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Sixth-sense of Wonder / シックスセンス・オブ・ワンダー  作者: 沃懸濾過 / いかく・ろか
第4章 - 病を治す魔法の鳥
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第3幕 - 病院での任務

 カムイ、イリア、ホノカの三人は病院を訪れていた。無論受診をするためではなく、心災防衛サイカシステムの任務として、である。


 その病院は市民病院のていで運営されていたが、風見ヶ丘(かざみがおか)高校と同様に心災防衛サイカシステムと連携している施設だった。心災中枢ペインアイの搬送先となることも多く、第六感シックスセンス保有者の精神状態や脳機能の解析に使われることも度々ある。


「それでは『やまいを治す魔法の鳥』について、今回の任務内容の確認をします」


 病院には話が通されており、着くと直ぐに応接室に案内された。ホノカが病院の代表者と簡単な挨拶を交わして形式的なやりとりは終わり、部屋に残された三人で簡単な作戦会議を始める。

 すぐにでも任務には向かいたかったが確認し過ぎて困ることはない。三人は椅子に腰掛けたまま話し合いを行った。


「今回の任務の目的は『病を治す魔法の鳥』の実態調査、及び原因の確保です。まずは目撃証言の多い鳥の捕獲を優先します。調査と捕獲を並行するため別行動になりますが、捕獲の際に必要となればホノカがオペレートに入ります」

「鳥以外が原因だった場合は捕獲だけでは済まないという話だったはずだが?」

「はい。調査、捕獲の結果別の関係者の存在が判明した場合は合流し、直ちにそちらの確保に移行します」


 ホノカはあっさりと言ったがそこまで簡単に判明するものではない、とカムイは思った。

 原因不明の現象や心災中枢ペインアイ不明の心災で救助任務にあたることは珍しくない。しかし周りに一般人が多数いる場合は二次被害を減らし、目撃者を出さないために避難誘導をまず行う。その過程で初期暴走を起こしている心災中枢ペインアイを捜査し、見つからなければ心災の範囲内において原因と思しき人物がいないか捜索をする、とある程度のセオリーがあった。


 今回の任務はそのセオリーが通用しない。

 まず場所が問題だった。病院は常に多くの命を預かっている場所である。学校のように生徒を強制的に下校させたり、教員を職員室に詰めておくような指示はできない。内部に関係者がいるとはいえ、大掛かりな調査はできず、通院する患者の目も常にある。

 加えて今回は調査する対象が『鳥』ときている。鳥は人間と同じ動きはしない。空中を移動される分、捜索の難航が予想される。


「あのさ。西陽さん、湊辺くん、ちょっといい?」


 イリアが気になることがあるようで机に手をついて片手を挙げた。


「なんだ?」

「どうしましたか?」


 二人の返事が重なった。


「鳥の捕獲を優先してるみたいだけど……第六感シックスセンスって動物にも発現するの?」

「分からない」


 カムイは端的に答える。


「少なくとも、俺が今まで関わった任務では動物が心災を起こしている例はなかった。が、動物の関わった現象はいくつかある。そういう場合はその動物の正体を突き止めるのが解決の近道だった。飼い主や住んでる場所が分かれば簡単に絞っていけるだろうな」

「そうなんだ」

「カムイ君の言う通りです。動物を操作しているとすればその様子が見える位置に保有者がいるかもしれませんから」


 ホノカもカムイの意見を肯定した。

 所属してまだ一ヶ月のイリアと比べて任務に働く勘は年季が違う。二人は自分の経験した任務から予想を立てながら話した。


「物質操作系なら窓際だとか見える位置にいる可能性が高いだろうな。魚の声が聞こえるようになった心災中枢ペインアイもいたくらいだし、鳥の心を操る精神操作系って線もある」

「鳥自体はただの鳥で、そこに何らかの効果を付与している可能性もあります。その場合は保有者の特定が厄介になりますね」

「動物病院なら飼い主か担当医に絞れたんだろうけどな」

「別アプローチが必要でしょう。闇雲に探すより確実な目撃情報を詰めていった方がいいかもしれません」


 ホノカは方針を決めたのか、荷物からバインダーやボールペンの他に白衣と名札を取り出した。


「ホノカは研修医のていで聞き込みに行きます。カムイ君達は私服のままで大丈夫ですか?」

「いや、業者のフリでもした方が自然だと思ってな。着替えを持ってきてる」

「そうですか。ではイリアくんも?」

「うん。白衣にこれ(・・)じゃ目立つだろうしね」


 そう言ってイリアはわきに掛けた竹刀袋を持ち上げて見せた。部活で使うものとは別の支給された装備だ。

 心災防衛サイカシステムでは必要に応じて道具類や装備が支給される。水ようにありふれた物質を操る保有者には必要ないが、植物の種など出先で用意することが難しいものは申請すれば支給されることが多い。

 今回の任務は武器を必要とするような物騒な任務でもない上、イリアは第六感シックスセンスの発動に必ずしも道具が必要なわけではない。けれどないよりはあった方が良いという判断で、イリアは竹刀を持ってきていたのだった。


