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Sixth-sense of Wonder / シックスセンス・オブ・ワンダー  作者: 沃懸濾過 / いかく・ろか
第2章 - 相続会議リセット現象
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序幕 - 或る村の昔のお話

 ひどく貧しく、冷たい村だった。


 その村は高原に位置し、閉鎖的で、外部から人が来ることは滅多になく、細々とした農業でなんとか成り立っていた。けれど村の権力者は得られた利益を牛耳ぎゅうじり、私腹しふくやしていたため村全体が豊かになることはなかった。


 ある者は自分たちの生活が苦しいままなのは村の権力者、御築おきずき家の所為であるとした。その考え自体は間違いではなかったが──石を投げられたのは御築家の一人の男児であった。


 御築家という家そのものに逆らえば自分たちの立場もあやうい。けれど御築家は女系の一族だった──だから、抵抗のできない家の男児を不満のけ口としたのだ。


 次第にそれらの行為は激化していき──御築家の男児はうとまれ、嫌われ、おとしめられ、差別の対象となった。


『我々の生活が貧しいままなのは御築の男のせいだ』

『全ての原因は御築の男にある』


 そんな考えは広くはない村に瞬く間に伝播でんぱし、取り憑かれた。


『御築の男は危険だ』

『あいつらは人間じゃない』

『呪われているんだ。関わるな。呪われるぞ』


 次第に村全体どころか──御築家の者でさえそう思うようになったのだ。御築に生まれた男たちは忌子いみごとして、家の中でも迫害の的にされた。


 生まれた男が一身に村全ての不満を背負いさえすれば、家全体に被害が及ぶことはない。どころか御築は絶頂であり続けられる。

 『悪』の矛先さえいれば、村は平和でいられると、本気でそう考えたのだ。


 人々はそれを『必要悪』だと、決してなくなるべきでないものだと思っている──思い込んでいる。そう思わなければやっていられなかった。


 悪も呪いも周囲の方だ。


 御築の男たちは人間らしさを奪われ、蔑視され、危険視され、そして現実に被害を出せばそれこそ呪いと看做みなされ、呪われ、呪い、死んだ方がましだと──死へと追い詰められた。


 それが当たり前になり──染み付いた悪習は何十年何百年と消えることはなく、狭い村の中で続いていた。


「兄さん、二人とも、もうここから出よう。ここはおかしい」


 御築家の長女だった彼女は二人の兄にそう話した。けれどその村を出て行くことができたのは、結局彼女だけだった。


 しかし十数年後、彼女は再びこの村に帰ってくることになる。熱く熱を帯びた、災厄の因子を引き連れて。

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