンが攻撃を受けたといった表示がされる。

 攻撃? と疑問に思い、その攻撃を受けたと思しき場所を映像モニタに表示してみる。

 ……本来なら、当然モニタに表示出来るのはカメラの類がある場所だけなのだが、ゼオンが自分の身体の好きな場所を映像モニタに表示出来るのは、やはりゼオンが心核で召喚された機体だからだろう。

 科学的なロボットという訳ではなく、魔法的なロボットだからこそ。


「で、それはともかくとして……こいつらどうすればいいんだ?」


 人形の攻撃は、幸いなことにゼオンにダメージを与えることは出来ていない。

 だが、それでも気分がいい訳ではないのは事実だ。

 そんな今の状況をどうするべきか考えるも、現在兵士たちを倒している探索者たちに人形をどうにかして欲しいと頼む訳にもいかず……結局、アランはダメージがないからということで、取りあえずそのままにしておくのだった。

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