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黒い彗星  作者: パイ乙協会
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一話につき1歳年を取ります。



私はどうやら、人間の中ではとても成長が早いようだった。

1か月で人間の言葉をマスターし、会話はできないものの、うなずきやわずかな口や目の動きで周りの大人たちと意思を疎通することが出来るようになった。

2か月もすれば、寝返りが出来るようになり、それからしばらくしてハイハイという動きが出来るようになった。


「まあ、本当に殿下は優秀なお子ですわ!」

「魔王を倒した後にお生まれになったのだもの、神の祝福を受けていると陛下がおっしゃっておりましたが、きっとそのとおりですわ!」

「見て!この愛くるしいお姿…とてもかわい…い…え?きゃああああ!!!??」

「きゃああ!何ですの!この動き!なんか気持ち悪い!!」


カサカサとハイハイしながら、侍女達に近づく。ゴキブリ時代にはデフォルトだったこの姿勢、とても動きやすい。年は離れているが、侍女もメス。ゴキブリとしての本能が私に告げるのだ。孕ませろと。


「いやあああ!殿下、その動きをおやめになって下さいませ!!キモ…ではなく、みっともないですわ!」

「そうですわ!王族の男児たるもの、もっとしっかりとした足取りでハイハイするべきですわ…気持ちわる…」


一体何が不満なのだ。私は引きつった顔と悲鳴を上げるメスたちを見上げて、不満そうな顔をした。動きを止めて不満そうな顔をする私を見て、彼女らはまたメロメロとだらしない顔に戻った。

なるほど、メスを落とすには、動きに注意せねば。




私が生まれて5か月が経った。もう一人で立って歩けるようになり、ペンを握って文字を練習できるようになった。文字というのは画期的だ。かつて私が生きた世界で人間が繁栄したのが理解できた。次ゴキブリに生まれ変われることがあれば、文字を広めよう。

文字が素晴らしいことは理解できたのだが、もともとゴキブリで文字というものを扱っていなかった分、習得にものすごく時間がかかってしまっていた。身体能力は極端に高いが、知能の点でどうしてもほかの人間に比べて劣っているような気がする。


「殿下、大丈夫ですよ。殿下はとても優秀です。他の子はハイハイも意思の疎通もできない子もいますよ」

「いや、いくら神から祝福を受けたとしても、成長が早すぎるのでは?」

「成長が早すぎることこそが、神からの祝福の証であろうが」

「魔王討伐後にお生まれになったのだ、噂に聞いただけだが、魔王の生まれ変わりだという話も聞いたぞ。ほら、陛下も妃さまも、アルフォンソ様も皆金髪碧眼なのに、黒髪はおかしいって…魔王だから黒髪で成長が異常だと…本当に小耳に挟んだだけだが…本当だって!」


まおー?何だろう。何度か聞いたことがあるが、一体どういう存在なのかわからない。

教育係の褒め言葉と、後ろに控えた大人たちの小さい声が聞こえる。私の前世はまおーじゃない。ゴキブリだ。

私の学習進捗の報告を受けていた兄は、ワナワナと身を震わせ、机を強くたたき、怒鳴った。


「私が倒した魔王が、私が愛する弟だと?!笑わせるな!!」

「ア、アルフォンソ殿下…!いえ、私は噂で聞いただけで…!」

「じゃあ、その噂とはどこからだ?!必ず捕らえて処してやる!!」

「え…え、と…そのですね…誰から聞いたかな…すみません、記憶があいまいで…ハハハ…」


噂男は激怒した兄に理詰めで怒鳴られ、しおしおと小さくなって申し訳なさそうにしていた。兄は15歳らしいが、倍以上年を取っている男に詰め寄ってすごい気迫だ。

そんなに怒らなくてもと思うが、私を溺愛しているらしい兄が怒っているのだ。きっと、まおーというのは、人間にとってゴキブリ以下の存在なのだろう。私は前世、ゴキブリ界の中では長老と呼ばれ、尊敬される立場でもあったので、確かにそのように侮辱されるのは許しがたい。兄よ、もっとやれ。




私が生まれて10か月経った。

会話をマスターし、文字もある程度習得して簡単な本が読めるようになってきた頃、ようやく魔王と呼ばれる存在が何なのか、分かるようになった。これも寝物語を語ってくれる、侍女達のおかげだ。いろいろな話があったが、大体は人間の土地を侵略してきた魔王を、兄が辺境の地に追いやり、討伐する話だった。

侍女たちはいつも兄の話ばかりして、とろけたような顔をしていた。自称神が言う通り、兄はイケメンで、魔王を倒した実力派。つまり、イケてるオスなのだろう。

私の周りのメスは、全部私のものだと思っていたのに、皆兄に惚れてばかりだ。

悔しくて、むっとしながら侍女にキスをしてみたが、あらあら、まあまあと言って笑いながら寝かしつけの体制に入ってしまった。

何でだ。いつもかわいいだとか、天使だとか、かっこいいですよとか、私を気に入っているアピールはするのに、なぜオスとして見られないのか??

これでは子孫を増やせない。前世の私ならば、メスが喜んで孕んでくれたのに。悔しい。

私は考えに考えた。

どうしたらかつての同居人と子孫たちに誇れる人間になれるのか、ひたすら考えた。そして熱を出して倒れた。

皆、大慌てで介抱してくれた。率先して甲斐甲斐しく世話をするくせに、どうしてメスは私に許可をくれないのだろう。余計に悔しくて悲しくなった。オスとして魅力が無いのであろうか。

背に腹は代えられない。兄に人間のメスの落とし方を伝授してもらうことに決めた。兄は倒れた私を心配して頻繁に顔を見せていたので、すぐに直談した。


「男としての魅力?」

「そうです。お兄様がモテてモテて…悔しいです。私もモテモテになりたい」

「えっと、そういうのは、熱下がったら考えなよ」

「考えても答えが出ないから、熱が出たみたいです」

「…え?知恵熱??」

「私は!!モテたい!!」


ベッドから勢いよく立ち上がり、腕を高々と上げた。熱で頭がぐらつき、倒れそうになったが、兄が慌てて支えてくれたので事なきを得た。


「こら、危ないじゃないか!」

「悔しい…悔しい…私もメスと交尾して、たくさん孕ませて、たくさん子孫繁栄するんです!こんなところで挫折してはいけないんです!」

「って何だよ!メスとか孕ますって!なんで交尾とかそんな言葉知っているんだ!!10か月なのに破廉恥だ!!俺だって2年前にようやく習ったのに!!」


そのまま気絶してしまったが、兄からは後でいろいろと教えてもらった。人間の生殖年齢を。

ゴキブリの10か月は子孫を残せるが、人間は出来ないらしい。気絶してから余計に心配性になった兄から直接、人間の性について学ぶ機会を得たのは行幸だった。取りあえず、股間についている息子と呼ばれるものから、種が出るまでの年齢になるまで、しっかり成長することがメスにモテる条件らしい。




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