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0141話

n-starにて異世界だから誰かに従うのはやめにする ~石化の視線でヒャッハーする~が更新されています。

https://ncode.syosetu.com/n8234fb/

「寒いな」


 ぶるっと震えながら、見張りをしていた探索者の一人が焚き火に視線を向ける。

 オアシスで野営をすることになったのだが、当然のように夜になれば見張りは必要だった。

 砂漠の凶悪なモンスターがいるというのは、アランがすでに確認している。

 また、野営地から少し離れた場所でオアシスの水を飲んでいるモンスターを確認したこともあり、見張りをしないという選択肢は存在しなかった。

 とはいえ、砂漠である以上当然のように夜になればその気温は下がる。

 遺跡の中とはいえ、砂漠はやはり砂漠ということなのだろう。

 そして問題なのは、薪の類がそれほど豊富にあるという訳ではないことだった。

 焚き火をする以上、当然のように燃やすものが必要なのだが、この砂漠においてそこまで燃やせるものは多くはない。

 一応、オアシスの周囲に生えている木の中には枯れ枝として落ちている枝がいくらかあったので、それを薪として使うことは出来たが、木々そのものがそこまで多くはない以上、好きなだけ使えるという訳ではなく、ある程度節約をする必要があった。

 もし節約をせず、寒さに対抗するように薪を使うようなことになれば、それこそ朝になる前に集めた薪は全て燃やしつくしてしまう。

 そうなれば、月明かり――太陽と同時に、この階層では月も存在していた――だけを頼りにモンスターを警戒するか、夜に薪拾いをしなければならなくなってしまう。


「って、来たぞ!」


 寒い寒いと言っていた見張りだったが、砂を蹴る足音が聞こえてくると即座にそう叫ぶ。

 すると、他の見張りたちも、すぐに武器を構える。

 夜の砂漠の中で襲いかかってきたのは、狼。


「ちっ、狼だ! 他のテントが襲われないように注意しろ!」

「キャンッ!」


 襲ってきた狼を長剣で斬り裂きながら、見張りの一人が叫ぶ。

 狼というのは、基本的に集団で狩りをする。

 こうして自分たちを襲っている間に、テントで眠っている者たちに襲いかかるという可能性もない訳ではないのだ。

 そして当然のようにテントの方でもこの襲撃の声は聞こえているのか、多くの者が起きるや否や、武器を手に飛び出す。

 襲ってきた相手が少数なら、それこそ見張りに戦いを任せておけばいい。

 だが、狼のように大量の敵が襲ってきたとなると、それに対処するのは当然だった。

 見張りではないからといって、自分がその戦いに参加しないなどという真似をしていれば、それこそ遺跡の中で生き残るような真似はまず不可能なのだから。

 そうして、気が付けばいたる所で探索者と狼の群れとの戦いが始まっていた。

 それこそ男女関係なく、探索者たちは狼と戦う。

 ……この砂漠に棲息する狼だけに、当然のように普通の狼という訳ではない。

 砂をある程度操ることが出来るという特殊な能力を持っており、その身体も普通の狼の二倍ほどもある。

 そのような狼が群れを成して襲ってきたのだから、戦う方としても非常に厄介なのは間違いなかった。


「ぐうっ、うおりゃぁっ!」


 自分にのしかかってきた狼の牙を長剣を相手に噛ませることで何とか防いでいたアランだったが、相手が巨体であるために、このままでは力で負ける。

 そう判断したアランは、狼の腹を蹴って巴投げの要領でその場を脱出する。


「ぴ!」


 アランの服の中で、カロが油断するなと鳴き声を上げる。

 その鳴き声に、アランも長剣を構えて自分が投げ飛ばした狼に向き合う。

 巴投げで投げ飛ばされた狼は、空中で身を捻って砂の上に着地しており、今にもアランに向かって跳びかかってきそうな様子を示していた。


「があああああぁっ!」


 アランを脅かすように吠える狼。

 だが、アランも雲海の探索者として育ってきたのだ。

 たとえ相手が強力なモンスターであっても、そう簡単に怯えるといったことはない。


「うおおおおおおおおおおっ!」


 相手に負けてたまるかと、アランは狼よりも大きな声を出して相手の雄叫びをむしろ呑み込む勢いで叫ぶ。

 相手の狼も、そんなアランの叫びに一瞬だけ気圧されたように動きを止め……


「はああああああっ!」


 そんな相手の隙を逃さず、アランは長剣を構えて一気に間合いを詰める。

 そんな一撃を、狼は当然のように迎え撃とうとするも、アランの声に一瞬怯えてしまったこともあり、動き出すのが一瞬遅れる。

 一瞬……本当に一瞬ではあるのだが、その一瞬は戦闘の中で非常に大きな意味を持つ。

 狼が動き出そうとしたとき、すでにアランは長剣の切っ先を狼に向けたまま走っていたのだ。

 夜空に浮かぶ月明かりに煌めく長剣の刃は、動き出すのが一瞬遅れた狼の身体を斬り裂く。

 ……突きであれば、本来なら狼の身体を貫くというのが最善の結果だったのだろうが、狼の動き出しが遅れながらも、何とか回避した結果だろう。


「ぎゃんっ!」


 だが、頭部や胴体を長剣で貫かれるといったことは何とか避けられた狼だったが、それでも身体を斬り裂かれたというのは間違いのない事実だ。

 そんな一撃に悲鳴を上げる様子を見たアランは、すぐに追撃の一撃を放とうとするが……


「ワオオオオオオオオオオオオン!」


 次の瞬間、そんな大声を上げて突っ込んできた狼に体当たりされ、吹き飛ばされる。

 狼が普通の大きさであれば、体当たりされたアランもそこまで大きく吹き飛ばされるといったことはなかっただろう。

 だが、砂漠に棲息するこの狼たちは、アランが知っている動物の狼と比べても倍近くの大きさを持つ。

 そのような狼が全速力で突っ込んできて、体当たりをしたのだ。

 しっかりと構えている状態であれば、あるいは耐えられたかもしれないが、目の前の狼を倒そうということだけを考えている今のアランには、その体当たりを回避するような真似は出来なかった。


