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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
囚われの姫君?

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230/421

0230話

「何だか、今日は妙に騒がしいな」


 ソファにだらしなく座りながら、アランはそう呟く。

 正確には、騒がしいといってもこの部屋の中にまで騒々しい声が聞こえてくる訳ではない。

 元々アランが軟禁されているこの部屋は、相応の地位にいる貴族が使うような部屋だ。

 当然のように、防音機能はしっかりと整っており、扉の前で声を上げているのならともかく、遠くで騒いでいるような声は……それこそよほどの大声でなければ聞こえるようなことはない。

 それででもアランが騒がしいといったのは、実際に聞こえてきた声ではなく、雰囲気的なものが理由だ。

 一体何があったのか、それはアランにも分からない。分からないが、それでもガリンダミア帝国にとって何らかの重大な出来事があったのは間違いない。

 ここでこうしていても事情は分からないと判断し、ソファの前にあるテーブルに置かれている鈴を鳴らす。

 リィン、という耳に心地いい音が響き……数秒後、部屋の扉がノックされる。


「失礼します。アラン様。何かご用でしょうか?」


 部屋の中に入ってきたのは、当然のようにメローネ。

 アランが鳴らした鈴は一種のマジックアイテムで、そこまで大きい音ではないにもかかわらず、特定の装備――メイドによって様々だが――をしている者には聞こえるようになっている。


「はい。ちょっと聞きたいんですけど、何かあったんですか?」


 今の自分の状態で、そんなことを聞くのは、何かがあったということを知られる……それがたとえメローネという自分と親しい相手であっても、知られるのはいいことではない。

 だが、今は何よりも情報が必要なのだ。

 自分がこの城の状況を探っているというのは知られてもいいので、少しでも情報が欲しい。

 そうアランは思い、メローネに尋ねた。

 メローネはそんなアランの様子に、どう答えるべきか一瞬迷う。

 今この状況で何も言わなければ、アランが情報を得られる手段は限られている。

 見張り件護衛のグヴィスたちとの模擬戦や、同じ心核使いとしてレーベラとの話し合いくらいだろう。

 それらについても、メローネ……いや、もっと上から直接情報を漏らさないようにという命令が下れば、少なくても意図的に今回の一件を話すようなことはない。

 ……レーベラの場合は、心核についての話と一緒に情報を漏らすとう可能性も十分にあったが。


「この帝都ではなく、外で少し問題が起きたらしいです。現在はそれに対処するべく騒がしくなっているのかと」


 情報を得られる可能性は少なく、黙っていても問題はないと判断しつつ……メローネが選んだのは、ある程度の情報をアランに話すということだった。

 誰か他の人から中途半端な情報を得られるよりは、自分ある程度事情を話しておいた方がいいと、そう判断したためだ。

 幸い、今の状況ではそこまでガリンダミア帝国にとって都合の悪いことはなかった、というのもある。

 いや、帝都の側にある砦がレジスタンスに襲撃され、その上で帝都から援軍を派遣したにもかかわらず、敵の多くが無事に逃げ出した……それも、ただ逃げ出したのではなく、多くの兵士が倒されてしまったという結果は、ガリンダミア帝国として決して愉快なものではなかったが。

 実際、そのことが露わになった現在、帝城の中では多くの者たちが騒いでいるのだから。

 それが、アランにも理解出来るくらいの空気となってしまったのだろう。

 ……無理もない。これが、あるいは敵国と戦っていて被害を受けたのであれば、まだ納得も出来ただろう。

 だが、被害を受けたのが帝都のすぐ側にある砦……それも襲撃してきたのがレジスタンスともなれば、話は変わってくる。

 ガリンダミア帝国としては、まさに飼い犬に手を噛まれた……いや、砦の被害を考えれば、飼い犬に手を喰い千切られたといったところか。

 常勝不敗――実際にはアランたちには負けているのだが――のガリンダミア帝国軍が、自分たちが支配し、従属国にした相手から攻撃され、大きな被害を出したのだ。

 顔に泥を塗られたといったような程度ではすまないだろう。

 もっとも、アランに知らされたのはあくまでも問題が起きたという状況だけであって、詳しい事情は知らされていない。

 メローネも、そこまではアランに教える必要はないだろうと考えたし……あるいは、この騒動そのものがアランに対する何らかの合図であるとも、考えられたのだ。


「ふーん、騒動ですか。城の様子から見ると結構大きな騒動だったみたいですね。それで、今日はグヴィスと訓練をする日だったと思うんですけど、そちらはどうなります?」


 アランにとっては、現状で唯一本格的な戦闘訓練を出来る時間として、グヴィスとの模擬戦は楽しみな時間だ。……快適な部屋ではあっても、ずっと部屋の中にいるというのはどうしてもストレスを感じてしまうのだ。

