私の誕生日
今年もあと少し、私はのんびり寝ているか。
或いはガキ使を楽しみに待っている頃でしょう。
現状、少し眠いので寝ているかもしれません。
寝正月というモノです!
えっ、まだお正月じゃない?
気にしちゃ負けです♪
皆さまはどうお過ごしですか?
少しでも身体を休めてお正月に突入しましょうね?
ついでに私の小説も読んで頂ければ幸いかと!
ではでは、またあとがきにでも!
――ある日、私はこんなことを聞かれました。
「おい、シャルロット……お前、誕生日っていつだよ?」だなんて、猛々しくも可愛いワンコに、太々しくも愛おしい友人に。
思えば意識したことはありませんでした。
誕生日、それは生まれた日を祝う生誕祭。
当事者が生まれたという事実を再確認し、現世で魂を享受する喜びを他者とも分かち合う日。別段、この世に生まれた喜びなんて感じない私には、一切関係ない行事だと思っていましたが、まさか予想もしない友人から問われるとは思いませんでした。
生まれた意味すら曖昧で、人に愛されるという幻想を抱かないまま育った私には捻くれた思いしか募りません。
然るに、誕生日なんてすっかり忘れていたのです。
初めてのお誕生日も、私が〝一度死んでから〟通り過ぎた通過点でしかありませんでしたし、その後も〝お姉ちゃん〟や〝お父さん〟には全く祝福を受けないまま離別して、独立しましたので。
私の境遇を可哀想と思う人もいれば、無言を貫き何も言わない人も、猛り同情する人もいると、諦念は肝心と悟りを押し付ける人もいらっしゃいました。
ですが、どうでもいいのです。
今、私は生きている――それだけで幸せなのですから。
しかし、そうフェンリル君に言うと怒られそうなのです。
何故でしょう、私にはよく分かりません。
所謂、勘と言うものなのでしょうか?
私に第六感なんてあるはずもないのですが、今回だけは霧の奥に掴めそうで掴めない答えの先に指先だけ触れて、感じ取っているとでも言うのでしょうか。分からないのに、言葉にする方が無謀でした。
どうか、忘れてください。
「ふぅ」
久しく一人で小屋の最奥、アトリエにて薬を調合します。
作るのは、一般的な風邪薬。
多くの疫病に満遍なく抑制し、滋養強壮を促すもの。
私は目を閉じて、ゆっくりと瓶へと魔力を放出します。
私の行う魔法は〝再構築〟
一番得意とする魔法、私の十八番、他人には絶対に真似出来ない唯一無二の魔法を存分に使役する。
渦巻く魔力は蒼く煌めき薬草を巻き込んで螺旋を描く、口の開いた瓶の先を終点として座標を固定、後は丁寧に注ぎ込むだけ。
どこからともなく水が現れ――る訳ではないですが、空を舞う空気達に魔法を使役すると水へと戻っていく。酸素や水素等の元素達、その記憶の中にある〝水〟だった頃の記憶を選りすぐり、再構築していきます。
みるみる薬草色に染まった瓶の中身に最後は魔法でコルクを繰り、瓶の口を閉じれば出来上がり。シャルロット特製の風邪薬にございます、御一つ金貨一枚ですよ。えっ、高い?
ホッと一息吐いて、席に座ると改めて誕生日のことを思い出します。
果たして、どう答えようかと。
生まれ立ての風邪薬を眺めながら、言葉を選びますがなかなか思いつきません。なにせ、私にとって余りに無縁のものでしたから。
ただ無下にも出来ないので、困惑するのです。
相手に嫌な思いをさせず、考えていることを伝える。そこに同情や憤怒を呼び起こす言葉が混同してしまえば、言葉は言葉の意味を失う。いや、失いはしませんが、異なる意味で認識されて、仕舞には言葉の意味そのものが破綻します。
それだけは嫌なのです、言葉で人を傷つけるのは容易ですから。
しかし頭を抱え続けるのも問題のようで、
「おい、生きているかシャルロット」
苦手な私のアトリエにノックもせずに入るぐらいには、私は思惟に耽って長考していたようです。これでは、本末転倒ですね。
「ノックぐらいしてください、ずかずか入ってきて……」
その上、心配の声すら掛けられない。不出来なお人形にも程があるようですね。
「あぁ、悪かった。けど、風邪薬を作るにしちゃぁ長い時間入り浸ってやがったから、
ちーっと気になっただけだ。わりぃな」
あぁ――はこっちのセリフです、私の馬鹿。
「いえ、その……ありがとうございます」
「はっ?」
咄嗟に出てきた謝罪の言葉に私も頭が真っ白になります。
こんな言葉、言うつもりなかったのです。
だからでしょう、フェンリル君も目を点にして驚嘆交じりに一言。
「いや、まぁお前が大丈夫ならそれでいいんだよ」
相変わらず人には優しい自称強面ワンコのフェンリル君が、更に優しい言葉を紡いでいきます、非常に狡いです。なんですか、薬草の人を生かすも殺すも簡単に成し遂げる独特な臭いが苦手だとか、そもそもアトリエが汚いから踏み入れたくないとか、女の部屋は苦手だとか、前の主人に似て面倒な香りがこの部屋からはするとか、散々いちゃもんをつけてきたクセに、仕舞いはこれですよ。
