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0121話

 ラリアントに攻めて来たガリンダミア帝国軍が撤退し、数日。

 その間、ラリアント軍の面々は皆が喜んでいたが、当然のように喜んでいるだけではない。

 今回はこちらが一方的に攻撃されただけで――向こうが受けた被害もかなり大きかったが――ある以上、何らかの反撃はする必要があった。

 攻撃されても反撃をしない国家というのは、それこそ周辺諸国にしてみれば、何をやっても反撃をしてこない相手と、そう認識されてしまうのだから。

 そんな今の状況を思えば、やはり何らかの反撃は必須だった。


「いっそ、ガリンダミア帝国の帝都に攻撃をしては? アランの心核があれば、それも可能でしょう?」


 援軍としてやって来た貴族の一人が、そう告げる。

 とはいえ、その口調に以前のような嫌みったらしい色はない。

 高慢な性格をしていた貴族だったが、それでもラリアントで他の面々と生死を共にしたことにより、態度を変えた者も多い。

 中には普通の兵士に助けられた貴族も多く、そのような者たちが特に顕著だった。

 ……それでも、かなりの無理を言っているというのは、間違いのない事実なのだが。

 会議にてどのような反撃をガリンダミア帝国に行うかという中で出たその提案は、多くの者が賛同するが……セレモーナは首を横に振る。


「それは出来ない。いや、可能かどうかで言えば可能だが、そのような真似をした場合は、ガリンダミア帝国を本気にさせてしまう。ただでさえドットリオン王国とガリンダミア帝国では、向こうの方が国力が上なのだ」

「ですが……」


 セレモーナの言葉に、ガリンダミア帝国の帝都を攻撃するように提案した貴族が口を開く。


「ガリンダミア帝国は、周辺諸国と戦いを繰り広げています。それこそ、一国を占領したらまたその占領した国と隣接している国と……というように。そうである以上、こちらが帝都に攻撃しても、戦力的に反撃をするのは難しいのでは?」


 ドットリオン王国とガリンダミア帝国では、ガリンダミア帝国の方が国力が上なのは間違いない。

 だが、周辺諸国と戦い続けている今の状況であれば、ガリンダミア帝国もそこまで本気で反撃はしてこないのではないか。

 特にラリアントを攻めて来たガリンダミア帝国軍は手痛い……いや、そのような言葉では言い表せない程に、大きな被害を受けた。

 そう考えれば、ここでガリンダミア帝国がそまで思い切った反撃をするとは、到底思えなかったのだ。

 しかし、そんな貴族の言葉にもセレモーナは首を横に振る。


「いや、無理だ。……普通の国もそうだが、ガリンダミア帝国軍は普通の国以上に面子を気にする。これは、ガリンダミア帝国が周辺諸国を占領しているからこそだ」


 そこまで告げると、貴族の多くが……それこそ、帝都を攻撃するという主張をした者も、納得した表情を浮かべる。

 だが、そんな貴族たちとは裏腹に、セレモーナの言ってる意味が分からない者もそれなりにいる。

 そのような者たちに対し、セレモーナは言い聞かせるように口を開く。


「つまりだ。もし帝都を……ガリンダミア帝国の中心部分を襲われて反撃をしない場合、それはガリンダミア帝国の勢いが衰えた、もしくはそんな余裕がないということを示すということになる。そうなった場合、従属国はどうなると思う?」


 そう言われれば、何故ガリンダミア帝国が帝都を攻撃されたときにそこまで本気で反撃をするのかというのを、多くの者が理解する。

 もしここで甘い態度を……それこそ帝都を攻撃されたのに反撃しなかったり、もしくは軽い反撃程度であった場合、従属国や……もしくは現在攻撃されている国、そして近い将来攻撃されるかもしれない国は、それこそ多くの国が協力してガリンダミア帝国を攻撃するだろう。

 ガリンダミア帝国としては、そのようなことは絶対に認められない。

 だからこそ、もし本当に帝都が攻撃された場合は、それこそ他の戦線が少し苦しくなったとしても、大規模な反撃を行うだろう。

 そしてドットリオン王国に、そんなガリンダミア帝国の本気の反撃をどうにかするのは無理……とは言わないが、非常に難易度が高いのは間違いない。


(アランのゼオンなら、帝都を攻撃出来るのは間違いない。もっとも、帝都ともなれば相応に強力な結界が張られているだろうから、それを考えれば攻撃が成功するかどうか分からないんだが。それに……ゼオンの攻撃が成功しても、こちらで反撃してきたガリンダミア帝国に対処するのは難しい)


