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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
心核の入手

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0017話

『はあああああああああああああああああああああああああああああっ!?』


 目の前に姿を現した存在を見て、その場にいた者全員――レオノーラ以外――の口から悲鳴が上がる。

 その中には普段飄々とした態度のイルゼンや、アランの両親のリアとニコラスも混ざっており、それが目の前の光景の異常さを表していた。

 雲海も黄金の薔薇も、ゴーレムという存在は当然のように知っている。

 古代魔法文明の遺跡においては、かなりメジャーなモンスターだからだ。

 一度命令すれば、その身体が壊れるまで……場合によっては身体が壊れても命令に従うのだから、雑用や警備といった仕事に非常に便利に使われていたのだ。

 それがまだ遺跡に残っており、侵入者を排除するために戦闘になる……というのは、それこそ探索者なら誰でも経験したことがある。

 だが……そんな者たちにしても、現在視線の先にあるゼオンはとてもではないが普通のゴーレムには見えなかった。

 当然だろう。明らかに通常のゴーレムとは違う。

 いや、それどころか普通のゴーレムとの共通点を見つける方が難しいのだから。

 唖然、呆然。

 そんな表情を浮かべており、未だにゼオンに目を奪われているその様子を、アランはコックピットの中の映像モニタで眺める。


「まぁ、驚くよな。……とはいえ、いつまでもこのままって訳にもいかないか」


 呟き、ゼオンを動かす。

 とは言っても空を飛ぶのではなく、一歩前に歩いただけだ。

 だが、十八メートルもの全長を持つロボットが……それも、普通のゴーレムのようにのっぺりとした姿ではなく、相手に威圧感を与えるのに十分な偉容を持つゼオンだ。

 そんなゼオンが歩けば、当然のように見ている者たちは数歩後退る。

 ある程度の距離があってもこうなのだ。

 もし何も知らない者がいきなりこのゼオンを見れば、一体どうなるのか。

 それは、考えるまでもなく明らかだろう。

 その結果が、今の状況なのだから。

 とはいえ、せっかくゼオンを呼び出したのに、一方的に怖がられているのも色々と不味い。

 そう判断したアランは、外部スピーカーのスイッチを入れる。


「あー、あー、聞こえてると思うけど、このゴーレムには俺が乗ってるんだ。別に遺跡で出て来るゴーレムのように、意味もなく襲ってくるとかはしないから安心して欲しい」


 外部スピーカーによってアランの声が聞こえたのか、映像モニタに表示されている探索者たちの姿は大分落ち着いたように見える。

 今なら機体を動かしても問題はないだろうと判断し、アランは再びゼオンを一歩歩かせた。

 探索者たちは再び後ろに下がったが、それでも先程よりは大袈裟ではい。


「武器は……いや、今の状況だと使わない方がいいか」


 ゼオンの姿だけでこれだけ驚いているのだから、ビームライフルやビームサーベルの類を使った場合、一体どうなるのか。

 また、ここには雲海や黄金の薔薇以外の探索者の姿もあるのだから、わざわざそのような連中にそれらの武器を見せる必要もないだろうと判断し、コックピットの扉を開き、乗降ケーブルを使って地上に降りる。

 ざわり、と。

 アランの姿を見た者たちがざわめく。

 その理由は、ゼオンのコックピットからアランが下りてきたことか、それともアランが離れたのに何故かゼオンがまだその場に残っているからか。

 アランにもその理由は分からなかったが、恐らく後者なのだろうと考えた瞬間、まるでそれが合図だったかのようにゼオンを構成していた魔力が塵になって消えていく。

 そうして最後に残ったのは、地面に落ちている心核のみ。

 大勢からの視線を浴びつつ、アランは地面の心核を手に取る。


「ぴ」

「今は静かにしてろ」


 心核……カロが鳴き声を上げたのを聞き、アランは素早くそう言う。

 幸い今のカロの鳴き声は離れた場所で自分の行動を見守っている者たちには聞こえなかったのか、特に騒ぎになっている様子はない。

 ただえさえゼオンというロボットを心核で生み出すというだけでも目立っているのに、そこにカロのように自我のある心核などという存在が知られれば、間違いなくいらない注目を浴びることになる。

 そんな思いからの言葉だったが、幸いにもカロはアロンの言葉に従い、大人しく黙り込む。


(ペットロボット的な存在だから、俺の指示にはしっかりと従うのか?)


