0273話
先日投票をお願いした、アニメ化してほしいライトノベル・小説は?(2020年上半期)ですが、結果が発表されたようです。
https://animeanime.jp/article/2020/06/19/54424.html
上記のURLを見て貰えば分かると思いますが、何とレジェンドが1位を取ることが出来ました。
レジェンドに投票してくれた皆さん、ありがとうございます。
いつか……本当にいつかですが、アニメ化してくれればいいなと、期待しています。
野営地に向かうガリンダミア帝国軍は、一時的な混乱こそしたももの、すでに態勢は立て直されており、進軍を再開していた。
そんな中で、軍の中央付近には何ともいえない雰囲気が漂っている。
当然だろう。マジックアイテムを使った魔法使いが、それこそこの世のものとも思えぬような悲鳴を上げながら、死んだのだから。
それこそ安楽死といった言葉とは正反対にあるような……魂そのものを喰らいつくされたかのような、そんな最後。
見てる者にしてみれば、決して気持ちのいいものではない。
死んだ魔法使いとは、決して友好的な関係だった訳ではない。
それこそ、自分の力がなければこの軍隊は負けると言い、軍を率いるダーズラもそれを否定しなかったために、帝都を出発してからここまで我が儘放題だった。
それこそ、もっと美味い食事を寄越せ、自分の世話役として美人を連れて来いといった具合に。
兵士がそれを注意すれば、気にくわないと魔法で攻撃するような真似すらしたのだ。
そんな魔法使いだっただけに、当然のように不満を抱く者も多い。
女の兵士の中には、半ば無理矢理抱かれた者もいる。
そんな、とにかく気にくわない魔法使いの男だったが……それでも、最期を見れば眉を顰めたくなるのは当然だった。
それだけ無残な死にざまだったのだ。
そんな周囲の者たちに向かい、ダーズラが口を開く。
「死体は一応丁寧に扱っておけ。その死体の有無でマジックアイテムの効果が変わるわけではないだろうが……それでも、今は不確定要素は出来るだけ避けたい」
その言葉に、命令された者たちは色々な思いを抱いたものの、それを表に出さないようにして行動に移す。
醜く歪んでいる魔法使いの男の目を閉じてやり、馬車に移す。
(お前も好き放題した結果がこれだ。恨むなよ)
魔法使いの男を馬車に運んだ兵士が、そう考えながら馬車から離れる。
「ダーズラ様、これで向こうは心核使いが出て来られなくなった……そう考えてもよろしいのでしょうか?」
「そうだ。だが、このマジックアイテムは希少な上に使い捨てで、気軽に試す訳にもいかない。具体的にどれくらいの効果時間なのかは分からん。……その辺りは、あの男がどれだけの魔力を持っていたかによるのだろうが。ともあれ、正確な時間が分からぬ以上、少しでも早く雲海と黄金の薔薇の者たちを倒す必要がある」
その言葉に、ダーズラの周辺にいる者たちはそれぞれに頷く。
ようやく今のような状況を作り出したのだ
そうである以上、出来るだけ早く敵を倒す必要があった。
数では自分たちが圧倒的に……それこそ、比べるのも馬鹿らしいくらいに自分たちの方が多い。
だが……それはあくまでも数だけだ。
純粋に質となると、どうしても向こうの方が上となる。
もちろん、この軍の全てが負けている訳ではない。
軍の中には探索者と互角にやり合えるだけの実力を持つ者もいるし、そのような者たちであれば、雲海や黄金の薔薇の探索者と戦っても決して一方的に負けるといったことはない。
いや、むしろ勝っても特に驚くことはないだろう。
それでも、実際に探索者とやり合える者の数が少数である以上、それ以外の者たちは数でどうにか対処するしかなかった
そして……当然の話だが、そうなると多くの被害が出てしまう。
それが悔しくない訳ではなかったが、それでも今の状況を思えば消耗戦を挑むしかないのも事実だった。
「行きましょう。私たちはガリンダミア帝国の者なのですから。ここで怖じ気づくといったようなことは、絶対に許されません」
その言葉に、ダーズラも当然のように頷く。
……もっとも、ダーズラにしてみればガリンダミア帝国軍であるという認識よりも、ビッシュの部下であるという認識の方が強かったのだが。
しかし、ダーズラもそれを口に出さないだけの常識はある。
「では、行くぞ。敵は手強いとはいえ、少数。ただし、アランは確実に捕らえるように。これは最優先事項となる」
元々が、ゼオンという人型のゴーレムに変身する心核を持つアランと捕らえるために、出撃してきたのだ。
実際にはゼオンはゴーレムではなく人型機動兵器ではなく、変身するのではなく召喚するといったように、違いは色々とあるのだが……ダーズラは特にそれを説明するような真似はしない。
『は!』
ダーズラの言葉に、皆が声を揃えて返事をするのだった。
ガリンダミア帝国軍が改めて一致団結している頃、野営地の方ではロッコーモが変身出来ないということで騒ぎ、他の心核使いたちも全員が変身出来ないのを確認したイルゼンは、厳しい……とてもではないが普段の表情とは違う厳しい視線を、まだ遠くに存在するガリンダミア帝国軍に向ける。
その視線には、それこそ殺気すら含まれているのではないかと、そんな風に思えてしまう。
