闇医者探偵の事件録【性転換編】
【作者より】
拙作はとびらのさま主催の「TSゴールデン企画」に参加させていただいた作品です。
「TS」ははじめてなので、グダクダ感がありますが、暖かな眼差しでご覧くださいませ。
また、不倫や手術シーンが入ります。苦手な方はご注意くださいませ。
ここはとある県の小さな探偵事務所。
従業員はわずか五名ほどしかおらず、ほとんどが男性で一人だけ女性という逆ハーレムな職場である。
「リイサ、依頼人のところに行ってくる」
「隼人くん、行ってらっしゃい! 気をつけてね?」
「ああ」
他の探偵は現場に行っており、そこに残っていたのは隼人とリイサの二人だけ。
彼はビジネスバックを肩にかけ、彼女に見送られながら依頼人宅へ向かった。
◇◆◇
隼人は依頼人宅のインターホンを鳴らす。
『どちら様でしょうか?』
「荻野です」
『少々お待ちください』
「はい」
依頼人の声はドアホンからではあるが、透き通ったような女性の声が彼の耳に入った。
「こんにちは、荻野さん。どうぞお上がりください」
「お邪魔します」
ドアホンからの通話から数分待ち、彼女が姿を現すと隼人を速やかに招き入れた。
「奥様、なぜ速やかに僕を招き入れたのですか?」
「玄関先で話していると、逆に不倫だと思われたら嫌ですし」
「言われてみればそうですね」
彼らの目の前には二つのティーカップ。
女性がティーカップに紅茶を注ぎながら「散らかっていてすみませんね」と申し訳なさそうに頭を下げる。
彼は「いえいえ、お気になさらず」と手を横に振った。
「ところで、荻野さん。何か情報は得られましたか?」
「ええ。依頼を受けてから、何日間か偵察させていただきました。確かに旦那様は明らかに奥様以外の女性といましたね」
「まあ! 証拠の写真はございますか?」
「ありますよ。ご覧になりますか?」
「お願いできますか?」
彼女が証拠写真を見たいと隼人に申し出る。
彼は口角を上げながらビジネスバックから白い封筒を取り出した。
「こちらが証拠写真です。どうぞ」
「ありがとうございます」
隼人から受け取ったその写真は男性と不倫相手の女性が肩を組んで歩いているところや高級そうなレストランで美味しそうに食事をしているところ、酔った勢いなのかは分からないが、キスをしているところ……。
それ以外にもたくさんの写真が撮られていた。
「やっぱりね……道理で唇がいつもより赤い日があったから、それが原因なのね……」
「その通りです。奥様はよく旦那様ことを見てますね?」
「それはそうですよ。結婚して五年経っていますので」
「最終的にどうされますか? 旦那様に見せるなら、これらは奥様に差し上げますが……」
女性が「荻野さんはいいのですか?」と彼に問いかける。
隼人は「僕のところでデータが残っていますので、大丈夫ですよ」と微笑みかけた。
これが彼の営業スマイルである。
「離婚するかしないかは奥様が決めることです。僕は裁判官ではないので、なんとも言えません。お茶、いただきますね」
「どうぞ召し上がってください」
隼人は冷めかけた紅茶を一気に飲み干し、「また何かあったら連絡してくださいね」と彼女に告げ、彼の仕事は一旦終了した。
◇◆◇
「やっと、本業の一件目が終わった……」
隼人は依頼人宅の近くに置いておいた車の座席に座り、煙草をふかす。
その時、彼は何か違和感を覚え、後ろを振り返って見てみた。
「う、うわぁ!?」
隼人の車の後部座席には見知らぬ少年がちょこんと座っている。
「な、なんで、こんなところに子供が!?」
彼は携帯灰皿で煙草の火を消し、冷や汗をダラダラと流していた。
大まかに記憶を辿り、「俺、餓鬼なんか乗せた記憶はないんだが……」と冷静装いながらぼやく。
隼人は少年が迷子になってしまったと判断した。
「俺は荻野 隼人という。名前は?」
「ぼくの?」
「お前しかいないだろう!?」
「……かわだ たくみ……」
彼はたくみと名乗った少年に質問してみる。
彼の好きな食べ物、遊び、絵本……。
最初は警戒していた、たくみは隼人の質問に対してキャッキャッと楽しそうに答える。
「ところで、パパとママは?」
「…………」
彼はずっと気になっていたことを彼に問いかけた。 しかし、首を縦ではなく横に振る。
隼人は「俺、ヤバいことを訊いてしまったか!?」と思ったが、迷子なのだから、今までいた場所を訊かないと帰せない。
彼はやむを得ず質問を続ける。
「どこからきた?」
「……たんぽぽえん……」
「たんぽぽ園……」
隼人はたんぽぽ園になんとなく聞き覚えがあった――――。
◇◆◇
たんぽぽ園――。
そこは今から三十年前から続いている児童養護施設。
しかし、たんぽぽ園では現実ではありえない事件が起きている。
