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Sixth-sense of Wonder / シックスセンス・オブ・ワンダー  作者: 沃懸濾過 / いかく・ろか
第4章 - 病を治す魔法の鳥
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序幕 - 一縷の望みの意図の先

 だんだんと光を失っていく毎日が古世守こぜかみイトナの半生だった。


 幼い頃は母親に髪を結われ、それを鏡で見るのが日課だった。けれどいつしか鏡を手渡されることはなくなり、そんな小さな変化さえ、当たり前が遠退いていく苦しみをイトナに感じさせた。


 今まで見えていたはずの色が、形が、ぼやけておぼろになっていく。明日目が覚めても、夜が明けないままかもしれない。今日歩いた外の景色が、最後の思い出になるかもしれない。

 そんな悪夢がイトナの毎日をむしばんだ。


 そして、悪夢はついに現実に手を伸ばした。微かに見えていた輪郭さえ消えて、イトナの世界は真っ暗闇に落ちた。


 目の前にいる人が誰か分からない。

 手を伸ばした先に何があるのか分からない。


 大事な家族も、大好きな従姉いとこも、自分の目で見ることができなくなった。優しい声が聞こえるのに、温かい手は感じられるのに、その顔を見ることができない。

 手を引かれて外を歩けば、陽の暖かさや風の冷たさは感じられる。なのに、鮮やかだった世界を見ることができない。

 見えなければ、いつしか忘れてしまう。

 若葉の青さを忘れてしまう。

 清流の煌めきを忘れてしまう。

 家族の顔も、忘れてしまう。


 イトナは塞ぎ込み、自室から出ることがなくなった。

 刺激が必要だろうと、父親に小鳥ペットを買い与えられた。新しい友達と称されたが、触れただけではどんな姿をしているのかも分からなかった。

 イトナは小鳥を自分と違って自由だろうと羨んだ。けれど小鳥も、結局自分と同じだと気付いた。

 ケージから飛び出しても、すぐそこにあるように見える外は透明な壁で遮られている。自由を求めてもぶつかり、傷付き、何もできない。


 抜け出せない暗闇に囚われている。先を選べない真っ暗な未来だけがなく広がっている。そんな現実に、イトナの心は耐えられなかった。


 選択肢はないのに、叶わない夢ばかりが浮かんでは弾けた。


 もう一度外の世界を歩きたい。

 みんなと笑って手を取り合って過ごしたい。

 明るい鮮やかな世界を、どこまでも自由に飛び回りたい。


 そして願わくば、誰かの役に立てる人になりたい。

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