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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
ザッカラン防衛戦

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196/421

0196話

 ソランタたちは、仲間の犠牲を意味のないものにしないために、必死になって走っていた。

 幸いにして、仲間たちが命を懸けて戦いに挑んでいたおかげで、逃げ出す余裕が出来た。

 とはいえ……


「んんんんんーっ!」


 周囲にそんな唸り声と思しき声が響き渡る。

 全力で逃げている以上、当然の話だがアランの身体を押さえて声を出さないようにするといったような真似は出来ない。

 出来るのは、せいぜい暴れてアランの身体が地面に落ちないようにするくらいか。

 運んでいる者としては、いっそのこと気絶させた方がいいのでは? と思わないでもない。

 だが、仮にも探索者で、腕利きとして有名な雲海に所属しているアランだ。

 そう簡単に気絶させることが出来るとは、到底思えなかった。

 だからこそ、屋敷の中でロッコーモたちに見つかったときも、すぐに気絶させるような真似は出来なかったのだから。

 これでもう少し時間があれば、アランを気絶させるようなことも出来たのだろうが。

 ソランタたちにとって幸いだったのは、現在この周辺に人の姿があまり多くはなかったということだろう。

 元々が自分たちの潜んでいた屋敷のある場所がスラム街に比較的近い場所だったので、一般人が好んでくるような場所ではない。

 そして、今が戦争中であるというのも大きく影響していた。

 現在、ザッカランの周辺にはガリンダミア帝国軍が待機し、ザッカランいる者たちを精神的に疲弊させるべく、外で動き回っている。

 そのような状況で暢気に日常の生活を送るといったことはまず不可能である以上、街中に出ている者の数というのも決して多くはない。

 一般人の代わりに警備兵が治安のために動いているのだが、それでも警備兵の人数というのはどうしても限られる。

 スラム街に近いこの場所に来るような者は決して多くはない。


「それで、どうする? 本来の予定とは大きく違うが」


 走りながら兵士の一人がそう告げる。

 本来なら、この戦勝が膠着状態になるまで、ザッカランの内部で待つつもりだった。

 だが、今の状況でそのような悠長な真似が出来るはずもない。

 であれば、今のうちに何とかザッカランから脱出した方がいいのは間違いない。

 しかし、問題なのは一体どうやってザッカランを脱出するかということになる。

 ザッカランは城塞都市で、当然のようにその防御力は硬い。

 また、いくつかの門が存在しているが、外にガリンダミア帝国軍がいるとなれば当然のように現在はその門は閉じられており、簡単に脱出するような真似は出来ないだろう。

 かといって、ザッカランに潜伏し続けるといったような真似は出来ない。

 もしそのような真似をしたら、間違いなく雲海や黄金の薔薇の探索者たちに捕まってしまう。

 特にニコラスの魔法は、この一行にとって命綱とも呼ぶべきソランタのスキルを無効化するという、非常に厄介な能力を持っている。

 そうである以上、今はどうにかしてソランタを敵に見つからないように隠すのが最優先だった。


「本来なら、協力者に助けを求めるところだが……それも難しいだろうな」


 兵士の一人が呟いた言葉に、皆が同意する。

 こうして自分たちがいた場所に雲海や黄金の薔薇の探索者が集まっている以上、協力者たちの誰かが……場合によっては全員が捕まったのは間違いない。

 そうである以上、協力者と接触するのは危険だ。

 雲海や黄金の薔薇に捕らえられていなくなっているだけならまだしも、場合によっては自分の罪を軽くする為にソランタたちを裏切り、罠に嵌めようとする可能性も否定出来ない。


「けど、そうなると……どうする? 今の状況だと隠れてもニコラスとやらの魔法ですぐに見つかるから、どこかに潜むことも出来ない。かといって、どこかの建物に籠城するなんてのは論外だ」


 兵士の一人の言葉に、皆が同意する。

 籠城というのは、あくまでも援軍がくるのを前提としての戦術だ。

 だが、ザッカランになる建物の中に籠城しても、ザッカランの外にいるガリンダミア帝国軍が縁軍に来る可能性はまずない。

 そもそも、それ以前に籠城する建物がないという点も大きい。

 その辺の……それこそ先程まで兵士たちが隠れ家として使っていた屋敷のような建物では、籠城しても意味はないだろう。

 特に雲海や黄金の薔薇には心核使いがいるのだから尚更だろう。


(いや、アランを人質にすれば……駄目だな。そもそも籠城をした時点でこっちの負けだ)


