外伝 03 スキル選択の流れ
本文は、作中で省略された部分を補足する内容です。
世界観や設定の解説の意味合いが強く、本編を読む上で必須ではありません。
お時間がない方は、読み飛ばしていただけますと幸いです。
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「あ、あのー……ナユタ? そろそろスキルについて、決めていかないか……?」
このままでは話が進まないことは分かっているので、原因を作ったこちらから水を向けてみる。
割座をしつつ手で顔を覆っていたが、やがて自分の中で区切りがついたのか、顔を上げて立ち上がった。
「う、うむ。では、スキルを授けるとするかの」
ふと、流れてしまったのかもしれないと思い、確認のために特典について話を振ると、石化してしまった。
どうやら無しで話を進めるほかないようだ、仕方ないか。
「えー、ごほん。来世が赤子から始まる以上、転生後にすぐ使えるわけではないが――」
そこで説明を止め、指を鳴らす。
すると、目前に文字が書かれたパネルのようなものが、無数に現れた。【剣】【掃除】【女衒】と、関連性の無いものが、自分を中心に上下左右にずらっと並べられている。
一つ一つのパネルは小さいが、数が多いので圧倒される。数える気には、残念ながらなれない。
「この中から、自分に必要なスキルセットを5つ、選ぶが良い」
選べとは言われても、どうしたものか……しかしこれを見せられると、先に特典を決めることを勧められたのも納得だ。スキル構成を考えてからでも問題はないだろうが、それだけでかなりの時間が掛かっただろう。
……まぁ、特典が無い今の自分も、大して変わらない状況なわけだが。まずナユタの言う通り、自分に必要なものを考えよう。
まずは戦闘スキル、これは必須だ。何らかの武器で1つ取る。
武器と同様に、防具も忘れるわけにはいかない。武器として盾を選択することで、防具分のスキルを節約するのは……有効ではあるが、さすがに厳しいだろう。
あと、コミュニケーションスキルも必要だな。【言語理解】は貰えるらしいが、読み書きが必要になる場面もあるだろう。これで3つ。
他に必要なものは……野宿することも考えると、警戒関係のスキルも必要か?
負傷した時の為にも、回復スキルがあれば助かるな。これならどこの生まれでも、死にスキルになることはないだろう。よし、これで5つか。
あとはナユタに、それらしいスキルがどれか聞いてみよう。武具はまだ決めてないから……コミュニケーションスキルかな。
「ナユタ、他者とのコミュニケーションで使えるスキルは何がある? 読み書きが出来るスキルがあれば、それが良いんだが」
「それなら、この[交流]スキルセットがよかろう」
ナユタが手を挙げると、無数に浮かんだパネルの中の1つが、ナユタと俺の間に浮かび上がる。
「【言語理解】【識字】【友好】【交渉】【説得】【威圧】の6つがセットになっておる。言語理解の枠の分、他よりも少し損じゃが、使い勝手は良いと思うぞ」
「いや、俺は【識字】だけで良いんだ。それに、これだとスキルが5つになって、他が取れないだろ?」
口八丁に生きれば、詐欺やヒモでなら生きていけるかもしれないが……出来れば、自分の力で生きていきたい。
「ん……? これを取るとしても、まだ1つ目じゃろう?」
「んん……?」
「???」
おかしい、話が噛み合っていないぞ。どこかに齟齬があるっぽいな。
「選ぶスキルは、5つまでだよな?」
「そうじゃ。スキルセットを5つまで、じゃな。じゃから、この[交流]スキルセットで1つ目じゃろう?」
オーケー、理解できた。スキルセットって言葉を『今この場でスキルを取ってセットすること』だと勝手に解釈していたけど、実際は『スキルのセット』つまり一式ってわけか。
「ははーん、なるほどのう。お主が何を勘違いしているのか分かったぞ。さすがにスキルを5つだけで放り出したのでは、あんまりであろう? 身寄りも身分も無い以上、多少は現地の者より優遇せねばな」
「しかし、意地が悪い聞き方するよな。セットって言葉の解釈で、混乱する人も出てくるんじゃないか?」
「セットで表示したのはお主が初めてじゃよ。それ以前の者には、個別にスキルを30個選んでもらっておったが――」
言葉を切り、今度は足のつま先を2回鳴らす。
すると、周囲に表示されていたパネルが消え、先程以上の数のパネルが表示された。視界に一瞬捉えた【威圧】というパネルからして、セットではなく単一のスキルとして表示されているようだ。
