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第3話「10倍の力で異世界を乗り切るニャ!」

 俺がミラの甘やかす宣言に心打たれていると、ミラはふいに後方を振り返った。


「嫌なにおい……。何かが近づいてくるみたい」


 ミラがそう口にするけど、俺には特に何も感じられない。

 ミラは人の姿になっても、鼻が良いのを引き継いでるのかもしれない。

 ラノベでも、獣人はそういう特徴を持ってることが多いもんね。


「何かって、動物とか?」


 ここは草原だ。

 動物くらいいるだろう。


 ただ、言葉にはしなかったけど、一番に頭に浮かんだのは違う単語だった。

 異世界と言えばお約束の存在、人の脅威となるあの存在が頭に浮かんでいた。

 言葉にするとそうなりそうな気がして、言い換えたんだ。


「ううん、多分違う。この世界特有のものだと思う。レンヤ様の知ってる言葉でいうなら、『魔物』が一番あってるかな」


 ミラは俺が一番に浮かんだ言葉を口にする。

 すぐに、危険という文字が頭をよぎる。

 それなのにひどく落ち着いてるミラを見ると、何か人ごとのようにも感じる。


「ミラ、逃げないと! すぐにここを離れなきゃ!?」


 ミラに呼び掛けることで、危険ということを自分にも言い聞かせる。

 感覚的にはちょっと前まで平和な日本にいたのだ。

 平和ボケという感覚は、そう簡単に無くなるものではない。


「大丈夫だよ、レンヤ様。もらった加護は、こういう時のためのものだから」


「けど、相手がどういうやつか分からないだろ?」


 加護で10倍の力を発揮するといっても、それ以上に強い敵だったら……。

 ミラの基本値よりも11倍強い敵だったら勝てないはずだ。

 8倍くらい強い敵でも、数が多かったら厳しいと思う。

 それに、実際の戦いは数字で答えが出るほど簡単でもないだろう。


「わたしはレンヤ様のために戦いたい! いつも夜遅くまで仕事して、わたしを甘やかすレンヤ様を見て、ずっとそう思ってた!」


 ミラが嬉しいことを言ってくれるけど、これは命がかかった問題だ。


「気持ちはすごく嬉しいけど、身の安全が第一だよ」


「それもきっと大丈夫! やってくる魔物は、勝てる相手だと思う。猫は、相手の強さに敏感なんだニャ」


 ミラが、招き猫のように片手を顔の横で「ニャン」っと丸める。

 猫に任せておきなさい、といった感じだ。


「なっ!?」


 俺は不意打ちを受けて、言葉につまった。

 

 招きミラが、死ぬほど可愛かったからだ。

 はにかむような笑顔が、まぶしかった。


「どうしたの? 変な顔して、やっぱり魔物が怖い?」


 ミラに、見とれた俺は変な顔をしていたようだ。


「いや……、大丈夫だ」


 ドキドキして上手く言葉を返せなかった。

 でも……、いつの間にか怖さは全くなくなっていた。


 ミラが大丈夫だと言うのだから、それを信じよう。


「10倍の力で異世界を乗り切るニャ!」


 ミラの決意は俺たちの今後を占うかのようだった。





 8体の魔物が、俺たちを囲むように近づいて来た。

 背は人より少し低く凶悪な顔をした、緑色の肌の魔物だ。


 ゴブリンだな……。

 俺のファンタジー知識の1ページ目に載っている。


 背は俺やミラよりも低いけど、近づいてきた速度からしても、素早さはなかなかのものだとおもう。

 ゴブリン1体なら、もしかしたら戦えるかもしれないけど、この数は間違いなく俺では勝てない相手だ。

 

「ギキィッ!」

「ギィ!!」


 ゴブリンが、猿のような叫び声を発する。

 ナイフやこん棒を、こちらに向けてくる。

 仲良くする気は全くないようだ。


「レンヤさまのため、そしてそれは私のため! 絶対に(まも)るニャ!!」


 ミラは嬉しそうにファイティングポーズを取る。

 キックボクシングの構えに近いだろうか。

 何も武器を持っていないとは思ってたけど、どうやら本当に素手で戦うようだ。


「「「ギィー!!!」」」


 ゴブリンが一斉に(おそ)いかかっ――――てくる前に、ミラがゴブリンに向かって飛び出した。

 猫のように、しなやかで躍動感のある動きでゴブリンに(おそ)いかかった。


「ヤアッ!!」


 ミラが、正面のゴブリンに右ストレートを繰り出した――んだと思う。

 パンチの速度が速すぎて、腕から先がぶれたようにしか見えなかった。

 体勢から右ストレートだったんだろうと、思っただけだ。


「グガッ!?」


 ミラのパンチが当たったであろうゴブリンが、変な声を上げて吹っ飛んでいく。

 ゴブリンは、地面を何回か跳ねてそのまま動かなくなる。


 それを見ていた他のゴブリンがひるんだのが、場の空気で伝わってくる。


「ニャッと!」


 ミラが掛け声とともにミドルキックを放つ。


「グゲッ――ガァッ!?」


 蹴られたゴブリンが近くにいたゴブリンを巻き込んで飛ばされていく。


「うりゃー!!」


 ミラが助走をつけてゴブリンに向かって飛び蹴りをみまう。

 ゴブリンの顔にあたり、グシャっとつぶれるような音がする。


 ミラは戦いながらも、俺の安全を気づかうように時々こちらに視線を向けてくる。

 ミラの優しさに、戦闘中で不謹慎ながらも嬉しくなる。


 全く危なげない様子で、ミラは次々にゴブリンを倒していく。


 10倍の力になるということは、俺が思っていた以上のものだった。

 ミラとゴブリンの強さの差は、大人と子供以上に開きがあったのだ。


 俺がそんなことを考えている間に、戦闘が終わったようだ。


「いった通り大丈夫だったでしょ? 人の姿で体を動かすのは楽しかったよ」


 パンパンと手をはたき、ミラは俺の方に戻ってくる。


「凄かった、ミラの戦ってる姿はかっこよかったよ! それに……ありがとう」


 戦ってくれてありがとう。

 今回は楽に勝てる相手だっただけだ。

 俺のために戦ってくれるミラへの感謝は忘れないようにしたい。


 戻って来たミラは、さらに俺に近づいてくる。


 え? ミラ??


 ミラが俺の正面くっつくくらいの位置まで来て、俺を見上げてくる。

 俺の方が頭一つ分背が高いから、すぐ真下にミラの可愛い顔がきた。


 !?

 俺は戦闘前よりも、ドキドキしている。


 さらに、だ。


「ん……」


 俺を見上げたまま、ミラが目をつぶった。


「み、ミラ!?」


 ちょっと待ってくれ。

 いろいろと心の準備が!?


「ごほうびもらえたら嬉しいな……。いつものアレ……」


 ミラが目をつぶったまま、ほんのり頬を赤くする。


 いつもの?

 おお、あれだな!


 少し戸惑ったけど、ミラの言葉で前世のことを思い出した。


「ミラ、よくやった。ミラは今日も可愛いな」


 いつも猫だったミラにそうしてたように、俺はミラの頭をなでる。

 

「……ぅん」


 ミラは目を細めて気持ち良さそうにしている。

 さっきまで激しい戦闘をしていたとは思えないほど、穏やかな表情だろうか。


 猫をなでるときと違って、俺はかなりドキドキしてるけど……。


 とりあえず、異世界での初戦闘は、ミラのおかげで無事勝利となった。

 俺は見てただけで、何もしてないけどね……。


 なんとなく、今後の異世界生活をあらわしているような気がするけど、細かいことは気にしないことにしたのだった。



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