 そのストレスを発散させるという意味でも、グヴィスとの訓練は楽しみにしていたのだが……


「申し訳ありません。先程も言ったように問題があり、現在城の中は色々と忙しい状況になっています。恐らく今日の訓練は……」


 そう言い、メローネは頭を下げる。

 つまり、今日の戦闘訓練は行われないのだと、そう理解したアランだったが……現在の自分が囚われの身であるのは理解しているため、それに不満を言うようなことは出来ない。

 それこそここで無理を言えば、最悪現状よりも待遇が悪くなる可能性もあるのだから。

 それを思えば、多少ストレスが溜まっても、今の状況をみすみす逃すといったような真似はしたくない。


「分かりました。なら、今日は部屋の中で身体を動かしますよ」


 元々、この部屋の中で身体を動かしていたアランだけに、それは全く問題はない。

 早速柔軟運動をしながら、ガリンダミア帝国に一体何が起きたのかを考える。


(普通に考えれば、どこかの戦線で負けたとか? ……けど、それだけでここまで城の中が大きな騒動になるか? そもそも、負けたという点ならすでに俺たちに負けてる訳だし)


 ガリンダミア帝国としては、常勝不敗を誇りとしている以上、まだ負けてはいないと言い張る可能性も高いとアランには思えた。

 そもそもの話、周辺国家を手当たり次第に占領して従属国にするという真似をしている以上、当然の話だが全戦全勝といった訳には、普通はいかない。


(それも結局は最終的に勝利したからってことで誤魔化してるんだろうな。……いや、最終的に勝利してるんだから、結局間違ってはいないんだろうけど)


 そう判断しながら、床に座って足を広げるとゆっくりと身体を倒していく。

 やがてその身体はが床につく……寸前で動きが止まる。

 身体を柔らかくする運動というのは、以前から行っていたが……それでも、今のところはこれが限界だった。

 そうして柔軟運動を繰り返していると……不意に扉をノックする音が聞こえてくる。

 今度は誰だ?

 そう思うアランだったが、メローネがどうしますか? といった視線を向けてきた以上、ここで断るといったような真似は出来ない。

 アランはメローネの視線に頷き、それを確認したメローネは扉の外に向かって慎重に誰なのかを尋ねる。

 今のこの城の状況において、この部屋を尋ねてくるような者が思いつかなかったからだ。

 アランの警戒を解くという意味や、少しでもアランの心核たるゼオンの秘密を入手出来ればという意味で、レーベラが結構な頻度でこの部屋を尋ねてきていたが、メローネはレーベラが上からの用事を言いつけられて現在出掛けているのは知っている。

 そうである以上、レーベラ以外の人物なのではないか。

 そう思い……そして、そう思ってしまえば、この部屋に来るのに該当する人物で思いつくのは少数だ。


『ビッシュ様から使いの者がきました』


 その使いの者の前だからだろう。いつもとは違った、硬い口調でグヴィスが扉の外からそう告げる。

 だが、その言葉を聞いたメローネは、珍しく驚きをその表情に表す。

 まさか、今という時にビッシュからの使いが来るとは、思ってもいなかったのだろう。

 それは話を聞いていたアランも同様だ。

 今このとき、何故ビッシュが自分に用事があるのか。


(考えられる可能性としては、メローネさんが言っていた問題……なるほど。もしかしたら、その問題を起こしたのって雲海や黄金の薔薇だったりするのか?)


 軟禁中の自分に向かって、ガリンダミア帝国の皇族たるビッシュが何らかの用事があるとすれば、アランが思いつくのはそのくらいしかない。

 あくまでもそれはアランの予想だったが、本人としてはその予想がそう間違っているとは思えなかった。


「どうします?」


 メローネがアランに向かってそう尋ねる。

 尋ねはするが……だからといって、アランにビッシュからの申し出を断るようなことが出来るはずもない。

 ここが帝城でなく、そしてアランが囚われの身でなければ、ビッシュからの要望を断るといったことも出来たかもしれないが……残念なことに、今の状況でそのような真似は出来なかった。


「どうすると言われても……断れるんですか?」


 一応、という形でメローネに尋ねるアランだったが、メローネは当然のように首を横に振って質問の答えとする。

 メローネにもアランの世話を任されているメイドとして、それなりの権限を持ってはいる。

 だが、それはあくまでもそれなりであって、皇族のビッシュからの要請を断るようなことが出来るものではない。


「残念ながら」

「でしょうね。そうなると、やっぱり会うしかないかと」


 気が進まないといった形でアランが呟く。

 元々、アランは貴族の類……特に自分勝手で我が儘な貴族の類を好んではいない。

 ビッシュがそのような貴族かどうかは、まだ一度しか会ったことがないのではっきりとは分からないが……そもそも、ビッシュは貴族ではなく皇族だ。

 そうである以上、ビッシュに会うのは非常に面倒に思うのはアランにとっては当然の出来事だった。

 それでも、断る訳にはいかない以上、会いに行くしかないのだが。


(多分……城がざわついている件で何かあるんだろうけど、それを俺に聞かせてどうするのやら)


 そんな風に思いながらも、アランはビッシュとの面会の準備をするのだった。

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