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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
囚われの姫君?

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238/421

0238話

 ロッコーモがカロの奪還に成功した頃……リアとニコラスは二人の騎士と向かい合っていた。

 連れ去られた息子を探し、帝城の中を移動していた二人は、親の直感……そしてリアの女の直感によるものか、多少迷いながらも目的の場所に到着したのだ。

 当然の話だが、その目的の場所というのは、アランが閉じ込められている貴族用の客室だ。


「そこを通してくれないかしら?」


 リアが長剣を手にそう尋ねるが、当然のようにグヴィスとクロスの二人が素直にその言葉に従うはずもない。

 そもそも、最近ではアランの友人兼訓練相手といったような感じになっていたが、実際にはアランが逃げ出さないための見張りであり、同時にアランを奪いに来た相手を阻止するのが仕事なのだから。


「そう言われて、こっちがはいそうですかと言うとでも思ってるのか?」


 グヴィスは、目の前にいるのがアランの母親だとは思っていない。

 ……当然だろう。何の事前知識もなければ、リアというのまだ二十代の女にしか見えない。

 ハーフエルフの特徴たる、人間より長くエルフよりも短い耳も髪によって隠れている以上、とてもではないがアランのような子供がいる年齢であるとは思えないのだ。


「君も彼と同じ答えかな?」


 ニコラスの問いに、クロスは言葉を発するのではなく小さく頷くことで答える。


「そうか。……けど、悪いがこちらも訳ありだ。手加減については、期待しないでくれよ」


 そう言い、杖を手にしたニコラスは、鋭い視線をクロスに向ける。

 クロスもまた、長剣を手に、その切っ先をニコラスに向けた。

 普通に考えれば、ここまで接近している状況では魔法使いのニコラスよりも、騎士のクロスの方が有利だ。

 だが、それはあくまでも普通ならではの話で、探索者として活動しているニコラスを普通の魔法使いと同じ扱いにして、いいはずがなかった。

 そんな二人の横では、グヴィスとリアの二人がそれぞれ長剣を手に睨み合い……最初に動いたのは、リアだった。

 普段ならリアももう少し相手の動きを見るといったようなことをしただろう。

 だが、今のリアはアランを助け出すことだけを考えており、相手との駆け引きに乗るといったような真似をするつもりがなかった。

 ……あるいは、グヴィスがリアよりも強い相手なら、そのような方法を取っていた可能性もあるが。

 だが、グヴィスは強い相手ではあるが、今のリアにしてみれば楽に……とは言わないまでも、戦えば勝てる相手だ。

 アランが模擬戦ではどうやってもグヴィスに勝てなかったのを考えれば、息子と母親の間にある絶対的な差は非常に分かりやすいだろう。


「じゃあ、行くわよ」


 その言葉と共に、リアは真っ直ぐ前に進む。

 相手を全く警戒する様子もなく前にでるその姿からは、リアは自分がグヴィスよりも圧倒的に上だと、そう態度で示しているのが明らかだ。

 当然の話だが、グヴィスもまたそのような対応を取られれば面白い筈もない。

 相手が女であっても……いや、妙齢の美人に見えるからこそ、ここまで侮られるのは面白いとは思わず、迂闊に近付いてきたリアに向かって長剣を振るう。

 その一撃は鋭く、アランであれば……いや、それこそその辺の戦士であれば何とか受けることが出来るといった程のものだろう。

 だが、グヴィスの相手をしているのはリアだ。

 奪われた息子を取り戻すべくやってきたそんなリアにとって、グヴィスは自分の目的を果たすための障害でしかない。

 普通なら回避出来ないくらいに鋭い一撃を、リアはあっさりと回避し、グヴィスの胴体に向かって長剣を振るう。

 ……そんなカウンターを回避出来たのは、グヴィスもまた腕利きの騎士だからだろう。

 ただし、完全に回避するといった訳にはいかず、グヴィスの胴体は皮一枚切断される。

 そう、鎧をあっさりを斬り裂かれ、その下にある服も斬り裂かれ、結果として胴体の怪我は皮一枚ですんだのだ。


「嘘だろ。化け物め」


 まさか、ここまであっさりと鎧を斬られるとは思っていなかったのか、グヴィスの口からは驚愕の声が上がる。


「化け物ね。これくらい出来る者は結構な数いるわよ。……さて、それじゃあ負けたんだし、そこをどいてちょうだい。それとも……死ぬまでやってみる? 私の息子を守るためにそこまでやるのなら、それはそれで……いや、やっぱり複雑な心境なのは間違いないわね」

