0146話
n-starにて異世界だから誰かに従うのはやめにする ~石化の視線でヒャッハーする~が更新されています。
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「お、見えてきた。……見て下さい。あそこが地下九階に続く階段ですよ」
ゼオンのコックピットの中で、アランは外部スピーカーのスイッチを入れてそう告げる。
ゼオンの背中を含め、様々な場所に乗っている者たちは、アランのその声にゼオンの進行方向に視線を向け……
『あれか。モンスターに襲われてるとか何とか言ってたけど、どうやらもう倒してしまったみたいだな』
地下九階の階段の辺りに視線を向けた探索者の一人が、そう呟く声がアランにも聞こえる。
実際、アランがオアシスに向かって出発する前は、以前偵察したときに見た巨大なサソリと戦っていたのだが……すでに戦闘は終わっており、地下九階への階段の側で、現在雲海、黄金の薔薇の探索者が揃ってサソリの解体を行っている様子が映像モニタに表示されていた。
別に無理にサソリの解体をする必要もないのだが、今は特にやるべきこともないからということで、暇潰しも兼ねて行っているのだろう。
本来なら、地下九階の様子を見てくるということをしてもいいのだが、その辺はイルゼンとレオノーラという、それぞれのクランのリーダーに止められている以上、そのようなことは出来ない。
これが軽い命令であればともかく、くれぐれも早まった真似はしないようにと、前もって言い聞かされている。
……もっとも、そんな真似をしなくても無茶な真似はしないだろうとというのが、アランの予想だったが。
この大樹の遺跡の地下八階と地下九階……そしてそれより深い場所は、未だに何の情報もない。
そのような場所に少数で、それも暇潰しの面白半分で行こうなどということは、自殺行為でしかない。
お互いのことを何も知らない者同士であればともかく、雲海も黄金の薔薇も相応に長い間一緒にクランを組んで活動している者たちだ。
イルゼンやレオノーラにそのように言われていのに、それを無視するような真似はしないだろう。
「じゃあ、取りあえずサソリの解体の手伝いをお願いしますね。皆を下ろしたら、俺はまたオアシスに戻るので」
『おう、分かった。……にしても、あのサソリの解体は結構面倒そうだな。まだ昨夜の狼の方が簡単そうだ』
面倒そうな、そして嫌そうな声が聞こえてくるが、アランもその意見には賛成だ。
狼の類はそこまで解体が難しくはないのだが、サソリのようなモンスターの場合は、何気に結構解体が難しい……いや、より正確には面倒なのだ。
「なら……」
そう言おうとしたその瞬間、不意に近付いてくる敵がいるという反応をレーダーで捉えたゼオンが、音を立ててそれを知らせる。
「何だ?」
その反応を疑問に思ったアランだったが、現在何人もを身体の様々な場所に乗せている以上、迂闊に動くような真似も出来ない。
それこそ、敵が……もしくは何らかの未知の存在がやってきたからといって素早く動くような真似をした場合、掴まっている者が落ちる可能性が高いのだから。
そして落ちれば、下は砂漠でも怪我をするのは間違いなく、下手をすれば死にかねない。
だからこそ、今の状況でアランが出来るのは一つだけ。
「何かが……恐らくは敵が近付いてきます! もしかしたら戦いになるかもしれないので、全員しっかりと掴まって下さい!」
『近付いてきたって……敵か? コウモリは楽に倒せるとか言ってなかったか?』
ここまでの旅路で、世間話のようにしてアランから聞いたことを口にする探索者だったが、アランはそれを即座に否定する。
「この反応からすると、多分コウモリじゃない、別の何かです。……レオノーラ、そっちでも感じるか?」
『ええ。どうやら結構な大物が襲ってくるみたいね』
最後の言葉をレオノーラに尋ねると、念話で返ってくる。
レオノーラも感じているのなら、それはやはりレーダーの故障といったものではないのは明らかだ。
そうなると、問題なのはその大物を相手にどうするべきか。
考え……やがて取れる選択肢はほぼないことに気が付く。
「隠れるにしても、場所がない。それどころか、隠れている場所を攻撃されれば、向こうが有利になる。かといって迎撃するのは……これもまた難しい」
迎撃するとなれば、当然のように激しく空中でやり合うことになる。
そうなると、ゼオンや黄金ドラゴンに掴まっている者も戦闘中の動きで振り落とされたり、敵の攻撃を回避したつもりでもそのような者たちに当たったりといったことになりかねない。
その辺の事情を考えると、戦闘をするのは避けたいというのが、アランの正直な気持ちだった。
『なら、急いで俺たちを降ろせ! いや、地上近くまで高度を下げれば、こっちで勝手に飛び降りるから、高度を下げろ!』
外部スピーカーが入ったままだったので、アランの呟きが聞こえたのだろう。
先程までアランと話していた男がそう叫ぶ声が聞こえてくる。
(高度を下げて、皆に飛び降りてもらう。それしかないか?)
