表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魂の別れ

作者: 尚文産商堂
掲載日:2017/01/31

それは知っていたこと。

でも、知らないふりをしていたこと。


結婚し何十年と連れ添ってきた相方との別れ。

私はそれを不思議と悲しいとなんとも思わなかった。

子供や孫、ひ孫との葬儀でも、ボンヤリとしていた。

何を思えばいいのかわからない、そんな気持ちだった。


そして私の番。

数年経って、私も向こうの世界へと行くことになった。

「今日の魂は珍しいですね」

女の子と男の子が、私をどこかへ連れて行く。

「私たちは魂回収班。あなたを神のところへと連れて行くことになってます。安心してついてきてください」

「え、ええ」

体から離れて行く一方で、なにか、左手の薬指に違和感がある。

みるとどこかにつながっていた。

「サイン神に連れて行くべき?」

「初めてだからな、その方がいいんじゃないか」

知らない神様の名前をあげる2人に、何も言えないまま、どこかの家へと連れて行かれる。


「失礼します」

雪山のロッジのようなところだ。

遠くには絵でしか見たことがないマッターホルンがそびえている。

「おお、いらっしゃい」

中はとても暖かく感じる。

「先立たれて数年、彼のことを思い続けてきた。そんな表情ですな」

50歳か、60歳の直前か。

それぐらいに見える。

この人が神様だとするなら、予想とは全然違う。

「人は不思議なものです。ここもたくさんの人が行き交いました。楽しげな人、悲しげな人。愛する人を置いてきてしまった者、あるいは追いかけて行く者。あなたの指は、彼とつながりを求める者でしょうな」

どうぞ、と小さなコーヒーカップが私の前に出される。

椅子が男の子によって、小さな折り畳み机が女の子によって用意される。

「ありがとうございます」

飲むと、コーヒーの味がする。

エスプレッソで、すごく濃い。

「ただ、あなたには申し訳ないですが、時に決断が必要となるのです」

金属、きっとステンレスでできたハサミが、机に置かれた。

「さて、どうなされますか。追いかけて求め続けるのか。それとも、ここでお別れして新たな出会いを求めるのか」

ハサミは単なる象徴だろう。

この人が何が言いたいかはすぐにわかった。

「私は……」

どうしたいのか。

「ここで立ち止まるのも大いに結構です。ここはそういった人たちのための宿ですから。あなたと繋がれている方を、あなたがいつまでも待つ。それも選択肢の一つでしょう。私は止めませんし、むしろいいことだと思います」

「じゃあ……」

ここで待とうと思った時、彼がさらに続ける。

「しかし、新たな出会いもまた祝福の先にあります。未だ知らない大海原へ、道先も知らずに飛び出すのも、十分良いことと考えましょう。ただ、二つとも追うことはできない。新たな出会いのため、ここで彼をおいて行くか、それとも今までの思い出のため、ここで彼を待ち続けるか」

「……どっちかしかないのですか」

「ええ、どちらかしかありません。それを選ぶのは貴女です。私は選ぶことができない」

寂しそうに彼が話す。

きっと彼はここの住人で、先に進めない人の1人。

それを思うとなんだか込み上げてくるものがあった。

「分かりました」

私は選んだ。

ハサミを持ち、それで薬指の少し先の空間を切る。

すぐに指は元の形へと戻った。

「……分かりました。ではごゆっくりとおやすみなさい」

来世で彼と出会えることを楽しみにしております。

そう言われた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