「……は?」


 リアの口から出た言葉に、グヴィスの口から間の抜けた声が出る。

 当然だろう。グヴィスの前にいるリアは、とてもではないがアランのような息子がいる年齢には思えなかったのだから。

 とはいえ、エルフのような寿命の長い存在が普通にいるこの世界において、外見と実際の年齢が一致しないのは、そんなに珍しい話でもない。

 それでもグヴィスが驚いたのは、アランの外見が普通の人間にしか見えなかったからだろう。

 これでアランの耳が長かったり、もしくは寿命の長い獣人族の特徴といったものがあったりすれば、まだ納得出来たのだろうが。

 ともあれ、いくら予想外のことだったからとはいえ、今のリアを前にして集中を乱すというのは、致命傷以外のなにものでもない。

 一瞬にして近付かれ、首の後ろを手刀で叩かれて意識を失うグヴィス。


「グヴィス!?」


 まさかの展開に驚きの声を上げるクロスだったが、こちらもまたその隙を突かれてニコラスの放った風の魔法によって吹き飛ばされ、壁に身体を叩きつけられて意識を失う。


「行きましょう」

「ああ」


 夫婦は短く言葉を交わし、そして扉の前に移動すると……そこに鍵がかけらているのを見たリアが長剣を振るい、鍵ではなく扉を切断する。


「うおっ!」


 瞬間、部屋の中から聞こえてきた声に、リアは長剣を構え……そして聞き覚えのある声だと理解して長剣を下ろしかけ、だがその状況から再度長剣を振るう。


「うおわっ! ちょっ、何をするんだよ、母さん!」


 アランのその言葉に、しかしリアは心配していたといった様子を全く表情に出さずに長剣を振り続ける。

 ただし、グヴィスに振るったような鋭い一撃ではなく、アラン……以前のアランなら何とか回避出来るといったような、そんな攻撃だったが。

 そんなリアの攻撃を回避しながら、アランはリアから少し離れた場所で黙って様子を見ているニコラスに声をかける。


「ちょっ、父さん! 母さんを何とかしてくれよ!」


 必死に叫ぶアランだったが、ニコラスがそんな息子の言葉を聞く様子はない。

 アランが暮らしていた部屋を、じっと観察するように見ているだけだ。

 そのまま一分ほどが経過し、母親の攻撃を回避し続けていたアランだったが、やがてその攻撃が不意に止まったことで安堵する。

 そろそろ攻撃の回避を続けるのが、難しくなってきていたからだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……俺を助けに来たのか、殺しにきたのか、はっきりとしてくれよな」

「馬鹿なことを言ってないで、さっさと行くわよ。早く脱出しないと、混乱が収まる」


 今まで一方的にアランを攻撃していたとは思えないほどに、平然とした様子でリアが息子に向かって言う。

 そんなリアに、アランとしては言いたいことはいくらでもあった。

 だが、今の状況で何を言っても、それを聞いて貰えるとは思えない。

 それに……この騒動が自分を助けるために起こされたものだというのは、アランにも当然のように理解出来る。

 だからこそ、今この状況で部屋を脱出しないという選択肢は、アランにはない。


「アラン様」


 そうして部屋から出ようとしたアランに、部屋の中からメローネが声をかける。

 そんなメローネの言葉に、アランは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 今までアランの世話をしてくれた相手だと、そう理解しているためだ。

 だが、アランはそんなメローネに対して申し訳なく思いつつも、帝城からの脱出という行為を止めるつもりはない。

 ガリンダミア帝国に従うのであればともかく、今のアランにそんなつもりは一切ないのだから。


「すいません。俺、行きますね。色々とありがとうございました」


 アランも、メローネが自分を懐柔するためにつけられた人材だと理解している。

 それこそ、ハニートラップの一種でもあり、もしアランが望めば抱かれたのだろうことも。

 当然の話だが、それはアランに対して好意を抱いているからではなく、あくまでもガリンダミア帝国の上層部にそのように命じられていたためだ。

 アランもそれが分かっているので、実際に手を出すような真似はしなかった


「……分かりました。では、またお会いしましょう」


 メローネは深々と一礼し、それ以上アランに対して何かをするような真似はしなかった。

 リアとニコラスは、そんなメローネの様子を一瞥すると、複雑な表情を浮かべながらも軽く頭を下げてから、部屋を出る。

 リアとニコラスも、メローネがアランを懐柔するためにつけられたメイドだというのは理解した。

 それでも結局アランはすぐ脱出することを承知したのだから、それはつまり懐柔が上手くいかなかった……もしくは、意図的に懐柔しなかったかのどちらかなのだろう。

 それでも、アランに向かって深々と頭を下げる様子を見せられれば、このメイドがアランの世話を真摯にしていたのは分かる。


「私の息子が迷惑をかけたわね。ありがとう」

「いえ。アラン様はお仕え甲斐のある方でした。出来れば、本当にそうしたかったくらいに」


 リアの言葉に、メローネは頭を上げてそう告げる。

 そんなメローネの様子に、リアは笑みを浮かべて口を開く。


「なら、私たちと一緒に来る? それなら、うちの馬鹿息子と一緒にいられるけど」

「いえ。残念ですが、私の家は代々ガリンダミア帝国に仕えてきた一族ですので、そのような真似は出来ません」


 申し訳なさそうに告げるメローネだったが、リアは残念そうにしつつも、それ以上は言わない。

 元々、今の誘いは駄目で元々のつもりで言ったのだから、当然だろう。


「そう。じゃあ……今度は戦場で会わないことを祈ってるよ」


 リアの強さがあれば、メローネが相応の強さを持っているというのには気が付いたのか、そう言い……分かっていない様子のアランを引き連れて、部屋を出るのだった。

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