アランとしては、そんな真似は出来れば避けたいというのが正直なところだったが、敵に……それも恐らくはコウモリとは違うだろう強力な敵と戦うのを考えると、それが最善の選択のような思いがあった。
「分かりました。なら、すぐに高度を下げるので飛び降りて下さい」
下が地面ではなく、砂だというのもこの場合は大きかっただろう。
ゼオンや黄金のドラゴンが飛んでいる高度から飛び降りれば、ただではすまない。
だが、高度を下げた状態から飛び降りたのであれば、砂漠の砂が優しく受け止めてくれるはずだった。
だからこそ、アランもすぐにそう判断したのだ。
『なら、私の背中に乗ってる人たちにも伝えてくれる?』
黄金のドラゴンに変身した状態のままでは、念話でアランにしか自分の意思を伝えられないレオノーラの頼みに頷き、アランは黄金ドラゴンに近付くと、背に乗っている者たちに向けてレオノーラの言葉を外部スピーカーで告げる。
飛んでいる最中ではあったが、かなり近くまで接近したということもあり、背中に乗っている面々にも聞こえたのか手を振って合図をしてくる。
アランはレオノーラにそれを伝え、高度を下げていく。
やがて地上近くなったところで、ゼオンと黄金のドラゴンに乗っていた面々が次々と飛び降りていく。
飛行速度も相応に落としていたこともあり、地上が砂で、飛び降りた者たち全員が探索者ということもあって、全員が怪我もなく無事に飛び降りることに成功する。
「隠れてて下さい!」
外部スピーカーでそう告げるアランだったが、考えてみれば砂漠で隠れるような場所はない。
周囲に岩か何かでもあれば話は別だったのだろうが、残念ながら周囲にそのような物は存在しない。
だからこそ、今の状況では地面にいる者たちに注意が向かないようにアランやレオノーラが頑張る必要があった。
「レオノーラ、まずは近付いてくる敵をこっちに引き付ける。敵の姿は見えたか?」
『……見えたわ。また、とんでもないのが来たわね』
呆れが強く出た様子で呟いたレオノーラに、アランも周囲の様子を確する。
高度をとったおかげで、周囲の見晴らしはいい。
そんな中でアランが見たのは……
「嘘……だろ……」
とてもではないが信じられない。
そんな色が強く出たのは、近付いてきた相手が予想外も予想外といったところだったからだろう。
もちろん、コウモリのような容易く倒せる敵が出て来るとは、アランも思っていなかった。
だが……ゼオンの映像モニタに表示された姿は、そんな楽観的な思いを容易に吹き飛ばすような光景。
一言で言えば、巨大な鷲。
それも巨大と言っても、普通の鷲よりも大きな鷲といった訳ではなく、それこそゼオンや黄金のドラゴンよりもさらに大きい。
一体、このようなモンスターがどうやって棲息出来ているのかはアランにも分からないが、目の前にいるのは間違いない。
であれば、そのような存在がいるというのは間違いない。
……それでいて、その巨大な鷲は真っ直ぐにゼオンと黄金のドラゴンに向かって移動してくるのだ。
明らかに、それはただ通り掛かった訳ではなく、何らかの意図を持って近付いてきている。
「レオノーラ、逃げられると思うか?」
『無理でしょうね。……私たちだけなら、どうにかなったと思うけど』
そんなレオノーラの声に、やっぱりなとアランも納得してしまう。
ゼオンと黄金のドラゴンの飛行速度は、かなり速い。
恐らく迫ってくる巨大な鷲を相手にしても、逃げ切れるだろう程には。
だが……それは、あくまでもゼオンと黄金のドラゴンだけであればの話だ。
先程砂漠に降ろした面々を乗せて出せる速度では、到底近付いてくる巨大な鷲から逃げられるとは思えなかった。
(そうなるとい、やるしかない……か。まぁ、あれだけ巨大なモンスターが多数いる訳じゃないだろうから、ここであの巨大な鷲を倒してしまえば、この砂漠での移動も多少は安全になるのは間違いないはずだ)
半ば無理矢理にそう自分に言い聞かせたアランは、ゼオンにビームライフルを構えさせる。
「レオノーラ、まずは俺が先制攻撃をする。それで構わないか?」
『ええ。じゃあ、私はビームライフルの後にレーザーブレスで追撃するわね』
「頼む」
短く言葉を交わし、ビームライフルの銃口を巨大な鷲に向け……すると、次の瞬間、巨大な鷲は翼を羽ばたかせながら、急激に進路を変える。
上空で激しく羽ばたかされた翼により、地上では激しい風が吹き荒れる。
幸いにしてまだ距離があったので、地上に降りた仲間たちに被害が出るようなことはなかった。
だが……そんなことよりもアランが驚いたのは、巨大な鷲がまるでゼオンの構えたビームライフルに反応するように突然進路を変えたことだ。
進路を変えたとはいえ、それはアランたちから離れた訳ではない。
進路を変えながらも、未だにゼオンや黄金ドラゴンがいる方に向かって飛んできている。
しかし……そんな巨大な鷲の姿を見て、アランは驚く。
ビームライフルを構えた瞬間にその射線軸上から移動したということは、それはつまりあの巨大な鷲はビームライフルについて危険を感じたということになる。
この地下八階に入ってからは、まだ一度しか使っていないビームライフルに。
(一体、何でビームライフルの危険を知っている?)
そう思いながらも、狙いを修正し……ビーラムライフルのトリガーを引くのだった。