「それではようやくですが任務を開始しましょう。通信は常にオンにしておきますがマイクは互いにオフにして、報告のある時のみお願いします」

「「了解」」


 ホノカは白衣を着ると目立たない小型インカムを装着し、聞き込みに向かった。カムイとイリアも手早く着替え、それぞれ道具を携えて部屋を出た。




 病院の敷地は遊歩道があるほど広く、加えて外部の運動場や公園も捜索範囲であるため調べるべき場所は多い。手始めにカムイとイリアは敷地内から調べることにした。

 格好は上下ともジャージだが、その上から蛍光オレンジのベストに袖を通し腕章を付けている。おまけに網も携えているため、何か聞かれたとしても鳥獣捕獲調査だと言い張るには十分な説得力のある格好だった。


「あのさ、湊辺くん。この仕事って一日で終わると思う?」


 本来外で任務に関する話は厳禁だが、今は業者のフリができる。イリアもそのつもりのようで任務を仕事と言い換えるなど、言葉に偽装を施していた。


「終えたい、って感じだな。 今日で報告から三日目だ。これが暴走なら今日明日で健康状態が大きく変わる……早いに越したことはない」

「でもあんまりその……災害っぽくない気がするんだけど」


 心災らしくはない、というのはカムイも同感だった。イリアも何度か救助任務を経験して慣れてきている。今まで救助に当たった時とは感覚的に違うものを感じたのだろう。


「そうだな。つっても村のときみたいに故意に事件を起こしてるって雰囲気でもない……形振なりふり構わないなら病院内で使ってるだろう。よく分からずに使ってるってパターンかもしれない」

「それならあんまり危険はないかもね。起きてるのも病気が治るっていう良い効果なわけだし」


 今回の起きている現象『病を治す魔法の鳥』は被害らしい被害を出していない。むしろ名前の通り人々の病気を治していた。


 この現象が発見されたのは二日前、突然快復する患者が多数現れたためだった。全快とはいかずとも、治そうとする意欲に欠けていた患者がリハビリに積極的になるなど、突然変化の訪れた者が多く出た。不思議に思った医師が患者に訊いたことで『鳥』の存在が明らかになり、野鳥とは思えない姿だったことから『魔法の鳥』と呼ばれた。

 そして治る病気は幅広い。統合失調症をはじめ精神疾患が多いが皮膚炎や喘息など身体的症状まで回復させている。治癒能力の第六感シックスセンスのようにも思えるが、外傷はほとんど治さず心因性の障害に偏っているというのが気にかかった。


 能力の実態も謎だが、何より問題なのが病院という場で噂話が急速に拡散されつつあることだった。

 カムイとイリアは敷地内の遊歩道を歩く間に何人もの患者とすれ違っている。鳥の目撃が昼時であったことからカムイ達は早めに済ませて昼前に間に合うように来たというのに、噂を聞きつけてか鳥を探しているような様子の患者が多く見受けられた。


 心災防衛サイカシステムが今回のように名前のついた噂話を優先的に調査するのは尾鰭を付けて急速に広まる危険があるからだ。パニックをもたらす都市伝説と化す前に、原因を特定し鎮静化を図りたい。


「危険がない、とは言い切れないな。保有している本人が効果をはっきり把握してないとしたら予想できない結果をもたらすかもしれない。今は治った人達が目立ってるだけで、実は悪化した人がいたっておかしくないだろ」

「そっか……なんか僕たちがその『魔法の鳥』を捕まえちゃって、病気を治す機会を失う人がいると思うと複雑だなって思ってたんだ」

「餅は餅屋。患者を救うのが医者の仕事、保有者を救うのが俺達の仕事、だ。そりゃあすぐにでも病気は治したいんだろうが、その責任を保有者一人に負わせるわけにはいかない」


 第六感シックスセンスの存在が広まることも勿論避けたいが、心災や事件の被害の責任を保有者のものとするのは心災防衛サイカシステムの主義に反する。第六感シックスセンスを発現させた者は皆救われるべき被害者であり、それらを守るのが心災防衛サイカシステムの役割。なにも意地悪をするために使用を規制しているわけではない。管理下にない第六感シックスセンスによって問題が起きた時に、その責任が保有者一人に降りかかるのを防ぐためにも心災防衛サイカシステムは保有者を保護し登録するのである。


「特に今回は『鳥』っての問題になりそうな部分だな。病気の媒介や衛生上の問題がある」

「なるほどね。でも業者に頼まなかったのはそういう力が絡んでるから、で合ってる?」

「ああ。いざって時の対処は俺達の方が向いてる。それに一々口止めしていちゃキリがねぇよ」


 任務に対する認識の擦り合わせをしながらカムイとイリアは遊歩道を歩き、普通ではない鳥がいないか調べたがそれらしいものは見つからなかった。

 そして遊歩道の先にある芝生の広場にまでやってくると、多くの人がそこで昼食を摂り談笑をしていた。


「……見ての通り今回は人の目が多い。俺がやると手品じゃ言い訳が効かないくらい目立つからな。イリアが頼りだ」

「任せて。僕が火力だけじゃないってこの任務で証明するよ」


 イリアは自信ありげな顔をして言った。とはいえ目立たないに越したことはない。

 人目の付きにくい建物の日陰まで移動すると、イリアは集中するように目を閉じて深呼吸をした。アスリートのルーティンのように何度か長く息を吐き出すと、周りに聞こえない程度の小声で呟いた。


「『熱暴躁オーバーヒート』」


 周囲の熱がイリアへと集まっていく。

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