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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
ザッカラン防衛戦

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186/421

0186話

「むぐぐぐぐ」


 猿轡をされ、手足を縛られているアランは、現在ソランタたちが使っている隠れ家の一室で床に転がされていた。

 一応、アランも雲海の面々から縄抜けの方法を教えて貰ったりはしていたのだが、残念ながらアランはそこまで縄抜けは得意ではない。

 少なくとも、自分で意図的に関節を外すといったような真似は出来ない。

 ……もっとも、アランを結んでいるロープは、関節を外しても抜けられないように特殊な結び方をされているのだが。

 そのため、もしアランがそのような真似をしても無駄な行動となってしまっていただろう。

 それでも、今のアランにはこのまま大人しくしているという選択肢は存在しなかった。

 現在の状況を思えば、何とか身動きが出来ない状況から逃げ出し、その後にカロを取り戻してここから脱出し、雲海のいる宿に逃げ込むという必要があったのだから。

 なお、カロの奪還はここを逃げ出す前の絶対条件となる。

 心核と心核使いの関係というのはその組み合わせで固定されている。

 具体的に言えば、もしアランがカロを諦め、何らかの手段で別の……遺跡から入手したか、誰かが手放して長時間経過し、他の心核使いが使えるようになった心核を入手しても、新しい心核を使ったからといって、その心核がゼオンとなることはない。

 アランの場合は異世界からの転生者という意味で若干特別なので、もしかしたらその辺りもどうにかなるかもしれないという思いはあったが、だからといってそんな賭けを行ってみたいとは到底思わなかった。


(とにかく、これからどうするかを考えるにしても、今はまず何とかこの状況から脱出しないと)


 そんな風に考えつつ、部屋の中に何か脱出の手掛かりにあるようなものはないかと見回すも、アランを誘拐した者たちは最初からここをアランの監禁場所にするつもりだったのか、それとももっと別の理由からなのか、部屋の中には脱出に役立ちそうな物はない。

 刃物の類は当然のこと、金属製の道具の類も存在しないのだ。

 この状況から一体どうやって逃げ出すべきか。

 そう考えているアランだったが、不意に扉が開けられて誰かが入ってきたのを見て、その動きを止める。

 予想通りと言うべきか、そこにいたのは自分をここまで連れて来た男の一人。

 ただ、アランにとっては本当に不思議なことに、男が自分を見る目には憎悪の類は感じられない。

 アランは自分がガリンダミア帝国軍にどれだけの被害を与えてきたのかというのは、知っている。

 それこそ、本来ならガリンダミア帝国軍にとって自分は不倶戴天の敵と言っても過言ではないだろうと、そう思えるだけの被害を与えてきた。

 ……その辺は、ザッカラン攻略時に可能な限り被害を出さないように注意し、さらには大樹の遺跡を攻略したにもかかわらず、ザッカランの中には未だにアランを……雲海を憎んでいる者がいるというのが示している。

