第4話「クンクン……。レンヤ様の匂いだ」
ミラが魔物を倒した後、俺たちは移動を開始した。
どっちに向かえば良いのか分からないけど、このままここに居るわけにはいかない。
「それにしても、どこまでも草原だね……」
「わたしにも、何も見えないよ……」
結構歩いたけど、いまだに見渡す限り草原だ。
木もまばらに生えてるけど、だからどうということもない。
気候は過ごしやすいけど、このままだと飢えてしまう。
たまに遠くに四足獣の魔物が見えるけど、簡単に捕まえられるとは思えない。
「この草って食べられないよね……?」
そこら中に生えてる草が食べられれば、食料問題は解決だ。
「うん、猫の時のクセで食べてみたけど、耐性がないレンヤ様が食べたら、お腹を壊すと思う」
そういえば、猫って草を食べるよね。
毛づくろいした時の毛玉を吐き出すためだったり、足りない栄養を取るためだっけ。
「そっか……。とりあえず歩いていれば街とかあるかもしれないし、頑張ろうか」
「ごめんニャ……。レンヤ様を甘やかすって言ったのに、さっそく大変な思いをさせて……」
ミラがしょんぼりしている。
猫耳も元気なくパタリと折れている。
「気にするなよ。深夜遅くまで働いていたことと比べたら、ミラとのピクニックは楽しいだけだよ」
これは遭難じゃなくて、ミラとの草原ピクニックだ。
終わりの見えないサービス残業より、はるかに楽しい。
「レンヤ様……。やっぱりレンヤ様は優しいね」
ミラが自分の腕を俺の腕にからめてきた。
今のミラは、誰もが振り返るほどの美少女だ。
猫が懐いてくるのと違って、凄くドキドキする。
俺はブラック企業に働きづめで、恋愛する時間もなかったから、女性に慣れてないのだ。
俺のドキドキなんて知らないかのように、ミラが身を寄せてくる。
でも……、ミラの顔が少し明るくなったし、良かったかな。
「そういえば、気になってたんだけど、俺の見た目って今どうなってるの?」
話を変えることにした。
実際、気になっていたということもある。
体が軽く感じるのと、見える肌の感じが少し若くなった気がするのだ。
「レンヤ様の見た目? う~ん……かっこいいままだけど、若くなったかも……。あっ!」
ミラが何かに気づいたように声を上げた。
ちなみに俺は、特段イケメンというわけではない。
自己評価は普通メンだから、よく見えたとしたらそれはミラの飼い主補正だろう。
「どうしたの?」
「そういえば、神様が転移の時にレンヤ様を若くするって言ってた気がする。せっかくのやり直しだからって」
「マジか……。神様すごいね……」
ミラと一緒に転移させてくれて、若返りまでさせてくれて感謝してもしきれないな。
お礼を言う機会とかあるのだろうか。
「わたしもレンヤ様のそばに転移させてもらえて、神様に感謝してるよ」
ミラが嬉しそうにする。
「そうだね、会う機会があったらお礼しようね」
若返りって、今の俺は何歳なんだろう?
なんとなくだけど、20歳前くらいの気がする。
ミラの見た目は、15歳くらいに見えるから同じくらいの歳なのだろうか。
ミラは5歳の猫だったけど、猫と人の年齢は違うしね。
「レンヤ様の、匂いは前世と一緒だよ。落ち着く、すごく良い匂いなんだよ」
そう言いながら、ミラが俺の体をクンクンとかいでくる。
ずっと歩きっぱなしで汗もかいてるから、恥ずかしいんだけど……。
といっても振り払うわけにもいかず、くっつきながら歩いていく。
そういえば、前世でもミラ(猫)はいつもクンクンしてきたな。
猫は犬ほどじゃないけど、嗅覚が人間の数万倍すぐれてるんだっけ。
お風呂入りたいな……。
異世界ってお風呂はあるんだろうか。
「あっ!? ミラ、あっちの方に何か道みたいなものが見えない?」
「ん~……、たしかに薄っすらと見える気がする。レンヤ様、もしかしたら街に続く道かもしれないね」
道らしきものが遠くに見える。
街が近くだといいなと思いながら、俺たちは歩みを進めるのだった。
猫が一万倍嗅覚が優れてるからといって、一万倍強くにおいを感じるわけではないようです。
一万分の一の濃度でも感知できるということのようです(=´ω`=)