「これではあまりに数が多くてな、選ぶ側も苦労しておったよ。そこで、ある程度系統ごとにまとめたセットを作り、選択しやすくしたわけじゃ」
「あぁ、これは……呼称に問題があるだけで、選択側に配慮された措置ということが、物凄く分かったよ……」
首だけで頭を下げ、両手でお手上げのポーズをとる。セット同士で重複するスキルがあればその分損かもしれないが、そこに気を付ければユーザーフレンドリーと言える。
それに、方向性自体はさっき考えた5つから変わることはない。得られるスキルが純粋に増えた、と喜んでおくことにしよう。
その後、ナユタにパネルをセット表示にしてもらうよう頼み、スキルの吟味を始めた。
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時間を確認する術が無いので、どれほどの時間が経過したかは分からない。ただ、一通り説明を終えた後、再びゲームに戻ったナユタの進行具合を見るに、そこそこの時間が経過したようだ。
職務怠慢じゃないか? と思いもしたが、パネルに触れることでセット内容を自分でも確認出来るので、好きにさせておいた。ここまで協力的に対応してくれたのだ、息抜きも必要だろう。
俺の方はと言うと。ひとまずスキルの選択は終わったので、これで問題ないか最終確認の最中だ。
[槍]スキルセット―――【槍習熟】【長槍習熟】【短槍習熟】
【急所狙い】【投擲】【受け流し】
[鎧]スキルセット―――【鎧習熟】【軽鎧習熟】【重鎧習熟】
【装備重量軽減】【部分装備】【致命傷回避】
[交流]スキルセット―――【言語理解(人族共通語)】【識字(人族)】
【友好(人族)】【交渉】【説得】【威圧】
[斥候]スキルセット―――【短剣習熟】【警戒】【識別(人物)】
【隠密】【暗視】【不意打ち】
[水魔法]スキルセット―――【水魔法習熟】【回復効果UP】【水中行動】
【言語理解(水精霊)】【友好(水精霊)】【水精霊の祝福】
武器は槍にした。如何にも主人公! と言える剣と迷ったが、レンジを考えると槍が有利だろう。
防具は鎧に。重鎧ならば全身を覆うことが出来、他のスキルがいらないだろうと考えてのことだ。
交流は勧められたままに取得。後ろ3つのスキルは、取得せずとも当然その行動は出来るが、より有利に事を運ぶには必須とのこと。
斥候は【警戒】【短剣習熟】【識別(人物)】【暗視】があるので選んだ。槍のスキルセットに【投擲】があるので、短剣に対しても効果があるだろう。
最後に、回復スキルとして選んだ水魔法だが。回復するだけならば、他の属性魔法でも問題は無いそうだ。回復対象に対してのアプローチ方法が違うだけで、水に拘る必要はないらしい。
水=生命の源の考えから選んだが、【回復効果UP】は水属性だけらしい。そういう意味でも、多少は他の属性より優遇されているのだろうか。
ちなみに、各種習熟は扱いやすさに補正が掛かり、武器に振り回されたり、魔法が暴発するのを防いでくれるものらしい。
言葉の意味通り、慣れ親しんだ状態で扱うことが出来るようだ。
スキルだけを考えれば、これ以上の組み合わせは存在する。【槍習熟】【警戒】【鎧習熟】のスキルを持つ[傭兵][警備兵]スキルセット。【急所狙い】【不意打ち】その他【暗殺】スキルを持つ[暗殺者]スキルセットがそれだ。
効率を求めるならば、セットではなく自分で30個選んだ方が、圧倒的に良いだろう。
しかし、せっかく選べるのだから、どうせなら特化したスキル構成にしたい。槍の大きさに左右されずに操り、鎧も場面ごとに選べるように。この辺りの考え方がネトゲ脳なのも、重々承知だ。
だが、バッドエンドで終わるはずだった俺の人生。せめて何かに長じた、尖った生き方をしてみたい。
選択が終わったことを告げ、ナユタに来てもらうよう声を掛ける。今度はコントローラーを投げずに置いてきた。
「……何がしたいのか分からんスキル構成じゃな。【鎧】スキルを取っておきながら【隠密】スキルも取るなど、あまりにバランスが悪い。鎧の金属音でバレるのではないか?」
「そこは一応考えてるよ、その為に【軽鎧習熟】スキルを取ったわけだし。あと、このスキル名の後ろの括弧内の文字は、それが対象って解釈で良いのか?」
「然り、じゃな。お主は人族の赤子で転生することになるから、【言語理解】【識字】【友好】の対象が人族になっておる。これが異形種であれば異形種になるし、オークであればオークになる。水精霊が対象のものは、変わらんがな」
よし、疑問点も予想通りの答えで解決したし、これで準備は整ったな。
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