表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/8

第5話「24時間でも戦っちゃうのです!!」

 街道らしい整備された道にたどり着いた。


 と思ったら、新たな問題が発生した。


「レンヤ様、あれは盗賊に(おそ)われてるのかな?」


 ミラが指差す方向で、馬車が数人の男に囲まれている。

 まだ小さく見えるだけだが、不穏な空気は伝わってくる。


「どうやら、そうみたいだな……」


 ラノベとかだとカッコ良く助ける場面だけど、実際にその場面に直面すると難しい問題だ。

 やたら首を突っこんで、ミラを危険な目にさらすわけにはいかない。


「助けた方が良いかな?」


 俺が悩んでいると、助けること自体は簡単だという感じで、ミラが問いかけてくる。


「俺に危険がなくても『護主人様(ごしゅじんさま)』の加護って発動するの?」


 盗賊とは結構な距離があるから、差し迫った危険はない状況だ。

 ミラの力が10倍になれば、盗賊くらい圧倒できそうな気はするけど、そうでなければ危ないだろう。


 薄情なようだけど、俺にとってミラと他人の命の重さは別物だ。

 ミラはかけがえのない存在だ。 


「多分問題なく加護の力は使えると思う。あいつらを倒すことが、レンヤ様のためになると思えば……」


 そういう心理的な部分で、判定されるんだ?

 想いが力に変わる的な感じなのかな。


「じゃあ、ミラの身に危険が及ばない範囲で助けられるかな? 少しでも危ないと思ったら、逃げるんだよ」


 ミラの目を見て、真剣に伝える。

 とても大事なことだ。 


「レンヤ様、分かったよ。じゃあちょっと行ってくるね」


 そう言ってミラは俺に背を向けた。

 ミラの軽い口調に、ちゃんと伝わってるか心配になる。


「ちゃんと分かってるか? 絶対無理するなよ!」


 ミラの背に向けて声をかける。


「……レンヤ様がわたしを大事に思ってくれる気持ちだけで、10倍以上の力が出せそうな気がする」


 ミラは振り返らずにそうつぶやいた。

 後姿だけど、猫耳がピコピコ動いてるのが見える。

 ミラが、ある感情を持っている時の仕草だ。


 ミラはすぐに馬車に向かって駆け出した。

 尻尾を揺らしながら走る姿が可愛らしい。

 ミラが猫の姿の時も、動き回る姿は見ていて飽きないものだった。


 猫の動き回る姿を一日中見ていたいと、よく思ったものだ。

 まあ猫は寝てる時間が長いから、ずっと動いてるってことはないのだが。

 ちなみに猫の寝顔は、芸術品も(かす)むものだ。

 

 走る筋力も10倍なのだろうか。

 ミラは猛スピードで駆け、あっという間に目的の現場まで到着したのが遠目に見える。


「大丈夫かな……」


 ふいに不安になる。

 誰かが俺のために頑張ってくれるというのは、慣れないものだ。


 働いていた会社では、上から降ってくるように次々と仕事を押し付けられていた。

 今思うと、会社は社員を使い捨ての物として扱っていたのだろう。


「……お、……おお! ミラ、すごいな……」


 元勤務先のブラックさをあらためて思い返してるうちに、ミラが次々と盗賊を倒していく。

 ついつい感心してしまうほどの、手際の良さだ。


 俺の心配は要らぬものだったようで、ミラはあっという間に盗賊を制圧して、こっちに向かって手招きしている。

 ピクリとも動かない奴もいるけど、死んでいるのかもしれない。

 下手に加減して危ない目に合うよりよっぽど良い。

 ミラを不安にさせないためにも、俺も気にしないようにしないとな。





 馬車まで行くと、金髪の少女がいた。

 そばには護衛らしき男が2人控えている。


「おかげで、助かりました」


 少女にお礼を言われる。

 ミラじゃなくて俺にお礼を言ってくるあたり、ミラが俺のことを主人だと伝えたのかもしれない。


「いえ、放ってはおけませんでしたので……」


 俺は一応丁寧に返す。

 護衛がにらみを利かせてるから、この少女が偉い人物という可能性もある。


 俺は知りたいことがある。

 この少女から、色々と話が聞けるとありがたい。


 知りたいのは、(おも)に街の所在と、この世界の常識についてだ。

 俺たちは遠くからの旅人ということにして、常識がないことをごまかすことにした。


 その後、少女から話を聞くことができた。

 少女の名前はロレーヌ、近くの街の貴族の娘とのことだ。

 歳はミラより下に見えるけど、どこか大人びた雰囲気の子だ。


 移動に護衛をつけていたけど、盗賊の数が想定を超えていたらしい。

 襲撃してきたのは、15人の盗賊団だったようだ。

 いまいち多いのか少ないのか俺には分からないけど、ロレーヌが言うにはかなり多いらしい。


 護衛は6人だったようで、4人はやられたようだ。

 ミラの参戦があと数分遅かったら、全滅していただろうとのことだ。


「あなたの部下の、その子って凄く強いのね。有名な冒険者かなにかかしら? 旅をしてきたっていうけど、あなたも只者じゃないとか……?」


 ロレーヌが俺とミラに興味を示してくる。

 そういえば、俺の格好はワイシャツとスーツのズボンだった。

 もしかしたらこの世界では珍しい格好かもしれない。

 まあ遠くから来たことにしておけば大丈夫だろう。


 それよりも、今“冒険者”って言ったな。

 ラノベとかでよくある、魔物を倒したりして生計を立てる、あの“冒険者”だろうか。


 なんてことを思ってると、


「よくぞ聞いてくれました! レンヤ様は元ブラックカンパニーの戦士(ソルジャー)です。24時間でも戦っちゃうのです!! わたしのご主人様は凄いのです!!」


 ミラが嬉しそうに、ロレーヌに告げる。


 ち、ちょっと!?


 何? その強そうなの??

 ブラックカンパニーのソルジャーって?

 たしかに企業戦士だったけどさ!

 

 あ……。

 昔何回かミラに、「今日もブラック会社で、24時間戦ってきたぞ……」とか愚痴ってた気がする。


 けどさ……。

 なんで俺のことを話すとき、そんなに嬉しそうなのさ?


 猫耳がピコピコと動いている。

 昔からミラは嬉しいとき、耳がピコピコするのだ。

 ちょっとドヤ顔だし。


「な、何だか強そうな組織ね……」


 ロレーヌがミラの勢いに押され気味だ。

 ミラの語りがまだ続きそうだったから、俺はミラの口を手でふさいだ。


「な、何をするのです、れんにゃさま!? ふがっ!」


 慌てるミラが可愛いけど、これ以上はやめてもらおう。

 

 ロレーヌが、「その子を力技で抑え込むなんて、すごいのね……」と、なんか勘違いしてるけど気にしないでおこう。


 もしかしたらミラは親馬鹿ならぬ、ご主人馬鹿かもしれない。

 手放しで俺のことを()めようとする。

 気をつけないと恥ずかしいことになる気がする。


 凄いって言ってくれるのは嬉しいんだけどね……。


 それから俺たちは、ロレーヌと一緒に近くの街に向かうことになった。

 ロレーヌは俺が持ってた貴族のイメージと違い、とても話しやすかった。

 おかげで少しこの世界のことを知ることができたのだった。



猫はよく寝ていますが、1日15時間前後寝たりするようですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