「ぐおっ!」


 横からの体当たりで、激しい衝撃を受けて吹き飛ぶアラン。

 それでも吹き飛ばされた状態からすぐに起き上がることが出来たのは、今が戦闘中だと知っているからだろう。

 今の状況で転んだままだと、それこそ生死にかかわると、それを理解しての行動。

 だが……起き上がったアランの前にいるのは、狼が二匹。

 一匹はアランの攻撃で多少なりとも傷ついているが、もう一匹は無傷。

 そんな二匹が、爛々と光る目でアランを睨み付けていた。

 それこそ、喰い殺してやるといった目で。


「くっ!」


 そんな二匹を前に、アランは悔しげな声を漏らす。

 心核使いとしての能力に特化しているアランにとって、生身での戦いは決して得意ではない。

 この狼一匹を相手にしても、何とか互角……いや、純粋な戦闘能力では負けているに近いのだ。

 それでも何とか有利に戦うことが出来ていたのは、ある意味では運の要素が多きい。

 だからこそ、その運を最大限利用して一気に狼を倒してしまいたかったのだが、そんな時に敵に援軍が現れた。

 そのような状況で、今のアランが相手をどうにかするというのは……半ば自殺行為に等しかった。


(ゼオンを……いや、駄目だ)


 ゼオンを呼び出すか? と思ったが、今このような場所でゼオンを呼び出した場合、それこそ仲間にも被害が及ぶ可能性がある。

 現在オアシスでは雲海と黄金の薔薇の面々が、そこら中で狼と戦っているのだ。

 狼の群れはアランが日中に見たよりも大きい。

 単純に、アランが見たときはまだ群れが全て揃っていなかったのか、それとも襲撃する際に他の群れ合流したのか。

 その辺りの理由はアランにも分からなかったが、ともあれ今この場でゼオンを召喚した場合は、仲間にも被害が及ぶ可能性がある以上、出来ることではない。


(そうなると……どうする?)


 少しずつ、慎重に間合いを詰めてくる二匹の狼を前に、アランは考える。

 現在の状況で、一体どうすればいいのか。

 正直なところ、アランもかなり動揺している。

 二匹の巨大な狼を相手に、自分が戦ってどうにか出来るとは到底思えない。

 であれば、取れるべき手段は多くなく……


(防衛に徹する)


 そう、判断する。

 自分が防衛に徹しており、その間に他の探索者達が狼を倒して応援に来てくれるのを祈るしかない、と。

 このとき、アランの中に他の探索者たちが狼にやられるなどとは全く思っていなかった。

 ここにいる中で、生身では最弱の自分ですら狼の一匹とは何とか戦えるのだ。

 そうである以上、自他の探索者たちなら間違いなく狼を相手に勝てると思うのは当然のことだった。


「来い! ほら、どうした……来い!」


 相手の意表を突くために、積極的に好戦的な様子を見せるアラン。

 そんなアランの様子に、二匹の狼は……特に最初にアランと戦っていた狼は、疑問を抱く。

 自分との戦いですら、不利だった目の前の生き物は、何故ここまで挑発するような真似をしているのか、と。

 ……この砂漠の階層に、今まで探索者が現れたことがない……もしくは、現れてもほんの少数だったためか、人間という生き物に対しての理解が浅い。

 狼たちにっとては、人間の集団という食い応えのある獲物が纏まっているというだけで、襲ってきたのだ。

 今の状況で獲物がどう動くのかということは、それこそ狼たちにも予想は出来なかった。

 ……いや、こうして必死になって抵抗してくるというのは、予想されていたのだが。

 ともあれ、二匹の狼はアランの目に強い決意の光を見て、攻撃を一瞬躊躇し……


「待たせたな!」

「ぎゃんっ!」


 次の瞬間、そんな声と共に二匹いた狼のうちの一匹がが、槍で胴体を貫かれて吹き飛んでいく。

 残っていた一匹……最初にアランに襲いかかった狼は、一瞬何が起きたのか分からず、動揺の声を発し……アランがそのような狼の隙を見逃すはずがない。

 長剣を手に、一気に狼との間合いを詰める。

 狼にしてみれば、自分の方が有利と思っていた状況でいきなり仲間が攻撃され、動揺した隙を突かれた形となり、突っ込んでくるアランに向かって対処しようとした瞬間には、すでにアランは狼のすぐ目の前におり……大きく振りかぶられた長剣が、狼の頭部に向けて振り下ろされる。

 狼は咄嗟に何とか回避しようとするも、戦闘の中での一瞬の遅れはどうしようもなく……せめてもの抵抗にアランを睨み付けるのだった。

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