 そんな疑問を抱きつつ、アランはイルゼンやリア、ニコラスといった面々のいる場所に向かう。


「まぁ、こんな訳で、俺は心核を手に入れたんだけど……遺跡の中では使いにくそうだっただろ?」

「そうね。あそこまで大きいと……もちろん、遺跡の中には通路が広い場所もあるけど、そういう場所は大抵かなり難易度の高い遺跡だしね」


 いち早く我に返ったリアが、アランの言葉にそう呟く。

 ゼオンの大きさでも入れるような遺跡もあるにはあるが、当然そのような場所は非常に少なく、同時に難易度の高い遺跡として知られていた。

 それだけの、見るからに強力なゴーレム――という表現が相応しいのかはリアにも分からなかったが――を持っていても有効に使えるかどうかというのは、非常に難しい。

 それこそ、普通に冒険者として活動した方が、討伐や移動、護衛といったように、色々と使い勝手がいいのでは? と思うほどに。


「そうですね。このゴーレム……ゼオンでしたか。かなり特殊な存在ですが、それでも使えないという訳でもありません。ですが、それはあとで話しましょう」


 イルゼンがリアの言葉に割り込むようにして強引にそう言ったのは、やはりここに黄金の薔薇やそれ以外に元からここにいた探索者たちが近くにいるからだろう。

 ゼオンの姿を見せるのはともかく、それをどのように運用するのかといったことまでは、出来れば知られたくはなかった。

 だからか、イルゼンは話を逸らす意味も込め、レオノーラに視線を向ける。


「レオノーラさん、アラン君のゼオンは見せて貰いましたが、貴方の心核は見せて貰えないのですか?」


 半ば挑発的な言葉に、レオノーラ本人ではなく黄金の薔薇の面々の方が、不愉快そうな表情を浮かべる。

 だが、そんな部下たちを落ち着かせるように、レオノーラは優雅と呼ぶに相応しい動きで軽く腕を振るう。


「落ち着きなさい。アランの心核も見せて貰った以上、こちらも見せる必要があるわ。……そうよね?」


 尋ねるようなレオノーラの言葉に、イルゼンは満面の笑みを浮かべて頷く。

 そんなイルゼンに、レオノーラも笑みを浮かべてからその場を離れる。

 それこそ、アランがゼオンを呼んだときと同じくらい……いや、それよりも遠くまで。

 そうして十分に離れたところで、レオノーラは心核を起動する。

 瞬間、周囲には眩い光が放たれ……


「あれ?」


 ふと、アランが疑問を抱いて呟く。

 現在レオノーラから発している光は、たしかに眩しい。

 だが、それでも遺跡で見たときの方が、より眩しかったように思えたのだ。


(気のせいか? あの時は初めてレオノーラが心核を使ったし、こうした太陽の下じゃなくて空間の中だったからそんな風に感じたとか?)


 眩く輝くレオノーラの姿を見てそんな風に考えるアランだったが、完全に納得するようなことは出来ない。

 ただ、アランにとっては若干違和感があっても、それはあくまでもアランにとっては、の話だ。

 レオノーラが初めて心核を使う光景を見ている者たちにしてみれば、その光量は十分感動すべきものに思えた。

 そして……次の瞬間、黄金のドラゴンがその場に姿を現す。

 全高という点では、アランの呼び出すゼオンよりも小さい。

 だが、全長……そして純粋な質量という点で考えれば、明らかにゼオンよりも上だった。


『ふぅ。……どう?』


 以前と同様、アランの頭の中にレオノーラの言葉が響く。

 ドラゴンの顔だというのに、不思議とどこか得意げに見えるその様子に、アランは何かを言おうとして……ふと、周囲の様子に疑問を抱く。

 しん、とした静寂に包まれており、誰も何か言葉を発するようなことがなかったためだ。

 そうして改めて周囲の様子を見ると、皆が唖然とした様子で……それこそ、ゼオンを見たときよりもさらに驚いたといったように、黄金のドラゴンを眺めている。

 総質量ではゼオンよりも明らかに上なんだから仕方がないかと思ったアランは、少しだけ拗ねた様子を見せながら口を開く。


「ほら、レオノーラも自慢げにどう? って聞いてるんだから、答えてやった方がいいんじゃないか?」

『え?』


 アランの言葉を聞いていた者たちが、揃ってそう声を上げる。

 そう、それはまるでアランが何を言っているのか理解出来ないと、そう言いたげな様子で。

 当然のように、そんな相手の様子を見ればアランだって疑問を抱く。


「えっと……レオノーラの言葉、聞こえてるよな?」


 一応、といったように恐る恐ると尋ねるアランだったが、その視線を向けられた者たちは揃って首を振る。……縦ではなく、横に。


「アラン、一応聞くけど……彼女の声が聞こえているの?」


 リアが尋ねる言葉に、アランは当然といったように頷く。


「聞こえないか? 直接声を発してるんじゃなくて、頭の中に響く感じで」

「私には聞こえないわ。……貴方は?」


 ニコラスに視線を向けるリアだったが、そのニコラスも首を横に振る。


「いや、俺も聞こえないな。そうなると、魔力云々の問題じゃなく……相性?」


 そんなニコラスの言葉に、アランは微妙な感じがする。

 アランにとって、レオノーラという相手は傍から見ているだけなら文句なしの美人で目の保養と言えるのだが、その性格はアランとは合わない。

 少なくても、アラン本人はそう思っていた。

 取りあえず、相性云々という話は横に置き、アランは目の前で戸惑っている様子の黄金のドラゴン……レオノーラに向ける。


「レオノーラ、取りあえず元に戻ったらどうだ? どうやら、お前の言葉は俺にしか聞こえてないらしいし」


 そう言いながらも、レオノーラが自分の、そして他の面々の言葉を理解出来るのは、せめてもの救いだろうと思う。

 そんなアランの視線の先で、やがて黄金のドラゴンの身体が塵となって消えていき……最終的に、そこにはレオノーラの姿だけが残っていた。

 そのレオノーラは、太陽に煌めく黄金の髪を掻き上げ……やがて、アランの方に近づいてくると、一言呟く。


「アラン、黄金の薔薇に入りなさい」

「え? 嫌だ」


 半ば反射的に、アランはそう返事をするのだった。

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