別話1 五年前*少女との出会い
「ここから問題の村だ・・。気を引き締めていくぞ。」
「「ああ・・・。」」
「獣を見つけたら、知らせろ。生存者も探せ。」
「「「はい。」」」
皇都より北方にある大都市・“北都”以北を担当していた12人の暗部員が最北の村にたどり着いた。その中には、20代後半の昴、20代半ばの滝、新人で参加した20歳の冬夜と玲の姿もあった。初めての遠征に2人共、他の隊員よりも緊張していた。
のちに“獣集”と呼ばれる惨劇の中、暗部は獣が襲ってきたとの通報を受けて出動していた。逃げてきた村人たちの証言曰く、村で山狩りの数十人が囮役をして村人たちを獣たちから逃がしてくれたから、彼らを助けてやってくれっと言われた。それを聞いた12人の暗部員は、山狩りの応戦をする形も想定していた。
村に入ると、破壊された家屋や畑、無数の死体もしくはその一部が転がっていた。血が地面や家屋に飛び散っており、腐った鉄のような悪臭が漂っている。見渡す限り、生存者はいなかった。山狩りの姿もいなく、不気味な静けさがあった・・。
惨劇の跡に表情をこわばらせながら、暗部12人は村の中を注意深く歩いていた。死体が多い方、村の奥へ進んだ。日はもう傾きかけていた。
「!! 獣、発見!!無数、います!!」
その警戒した声に、暗部員全員、武器を構えた。
遠くに見える森の空に、無数の大型の獣が群がっていた。12人で対処しきれるか不安になるほどの数だった。一斉に襲ってきたら、全滅になるかもしれない・・・。
暗部員全員、死を覚悟した。
しかし、獣はいつまでも襲ってこない。それどころか、こちらに意識さえ向けていない。別なものに集中している・・・。
「・・・? あそこに光るのはなんだ・・?」
「動いててよく見えな・・・。」
全員で獣たちを注意深く見ると、上空の獣の大群の前に光が素早く動いていて、それに獣たちが注意がいって群がっているのが見えた。
そして、その光が空中で止まった時、その正体が分かった・・。
「・・・ひ・と・・・・・?」
一瞬空中で立ち止まった光の正体は、人だった。それも10歳にも満たない子供。子供は暗部員らの存在に驚きながらも、生きる強い目でこちらを見ていた。
子供はボロボロな様で所々血で濡れており、額に鉢巻きみたいな飾りをしていて、それが光っていたみたいだ。その飾りは山狩りに伝わるもので、獣の注意を引くための道具であり、囮役がつけることになっている。現に、地面に転がっている死体にも、その飾りの一部が一緒に落ちている。
つまり、獣の前で逃げ回っているこの子供は、生き残った囮役だった。
「・・・・うそ・・だろ・・?」
暗部全員は驚愕した。
死体が転がる、生存者がいない村でたった一人囮役を続ける子供・・。
子供の周りの獣が動き出して、こちらを見た子供はもうこちらに注意することなく、一斉に襲ってくる獣から逃げるために上空で動き出した。囮役を続行したのだ。
暗部12人はその光景に驚愕していたが、同時に暗部の数人は獣たちが一斉に襲ってこない今がチャンスだと考えた。囮役の合間から銃で獣たちを撃てば、この少人数の中で被害が少なくスムーズに倒せる・・。
リーダー格の30代の暗部員が子供に向かって叫んだ。
「まだ耐えられるかー!?囮役、続けられるかーー!!?」
「「「なっ!?」」」
仲間の叫ぶ内容に、子供をなんとか助けることしか考えていなかった、冬夜、玲たちが信じられないというふうに驚愕した。
子供はその声に返事も振り返りもせずに、上空で囮役を続けている。
叫んだ暗部員は、その様子が承諾した答えだと、察して頷いた。
暗部員たちはすぐさま銃など遠距離型の武器を構え始めた。
「銃を構えろ。子供に応戦するぞ。戦闘準備っ!!って、おい!待て!冬夜!玲!」
「「はあああああああああっーーーーー!!!」」
リーダー格の暗部員の子供を応戦するための戦鬪準備の命令を無視して、冬夜と玲は獣が群がり襲いかかっている子供の元に、雄叫びを上げながら駆けていった。冬夜は短距離型双銃を、玲は刀を駆けながら抜き出し、足に術式を使って地面を蹴り、上空にいる子供を狙う獣たちに夢中で立ち向かっていった。
冬夜たちが戦いの最中に見たボロボロの子供は、驚いた様子で2人を見ていた。