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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
ラリアント防衛戦
109/421

0109話

「そうですか」


 アランの話を聞いたイルゼンはそう呟くが、特に驚いた様子はない。

 普段から飄々とした性格をしており、驚くといったことは滅多にない――わざとらしく驚いてみせることはそれなりにあるが――イルゼンだったが、それでもこの状況はアランから見て少し疑問だった。


「あまり驚いてないんですね。……それこそ、前もって知っていたかのように」


 そう言ったアランは、ふと自分がイルゼンの部屋に来たときにいた人物を思い出す。

 軍服を着た軍人。

 イルゼンはモリクの相談役のような立場にいたので、セレモーナが援軍として連れて来た者が何か話を聞きにきてもおかしくはない。

 おかしくはないのだが、それでもこのタイミングでイルゼンの部屋にいたというのは、アランにとって疑問であり……何となく、その理由を理解する。


「もしかして、さっきの人もその辺についての話を持ってきたとかですか?」

「ええ、その通りです。どうやらセレモーナ将軍がやって来たことにより、ガリンダミア帝国軍も迂闊に動けなくなったのでしょう。その結果、こちらの士気を下げたり、内部に裏切り者を作ろうとしたりといった裏工作をしているらしいです」


 イルゼンは、アランの言葉を否定するようなこともなく……それどころか、あっさりとそう口にする。


「分かってたんなら、何で対応しないんですか?」

「対応はしてますよ。ただし、全員という訳ではありませんが。中にはガリンダミア帝国軍との繋がりのない者もいますから。そのような相手を拘束していると知られれば、士気が下がります」


 そう告げるイルゼンはいつものような胡散臭い笑みを浮かべてはいるが、その口調の中には悔しそうな色がある。

 そのことに驚きながらも、アランは口を開く。


「なら、どうするんです? このまま時間が経てば、こっちが不利になるだけですけど」


 セレモーナが援軍としてやって来たので、ガリンダミア帝国軍も迂闊にラリアントを攻めるような真似は出来なくなった。

 だが同時に、ラリアント軍側からガリンダミア帝国軍に攻めるのもまた難しいのだ。

 セレモーナが来たことで戦力の差そのものは縮まったが、同時にガリンダミア帝国軍にも援軍が来たのだ。

 結果的に、ラリアント軍側が思ったほどに戦力は縮まっていない。

 その辺の事情を考えれば、やはり今回の一件が厳しいのは間違いない。


「その件についての相談も、先程していたんですよ。……もっとも、根本的な解決策は思いつきませんでしたが」


 今回の場合、厄介なのはラリアント軍側からガリンダミア帝国軍の方に内通者を作ることが難しいということだろう。


「一人ずつそういう相手を捕らえていくとか、そういうのは出来ないんですか?」

「難しいでしょうね。一人二人ならともかく、その手の者が何人いるか分かりません。向こうがもしそれに気が付けば、それこそ誰それが怪しいといったよう、大きな声で喚く筈です。そして人は、声の大きい者の意見に左右されがちです」


 そのイルゼンの言葉には、アランも納得するしか出来ない。

 出来ないが……だからといって、このままでは色々と不味いというのも、間違いのない事実だった


「なら、どうするんです? 今のままだと、戦いの中で相手が妙な行動を起こしかねませんけど」

「その辺へ、一応人を派遣しておくらしいです。兵士が巡回していれば、妙な真似はしないだろうと。……正直なところ、そこまで効果があるとは思えませんけどね」


 ふぅ、と。そう残念そうに言うイルゼン。


「出来るとすれば、情報操作くらいでしょうか。……ガリンダミア帝国軍に降伏しても、決して待遇は満足出来るものではないといったように噂を広めれば、その話を聞いている者も多少は考えるでしょう」