 一瞬いい考えが浮かんだかも? と思う兵士の一人だったが、すぐにその考えを否定する。


「そうなると、やっぱり半ば強引にでもザッカランから脱出した方がいいな」


 兵士の一人が最終的にそう結論を出す。

 そう呟く言葉には、やはり苦々しげな、そして悔しげな色があった。

 自分たちを逃がすべくニコラスたちに無謀な戦いを挑んだ三人のことを思い出しているのだろう。

 任務が最優先。

 それは分かっているが、それでも長年一緒の時間をすごしてきた相手だけに、その仲間たちが犠牲になったことを悔しく思う気持ちはあった。

 アランを……雲海の中でも最強の心核使いと呼ぶべき人物を捕らえたのだ。

 当然のように知ってる情報は聞き出すだろうし、その手段は問わない。

 尋問ではなく拷問の類が行われても、不思議ではなかった。

 このような任務に就いている以上、兵士たちも拷問に対する訓練は受けている。

 だが、拷問に耐えることは出来ても、痛いものは痛いのだ。

 仲間たちがそんな目に遭うというのを考えると、兵士たちにも思うところは多い。

 だが……それでも、任務は達成する必要がある。

 今は悲しむよりも何とかザッカランを脱出する必要があった。

 それこそ、もしここで自分たちが捕まったら、仲間の兵士たちが命懸けで自分たちを逃がしてくれた意味がなくなるのだから。


(考えろ、考えろ、考えろ。今の状況で俺たちに何が出来る? どうやってザッカランを脱出する?)


 そう考えるが、思い浮かぶ方法はない。

 いや、時間をかければどうにかなる方法はいくつかあるのだが、問題なのは今の状況ではそもそもそのような時間がないということだろう。

 だからこそ、今の状況で思い浮かぶ方法は短絡的というか、乱暴な方法でしかない。

 そのようなことをした場合、自分たちの被害が大きくなるのは確実だ。

 確実だが……それでも、他にやりようがない以上、その方法を選ぶしかないというのも事実だった。


「強行突破してザッカランを脱出するぞ」


 兵士の一人がそう結論づける。


「え!?」


 そんな兵士の言葉に驚きの声を口にしたのは、ソランタのみ。

 他の兵士たちは、全員が時間のない現在はそのような方法になるしかないと分かっていたのだろう。

 その言葉に反論する様子を見せず、大人しく納得の表情を浮かべる。


「そうだな。結局のところ、それしかないか」


 結局そういうことに決まる。

 自分たちの任務は、アランを……そしてこれからも自分たちの上司たるバストーレの役に立つソランタを無事にザッカランから脱出させることだ。

 もちろん、ここで命を捨てると判断決まっている訳ではない。

 兵士たちも、自分たちが生き残れるのならそれに越したことはないと、そう考えているのだから。

 だが、それでも最優先すべきはバストーレからの命令なのだ。


「そうなると、問題なのはどこの門から出るかだな。……それを決める前に、どこかで休まないか? いくらなんでも、このまま走りっぱなしというのは体力的に厳しい。それに……」


 兵士が誰を心配しているのかというのは、走っている全員が理解する。

 未だに呻き声を発し続けているアランを運んでいる者を心配しての言葉だ。

 アランは大人……とは言わないが、それでも体格的にはとてもではないが子供と呼ぶことが出来ないのは間違いない。

 それだけに、体重も六十キロから七十キロ程度はある。

 そのような重量物を抱え、その上で走っているのだ。

 当然ながら、それを行っている兵士は体力の消耗が激しい。


「はぁ、はぁ……そうして貰えると助かる。ただ、迂闊な場所に隠れれば、すぐにニコラスたちが来るぞ。こうしている今も、俺たちを追ってるんだろうし」


 それが一番の問題だった。

 屋敷の前でニコラスが使っていた魔法は、発動にどれだけの魔力を使うのかは分からない。

 また、一度使って終わりという訳ではなく、一度発動したあとは効果が続くということは、普通に考えればその間も普通に魔力が消耗しているはず。

 しかし、そのような状況であってもニコラスは襲いかかった兵士と杖で渡り合っていた。

 だとすれば、あれだけの魔法を使っても魔力はほとんど消耗しないのか。

 そのように思ってしまうのは、当然のことだろう。

 幸いにして、効果範囲はそこまで広くはなかった模様だったが……それでも、今の状況を思えば、それはが幸いだとは思えない。

 不幸中の幸いとい言葉は相応しいのかもしれないが。

 とにかく、今は余裕があるのは間違いない。

 その余裕が少しだけなのか、それとも意外と大きいのか。

 その辺りは兵士たちにも分からなかったが、この状況で大きく余裕があると思えるほどに気楽な者はいない。


(それでも、おいついてくるまでは、また多少なりも時間がかかるはずだ。俺たちがザッカランから脱出するには、その少しの時間を最大限に使う必要がある)


 兵士の一人がそう思い……自分たちが現在いる場所を想像する。

 現在兵士たちは門のある城壁の方に向かって走っていた。

 ただし、その門はガリンダミア帝国軍が配置している方面の門ではない。

 何故なら、当然のようにガリンダミア帝国軍がいる場所では警戒が厳しいからだ。

 もちろん他の門もガリンダミア帝国軍がいる以上、警戒が緩い訳ではない。

 それでも、ガリンダミア帝国軍がいる門……正門に比べれば、いくらか警戒は緩いはずだった。

 当然のように、警戒が緩いとはいえ戦力が配置されている以上、無傷で脱出するといったような真似はまず出来ない。

 ……そもそもの話、まずは閉じている門を開く必要があり、それを開くのに一人……場合によっては数人を使う必要があるのだ。

 そうである以上、そこでまた脱落するのは確実だろう。

 そう思いつつ、兵士たちはソランタの力で姿を消したまま目的の門に向かうのだった。 

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