 実際、この隠れ家も目の前の男たちではなく、ガリンダミア帝国軍と繋がっている者が用意したのだと予想するのは、そう難しい話ではないのだから。

 その辺の事情を考えれば、やはり今回の一件はザッカランにいるその手の者たちの協力があってのことだというのは、アランにも容易に予想出来る。


「食事だ」


 そう言い、男は持っていたパンをアランの前に置き、縛っている手足を解いていく。

 ただし、完全に解くのではなく、解いたのは手の場所だけだ。

 ついでに猿轡を外せば、食事をするには十分な体勢となる。

 そして、逃げようとしても足が縛られている以上、逃げ出すような真似は出来ない。

 アランにとっては、今が逃げ出せる絶好のチャンスでもあるのだが……当然のように、パンを持ってきた男はアランが食事を終わるまでは部屋から出て行く様子はない。

 また、アランは気が付かなかったが、いざというときのために扉の前にも男が一人待機しているので、アランの実力ではどうあっても逃げるのは不可能だった。


「これだけか?」

「何だ、不満か? 普通なら、捕虜ってのはこういうパンを食べるようなことも出来ないんだぞ?」


 その言葉に、アランは不満そうな表情でパンに手を伸ばしながら口を開く。


「それは捕虜だったらだろ? 俺はお前たちに誘拐されたんだ。つまり犯罪の被害者だ。捕虜と一緒にするのはおかしいだろ」


 あとは、心核を強引に奪われたので、窃盗もか。

 そう告げるアランだったが、男はそんなアランの言葉を特に気にした様子もなく、笑みを浮かべて口を開く。


「お前、自分が今まで何をやってきたのか分かってるのか? ガリンダミア帝国軍にここまで明確に反抗したんだ。そうである以上、許されるとは思ってないよな?」

「反抗? 俺の心核を奪って、俺を連れ去ろうとするのを防いだだけなんだがな」

「なら、ザッカランを攻めたときに協力したのは何でだ?」

「ぐっ……」


 そう言われれば、アランとしては反論出来ない。

 いや、正確には反論しようとすれば出来るのだ。

 自分に手を出せば大きな被害を受けるので、下手に手出しをしない方がいいと、そう思うくらいには。

 だが……それはあくまで、自分が勝っている状況でなら言えることでしかない。

 今のように捕まってしまっては、正直なところ意味はなかった。


「色々とあるんだよ、俺達にも。……それに、今回の件は元々ガリンダミア帝国軍がラリアントに攻め込んできたのが理由だろ?」

「それはそれ、これはこれだ」

「……こういうときに使う言葉じゃないと思うんだが」


 パンを千切って口に運びながら、アランはそう言葉を返す。

 一件すると、和やかに――とは言えないかもしれないが――話しているが、実際には少しでも向こうから情報を引き出し、そしてここから脱出する隙を窺っていた。

 だが、心核を使っての行動ともなれば、アラン非常に高い才能を持つものの、生身では決して強くはない。

 そして現在アランの目の前にいる人物は、間違いなく生身でも自分より強かった。

 そんな相手を出し抜く方法は何か。

 パンを食べながら必死になって考えるが、残念ながら思いつくようなことはない。


(トイレに行った時にどうにかするか? それで油断してくれるとは思えないし、失敗すれば余計に監視は厳しくなるはずだ。そうなると、間違いなく今よりも逃げ出すのは難しくなる。……心配してるだろうな)


 雲海の面々は、間違いなく自分を捜してくれているだろう。

 また、目の前で自分を連れ去られたレオノーラも自分を捜しているのは間違いない。


「水はないのか?」

「ちょっと待ってろ」


 我慢しろとでも言われるのかと思ったアランだったが、男は水を欲しいという言葉に部屋を出ていく。

 もしかしてこれは? そう思ったが、扉の外で誰かと話している声が聞こえてきたことで、アランは自分と話していただけではなく、部屋の外にも誰かがいたということを理解する。


(ちっ、厄介な真似をしてくれるな。……当然のことだろうけど)


 ガリンダミア帝国軍にとって、自分という存在は非常に大きな意味を持つ。

 アランもそれを知っていたので、今の状況では何も言うことが出来ない。


(とにかく、焦って行動に出なくてよかったな)


 もし今の状況で無理矢理逃げ出し、自分の前にいた男を何とか出し抜くことが出来たとしても、部屋から飛び出た瞬間にはもう捕まっていただろう。

 部屋の中には窓の類もないので、逃げ出すとすれば扉しかないというのは、非常に痛い。

 向こうもそれを理解しているからこそ、この部屋にアランを閉じ込めているのだろうが。

 そんなことを考えていると、小さめの……それこそ四リットルくらいしか入らないような木の樽と木のコップを持った男が戻ってくる。


「ほら、この木の樽には水が入ってるから、好きなだけ飲め」

「礼は言わないからな」


 せめて木ではなく金属製のコップなら、何らかの武器に使えたものを。

 そう思いながら、自分の持っている諸々の荷物を奪われているのを残念に思う。

 武器の長剣とは言わないが、それでも解体を含めて様々なことに使えるナイフの類があれば、ここで何らかの行動を起こすようなことも出来たのに、と。


「好きにしろ」


 アランの言葉に、男は短くそれだけを告げる。

 そんな男を睨み付けてから、アランはコップで水を汲んで飲む。

 パンによって水分が吸い取られていた……そして何より緊張で喉が渇いていたこともあり、数杯の水をすぐに飲み干す。


「ふぅ」


 満足したといったようにコップを置くアランだったが、そのような状況であっても何とかこの場から逃げ出す方法を考えるも、何も思いつかない。


「逃げる方法を考えてるな?」


 どきり、と。

 男の口からそのような言葉が出た瞬間、アランは自分の考えが読まれたのかと、一瞬だけ心臓湖の鼓動が強くなる。

 だが、それは間違いだとすぐに考え直す。

 今の自分はここに捕らえられている身だ。

 そんな状況で曲がりなりにも手のロープは外され、猿轡もついでに外されている。

 であれば、この状況で自分が逃げなということを考えないはずがないだろう、と。


(つまり、お前の考えは全て見通しているから、ここで何を考えても無駄だぞ。そう言いたいんだろうな。……厄介な)


 アランは男の言葉には何も答えず、代わりに鋭い視線を向ける。

 半ば殺気が籠もった視線だったが、アランの前にいる男はそんな殺気を全く気にした様子もなく、笑みを浮かべるだけだ。


「ふん」


 そんな男を前に、アランは結局何を言うでもなく結局鼻を鳴らす。

 今この状況で自分が何を言っても、それは負け犬の遠吠えでしかないと、理解しているためだ。


(カロがここにいればな。……つくづく、ここでカロを奪われたのは痛い)


 アランにとって、カロというのは相棒……いや、ペット的な存在でありつつ、同時に心核という意味では変えようがない存在だった。

 今の状況を考えれば、手元にカロがあったらすぐにでもゼオンを召喚して逃げ出すことが出来る。

 だが、カロが手元にない以上、どうしようもないのは間違いない。

 結局今のアランに出来るのは、何かあった時……それこそ、雲海や黄金の薔薇がこの建物に突入してきた時、すぐにでもそれに対応出来るよう、準備しておくことだけだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] カロが『某宇宙世紀のマスコットなアイツ』と同じなら、自力でアランのところまで跳ねたり転がったりでやって来そう
[一言] 今後カロは鎖帷子に使用するような強度の鎖の網袋に入れた状態で首にかけて持ち歩くべきだな。
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