 情報操作と言われて、アランは納得したように頷く。

 アランにとって情報操作と言われれば、どうしても日本にいたときのことを思い出し、インターネットの類を使ったものが印象深い。

 だが、別に情報操作をするだけであるのなら、別にパソコンやインターネットの類が必須という訳ではないのだ。

 ただ、問題はその情報操作がそこまで上手く出来るのかといったことになるのだろうが。

 とはいえ、アランにとってイルゼンはこういうときはかなり有能な人物という印象を持っている。

 それだけに、イルゼンがやると言えば恐らく大丈夫だろうという思いがあった。


「そうなんですか? なら、この件はイルゼンさんに任せてもいいんですよね?」

「ええ、構いません。アラン君には、出来ればもっと大きな場所……具体的には、戦いの場で活躍して欲しいと思いますしね」


 それは、イルゼンにとってもお世辞といった訳ではなく、純粋な思いからの言葉だろう。

 実際にアランが操縦するゼオンは、ラリアント軍にとって大きな希望を抱くべき存在だ。

 だからこそ、イルゼンとしてはアランに戦いの場での活躍を期待する。

 ……もっとも、イルゼンの素直な気持ちとしては、出来ればアランにはまだそこまで目立って欲しくなかったという思いの方が強いのだが。

 イルゼンにとって……いや、雲海の者にとって、アランは大事な家族の一人だ。

 それだけにここ最近のような目立つ真似は、出来れば避けたいというのが正直なところだった。

 とはいえ、そもそも今回の一件がアランのゼオンが原因で起こったという一面もある。

 それだけのことでここまで大きな事態になった訳ではなく、あくまでもそれは理由の一つ……最後の一押しでしかないのだが。

 アランのことを心配するイルゼンだったが、イルゼンはそれを表情に出すような真似はせず、結果としてアランはそんなイルゼンの隠された思いには気が付かない。


「戦いですか? それも分かりますけど、その場合ってガリンダミア帝国軍もこっちを集中して狙ってくるんですよね」

「向こうの立場にしてみれば、そうでしょうね」


 イルゼンは当然だといったように頷く。

 実際、ガリンダミア帝国軍がゼオンによって受けた被害は相当なものだ。

 人的被害では、ラリアントを攻撃していたときの方が多いだろうが……それは、あくまでもラリアント軍という軍そのものを相手にしての被害であり、ゼオンという存在だけを相手に受けた被害を考えると、それこそ侵略してきたガリンダミア帝国軍を率いている上層部にしてみれば、頭の痛い問題だろう。

 だからこそ、戦場でゼオンを倒す機会があるのであれば、心核使いを大量に投入してでもそうするのだ。

 本来なら一人の心核使いに複数の心核使いを当てるということは、基本的にはない。

 そもそもの話、そこまで多数の心核使いが一つの戦場に集まるということが珍しいのだから。


「とにかく、今は……」


 イルゼンが何かを言おうとするも、不意に誰かが廊下を走ってくる音が聞こえ、言葉を止める。

 アランも当然のようにその音には気が付き、一瞬疑問を浮かべたあとで、すぐに表情を引き締め、いつ何が起こってもいいように準備を整えるが、そんなアランにイルゼンは安心させるように口を開く。


「敵ではないので、安心してもいいですよ」


 その言葉で、アランも警戒を解く。

 生身での戦闘力という点では、どんなに贔屓目に見ても平凡といった能力しかないアランは、当然ながら気配を察知するといったことも出来ない。


(そもそも、気配を察知するって、漫画じゃないんだから。……いや、この世界は十分に漫画的な世界なのは否定しないけど)


 魔法があり、モンスターがいて、武器は基本的に長剣や槍、弓といったもので、古代魔法文明の遺跡も多数ある。

 その辺りの事情を考えれば、それこそこの世界はファンタジーそのもで、気配を読むといったことを出来る者はいるのはおかしくはない。

 ……唯一、ゼオンという人型機動兵器が存在するのが、アランの思うファンタジー要素からは若干外れるのだが。

 ともあれ、敵ではないというイルゼンの言葉は、ノックもなしに扉が開いたことにより、証明される。

 一瞬、ノックくらいしろよと思ったアランだったが、そう言ってる本人がノックをしなかったのを思えば、それは今更の話だろう。


「イルゼンさん、大変だ! 敵が……あれ? アラン?」


 扉を開けて中に入って来たのは、雲海に所属する探索者の一人。

 その一人が、部屋の中にいたアランに若干驚きながらも、すぐに自分がここに来た理由を思い出し、口を開く。


「敵が……」

「動き出しましたか。……僕の予想ではも少し時間がかかると思ってたんですけどね。向こうの指揮官は優秀らしい」


 敵が動いた。

 部屋に入ってきた者の言葉からそう予想したイルゼンに、アランは驚きの表情を向ける。

 もちろん、セレモーナが援軍にやって来たからといって、ガリンダミア帝国軍がそのまま撤退していくとは、全く思っていなかった。

 だがそれでも、いざこうして戦いが始まるとなると、どうしても緊張してしまう。

 ここ数日何もなかったことや援軍の到着により、緊張の糸が切れてしまったというのが大きい。


(向こうがそれを狙っていた……とは、アラン君ではまだ気づけないでしょうね)


 驚きの表情を浮かべているアランを見ながら、イルゼンは内心でそう考える。

 アランは心核使いとしては突出した能力を持っているが、それ以外の面ではやはりまだまだま甘いのだ。


「ともあれ、敵が来た以上はいつまでもこうしている訳にはいきませんね。少し様子を見てきますか。……アラン君はどうします?」

「え? 俺、ですか?」

「ええ。戦闘になった場合、恐らくアラン君の出番もあるでしょう。それを考えれば、敵の姿を見ておいた方がいいのでは?」

「あ、そう言われれば……そうですね。分かりました。俺もすぐに向かいます」


 イルゼンの言葉にそう返し、アランは立ち上がる。

 そんなアランの姿に、イルゼンは少しだけ満足そうに目を細める。

 イルゼンから見たアランは若干気が抜けているように見えていたが、それでも敵が来たと聞いて、ある程度の戦闘準備は整えたように見えたからだ。

 すぐに戦闘になる訳ではない以上、今はこれだけで満足しておいた方がいいだろうと判断するのだった。

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