本当に、狡い。
「じゃあ、何かあったらまた呼びに行くからよ。お前さんは適当に薬でも作っとけよ」
それでこれ以上は何も言わず、去って行こうとする。ちょっと恰好をつけて、私に背中だけを見せて手だけを振って立ち去ろうとする。
唐突に――寂寞を感じ取ってしまいました。
「待って、フェンリル君」
「あぁ?」
首だけ捻ってこちらの顔を窺う彼に、今更あたふたと言葉を選ぼうとします。やはり、急な展開には極端に弱いのが私の明確な弱みです。
「あ、あの」
少し声が上擦り、脳の中で言葉が乱反射します。
どうしよう。
あたふたと困りあぐねた私を見て、怪訝な顔でフェンリル君は睨みつけてきます。あぁ、ごめんなさいごめんなさい。
何とか言葉が出てきて、発した言葉は、
「私、誕生日がないのです」
今までフェンリル君に告げることを最も恐れていた言葉でした。
あっけらかんとするフェンリル君に、やってしまったと後悔する私。
別段嘘を吐いている訳じゃないのですが〝創り出された〟をどうしても、カウントに含めて良いか判別出来なくて、本当のような嘘を吐く羽目になってしまいました。
私の顔は今、真っ青になっていることでしょう。
また……嫌われると。
段々と心まで凍て付き、闇が迫ろうとした――その時です。
「なんだよ、それなら最初から言えっての」
「えっ?」
「何が『えっ?』だ。それならそうとさっさと言えば良かったのに、
あれか。お前はまた誰かに嫌われるとか思ったのか?」
「あっ、え――」
「そんな訳ねぇだろ、馬鹿だなお前は……天才だってのに、
考えていることはまるで小学生と変わらねぇじゃねぇか」
「むぅ、それは少し心外な言葉です」
「心外で結構、案外お前もがきんちょだって分かって、
少しスッキリしてんだからよ。勝手に拗ねていろよ」
何故でしょう、さっきまで離別やら嫌悪の感情が混沌として感情が理解に難かったのですが、今では明確にフェンリル君をいたぶりたいと思えるのですよ。
きっと宇宙の中では刹那にも満たない一時でしょう。
他人から見ると、当然の話。
友人を持つ人間なら、日常茶飯事かもしれません。
今の私には気付かない単純明快な答えが芽生えたのです。
いや、これから花開く寸前の蕾に彼は――水をやるのです。
「全く、じゃあ――今からおっぱじめるから、店閉めて来いよ」
「な、なにをですか?」
「決まってんだろ、誕生日だよ誕生日。
お前が分からないんなら、今から今日がお前の誕生日だ。
あっ、理屈で考えんじゃねぇーぞ。
お前には一生分からないだろうからな。
ちなみに、今回はお前が迷惑だって言おうが何だろうが、
絶対に決行するから覚悟しろよな?」
咲く花の色は分かりません、どんな学名を持った花かもお約束は出来ません。或いは汚い花が咲くかもしれません、人を傷つける毒があるかもしれません。一生咲かない花かもしれません。
それでも彼は私に水を与えるのです。
意図は分かりません、何を望んでいるのかも、何故彼がいきなり誕生日の話を切りだしたのかも分かりませんが。
きっとそんなことは、彼にとって些細な事なのでしょう。
どうやら、彼は彼なりに私の事を理解してくれているらしいです。
意味はないのでしょう、ですが意味を付け足していくのでしょう。
経過を先に考察せず、結果を先に考察して出たとこ勝負の博打屋なのかもしれませんが。
案外、それも悪くないですね。
私はこれからも臆病者なのでしょう。
人の顔色ばかりを窺い、真実を告げるか懊悩する日が続くかもしれません。嘘の笑顔を張り付けて、偽りの言葉を真実に
偽善者のような振る舞いをするかもしれません。
ですが、私には彼が――友人がいます。
たまには、そう……たまには。
「はい、覚悟しておきます」
自分も、進んで何かしましょう。
今日ぐらい、前向きに。
意味なんて求めずに、誕生日ぐらいと思えるよう。
あなたと共に。
讃える笑顔と共に。
はい、如何だったでしょうか?
正体が分かっている人には「なるほど」、
分からない人には「どうなの?」となる内容かと思いますが、
ちんぷんかんぷん!という方、はい。申し訳ございません、
私の文章力の欠如が著しいだけです><
もっと文章読んで、書く練習もしますので、
ゆっくりよくなっていく文章を……見守って頂ければと!
さて、それでは今年も残すところ6時間と少し。
皆様には来年、よいお年になっていますよう、
心からお祈り申し上げます!
来年の更新は第二週の水曜日に新年一発目があがればと思っていますので、
そちらもチェックして頂ければと!
それでは、よいお年を!