外伝 02 現世への転生希望者が多い理由と、異世界転生時の仕様
本文は、作中で省略された部分を補足する内容です。
世界観や設定の解説の意味合いが強く、本編を読む上で必須ではありません。
お時間がない方は、読み飛ばしていただけますと幸いです。
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「……分かった。では甘えさせてもらおう。しかし、これだけでは釣り合うまい。他にも何かあれば、言うが良いぞ」
「ありがとう、思いついたらそうさせてもらうよ。さしあたって、話を聞きたいんだが」
「なんじゃ、我の分かる範囲であれば答えるぞ」
「じゃあ一つ目。異世界への転生を希望する人が少ないって話だけど、逆に言えば、どうしてそんなに現世への転生希望者が多いんだ?」
これは気になっていた。ナユタが先に言った『強くてニューゲーム』も魅力的だが、異世界転生も魅力的だと思う。転生先は分からないが、仮に剣と魔法の世界だったら、こちらの世界では味わうことが出来ないはずだ。
「うむ。現世への転生を希望した者に聞いた限りじゃと、主に娯楽の有無とやり直しを目的とするものが多かったの。『スマホやパソコンがないとか考えられない』だの『学生時代をやり直してモテたい』だの、とな。その他にも『別世界で生きていける自信がない』とか『知らないところより知っているところの方が良い』と言った意見もあったかの」
確かに、納得出来る理由だ。スマートフォンやパソコンはもはや生活の一部だし、やり直した身ならば、同級生にからかわれることも気にならないだろう。異世界が怖いと感じることも、見知った世界が良いと考えるのも、安定志向で頷ける。
「現世への転生の際に制約があることを告げても、意思は変わらなんだな。故に、特典を付けることで少しでも選択する者を増やそうとしたのじゃが……」
「芳しくない、ってことか。ちなみに、現世を選んだ時の制約って?」
「自分が転生した身であることを告げないことじゃ。あくまでも転生は、こちらの不手際に対しての措置じゃからな。死後に転生出来るなどと思われて、自殺されては適わん」
「そりゃそうだ。死んでやり直す、なんてことが罷り通ると思われても困るだろうしな。もし、制約を違反したら?」
「消える。存在が消えることは勿論のこと、痕跡も消えていなかったことになる。日記等に書き記しておくこともご法度じゃ」
ちょっと厳しい気もするが、妥当ではある、か。
全員ではないだろうが、もしかしたら学生時分に天才とか秀才って言われてた人の中には、転生者がいたのかもしれない。
「そういえば、異世界の方は制約はないのか?」
「特に無いの。神に成り代わろうとするのは明らかな制約違反じゃが。基本的に、異世界の神は放任主義じゃからな。正義を成すも、悪を成すも、人の子の意思に任せるそうじゃ。退屈しのぎが出来れば、それで良いのかもしれんな」
だからこそ、こちらの世界から人をほいほい送れるのじゃが。と、茶を啜りつつ言葉を締める。
「現世以上に自由に出来るのだし、異世界を選ぶ人も一定数いそうなものだが……この話を聞いても、選択は変わらなかったのか?」
「いや、現世を選んだ者には、異世界での制約の話はしておらんよ。聞かれることもなかったしな。意思は固かったようじゃし、興味も無かったんじゃろ」
「あぁ、そう……そりゃ勿体無いことをしたもんだ」
本当に勿体無い。娯楽についてはどうにもならないが、異性関係・異世界での生き方については、意思次第でどうにでも出来そうなものなのに。
「じゃあ二つ目。異世界を選んだ時の特典って?」
「転生時の条件の付与、じゃな。爵位持ちの家に生まれたい、赤子ではなく成人した状態で転生したい、不老不死になりたい、人族ではなく異種族で転生したい。ある程度は要望に応えられるぞ。これもまた、あちらの神のお陰じゃな」
「現世を選んだ人たちは制約を聞かなかったくらいだから、こっちの特典の話を聞いているわけもない、か」
繰り返しになるが、本当に勿体無いことをしたものだ。説明はしっかり聞いた上で判断すべき、という反面教師にしよう。
「あと、これは特典ではないが。異世界を選んだ者には、あちらの世界で生きていけるように、技術――スキルをいくつか授けることになっておる。己の身一つで挑むというのも自由じゃが、【言語理解】だけは必ずもたせる。会話が出来ねば、万事上手くいくまい」
「それだけ聞くと、特典無しでも十分優遇されている気がするんだが……」
「かたや一度経験したことがある、危険に対して最大限配慮された世界。かたや環境や生活が全く違う、同族の集落を出れば危険と隣り合わせの世界。比べるべくもあるまい?」
「なるほど、この上なく理解できた。それで、スキルって例えばどんなものがあるんだ?」
「戦闘技能、生産技能、魔法技能、サバイバル技能、様々な種類があるぞ。無いものも、具体的なイメージを伝えてくれれば、何とかなるかもしれん」
あぁ、あと。転生先はこちらの世界とは違い魔法もあるし、生活レベルが落ちることを伝えておこう。と補足が入る。
そういえば、自分の中で異世界=剣と魔法の中世時代的なイメージで進めていたせいで、もし選んだ時はどこに行くことになるのか確認していなかった。
危ない危ない、反面教師とはなんだったのか。
「よく分かった。ありがとう、ナユタ」
「なに、礼はいらぬ。普段はここまでしっかりとした説明が出来ぬから、楽しんでおるよ」
かかっ、と笑い声をあげつつ、鷹揚に手を振った。
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