それだけ、普段のイルゼンの視線とは違ったのだ。
「イルゼンさん、結局何があったんです? その様子だと、イルゼンさんはこの状況がどのような理由で起こったのか分かってるんですよね?」
雲海の探索者の一人が、深刻な表情でイルゼンに尋ねる。
雲海や黄金の薔薇の者たちにしてみれば、この野営地でガリンダミア帝国軍を迎え撃つ際には多数いる心核使いたちこそが主力になると思っていた。
実際、心核使いたちに頼らなければ、この圧倒的な数の差を覆せるとは思えなかった。
そして心核使いがいれば、かなり楽に勝てるかもしれないと、そう思っていたのだ。
……それこそ、アランとレオノーラが行ったように、敵の攻撃の届かない場所から一方的に攻撃をすれば、すぐにでも向こうが逃げ出すのではないかと。
だというのに、実際に行われた攻撃は一度……それもアランの放った腹部拡散ビーム砲の一撃だけ。
それでも、拡散されたビームはそれに触れただけで容易に人を殺す……どころか、消滅させるだけの威力を持っているので、それを思えば向こうに与えた被害は小さくはないのだろう。
しかし……それでも結局はあの一撃だけだったのだ。
おまけに、その一撃で敵の士気が衰えたのかと言えば、決してそんなことはない。
それどころか、遠くに見えているガリンダミア帝国軍の様子は明らかに士気が高い。
「何があってあんな風になったのか……知ってるのなら、教えて貰えますか? それが分からないと、対処のしようもないですし」
「そうですね。……幸い、敵の姿はまだ遠い。今のうちに事情を説明しておきましょうか」
イルゼンはその言葉でようやくいつもの飄々とした表情に戻る。
それでも、やはりどこか鋭い視線の面影は残っていたが。
「死の瞳というマジックアイテムがあります」
「……明らかに不吉な名前ですね」
イルゼンの口から出た言葉にそう返す男。
実際に死の瞳という名前は不吉だったので、聞いていた皆もその言葉には同意する。
「そうですね。実際、特定の人にとってはこれ以上ないほどに悪い効果をもたらすので、その名前も決して間違ってはいません。もっとも、それ以上に使用者にとって最悪の結末をもたらすのですが」
最悪の結末。
そう告げたイルゼンの言葉は、決して大袈裟なことを言ってるようには思えなかった。
つまり、それは言葉通り最悪の結末をもたらすのだろうと、誰にでも理解出来る。
「それで、イルゼンさん。その死の瞳というのの具体的な効果は?」
最悪の結末というのも気になるが、それ以上に気になるのはその効果だ。
使った者に最悪の結末をもたらすというだけであれば死の瞳などという不吉な名前はつかないだろう。
……とはいえ、今までのやり取りから何人かはすでに死の瞳についての効果は想像出来ていたが。
それでも何も言わなかったのは、出来ればその予想が外れていて欲しいという思いがあったからか。
「効果としては、単純です。範囲内で心核を使うことが不可能になるということです。……そういう意味では、よくアラン君はゼオンをすぐに消滅させられませんでしたね」
イルゼンの視線がアランに向けられる。
その視線を受けながら、アランは黄金のドラゴンの変身が強制的に解除されてレオノーラの姿に戻っていったのを思い出す。
(なるほど。そういう理由でレオノーラは……けど、俺のゼオンが無事だったのは何でだ? いや、正確にはこうしてまだろくに立つことも出来ないくらいに弱ってるんだから、無事って表現は全く合わないだろうけど)
現在のアランは、激しく乱れていた呼吸も大分落ち着いてきた。
だが、その死の瞳の効果なのか、立ち上がるのも難しいくらいに消耗している。
「ゼオンは俺が変身するんじゃなくて、どこからともなく召喚するといった形ですからね。その関係もあるんだと思います」
そう告げるアランだったが、実際にはそれ以外にも自分がそのようになった理由を予想出来た。
つまり、自分が異世界から転生してきたから……というものだ。
実際にそれが効果を発揮したのかどうかまでは、アランにも分からない。
分からないが、それでも可能性としては十分にあるのでは? という思いがあるのは事実。
……それを口に出す訳にはいかないかったが。
「でしょうね。アラン君の心核は色々な意味で特殊です」
「ピ!」
イルゼンの言葉に、カロが当然! といったように鳴き声を上げる。
そんなカロの鳴き声は、不思議なことに話を聞いていた者たちの緊張をいくらか解す。
「とにかく、心核使いが戦力として数えられないとなると……もう、戦いようがないんじゃないか?」
そんな声に、何人もが頷く。
緊張を解した直後の言葉だったが、それでも現状を少しでも正確に把握する為に必要なのは間違いなかった。
「けど、敵がここまで迫っている以上、逃げるのは不可能だぞ? 逃げられるとすれば……」
そう言った男の視線が向けられたのは、遺跡。
迫ってくるガリンダミア帝国軍にどう対処するのかといったことを決める時、出た選択肢の一つが、遺跡の転移機能を使ってこの場から離れるということだった。
だが、遺跡の中に向かう以上、ここにある荷物の全てを持っていく訳にはいかない。
迷いつつ……それでも、アランたちはこの状況をどうにかするべく、悩むのだった。




