プロローグ『色雨』
(雨は、好きだったな)
天候、大雨。さした傘は折れてしまいそうなほどの風。雷。
そんな悪天候の中を1人駆けていく少年は、なぜか幼い頃の自分を思い返していた。
ーーおかーさん、そとのえ、かけた!!
ーーあら、また外の絵を描いたのね、○○○。
(この頃はまだ、知らなかったな、あんな事になるなんて)
透明な雫が、少年の体を絶え間なく打ちつける。それは走り続けて火照っていた少年の体を冷やし、わずかながらに癒しとなった。しかしながら同時に雫は少年の着ている衣服をも濡らし、重くなった衣服は少年の負荷となっていく。
ーー本当に○○○は雨が好きだなぁ。たまには晴れの日の外の絵も描いてくれよなぁ。
ーーえー、やーだー!ぼくはあめのほうがすきだもん!!
(僕じゃない、僕のせいじゃないんだ)
少年は1度走るのをやめて、びしょ濡れの上着を脱ぎ捨てた。包帯がグルグルに巻かれた痩せ細った体が露わになり、その一部からは血が滲み出ている。痛むのか、一瞬少年は顔を歪めたが、1つ大きな深呼吸をして、雨の中を再び走り出した。
ーーまあいいじゃない、あなた。私、この子が描く雨の水色、とっても好きよ。
ーーいや、咎めたつもりはないんだがな……、俺も、この水色は好きだな。
(全ては偶然なんだ、君がそう言ってくれたから)
突風が吹いた。肌を焼き溶かしてしまうような温度で風は少年を襲い、その背を焼いた。うめき声をあげて、遂に少年はその場に倒れ込んだ。それでも前に進もうと、少年は手を伸ばして地を這いずっていく。
ーーぼくも、みずいろ、すきだよ!!だからあめ、すき!!
(水色の雨、か。そうだったら、どんなによかったことか)
少年の倒れ込んだ場所は紅く、その周りは廃墟が建ち並ぶのみだ。雨がいくら降り注ごうとも、その色は何も変わりはしない。
(こんな見たくもない風景を、全て塗り潰してくれたかもしれないのに)
雨に混じって、かつて無邪気だった少年は自らも雫を落とす。それから、ゆっくりと立ち上がり、ほとんど光を失った目で前を見据える。
その眼前に広がるのは、血の池と廃墟。
(……やっぱり僕は、人を不幸にするのかな)
「もう一度、君の言葉を聞かせてくれ」
1つの想いと共に、また走り出す少年。雨は透明から、黒へと変わった。
初投稿です。投稿期間は結構空いてしまうかもしれないです…。(11/19 一部修正)