第2話「甘やかすって決めたんだニャ」
飼い猫のミラとともに異世界に転移してしまったようだ。
「ミラはこの世界を知ってる風だけど、今ってどういう状況なんだ?」
ミラに聞いてみる。
よく分からない状況なのに、異世界転移って言い切ってるもんね。
俺よりは、状況を把握しているのだろう。
「簡単に話すとね……。レンヤ様が現世で倒れた時に、魂がどこかに連れていかれそうだったんだ。それに飛びついたら、私の魂も一緒に神様のところに連れてかれたんだ」
猫は昔から霊を見ることができる、霊界と人間界の監視役と言われることがある。
それで、俺の魂が見えたから飛びついたってことか。
俺の魂は猫じゃらしみたいなものだったらしい。
なんて思ってはみたものの、魂でも何でも俺に懐いてくれたことが素直に嬉しい。
「神様に会ったの?」
「うん、輪廻の神様が異世界に転移転生させてくれるっていうから、一緒の世界に転移させてもらったの」
「なるほどね。にわかには信じがたいけど、状況が状況だし、そうなんだろうね」
「ただ、二人一緒の世界に送ると、加護はどちらか片方に一つだけしかつけることができないって言ってたよ」
転移の特典的なものとして、加護が与えられるらしい。
ラノベ風に言うと、チート能力ってやつだ。
一つの転移に一つのチートってことだろうか。
「それはどうなったの?」
「加護はわたしに付けてもらったんだ。レンヤ様を護れるようにって」
そう言って、ミラは嬉しそうに微笑む。
銀髪美少女、可愛いな……。
猫の姿も可愛かったけど、今の姿も異世界で一番可愛いのではないだろうか。
元々無かった能力の付与、俺はミラが幸せなら、他に特に欲しいものはない。
加護がミラを幸せにするなら、神様に感謝したい。
「その加護ってどんな能力なの?」
「『護主人様』という加護名なんだけど……、レンヤ様のためなら、通常の10倍の力を発揮できるっていう能力なんだよ」
「ごしゅじんさま……?」
「そう、この世界でレンヤ様を幸せにするのに、すごく向いてる能力でしょ?」
俺のために行動するときは10倍の力を発揮できるらしい。
例えば、俺を護る為に戦う時は、力が10倍になるとのことだ。
「ミラ……」
能力を選ぶときですら、俺のことを考えてくれたということに、少し涙ぐんでしまった。
「それにね、猫の姿のままじゃ不便だろうということで、この姿にしてもらったんだ」
ミラの話によると、加護とは別に人化をサービスしてくれたらしい。
ついでにこの世界の言葉が分かるように、自動翻訳スキルを俺たち二人に与えてくれたとのこと。
「俺は前世でミラに何も与えられなかった……。贅沢な食事や、走り回れるほどの大きな家、俺はミラを幸せには――」
そんな俺の言葉をさえぎるようにミラが言う。
「レンヤ様、それは違うよ! わたしは前世でも十分幸せだったよ。毎日たっぷり愛情をこめて優しくなでてくれた。わたしが体調を崩した時は、ただでさえ少ない睡眠時間を削って看病してくれた」
ミラの綺麗な銀色の瞳が、真っすぐに俺を見つめてくる。
「ミラ……」
「ずっと、ずーっと、レンヤ様のたっぷりの愛情に包まれてたよ。わたしは世界で一番幸せだと思ってたよ」
ミラが満面の笑みを浮かべる。
「そんなこと……」
俺は大したことはしていない。
ミラのことは世界で一番可愛いと思っていたけど、可愛がっていたのは俺がミラのことを好きだったからだ。
俺がしたくてしていただけだ。
感謝されることではないはずだ。
「だから……、今のこの世界ではわたしがレンヤ様のことを、たっぷり愛することにしたんだ。これはわたしが、したくてすることなんだよ」
ミラ自身が、好きでするんだと言ってくれる。
俺が思っていたことを、同じ風に返されてドキッとした。
「だったら、お互いに――」
お互いに力を合わせてこの世界で過ごそう、と言おうとした。
ミラは人差し指を俺の口にあてて、それ以上は言わせないよと片目をつぶった。
「駄目だよっ……! レンヤ様は、前世で働き過ぎだった。この世界では何もしなくて良いの。わたしが、たっぷりレンヤ様を甘やかすって決めたんだニャ!!」
それはミラの宣言だった。
嬉しくも、なんだかちょっと恥ずかしくもある、ミラの心のこもった幸せな宣言だった――。