その施設に入所している少年は原因不明ではあるが、ひょんなことがきっかけで男から女に性別を変えられてしまう「性転換」という現象が起こっているらしい。
主なパターンは「GL」が好き、「女性向けレーベル」が好きなどといった単純な理由が多いと彼は噂で聞いていた。
「ほう、そうか……」
「おともだちはおんなのこがおおいよ。おとこのこはすくないんだ」
たくみは今のたんぽぽ園の現状を説明する。
それを聞いた隼人は「「性転換」? それはそれは面白そうだ……この仕事は副業の方か」と悪どい笑みを浮かべたが、「おにいちゃん、きいてるの?」と彼から言われたため、急いで隠した。
しかし、彼はまだ仕事中のため、探偵事務所に戻らなければならないとふと思った。
「なぁ、たくみ。俺は仕事に戻らないとならないから降りてくれないか?」
「やだ!」
「一緒にたんぽぽ園に戻ろう。先生とかが心配してるぞ?」
「……うん……」
たくみは隼人の言うことをしぶしぶ聞く。
彼は車のエンジンをかけると、幼い彼が驚かないよう制限速度を守りながらたんぽぽ園まで送り届け、探偵事務所へ走らせた。
◇◆◇
「隼人くん、お帰りなさい」
「ただいま、リイサ。他の人は?」
「まだ戻ってきてないけど」
隼人が戻ってきた頃には他の面子はおらず、箒を持って掃除をしているリイサだけだった。
「なぁ、たんぽぽ園のことなんだが……」
「何か分かったの?」
「何も分かったことはないが、人間の染色体は二十三対中一対は性染色体なんだよな?」
「うん。そうだね」
「たんぽぽ園にいる男子にDNA鑑定をやったら何か分かるかなと思って……」
「DNA鑑定?」
「ああ」
彼女は「わたしも興味あるんだけどね……」と微笑みながら首を傾げている。
一方の彼は自炊して持ってきた弁当を冷蔵庫から取り出し、電子レンジに入れて温め始めた。
「一人ずつやると時間がかかるしな……忘れてくれ」
「何も役に立てなくてごめんね」
「別にいいんだ。すべての仕事が終わったら直帰するから。一応定時で」
「分かった。忘れないうちに書いておいてね?」
「了解」
隼人は温かくなった弁当箱を出し、黙々と食する。
その様子を見ていたリイサは「隼人くんが出かけたら、わたしもご飯食べよう」とお腹を鳴らしながら呟いた瞬間、隼人の姿はなかった。
◇◆◇
午後に入っていた二件の仕事を午後七時頃……。
隼人は探偵事務所から離れた廃墟の病院におり、先ほどまでの背広姿から白衣に着替えていた。
「性転換手術、実に面白い……」
彼の前にはたくみではなく、傷だらけで意識重体の少年が手術台の上に横たわっていた。
「少年よ、君の命は俺が助けるからな。少女の姿で確実に……」
隼人は少年の頭をそっと撫でるが、彼の目は氷のように冷たい視線を送る。
なぜならば、今の隼人は探偵ではなく、医師免許を持たない闇医者。
無資格でテレビドラマ並みの医療知識しか持たないが、技術は確実だ。
「さて、失敗するか分からないが、手術を始めよう」
少年の意識はほぼないに等しいため、麻酔を投与する必要ない。
彼は医療用ハサミで傷だらけではだけていた服を切り裂き、手術の準備をする。
隼人は少年の身体にメスを入れ、彼好みの少女の姿にして――――。
◇◆◇
あれから三時間程度が過ぎた頃にはじめての「性転換手術」が終わった。
「今は傷口を塞ぐために縫ってあるが、二週間くらいで塞がるだろう。さっきまではショタだったのに、可愛いロリになりやがって……!」
隼人は自分の手術に満足したようだ。
彼は消毒液を湿らせた布で身体をきれいに拭く。
ユニセックスのパジャマに着替え、お姫様だっこをして病室のベッドに横にさせる。
「今はゆっくり休め。君の声はあとで聞かせてくれ」
彼女を寝かせたあと、隼人はシャワーを浴び、少女の隣のベッドで眠りについた。
◇◆◇
翌日――。
「おにーちゃん、おきて! あさだよ!」
「ん……」
彼は聞き覚えのない声で目が覚めた。
その時、隼人は試しに「性転換手術」をした少女の声だと気づく。
「おにーちゃん?」
「おはよう。君の声が聞けて嬉しいよ」
「わたしのこえ、かわいい?」
「可愛いよ」
彼女は身体の動きには違和感がなく、おまけに声もアニメのヒロインみたいに可愛く感じられる。
よって、縫った傷口が塞がれば彼の手術が成功したと言ってもいいくらいのレベルだった。
「わたしね、おにーちゃんのおよめさんになるの!」
「ち、ちょっと待て!」
「いやだ?」
隼人は少女からの願望を聞くなり、驚いたような表情を浮かべたが、「か……考えておく……」と頬を赤くして答えた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
この作品をもって100作品目となりました。
ヘンテコな作品が多いですが、もし見かけましたら読んでやってください。
これからもよろしくお願いいたします。