 アラン達は言ってみれば探索者である以上、現在はドットリオン王国にいるが、いつまでもいる訳ではない。

 それに比べて、セレモーナたちはドットリオン王国に仕えている身である以上、ガリンダミア帝国が攻めて来ても、それから逃げるような真似は出来なかった。

 ……もちろん、それはあくまでも表向きの話であって、実際には国に仕えている騎士や貴族といった者でも、危なくなったと思えばさっさと逃げるような者いるのだが。

 しかし、セレモーナにそんなつもりはない。

 そんな訳で、ガリンダミア帝国が面子のために全力で反撃をしてくるようなことまでは考えていなかった。


「セレモーナ様の考えは分かりましたが、それではどう対処するのです? 何の反撃も出来ないとなると、色々と不味いことになると思いますが」


 会議に出席している者の一人が、そう尋ねる。

 そんな部下の言葉に、セレモーナは会議に出席してはいるものの、今までは黙っていた相手に視線を向け、口を開く。


「イルゼン、お前はどう思う?」


 イルゼンと男が名前を呼ばれると、会議室にいた者の多くがイルゼンに視線を向ける。

 その視線の中に込められている感情は様々だ。

 好意的なものから、敵対的なものまで。

 好意的なものでも、本当に好意的なものから、一体イルゼンが何を言うのかという好奇心も多い。

 敵対的なもので一番多いのは、嫉妬か。

 何しろ、イルゼンはつい先日まで行われていた戦いで、最大の活躍……それこそ、いなければ負けていたと可能性が濃厚な、アランが所属しているクランを率いている者なのだから。

 つまり、発言権という意味では現在ラリアントの領主代理を務めているセレモーナに次ぐ。……いや、純粋な戦力という点ではセレモーナすら上回るだけの実力を持っているのを考えると、ある意味では最大の実力者とすら表現出来るだろう。

 だからこそ、この場でもイルゼンの意見は大きな意味を持つ。

 ……中にはそれが気にくわないと思う者もいるのだが。

 自分勝手に動く貴族は少なくなったが、だからといって相手をすぐに認められる訳ではない。特にあれだけの活躍をしたアランを有しているとなると、そこに嫉妬が混ざるのも当然だろう。

 それでも不幸中の幸いなのは、セレモーナがラリアントにやって来たときに比べると、その嫉妬はかなり小さいものとなっていたことだろう。

 戦場を共にしたという事実は、やはり大きいのだ。

 ともあれ、会議室の中にいた者たちの視線を向けられたイルゼンは、いつものように飄々とした笑みを浮かべる。

 ある意味、これだけの者……それも一定の実力を持つ者たちの視線を一身に受けても、態度を変えないのがイルゼンの凄いところだろう。


「そう言われてもですね。皆さんすっかりと忘れてるようですが、雲海というのは傭兵でも冒険者でもなく、クランですよ?」


 クランというのは探索者の集まりで、古代魔法文明の遺跡を発掘するのが主な事の面々だ。

 無数の罠があり、守護者が設置され、場合によってはモンスターは入り込んでいることも多いので、探索者というのは高い戦闘力も要求される。

 だが、その本質はあくまでも遺跡の探索なのだ。

 そんな探索者の自分に一体何を期待しているのかと、そうイルゼンは告げる。

 実際にその言葉は間違っていない。間違っていないのだが……ゼオンやゼオリューンを見たあとでは、その言葉に説得力はない。


「そう言わないでくれ。何か腹案はないのか?」


 セレモーナのその言葉に、イルゼンは少し考え……やがて口を開く。


「そうですね。帝都を攻撃するとガリンダミア帝国を本気にさせるというのであれば、帝都ではない場所を攻撃したらどうです?」

「具体的には?」

「ザッカランですよ」


 ザッカランという言葉を聞いた者たちがざわめく。

 何故なら、ザッカランというのはある意味でラリアントと似た意味を持つ城塞都市だからだ。

 ラリアントがガリンダミア帝国の防波堤として作られたように、ザッカランもまたドットリオン王国に対する防波堤として作られたのだ。

 ……もっとも、最近ではもっぱらドットリオン王国に侵攻する際の拠点という意味合いの方が強かったが。

 ともあれ、ザッカランを陥落させるということは、ドットリオン王国でラリアントが陥落するのと同じような意味を持つ。

 そうなれば、ガリンダミア帝国に対する反撃として十分な効果を発揮するし、何よりも大きいのはザッカランを占領出来れば、ラリアントの安全度が高まるということでもある。

 とはいえ、そうなった場合はガリンダミア帝国軍がザッカランを取り戻そうと戦力を送ってくるのは間違いないので、今度はザッカランで防衛戦をすることになるだろう。

 おまけに、ガリンダミア帝国の領土であったことから、ドットリオン王国に対して敵対心を持っていたり、自分たち攻める側だったので自分たちが上でドットリオン王国が下だと、そう思っている者もそれなりにいるのだが。

 そのような者たちがいる場所で防衛戦をやるのは、かなり厳しい。

 当然この会議でもそれが話題になるが……


「いっそ、ザッカランを占拠したら破壊してしまうのはどうですか? そうすれば、ガリンダミア帝国もそちらの再建を優先するでしょうし」

「一時的に時間を稼ぐならそれでもいいかもしれないが、もしそれをやった場合、ザッカランの住人の憎悪は全てドットリオン王国に向けられるぞ?」


 セレモーナの言葉に、反論出来る者はいない。

 実際にそのようなことになった場合、色々な意味で面倒になるのは間違いないのだから。

 そんなやり取りを、ザッカランの攻略を提案したイルゼンはいつものように飄々とした笑みを浮かべながら見守るのだった。

 ……ザッカランの近くにあるという遺跡に挑戦出来るかもしれないと、そう考えながら。

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